特集、その他

11acルータはどこに置く?
「電波の飛び」と「見た目の印象」で検証してみた

text by 日沼 諭史

IEEE 802.11ac対応の無線ルータは既に一般的になってきた。写真はASUSの無線LANルータ「RT-AC56S」

 あらゆる家庭で一般的に使われるようになった無線LAN。高速なインターネット回線を、スマートフォンやタブレット、ノートPCなどから利用する際に、無線LANルータやアクセスポイントといった無線LAN機器は必須とも言えるアイテムだ。

 ここ最近の流れとしては、混雑しにくい5GHz帯に対応する機器が増え、無線通信規格IEEE 802.11ac(以下11ac)でギガビット超えの速度を実現するハイスペックな無線LANルータが続々と登場、無線LANの速度はますます高速化してきた。

 用途についても、例えば「家のどこでもYoutubeを快適に見たい」「ファイルの同期を高速にしたい」といったニーズが出てきており、以前のように「ある程度遅くても、接続できればOK」といった時代ではなくなってきた。

 しかし、どれだけ無線LANルータの性能が高まったとしても、無線LANが電波である以上、置き場所や使用環境によって通信速度に差が生まれてしまう。では、どこに無線LANルータを置くのが良いのだろうか?。近年無線LAN機器分野でも注目を浴びているASUSのハイパフォーマンスモデル「RT-AC56S」を用い、「電波の飛び」と「見た目の印象」でベストなポジションを探ってみた。

今回使うのはASUSの「楯型」ルータ11ac、デュアルバンド対応の高機能品

RT-AC56SはASUSの11acルータでは下位に位置する。転送速度は5GHz帯が最大867Mbps、2.4GHz帯が同300Mbps。
RT-AC56Sの背面。LANポート4つとUSB 2.0、3.0ポートを1つずつ備える
グラフィカルなRT-AC56Sの管理画面
iTunesサーバー機能やDLNAサーバー機能も搭載

 最初に、今回使用した「RT-AC56S」について簡単に紹介しておこう。

 「RT-AC56S」は、ASUSの無線LANルータのラインアップのうち、通信速度においてはミドルクラスに位置付けられるモデル。11ac対応では普及モデルという位置づけで、通信速度は5GHz帯で最大867Mbps、2.4GHz帯では最大300Mbps。両方の周波数帯で同時通信したとすれば、理論値では1Gbpsを超える速度ということになる。

 なお、AiRadarと呼ばれる、いわゆるビームフォーミングによる電波の最適化手法を備える。単純に同心円状に均等に電波を発するのではなく、無線通信を利用する機器の存在する方向に比重を置いて電波を最適化することで、より安定した電波環境を作り出す技術だ。

 ASUSのルータといえば、ソフトウェア面の充実もポイント。Webブラウザーでアクセスする管理画面はグラフィカルに表示され、ネットワークの接続状況、背面に備えるUSBポートへの機器接続状況、さらにはネットワークの使用状況などを分かりやすく表現してくれる。USB接続したストレージによるNAS機能、DLNAサーバー機能、iTunesサーバー機能のほか、宅外からのアクセス、独自のオンラインストレージ「ASUS WebStorage」との連携など、豊富な機能も魅力。

 デザイン面では、(記念品としての)「楯」を連想させるプレート状のデザインも特徴で、意外に部屋になじみやすい印象。ASUSではルータのデザインにも注力しているそうで、例えば「無線デバイスを置いた部屋」のスタイリッシュさを競う「デザインコンテスト」も5月10日(日)まで実施している。

 なお、ASUSの11acルータは、アンテナ4本の超高速モデルRT-AC87U(1,734Mbps+600Mbps)や、同3本の中堅モデルRT-AC68U(1,300Mbps+600Mbps)もある。速度などの性能はもちろん、本体のサイズやデザインなど、様々な視点で選択可能だ。

