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ゲームで実践、「ちょっと上」を目指すビデオカードOC基礎講座
FFXIVが1~2割速度向上? Text by 三門 修太
(2013/10/29 09:02)
秋といえばゲーム。そして、PCで本格的にゲームをするならビデオカードだ。
最近はCPU内蔵GPUの性能も上がり、ちょっとしたゲームなら内蔵GPUでも楽しめるが、「PCならではのゲーム」をPCならではのクオリティで楽しむなら、やはりビデオカードを利用するのがベスト。安くなってきたWQHD(2,560×1,440)の液晶ディスプレイやマルチディスプレイ、そして高品質な描画など、楽しむ方向も色々ある。
ビデオカードそのものは予算に応じて購入することになると思うが、せっかく導入するビデオカード、できれば少しでもいい設定で使いたいのが人情だろう。
そこで今回は、ビデオカードをちょっと高速化して使うべく、「ビデオカードのオーバークロック(OC)」の基礎を紹介したい。「ちょっと高速化」といっても、今回の例では元々OCモデルなのに1割以上高速化した。リスクなし、というわけにはいかないが、ゲーム環境改善の一助になれば幸いだ。
「オーバークロック」のメリットとデメリット
本誌読者にはおなじみの単語と思うが、自作PCにおける「オーバークロック」とは、製品スペックよりも高い動作クロックでCPUやGPUを動作させることを指す。せっかくなので、そのメリットとデメリットから簡単に説明しよう。
CPUやGPUなどの半導体製品は、製品化にあたってスペックを決める際、安定動作の保証と、歩留まり向上のため、ある程度余裕を持って動作可能な数値が設定される。たとえば、スペックで3.0GHz動作を保証するCPUの場合、3.0GHzより数%~十数%程度高いクロックで動作するものが用いられている。オーバークロックは、その動作マージンを利用して性能向上を図るテクニックだ。
オーバークロックのメリットは、動作クロック向上で性能が向上することにある。製品スペックに対して動作マージンの大きな半導体を採用している製品であれば、下位製品で上位製品を上回るパフォーマンスを実現できる場合すらある。
一方、デメリットも当然ある。
動作クロック向上に伴う発熱や消費電力の増加などもデメリットだが、もっとも大きなデメリットをあげるなら、製品の保証が失われることだ。メーカーの規格外で動作させることは、故障のリスクを高める行為に他ならず、原則としてメーカーの修理保証が受けられなくなる。また、もう一つ失われるのが、安定性の保証。製品スペックは安定動作を実現できるよう定められているが、それを超えて動かすオーバークロックの場合、安定性はなんら保証されない。
デメリットのうち、製品保証の失効はどうしようもないが、それ以外はユーザー自身で対策を講じることができる。発熱増加には冷却の強化。消費電力の増加には電源ユニットの強化。安定性については、本格的な運用前に負荷テストによって実用に耐えうるか否かを判断する。
デメリットに上手く対処し、安定した動作を実現することこそ、常用機におけるオーバークロックで最も重要なのである。
「ビデオカードのオーバークロック」のポイントは?
オーバークロックの基本的な説明はこのくらいにして、ビデオカードのオーバークロックについての話に移りたい。
CPUのオーバークロックが比較的広く浸透しているのに対し、ビデオカードのオーバークロックは一般的ではない。理由はいくつ考えられるが、大きな理由を挙げると、安定性確保の難しさ、故障リスクの高さの2点だろう。
CPUのオーバークロックでは、一般的なアプリケーションより遥かに負荷の高い「Prime95」や「OCCT」のようなストレステストに長時間耐えられることをもって、動作の安定性を確認できるのだが、GPUに対して同様のテストを行うことは困難で、これが安定性確保を難しくしている。
GPU向けの高負荷テストとしては、OCCTのGPU TESTなどが存在しているのだが、メーカーによってはこれらの負荷テストを「Power Virus」と呼び、「オーバークロックの有無に関わらず、実行した場合は製品保証を行わない」としている場合すらある。
負荷テストの利用が制限される理由は、もう一つのデメリットである「故障リスクの高さ」とも繋がっている。
リファレンス仕様のビデオカードなどでは、GPUの消費電力に対し、電源回路が供給できる電力の余裕が少ない。そのような製品で、過大な負荷をGPUに掛けるということは、電源回路の破損リスクを著しく高めてしまう。ビデオカードをオーバークロックする場合、GPUのマージンだけでなくビデオカード上の電源回路にも十分注意する必要がある。
ビデオカードのオーバークロックにおいて安定性を確認する場合、筆者としてはUniginの「Heaven Benchmark」がお勧めだ。このベンチマークの場合、GPUに対する負荷が高く、テストがループするため長時間の負荷テストが可能。なおかつ、OCCTのGPUテストのようにPower Virus指定もされていないので、オーバークロックを行う前にビデオカードが初期不良でないことをチェックするテストにも使える。
GIGABYTEのGPU OCツール「OC GURU II」でテスト
さて、今回、テスト環境として用意したビデオカードはGeForce GTX 760を搭載するGIGABYTE「GV-N760OC-2GD/HW」。オーバークロックには同社製ビデオカード向けのユーティリティーツール「OC GURU II」を使用する。今回利用したGeForce系のGPUでは、GeForce 700/600/500シリーズに対応する。
なお、同社では公式にうたっていないが、試してみたところ、他社製ビデオカードでも動作した。他社製ビデオカードでは、一部機能が利用できないほか、「正式サポート外」ということでリスクもあるが、使い心地をちょっと試してみたい場合など、テストしてみるにはいいだろう。
