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8TB HDDは今や2万円台中盤から!
増えすぎた1TB HDDをスッキリ整理してみた
4台→1台にまとめると何時間?モデルの違いは? text by 石川ひさよし
(2016/3/14 00:01)
最近、アツいパーツの一つがHDDだ。
6TB、8TBといった大容量品が登場しているのはもちろん、その価格も大きく値下がり。モデルによっては8TBという大容量なのに、2万台中盤で買えてしまう製品まで存在する。
HDDは、容量増加やコストパフォーマンスの向上が一時期止まっていたため、「1TB前後のモデルを複数使って容量確保」としていた人も多いと思うが、台数が増えると運用も面倒。ケース内で場所も取るし、電源容量が気になる場合もあるだろう。
そこで今回は、そうした「増えすぎたHDD」をスッキリ整理すべく、「複数の1TB HDDを8TB HDDに置き換える」ことを主眼とした検証をおこなってみた。
検証に使ったのは、現在最安の8TB HDDである「Archive HDD」シリーズを擁するSeagate製品。価格が魅力の「Archive HDD」に加え、発売されたばかりの「Desktop HDD」と「NAS HDD」もあわせて用意。(1)標準的な「Desktop HDD」を使った場合、(2)コスト最重視で「Archive HDD」を使った場合、(3)「この機会にNASに移行」とした場合(NAS HDDを利用)の3例で転送時間を実測してみた。
なお、今回の記事での「転送時間」は転送先のHDDだけでなく、転送元のHDDや転送経路など、様々なものに影響される。HDD単体でのベンチマーク結果以外は、「環境によって異なるもの」として理解して欲しい。
用途で選べる8TB HDD「Desktop HDD」や「NAS HDD」も新登場
さて、一口に「8TB HDD」といっても、用途に適した様々な製品がある。
Seagateの「8TB HDD」といえば、「頻繁に書き換えないデータ向け」として特殊な「SMR記録」を採用、容量単価の安さを実現した「Archive HDD」が人気だが、3月に入り、デスクトップPC向けの標準モデルである「Desktop HDD」や24時間365日の運用や堅牢性などを重視した「NAS HDD」、常時書き込みを前提に設計された監視カメラ向け「Surveillance HDD」が相次いで発売されている(記事1/記事2)。
また、同社Webサイトによると、「NAS HDD」の上位でさらに堅牢性を重視した「Enterprise NAS HDD」やニアライン向けにパフォーマンスと容量を最大化させた「Enterprise Capacity 3.5 HDD」シリーズも存在している。
これらの製品は、用途に合わせて読み書き特性がチューニングされているほか、記録方式の工夫で魅力的な容量単価を実現したり、高価なモデルでは、各種センサー(温度・湿度・振動)を搭載・監視することでデータセンター環境などでの安定性が高くなっていたりする。
動作のチューニングとしては、NAS向けモデルなら「RAIDや複数台同時運用への最適化」、監視カメラ用やAV向けのように繰り返し記録や長時間駆動が想定されるモデルなら「発熱や消費電力の抑制」といった例があり、どこがどう違うのか、把握しておくことが製品選びの助けになるだろう。
さて、今回取り上げる「Desktop HDD」と「NAS HDD」、そして「Archive HDD」の主要スペックと価格帯を表にしてみた。
モデル | Desktop HDD | NAS HDD | Archive HDD |
型番 | ST8000DM002 | ST8000VN0002 | ST8000AS0002 |
インターフェース | Serial ATA 3.0 | Serial ATA 3.0 | Serial ATA 3.0 |