木造2階建ての一軒家で検証してみた

木造2階建ての一軒家で計測した
計測に使用したソフト「WiFi Explorer」
至ってマジメに計測中

 最初にこのRT-AC56Sで検証してみたのは、閑静な住宅街にある木造2階の一戸建て。二世帯住宅として利用してもゆとりのある暮らしができそうな広さで、この規模の家に住んでいる人は都市圏では少ないかもしれない。とはいえ、その分電波の届き具合を測る際には場所に応じた差が出やすいとも考えられる。

 今回は宅内の4箇所にRT-AC56Sを順次設置していき、その箇所ごとに宅内の各所における電波の強さを計測していくことにした。

 テストに使ったのは11acとビームフォーミングに対応したMacBook Airで、計測用ソフトには「WiFi Explorer」を使用。5GHz帯の11acと2.4GHz帯の11n、両方の電波の強さを計測した。各部屋の扉は全て閉じた状態でテストを行っている。

 なお、電波の状態は刻々と変わるため、ある程度落ち着いたタイミングを見計らってピックアップした数値である点はご了承いただきたい。

【測定場所】
(1)1階リビング
(2)1階和室
(3)1階応接室
(4)1階トイレ
(5)1階キッチン
(6)1階浴室
(7)2階洋室8畳
(8)2階洋室6畳
(9)2階和室+フローリング

【パターン1】1階中央のリビングに設置した場合

リビングに設置

 電波が同心円状に広がるのだと仮定すれば、家屋全体に最も電波が行き渡りやすいのが、RT-AC56Sをできるだけ家の中央付近に置いたこのパターンとなる。

 AiRadar機能の存在を考えれば、単純にリビングに近い場所ほど電波が強い、ということにはならないかもしれない……と思ったが、結果はどうだろうか。

【パターン1の結果】

 やはりこのパターンが全体に最も電波の届きやすい配置だったようだ。モルタルの壁で囲まれた浴室は電波が通りにくいのは当然として、1階のトイレや2階の「メイクルーム」も厳しいが、他は軒並み強い電波が届いていた。

このようにUSBメモリを接続してファイルの転送速度を簡易計測

 なお、ルータのあるリビングと、そこそこ電波が届いた2階の「(8)」の洋室で、RT-AC56Sに接続したUSBメモリに対して100MBのファイルのコピーを行い、完了までにどれくらい時間がかかるか簡易的に転送速度を計測してみた。

 11ac接続の状態で実行したところ、同じ部屋では約30秒(3.3MB/s)、2階の洋室では約39秒(2.6MB/s)という結果になった。

【パターン2】1階玄関に設置した場合

玄関に設置

 玄関にRT-AC56Sを置くと、部屋によっては無線LANルータとノートPCとの間に挟まれる壁が1枚分減る計算になる。

 したがって、パターン1と比べた時に電波が届きやすくなるところもあれば、距離が遠ざかることで減衰しがちになるところも出てきそう……という仮定のもと、パターン2として計測してみた。

 「トイレでゆっくりしたい派」にも都合の良さそうな配置だが……。

【パターン2の結果】

 案の定、最も近いトイレではパターン1よりも好成績を収めた。しかしそれでも少し離れたリビングの方が5GHzは電波が強い。1階の和室や2階の和室など玄関から遠い部屋は、距離が遠ざかったせいか、通信が困難になるほど電波が弱くなっており、2階の洋室も悪化。快適に通信できそうな部屋が減ってしまった。

 このパターンでも、ファイルの転送速度を計測している。浴室を除けば最も電波状況が芳しくなかった2階の和室では、ファイルコピーに約106秒かかり、速度としては0.9MB/sと著しくパフォーマンスが低下していることが分かった。

