特集、その他
TVにつないで使える新スタイルのNAS
「QNAP TS-453mini」を使ってみた
メディアプレイヤーに高速トランスコード、縦型、4コアCeleron… text by 清水理史
(2015/6/24 12:05)
QNAPから、ネットワーク経由はもちろんのこと、直結したモニタを見ながらキーボードやリモコンでも利用できる新しいタイプのNAS「TS-453mini」が登場した。
単なるデータの保管先としてだけでなく、メディアプレーヤーやPCとしても使える斬新な製品だ。従来のQNAP製品から、デザインや構造も大きく変わった新世代のNASを実際に評価してみた。
デザインもスペックも機能もすべてが新しい
QNAPから登場した「TS-453mini」は、まさに新世代のNASと呼ぶに相応しい製品だ。
一見して、従来モデルとは違うことがわかるスタイリッシュなデザインが採用されているうえ、搭載されるCPUもクアッドコアのCeleron 2.0GHz(ブースト時2.41GHz)と高性能。その恩恵で、動画のハードウェアトランスコードが可能になっていたり、クライアントハイパーバイザー型の仮想化技術(Virtualization Station)に対応していたり、HDMI出力でテレビに画面を出力したり、リモコンを使って操作することが可能になっている。
従来のNASは、どちらかというと陰でホームネットワークを支える存在だったが、本製品はデザイン的にも機能的にも、リビングのテレビの横に設置されても違和感のない製品。詳しくは後述するが、単なるデータの保管先としてだけでなく、メディアプレーヤーやPCとしても利用することができる。
価格も実売価格で99,800円(6月時点、amazon.co.jp調べ)となっており、高性能なNASとしては比較的リーズナブル。QNAPでは、同じく4ベイのNASとして、いくつかのモデルをラインナップしているが、10万円前後の同価格帯のモデルで比較すると、今回のTS-453miniはミドルハイといった位置付け。
CPUやメモリなどベースとなるスペックは法人向けのTS-453 Proとほぼ共通だが、本体ディスプレイが省略されていたり、LANポートが2ポートのみとなる。その一方で、SOHO向けのTS-451に比べるとCPUやメモリなどの基本性能は明らかに高い。見た目はコンパクトで、一見、家庭向けのTS-431などと競合しそうだが、実力的には遙かに上で、ちょっと古い表現だが、言わば「羊の皮を被った狼」的な存在と言ったところだ。
TS-453mini | TS-453 Pro | TS-451 | TS-431 | |
---|---|---|---|---|
実売価格 | 99,800円 | 118,000円 | 85,800円 | 54,070円 |
ベイ | 4(tool-free) | 4 | 4 | 4 |
CPU | Quad-core Intel Celeron 2.0(Up to 2.41GHz) | Quad-core Intel Celeron 2.0(Up to 2.41GHz) | Dual-core Intel Celeron 2.41GHz(Up to 2.58GHz) | Dual-core Freescale 1.2GHz |
RAM | 2GB(MAX 8GB) | 2GB(MAX 8GB) | 1GB(MAX 4GB) | 512MB |
LAN | 1Gbps×2 | 1Gbps×4 | 1Gbps×2 | 1Gbps×2 |
USB2.0 | 2 | 2 | 2 | 0 |
USB3.0 | 3 | 3 | 2 | 3 |
eSATA | 0 | 0 | 0 | 1 |
リモコン対応 | ○(同梱) | ○ | ○ | × |
HDMI | 1 | 1 | 1 | × |
ディスプレイ | × | ○ | × | × |
温度 | 0-35度 | 0-40度 | 0-40度 | 0-40度 |
電源 | ACアダプタ90W | ATX250W | ACアダプタ90W | ACアダプタ90W |
消費電力(通常/HDD停止) | 30.23W/17.18W | 33.13W/20.71W | 31.07W/15.85W | 33.75W/14.84W |
SSDキャッシュ | ○ | ○ | ○ | × |
HWトランスコード | ○ | ○ | ○ | × |
仮想化対応 | ○ | ○ | ○(RAM2GB以上) | × |
同時接続最大数 | 800 | 800 | 700 | 400 |
エアフローを配慮した縦型デザイン