キャッシュ | 256MB | 256MB | 256MB |
最大転送速度 | 220MB/s | 216MB/s | 190MB/s |
記録方式 | PMR | PMR | SMR |
実売価格 | 3万円台後半 | 4万円台前半 | 2万円台中盤 |
主に異なるのは速度と記録方式だ。
Archive HDDは最新の高密度化技術であるSMR(Shingled Magnetic Recording)を採用し、容量単価が安価な一方、速度は抑え気味。
ほかの2製品は従来技術であるPMR(Perpendicular Magnetic Recording)を採用、速度も200MB/sを超えている………というのが、まず、この表から読み取れる情報だ。
なお、Archive HDDのSMR技術に関しては、こちらのレポートも参考にしていただきたい。
1TB×4台→8TB HDD移行を早速テスト、まずは普通の「Desktop HDD」所要時間は約12時間
それでは、早速検証に移りたい。まずは標準的なデスクトップPC向けHDD「Desktop HDD」シリーズに属するST8000DM002をテストしてみよう。
行ったのは、PCにつなげた4台の1TB HDDから8TB HDDへのコピー。
PCのスペックは、CPUがCore i7-6700K、マザーボードがIntel H170チップセット搭載モデル、16GBのメモリ、Windows 10で、用意したST8000DM002と4台の1TB HDD、そしてシステムドライブは全てマザーボードのSerial ATA 3.0ポートに接続している。
転送元として用意したHDDは2011年前後のモデル4台で、JPEG画像やRAWデータ、MPEG、テキストファイル、それらを圧縮したzipなどが入ったもの。それぞれ空き容量は615~742MBほどだった(ちなみに、エクスプローラでは、1TB HDDは931GBと表示される)。
また、今回は計測の都合上、転送元のHDDを全て同時に接続したが、1台ずつ交換しながら転送すれば、SATAポートは3つ(システム、転送元、転送先)で済む。また、USB 3.0で外付けすればSATAポートやドライブベイが足りない場合でもなんとかなるだろう。
ただし、USB 3.0を経由してデータ転送をする場合、筆者が検証した限り、Serial ATA接続よりも時間を要する印象だ。
USB 3.0の帯域はHDDにとって十分なものだが、Serial ATA→USB 3.0変換のオーバーヘッドや、USB 3.0ケーブルの品質などが影響すると思われる。Serial ATA 3.0は、(コンシューマ向け)HDDにとって、最も転送速度の速いインターフェースであるわけで、Serial ATAポート数が足りるのであれば、サイドパネルを開けた状態でも、Serial ATA接続で行うのが最も高効率なのではないだろうか。
さて、検証ではバッチを組んで実行する方法を採った。
手動でコピーする場合、ストップウォッチとにらめっこしなければならない。さすがにこれを3パターン行うのはムリがあるので、コマンドライン上からxcopyコマンドを用い、1TB HDD #1~#4まで順次コピーするよう設定した。合わせてxcopyの前後に環境変数の%date%と%time%を出力することで所要時間を計測している。
所要時間は約12時間
それではコピーに要した時間を報告しよう。開始時刻は16時18分、完了は翌日4時31分。4TBで12時間13分だから、1TBあたりおよそ4時間程度を要している。
予め判っていたことだが、これは転送元の1TB HDDに引きずられた結果だろう。また、データの内容やファイルサイズ、とくに小さなファイルが大量にあるような場合は、パフォーマンスが低下することが考えられる。
8TB最安の「Archive HDD」は2倍の所要時間「移行方法」の工夫次第で最もオトク?