さて、OC GURU IIが備える主要な機能は、「モニタリング」、「ファンコントロール」、「動作クロック・電圧調整」、「プロファイル管理」の4つ。
クロック・電圧モニタリング機能は、GPUやメモリの動作クロックをリアルタイムに確認できるほか、Moreボタンを押すことで、それらの変動をグラフで表示することが出来る。モニタリング中の数値をログファイルに保存する機能も備えており、GPUやメモリ、電圧がどのような挙動をしていたのかを確認することができる。
ファンコントロール機能は、GPU温度をベースにファンの動作を制御できる機能だ。ファンスピードは30℃から90℃の範囲で、10℃毎にファンスピード(%)の調整が可能。なお、ファンスピードは温度上昇に伴って上昇する方向にのみ調整が可能で、GPUが温度が上昇しているのにファンの回転数を落とすというような、冷却的に矛盾した調整は出来ない。
さて、オーバークロックツールとして外せない機能が、動作クロックと電圧の調整機能だ。OC GURU IIでは、クロックや電圧の調整にオフセット値を入力して調整するという設定方法を採用している。たとえば、動作クロックが950MHzのGPUを1000MHzにする場合、+50MHzと入力することになる。
設定可能なクロックの範囲や、調整可能な電圧の項目については、OC GURU IIを利用するGPUの仕様によって異なる。今回のテストに用いたGeForce GTX 760搭載ビデオカード「GV-N760OC-2GD/HW」では、GPUクロック、メモリクロック、GPUコア電圧の他、GPU Boost動作の基準となる消費電力や温度について設定が可能だった。
OC GURU IIでは、5つのプロファイルを切り替えて利用することができる。プロファイルには動作クロックと電圧の設定が保存可能で、ウィンド左上に設けられたPROFILESタブをクリックすることで動作の切り替えが可能。なお、ファン制御やモニタリングの設定は、各プロファイルで共有となる。
その他の機能としては、ゲームやベンチマーク実行中、スクリーン上にユーティリティーを表示し、フレームレートや動作クロック設定を可能とするオンスクリーンディスプレイ機能や、BIOS・グラフィックスドライバのオンラインアップデート機能を備える。
OC GURU IIでGeForce GTX 760をオーバークロック元々OCモデルだが、まだ上がる…
それでは、OC GURU IIを用いて「GV-N760OC-2GD/HW」をオーバークロックした際の結果を紹介しよう。なお、CPUにはCore i7-4770Kを、マザーボードには同社のGA-Z87X-UD4Hを利用。メモリは4GBで、SSDはIntel 510(120GB)を、OSは64bit版Windows 8.1 Proを使っている。画面解像度は「PCならでは」ということで、2,560×1,440ドット。最近は5万円程度の廉価な液晶ディスプレイもあり、ゲームでも使いやすくなってきた。
さて、3連ファン搭載の大型GPUクーラーやGIGABYTE独自設計の基板を採用したGV-N760OC-2GDは、冷却面と電源回路が強いためオーバークロックに適したビデオカードだが、メーカーレベルで既に大幅なオーバークロック(980MHz→1,085MHz)が施されている製品だ。
ここまでオーバークロックされているとなると、GPUに残された動作マージンは少ないと予想していたのだが、OC GURU IIでクロックを引き上げてみたところ、GPUクロックは1,200MHz、メモリクロックは7,008MHzまでオーバークロックできた。負荷テストは「Unigin Heaven Benchmarkが1時間動作すること」を基準とし、(テストした個体では)安定して動くことを確認している。
この状態でファイナルファンタジー XIVベンチマークを実施したものが、以下のスクリーンショットだ。
ベンチマークのスコアや実際のゲームでのフレームレートも同時に掲載してみたが、「GV-N760OC-2GD/HW」定格時と比べると約1割程度、GeForce GTX 760の定格値と比べると、なんと約2割程度、スコアやフレームレートが向上している。
全くノーリスクというわけではないので、試す価値があるかどうかの判断は読者各位に委ねたいが、「実際のゲームでここまでフレームレートがあがるなら」と感じる人も多いだろう。前述通り、デメリットもあるGPUのオーバークロックだが、リスクを理解した上で楽しんでみるのも自作PCの醍醐味というものだ。
また、自分でオーバークロックするリスクを避けるのならば、今回の製品のように初めからオーバークロック済みの製品を購入する、というのもひとつの手だ。
「OCツール」の用途はOC以外でも……
さて、最後にOCツールの「別な使い方」についても少し触れておきたい。
モニタリングや各種クロックの調整機能が、オーバークロックに役立つのは当然だが、実はプロファイルの切り替え機能も「使える」機能だ。
「OCツール」の使い道は、別に上方向にクロックを上げることに限らない。動作クロックや電圧を絞る方向でチューニングして、消費電力を下げたり、ファンの動作音を下げておくのも「アリ」な使い方だ。重いゲームはオーバークロックしたプロファイル、軽いゲームやWebブラウズのみの場合はアンダークロックしたプロファイル、と言った具合で、状況に応じて動作を切り替えてみるのも面白い。ただし、こうした「アンダークロック」は調整できる範囲が個々に異なる。GPUやビデオカードによっては定格クロックまでしか下げられない場合もあるので、その点には気をつけたい。
以上、基礎から簡単な実践まで、ビデオカードのオーバークロックの基礎を紹介した。たとえば、今回のOC GURU IIはGIGABYTEのサポートページや、ビデオカードの製品ページからダウンロードできる。特に費用が掛かる訳では無いので、とりあえず試してみるという感覚で使ってみるのもいいだろう。