【パターン3】2階隅の部屋に設置した場合

2階の隅に設置

 パターン2まではルータより水平か上の方に向かって電波がどう広がっているかをチェックできたが、逆に下の方に向かってはどうだろうか。

 2階の隅の部屋に設置して、1階と2階のどちらに設置するのが良さそうか、検証してみた。

【パターン3の結果】

 結果から見ると、2階の同じ部屋以外、どこも電波がかなり弱くなってしまっている。真下となる1Fの和室はまだ耐えられる品質かもしれないが、他は軒並み厳しい。電波を全く拾えない状況になることもままある。ただ浴室の電波はこれまでにないほど改善されているので、お風呂生活を重視するならアリ……だろうか。

【パターン4】リビングの収納に閉じ込めた場合

収納に閉じ込めてみた

 デザインとしては見栄えのするRT-AC56Sではあるけれど、ネットワークの裏方的存在であるルータなどは、できるだけ目に触れないところに置いて生活感を出さないようにしたい、と思う人もいるだろう。

 そんなわけでリビングの収納に閉じ込めた状態で電波がどうなるのか、確かめてみた。

【パターン4の結果】

 位置としてはほとんど変わらないパターン1と比べ、閉じ込めて壁が1枚増えた分だけ電波が減衰したようなイメージだ。隣の1階和室が唯一改善しているものの、全体的に見ればメリットはあまりない配置と言える。

 ルータのデザインが部屋にマッチしないなど、特別な理由が無い限り、こうした配置にする必要は無さそうだ。

もっと狭い木造アパートでも検証してみる

【設置例1】
自宅では中央となるダイニングキッチンに設置
【設置例2】
部屋の隅にぬいぐるみたちと一緒に

 参考までに、筆者の自宅である木造アパートでも確認してみた。2DKで、広さとしては夫婦2人暮らしのそこそこ一般的なサイズだろうか。

 ここでも中央のダイニングキッチンに置いた場合と、西側の部屋の隅に置いた場合とで、各部屋や浴室、トイレなどで電波の強さを計測している。

【設置例1】
【設置例2】

 結果は、2階建て家屋と同様の傾向が見られた。部屋の隅に置くより、中央に置いた方が全体に電波を行き届かせることができる。浴室の電波感度が意外に高いのは、おそらく薄い壁を通してほぼまっすぐRT-AC56Sからの電波が届くためと思われる。

やはりルータは「真ん中」に適切な場所にリピーターも導入すべき

 というわけで、今回調査したような家のサイズでは、置き場所によってかなり電波状況が変わってくることがわかった。

 シンプルにいうと「無線LANルータは家の真ん中に置くべし」という(ある意味当たり前の)ことでもあるが、「家の端に設置した場合」と「家の真ん中に設置した場合」で、電波の届き具合がどれほど変わるかを明らかに出来たと思う。

 ASUSの無線LANルータは「電波の飛びの良さ」がウリでもあるが、こうした製品でも限界はある。回線引き込みの都合上、無線ルータは家の端に設置することになる場合も多いと思うが、広い家や壁が多い家の場合、Wi-Fiエクステンダーやリピーターなどと呼ばれる無線LAN電波を拡張する機器を組み合わるなど、対策はしっかり考えておきたい。

 また、今回の調査結果を見る限り、2階建ての場合は、2階より1階に置く方がベターと言える。これはRT-AC56Sのアンテナの内蔵位置やAiRadarの特性も関係していると思われるため、他機種で参考になるかどうかは不明だが、少なくともこの製品を活用する場合の参考にはなるだろう。

おまけ:「RT-AC56S」を“いい感じに”置いてみた

 今回のテストでRT-AC56Sを使って気づいたのが、「様々な場所になじみやすい」ことで、これは「楯型」というシンプルなデザインがポイントなのだと思われる。

 せっかくなので「ちょっと置いてみた」ギャラリーを作ってみた。

【RT-AC56Sをちょっと置いてみた】
思い出の品と並べた場合。普通に溶け込んでいる(笑
さりげなく紛れ込ませてみた
格調高い置物と
植物と
窓際で
ともすると、RT-AC56Sはユーザーの前から姿を消そうとする
和な部屋で
昭和な品々と
[Amazonで購入]

[制作協力:ASUS]

日沼 諭史