それでは、実機を見ていこう。まず注目したいのは、そのデザインだ。従来のQNAPの製品では、一部、AV向けの製品を除き、フロント側から水平方向にHDDを装着するしくみとなっていたが、今回のTS-453miniでは、このベイが見当たらない。
HDD装着用のベイは、上部のマグネット式のカバーの中に隠されており、ここに上部から垂直方向にHDDを装着するように変更されている。上部から中を覗き込むと、従来モデルでは背面にあった基板が底面に見えるので、従来モデルを立てて置いたようなイメージだ。
このような構成変更のおかげで、設置面積が小さくて済むようになった。従来製品はモデルによっても若干の差はあるが、4ベイ製品でおおむね幅180×奥行き235mmほどのスペースが必要だったが、TS-453miniでは幅151×奥行き200mmと、それぞれ3cmほどサイズが小さくなっている。
縦型のデザインになった恩恵は設置面積の減少だけではない。内部を冷却するためのファンの位置が底面に移動し、底面から冷気を吸い上げ、上部カバーの隙間から排気するようにエアフローが変更された。
従来の後方排気の場合、壁際にNASを設置する際に、熱風がこもらないようにするために、ある程度の余裕を設ける必要があったが、上方排気の本製品では、背面のスペースはさほど気にする必要がない。
また、デスクを向き合うように配置しているオフィスでは、デスク上にNASを設置すると、排気側に座っている人に熱風が送られたり、書類を巻き上げる可能性があるが、本製品ならそんなことも気にしなくて済むようになった。
後述するように、本製品はモニタを接続してPC的に使うことも可能なため、デスクに設置することも十分に考えられるが、その際の課題も、この構造変更によってクリアしていることになる。
ただ、やはり後方排気のモデルに比べると、熱対策は難しいようで、前述したスペック表でもわかる通り、動作温度の上限が他のモデルよりも5度ほど低い。ファンの動作音も、アイドル時はほぼ無音だが、RAIDの再構築や仮想化機能の利用時など稼働率が高くなると、回転が上がり、若干、ファンの音というよりは、風が隙間を吹き抜けてくるような音が聞こえてくる。AV用途での利用を考えているのであれば、ファンレスのモデルも検討すべきだろう。
動画を自動的にトランスコード
機能的に注目したいのは、動画のトランスコードだ。
前述したように、本製品にはクアッドコアのCeleronが搭載されているが、このおかげで動画のトランスコードにハードウェアを活用することができる。
設定画面で、動画の自動トランスコードを有効にしておくと、特定のフォルダを監視して、動画ファイルが保存されると同時に自動的にスマートフォンなどに適した形式(240p~1080p、H264、AAC)にトランスコードすることができる。
NASに保存した動画をスマートフォンなどから再生しようとして、フォーマットの違いで再生できなかったり、帯域不足でスムーズに再生できなかった経験がある人も少なくないと思われるが、本製品であれば、そういった問題も回避できるというわけだ。
実際にテストしてみたところ、約1時間(9GB)のMPEG2TSを約22分ほどで変換することができた(360pのMP4。変換後のサイズは348MB)。ハードウェアアクセラレーションのおかげで、動画の再生時間以下で変換できた。
単純に動画ファイルをNASに保存すれば、「@Transcode」というフォルダに変換されたファイルが自動的に生成され、VideoStationなどのQNAPの機能を利用して変換された動画を再生することが可能となるため、非常に手軽だ。
もちろん、ハードウェアトランスコードとなるため、変換時のCPU負荷も20~30%とさほど高くならずに済む。このため、バックグラウンドでトランスコードが実行されていても、ファイル共有などの通常の操作に影響がほとんどない。
試しに、トランスコード実行中に、後述するVirtualization Stationを利用してWindows 8.1を動作させ、リモートデスクトップ経由でブラウザを使ってインターネットに接続してみたが、これらの操作を同時に実行してもCPU負荷は50%前後で収まった。
これまで、NASにとって、高性能なCPUは多くのファイルアクセスを処理するためのものであったが、本製品ではこのCPUパワーがトランスコードや仮想化など、他の用途にも活用されていることになる。
家庭用NASに、贅沢なCPUは不要、という考え方はもはや古いと言えそうだ。
HDMIでテレビに接続すればメディアプレーヤーに早変わり
もう1つ、機能的に注目したいのは、HDMIによるテレビへの接続だ。
本製品の背面には、HDMI端子が用意されており、ここにテレビやPC用のモニタなどを接続することで、メディアプレーヤーとして利用することが可能となっている。
