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「自動製造で性能向上」、ASUSにビデオカード生産の最新技術を聞く

品質向上のための「自動製造」、OSまで最適化する新型ユーティリティ text by 石川ひさよし

ASUSブースのビデオカードエリア
STRIX GTX 980 Ti

 COMPUTEX TAIPEI 2015のASUSブースのビデオカード展示エリアでは、同社の新技術を複数採用する「STRIX GTX 980 Ti」の展示が行われていた。

 新技術の中でも、世界初の試みという「完全自動製造技術」(メーカー)の「AUTO-EXTREME Technology」は強くアピールされており、この技術を採用するモデルはオーバークロック耐性が高く、長寿命だという。

 ASUSが革新性に自信を見せる「AUTO-EXTREME Technology」とはどういった技術なのか、担当者に話を聞くことができたのでその模様をお届けしよう。

 また、大口径ヒートパイプ採用の新型クーラーや、OS環境も最適化可能な新型ユーティリティなど、そのほかの新技術も合わせて紹介する。

「オーバークロック耐性向上・長寿命化」をうたうAUTO-EXTREME Technology基板製造は「完全自動化」に進化

基板の表では、個々のバラつきがなく整然と並ぶチョークなどがAUTO-EXTREME Technologyの証となる
基板裏からは、通常であればチョークの裏から突き出るピンやハンダ跡が消えた。従来基板では、とくにチョーク裏などのピンは高さがあり、下手に触ると痛い思いをしたのだが、そうした危険性も無くなる

――新旧の基板が並べられて違いがアピールされていますが、具体的にどのような点が進化したのでしょうか。

[David氏]STRIX GTX 980 Tiの基板の製造では、「AUTO-EXTREME Technology」を初採用しています。

 ビデオカードの製造では、組み立て作業の機械化が進んでおりますが、チップ実装などASUSでもまだ30%ほど手作業による工程が残っておりました。手作業が入る場合、個体差や不良が発生することを完全に無くすことは困難です。そこで、すべての工程を見直し、「100%機械生産」を実現するための技術「AUTO-EXTREME Technology」を開発しました。

 こちらの2枚の基板は、一つは従来のビデオカード基板で、もう一つが今回のAUTO-EXTREME Technologyを取り入れたビデオカード基板です。外観からでも、従来基板とAUTO-EXTREME Technologyによる基板は判別できます。

 まずは表面側で、チョークコイルの列が整っているところが挙げられます。機械生産では、決められた位置に決められた部品を正確に実装することが可能で、品質のばらつきを非常に低く抑えることができます。

 次にカードの裏面では、ビデオカード表面にチップを実装した部分の裏側で、チップの脚が飛び出ることなく平らで、ハンダが盛り上がっているようなこともありません。


「自動製造」をうたうAUTO-EXTREME Technology
基板背面にピンやハンダの跡などが無いのが特徴だ
加熱工程は必要最低限に
製品検査の信頼性も向上
検査装置をカスタマイズ
製造工程の改良の結果、オーバークロック耐性も向上しているという

 AUTO-EXTREME Technologyのメリットとしましては、生産効率の向上のほか、ヒューマンエラーの解消などが挙げられますが、それだけではありません。

 手作業では、チップ一つにつき、ハンダごてで熱を加えることになります。チップ数が多いハイエンドカードともなると、熱をかなりの回数加えることになってしまいます。AUTO-EXTREME Technologyでは、こうした熱を加える回数を大きく削減することができ、部品レベルでのオーバークロック耐性を向上させることに成功しました。

 また、ハンダ用フラックスの不使用化にも成功したことから、基板へのホコリの付着を抑えたり、部品の酸化を最小限に抑えたりすることができます。結果、製品寿命という点でも、従来基板から大きく向上することになります。

 マザーボードなど、他の製造部門でもAUTO-EXTREME Technologyを採用するかは未定となっていますが、ビデオカードではSTRIX GTX 980 Ti以外にも採用モデルを増やしていく予定です。


【ASUS AUTO-EXTREME技術とは?】

3連ファン+極太ヒートパイプを搭載するSTRIX GTX 980 Tiのクーラー

STRIX GTX 980 TiはASUS STRIXシリーズとしては初めて3連ファンを採用
VGA Product Marketing Dept.のDavid Yang氏

――「STRIX GTX 980 Ti」に搭載されているクーラーは、これまでのSTRIXシリーズものと大きく変わりました。このクーラーの特徴について教えて下さい。