さて、次にテストするのは、頻繁な書き換えを行わない「コールドデータ」向けにチューンされ、最も安い容量単価を実現した「Archive HDD」に属するST8000AS0002だ。
計測手法は先のDesktop HDDと同様で、1台のPCにSerial ATA接続でST8000AS0002と4台の1TB HDDを接続した。
ちなみに、「まずは」ということで計測してみたベンチマーク結果は図の通り。
「デスクトップPC向け4TB HDD(実売価格13,000円前後)のちょうど2台分」という非常に魅力的なコストパフォーマンスを持つST8000AS0002(実売価格2万円台半ば)だが、さすがにベンチマーク速度はDesktop HDDに及ばないようだ。
所要時間は25時間半
さて、実際のデータ転送結果を紹介しよう。
このテストでは、開始時刻が14時10分、完了が翌日の15時38分だった。実に25時間28分を要したことになる。これはDesktop HDDの倍近い時間だ。
コマンドラインを見ていると、一気にコピーが進むところと、やけに遅いなと感じるところがあった印象。念のため、追加のテストもしてみたが、ほぼ同様の結果となった。
このことから考えられるのは、SMR方式の特性だろう。数十GB程度のベンチマークでは190MB/s近い書き込み速度が計測できるArchive HDDだが、HDDを埋め尽くすような連続書き込みでは時間がかかるようだ。これは別記事でも触れているので、詳しくはそちらを確認して欲しい。
なお、今回は2倍の時間がかかったが、データ移行作業の場合は「2倍の時間でも“実質的な占有時間”は変わりない」という場合も考えられる。例えば、「1TB HDDを 毎晩 1台ずつ転送する」のなら、Desktop HDD(約3時間)でもArchive HDD(約6時間)でも同じ「一晩」だ。ベンチマークの通り、日常利用でのパフォーマンス差はあまりないので、こうした点をうまく利用すれば、価格差をうまく活用できるだろう。
独特の特性を持つArchive HDDだが、頭をひねって使えば、容量単価の安さが光る。まさに玄人向けのHDDと言えそうだ。
「NASに移行」も意外に高速「NAS HDD」×2台でテスト
最後に、PC→PCでなく、PC→NASでのデータ移行もやってみた。
NAS向けのHDDは、PCでももちろん利用できるが、データの保管やパーソナルクラウドの構築でNAS専用機を使う人も多いだろうし、そうした場合、特に信頼をおけるNAS向けHDDを使うのがベストだろう。
今回の検証では、NAS向けにチューンされた高品質HDD「NAS HDD ST8000VN0002」を利用、NASにはSynologyの「DS216play」を用意。1000Base-T LAN経由で、PCからNASの共有フォルダに転送した場合のコピー時間を計測した。
ちなみに、DS216playは店頭価格39,000円前後で販売されている2ベイ製品。HDMI端子を備えており、保存した写真や映像ファイルを直接テレビに出力できて便利だ。
今回はこのDS216playにST8000VN0002を2台入れてRAID1構成とし、PCとクロスケーブルで接続した。コピーの際はDS216play上に共有フォルダを作成し、これをPC側からネットワークドライブとして登録、ここにコピーを行っている。
なお、ネットワークドライブのため、そのままではxcopyコマンドが使用できない。この計測のみ、開始時刻と完了時刻を手動計測して行っている。
また、NASのセットアップは最新世代だけあって簡単だったが、RAID 1を構築する際にディスクのパリティチェックが入り、これに24時間程度を要した。
この間もアクセスやファイル操作ができるのだが、注意書きにはパフォーマンスに影響すると書かれていたため、処理の完了を待ってテストしている。もっとも、個人用などで速度や時間を気にしなくてよいのであれば、この処理中にコピーを開始しても構わないだろう。
複数のHDDを1台の8TB HDDに
ということで、「8TB HDD」をテーマに3通りのデータ移行を検証してみた。
テストケースではあるが、システム+4台のHDDを運用していたPCが、システム+1台のHDDへと生まれ変わり、さらに同量の空きスペースを確保できたことになる。
取り外した4台のHDDはコールドバックアップとして保管しておくことで、安心感も高まるし、HDD台数が減ることでPCの消費電力も抑えられる。ドライブベイがいっぱいでエアフローに懸念があるマシンも、台数削減で余裕が出来るだろう。
また、NASにデータ移行する例では、2ベイタイプでRAID 1にするとHDD総容量が半分になってしまい、コストパフォーマンスの点で気になるかもしれない。ただし、8TB HDDを使えば、NAS1基あたりの容量は十分だし、冗長化による信頼も加わる。今回のやり方なら、コールドバックアップとしての1TB HDD群からも復旧できるので、かなり盤石な体制だろう。
高価だった大容量HDDがようやく身近になってきた今こそ、HDDの整理整頓を行うよい機会と言えるのではないだろうか。
[制作協力:Seagate]