特集、その他

「普通の無線ルータ」でクラウド+NAS+遠隔同期?
イマドキ風、ASUS無線ルータ活用術[前編]

text by 日沼諭史

ASUSの無線LANルータ「RT-AC68U」

 ASUSと言えば、PC自作派なら定番マザーボードメーカーとして、そうでなくてもNexus 7などのタブレット端末の製造元として知らない人はいない存在だ。そんなASUSが満を持して世に送り出した無線LANルータが「RT-AC68U」。最大1,300Mbpsに対応するIEEE 802.11ac対応の高速モデルだ。

 ルータというと、「基本機能は変わらないし、どれを買っても同じ」的な感覚を持っている人も多いと思うが、実はさにあらず。この製品は、マザーボードメーカーでもある同社らしさを発揮した、マニアックな、そしてもちろん高性能かつ高機能な製品に仕上がっている。

 例えば、スペックだけ見ても2.4GHz帯では型破りの600Mbpsという速度に対応しているし、もちろんVPNにも対応。DLNAサーバー、iTunesサーバー、USBデバイスサーバー、リモートアクセスなど、実に多彩な機能を搭載している。そこで今回、その「知られざる多機能さ」を前後編の2回で紹介していきたい。

 前編となる今回のテーマは「同期」。EvernoteやDropbox、OneDriveなどで一般化してきた「同期」だが、実は「ルータを使って同期を活用する」というのもなかなか便利。仕事やプライベートでクラウド的に使える「ルータで同期」のポイントを紹介していきたい。

 なお、「RT-AC68U」がどんな製品なのか、詳細を知りたい方はINTERNET Watchの記事もご覧いただければと思う。

実は便利な「クラウドと同期するNAS」

ASUS独自のクラウドストレージサービス「WebStorage」
専用アプリケーションで同期させる仕組みの場合、端末をスリープさせたり電源をオフにしたりすると同期はできなくなってしまう
「RT-AC68U」の背面にあるUSBポートにHDDを接続
「RT-AC68U」の管理画面

 さて、スマートフォンや複数台のPC、タブレットを今風に使うなら、絶対使いこなしたいのが「同期機能」だ。

 不意に参照したくなる文書ファイルや画像化した名刺、親戚に見せたい子供の写真など、既に同期フォルダを活用している人も多いと思うが、多くのクラウドストレージサービスで必要になるのが「専用アプリ」。これのおかげで簡便なアップロードやダウンロードが可能になる反面、常駐アプリは増えるし、そもそもPCの電源が入ってないと同期しない。

 また、家庭やオフィスに複数のPCがある場合、「その全てを同期する設定にするのか?」という問題もある。そもそも設定が面倒だし、2台のPCで同期したいだけの場合でもクラウドストレージを介することになり、ファイル容量によってはそれなりに時間もかかってしまう。

 そうした場合に使えるのが、「AiCloud - Smart Sync」。

 RT-AC68Uでは背面にあるUSBポートに外付けHDDを装着し、NASとして使うことができるのだが、この「Smart Sync」は、そのNASの特定フォルダをASUS独自のクラウドストレージサービス「WebStorage」に同期できるという機能だ。

 WebStorageはクラウドサービスなので、外出中でも、スマートフォンなど他の端末からでも、アップロードされたファイルを参照できるし、ローカルのフォルダはNASなので、もちろん複数台のPCから参照可能。

 「WebStorage」に別のファイルをアップロードしたり、アップロード済みのファイルを変更したりすると、NASのフォルダの内容も自動で書き換わる。「複数人で共有することを前提にしたクラウドストレージ」としてはなかなか便利だ。

 Dropboxなどを利用したものではなく「独自サービスであること」も隠れたポイントで、個人用PCで使っていたクラウドストレージのアカウントを流用せずに済むし、無料会員でも5GBの容量が利用可能。さらに、2014年12月現在、このルータを購入すると、100GB・1年間の無料スペースも入手できる。

 有料会員になれば、増やした容量をその後も利用できるし、追加契約でさらに大容量を使う、ということも可能。用途次第で検討すると良いだろう(利用料は100GBで年間2,542円など/2014年12月現在)。