これまでのNASでは、NASに保存された動画をテレビで再生する際は、DLNAなどの機能を利用する必要があったが、TS-453miniであれば、テレビ側にこういった機能は必要ない。HDMIで接続すれば、「HD Station」と呼ばれる機能によって、GUIの操作画面が表示され、ここから「HD Player」などのアプリを使って、NAS上のファイルを再生することができる。
NASとテレビの間を無線LANで接続している場合などは、動画をスムーズに再生できるだけの帯域が確保できない場合などもあるが、HDMI接続であれば、ネットワークの状態を心配する必要がない。NASをテレビの側に設置する必要はあるが、常に安定した品質で動画を楽しめるのは大きなメリットだ。
しかも、本製品には、他のモデルでは別売りとなる赤外線リモコン(RM-IR002)が同梱されている。このため、ソファなどでくつろぎながら、リモコンで動画を選んで再生することが可能となっている。
このほか、HD Stationには、ChromeやFirefoxなどのブラウザ、TurnInRadioやYoutubeなどのサービス、ゲームなど、さまざなアプリが用意されており、キーボードやマウスなどをUSBで接続すれば、簡易的なPCとして利用することも可能となっている。リビングにPCの代わりとして設置しておくのも現実的と言えそうだ。
なお、ここで紹介したHDMI接続とリモコンは、TS-453miniを初期設定する際にも重宝する。テレビに表示された初期設定画面を見ながら、リモコンで簡単にハードディスクの構成などを設定できるので、はじめてNASを使う場合でも、迷わず設定できるだろう。
仮想環境でWindowsを動作させることも可能
最後に、仮想化機能についても触れておこう。
本製品では、「Virtualization Station」という機能を使うことで、クライアントハイパーバイザー型の仮想化機能を利用することが可能となっており、NAS上でWindowsなどの他のOSを稼働させることが可能だ。
本来は、Windows Serverからの移行時に、Windowsでしか動作しない業務アプリケーションなどを仮想環境で動かすための機能だが、Windows 8.1などのクライアントOSを稼働させることももちろん可能となっている。
ただし、この機能を利用する場合はメモリの増設が必要になる。TS-453miniには標準で2GBのメモリが搭載されているが、2GBのままだと仮想マシンに最大で512MBまでしかメモリを割り当てることができない。Windows 8.1やWindows 10は、32bit版で1GB、64bit版で2GBのメモリが必要になるため、TS-453miniのメモリを増やしておく必要がある。
底面のネジをゆるめてカバーを開けると、メモリ用のスロットが姿を現すので、ここにメモリを追加するか、標準のメモリと交換しておこう。搭載可能なメモリは、ノートPCなどでも利用されているSO-DIMMだが、低電圧版のDDR3L-1333(1.35V)を利用する必要がある。
基本的には、代理店取扱いの互換性確認済みメモリ(4GB×2枚セット/2GB×2枚セット)を利⽤するといいだろう。
なお、本来であれば、前述したHD Stationと組み合わせることで、仮想マシンにインストールしたWindowsの画面をHDMI経由でモニタに表示したり、TS-453miniに接続したキーボードやマウスでWindowsを操作することが可能だが、残念ながら、評価時点でインストール可能なHD Stationのバージョンが古く(3.0以上が必要)、この使い方はできなかった(詳細はこちらを参照)
新しいバージョンのHD Stationは、TS-453miniにも提供される予定となっているため、もうしばらくすれば、TS-453miniをWindows搭載デスクトップPCとしても使えるようになるはずだ。
長く付き合える一台
以上、QNAPの新型NAS「TS-453mini」を実際に使ってみたが、4ベイのNASとしては、コンパクトでありながら、かなり高性能(ベンチ結果は以下を参照)、多機能な製品となっており、お買い得な一台と言えそうだ。
NASは、PCのストレージから、スマートフォンやタブレットでも使えるように進化してきたが、ここに来て、さらにリビングでの活用や仮想化といった新しい分野へと、その用途を広げようとしている。
仮想化は用途が限られるかもしれないが、もはや動画のハードウェアトランスコードやHDMI接続に関しては、対応しないNASは世代的に古いと言える。そう言った意味では、今後のトレンドをすでに押さえているTS-453miniは、今後も長く付き合っていくことができるNASと言えそうだ。
[制作協力:テックウインド]