 個人的には「なによりPCに常駐型アプリケーションをインストールする必要がなく、PCのリソースを余計に消費しない」のが便利な印象。アップロードに時間がかかりそうな大きめのファイルでも、とりあえずNASにさえコピーしておけば、あとはPCの電源を切ってしまっても良いのが気に入った。この“電源を切ってもOK”というのが、日常の使い勝手を大幅に高めてくれるのである。

「Smart Sync」の設定画面
「RT-AC68U」上で同期が進行中。同期元の端末を起動したままにする必要は一切なし

容量無制限でNAS同士を同期「自宅 - 実家」や「拠点間」などを常時確認

2台のルータ間でデータ同期が可能な「Sync Server」の設定画面
1TBのHDDを接続。最近は大容量HDDでも入手しやすい価格になっているのがうれしい

 さらに面白いのがルータ内NASを同期することが「AiCloud - Sync Server(Router to Router Sync)」機能だ。

 これは、「RT-AC68UのNASの内容を、(クラウドではなく)遠隔地にあるRT-AC68UのNASと同期させる」というもので、具体的には、2台のRT-AC68Uにそれぞれ繋いだUSB接続HDDの特定フォルダ同士を直接同期できる。もちろん、会員登録や月額料金などは不要。クラウドストレージのような容量制限も特にないので、価格が手ごろになった大容量HDDを接続すれば、容量不足を気にかける心配もない。

 たとえば自宅とオフィスの2箇所に「RT-AC68U」を導入し、仕事中に作成した文書、撮影した写真や動画、巨大なバックアップファイルなどをオフィスでNASにコピーしておくと、(ファイルサイズにもよるが)帰宅した頃には自宅のNASにも同期されている、といった環境を整えられる。

自宅にも同じく「RT-AC68U」+USB HDDを置いてみた
ASUSの28インチ4Kディスプレイ「PB287」でフォトレタッチ。高画質なRAW画像の編集は快適になるが、巨大なファイルはやりとりが大変。「RT-AC68U」が対向であれば、送受信は格段に楽になる

 また、自宅と両親の家の双方に「RT-AC68U」を設置し、子供の写真や動画を同期で送りつける、という使い方もできる。

 クラウドストレージでも似たようなことは可能だが、操作に対するレスポンスが速いことと、容量に制限がないことが大きな違いだ。クラウドストレージでは時間がかかるようなサムネイルの一括表示でも、ルータにデータがあればすぐに表示が行える。年配の方はちょっとしたことで操作に戸惑いが出たりするもの。「PCやタブレットの電源を常に入れておかなくてもいい」という点を含め、意外に便利に使えるだろう。

 このほか、RAWデータで大量に写真撮影しているフォトグラファーや、動画編集を行っているような人だと、1つ1つのファイルが巨大なので、データの持ち運びやバックアップの管理が相当な負担になるはずだが、こうしたデータの転送にも同期機能を使うと便利。容量なりの転送時間はかかるが、いちいちHDDごと持ち運ぶ必要はなくなるし、「転送処理」も「NASにコピーするだけ」で済む。

 また、2台の「RT-AC68U」を同じ場所で使うのもおすすめしたい。「RT-AC68U」はユーザー(無線LAN機器)の場所に合わせて電波を最適化するビームフォーミング(Ai Radar)に対応しているとはいえ、2階建て、3階建ての家に住んでいる場合は、隅から隅まで1台の無線LANでカバーすることは難しい。2台あれば「リピーターモード」で電波を中継し、より広範囲で快適に無線LANを使えるようになる。

Sync Serverの利用開始時は、ホスト名、接続しているUSBドライブの同期したいフォルダなどを指定して、共有のためのリンクを生成する。もう1台の「RT-AC68U」ユーザーをメールなどで“招待”する形になるわけだ
メール内にあるリンクをクリックして招待を受け入れたユーザーも、同じようにUSBドライブの同期したいフォルダを選択
設定が完了すると同期が開始する

 なお、実際にこのSync Serverを2拠点間のそれぞれ1Gbpsの光回線で試してみたところ、60ファイルのRAWデータ計1.5GBを、およそ22分で同期した。

 ネットワークの環境や混雑状況にも左右されるだろうけれど、試した限りではだいたい9Mbpsという計算になる。圧倒的に高速、というわけではないものの、通信自体は非常に安定していて、HDD容量が大きければ残容量を気にせずめいっぱい使えるのはやはり魅力だ。

【1.5GBを22分で同期することも可能(1Gbps光WANの例)】
受信側で観察していると、どんどんファイルが送られてくる
受信速度は1MB/sちょっと。「ものすごく高速」ではないが、離れた2拠点間の同期という意味では十分すぎるほど

高度な信頼性を実現する「デュアルWAN」

背面のWANポートとLANポート1つを消費して「デュアルWAN」を実現

 さて、RT-AC68Uによる「ルータで同期」の使いこなしを説明してきたが、関連機能として紹介したいのが、この製品のユニークさが光る「デュアルWAN」だ。

 これは、通常のWANポートに加えて、4つあるLANポートのうち1つをWANポートとして使用、2本のインターネット回線を同時に利用できるようにする機能。LANポートの代わりに、USB接続タイプの3G/LTE通信アダプタを「RT-AC68U」のUSBポートに接続する形でもデュアルWANを実現できる。

 デュアルWANで可能になることは主に2つ。一方のインターネット回線の経路で問題が発生した場合でも、もう一方の回線に自動で切り替えて通信を続けられる“フェイルオーバー”がまず1つ。もう1つは、両方の回線でバランスよく通信して負荷を軽減する“負荷分散”で、この2種類の方式を切り替えて利用できる。

デュアルWANの設定画面
デュアルWANで“フェイルオーバー”設定にした。一方のWANはスタンバイ状態となる

 試しに筆者の自宅に引き込んでいるauひかり(下り最大1Gbps)と、NURO 光(下り最大2Gbps)の2本の回線を接続してみた。フェイルオーバー設定では、片方の回線を物理的に切断すると通信できなくなったが、しばらくするともう片方の回線に切り替わり、再び通信できるようになった。切り替わるタイミングは標準で1分間(5秒間隔のpingが12回失敗した時)に設定されているので、より素早く切り替えたい時は設定を調整すると良いだろう。

 負荷分散の設定では、一方のWANともう一方のWANとで分担する負荷の割合を変えることも可能。「RT-AC68U」の管理画面にある「トラフィックマネージャー」を使うと、それぞれのWANや有線・無線LANの通信状況をリアルタイムにグラフ表示するので、負荷分散の状況もわかりやすい。各種ログの出力機能もあり、万が一トラブルが発生しても迅速に原因を切り分けて解決できるはずだ。

 インターネット回線を2本以上引き込んでいるようなパターンは家庭ではあまりないと思うが、より安定した信頼性の高いネットワークを構築したいなら、デュアルWANを使用するという選択肢は大いにアリだろう。

片方のWAN接続を切断すると「×」印が現れ、利用不可の表示に
しばらく待つともう一方のWANに接続が切り替わり、インターネットアクセスも問題なく行える

「2台目」が欲しくなるマニアックなルータ

通信の状況をグラフィカルに表示。リッチに表現する管理画面の完成度の高さにも注目したい
ルーターの2個のCPUとメモリの使用状況をグラフ表示できるのがけっこう楽しい

 以上、同期機能を中心とした最新ルータの使いこなしを見てみた。

 冒頭でも書いたが、現在のルータはこれまでの「ルータ」の概念を超える機能を持った製品が出てきている。特に今回のRT-AC68Uは、機能も、設定項目も、操作画面さえマニアック(笑。一般のクラウドサービスでは満足できないユーザーはもちろん、とにかく多機能な無線LANルータを使い倒したいユーザーにとって、ある意味“最強”の無線LANルータと言えるかもしれない。

 なお、後編のテーマは「ホームオーディオ環境とルータ」。気になる方はこちら

【そのほかのマニアック画面例(笑】
接続しているUSB HDDに対してエラーチェックなどが行えるツールも用意
USB接続したプリンターの状況もわかる
無線LANなどの細かいシステムログを表示できるので、何かトラブルがあった時のヒントにできそう
さらにルーターが正しくネット接続できているかどうかなどを調べるために、指定サーバーにPingも打てる
netstatまで確認できるが、ここまでくると「マジで?」と言いたくなる
ルーターに接続しているクライアント機器も一覧表示できる
無線LANの電波状況なんかもわかる
アイコンをクリックすればクライアント名やIPアドレスも直接編集可能
ルーター管理ができるスマートフォンアプリ「ASUS AiCloud」も用意。こちらでもCPUやメモリのグラフが表示可能
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日沼 諭史

ASUS RT-AC68U