[David氏]同じGM200コアのGPUとしてはGeForce GTX TITAN Xがありますが、そちらは現在のところNVIDIAからオリジナルクーラー(空冷)の搭載許可が下りていません。これに対しGeForce GTX 980 Tiはオリジナルクーラーの搭載が可能です。そこで、DirectCU技術をベースに、GeForce GTX 980 Tiに最適化したクーラーを設計しました。

 今回のクーラーは「DirectCU III」として、9cm径ファンを1基増やし、ブレードにもわずかなねじれを加えることで風を直下に集中させ、風圧を高めています。また、ヒートパイプは10mm径のものが2本、8mm径が1本、6mm径が2本という計5本を組み合わせて使用しています。10mm径のヒートパイプを2本使用したのはASUSでも初のことです。

 8mm径10mm径のヒートパイプは通常のヒートパイプの2倍となる1本あたり70~100Wぶんの熱を輸送できます。一般的な6mm径のものは1本あたり40~50Wぶんの熱を輸送できます(計算すると熱輸送は理論上最大370W程度あると見積もることができる)。

 DirectCUは、ヒートパイプがGPUに直接接触する構造を特徴としていますが、実をいうと、STRIX GTX 980 Tiでは中央に配置された10mm径2本、8mm径1本の3本までしかGPUに触れることができていません。残る6mm径パイプ2本は、GPU上からはみ出すことになりますが、これらも中央のパイプから熱を奪いますので、熱輸送の効果はしっかりあります。


カード下部からは極太の10mm径ヒートパイプが2本飛び出している。10mmパイプを2本搭載するのは初めてとのこと
8mm/10mm径パイプは70~100W、6mm径パイプは40~50W程度の熱輸送ができるとのこと
GPUに直接接触しているのは8/10mm径パイプの3本だが、GPU上からあふれる2本の6mm径パイプにも熱が伝わる構造との説明

ファンのブレードは内から外にかけ微妙にねじれた構造で、これが風圧を高めると言う
こちらがそのデータ。フラットなブレードに比べ風圧が105%に向上したと言う


GPUの裏には「GPU Fortifier」が装着され、クーラーの重さからGPU部分にかかるねじれを防ぐ

――背面側のデザインもこれまでのモデルとは異なりますね

[David氏]背面パネルは新設計の薄型のものを使用し、合わせてGPUの裏面に赤いプレート「GPU Fortifier」を装着しています。

 これは大型ヒートシンクを取り付けた際のゆがみによってアンダークラック(ゆがみによって生じるコンタクトの部分的な剥がれなど)を防ぐもので、今後のハイエンドモデルにも採用される予定の技術になります。

 小型のGPUコアを搭載するカードでは必要ありませんが、大きなGPUコアを搭載するモデルの信頼性を高めるための技術です。

――Super Alloy Powerなど、高品質部品の点では変更がありますか。

[David氏]今回新たに「Super Alloy Power II」基準を採用しました。

 まずキャパシタは耐用年数を通常品の2.5倍から3倍に引き上げ、チョークコイルもさらにコイル鳴きを抑えた構造のものを採用しました。MOSFETもDrMOSを採用することで20%の発熱低下を実現しています。Super Alloy Power IIはGeForce GTX 980 Ti搭載モデルからスタートし、以後のハイエンドモデルで採用していきます。


Super Alloy Powerもアップデート。チョークでは内部に詰める素材をより粒子の細かなものとすることで、共鳴、コイル鳴きを従来以上に抑えているとか。また、そのほかキャパシタではさらに高耐久の部品に切り替えたと言う
Super Alloy Power IIの概要。キャパシタは耐久性を3倍に引き上げ、チョークはより静かに、MOSFETはより低発熱になったと言う

ASUSのそのほかのシリーズも展示、スィートスポット帯に投入されるTURBOシリーズ
水冷対応がR.O.G. POSEIDONシリーズ、そしてR.O.G.の定番MATRIXシリーズ
ASUSの製品ではないが、複数メーカーから水冷ヘッドが販売されていることもオーバークロッカーからはメリットとなる。

独自ユーティリティ「GPU Tweak」もパワーアップ、OSを最適化してfpsを稼ぐ

GPU Tweak IIでは、UIのわかり易さを追求するとともに、新たな試み「Gaming Booster」が追加された。OCなどではなく、OS関連のチューニングのみで、ゲーム時のフレームレートを向上させるとのことなので、リスクも少ない。
簡易UIでは、最低限必要なステータスを大きな文字とアイコンで、メーター型の分かりやすいUIで提供する
従来どおりの詳細なUIももちろん実装。表示項目をカスタマイズでき、不用意にパラメータを変えてしまうリスクを抑えられる

――ソフトウェアもデモされていましたね。

[David氏]ソフトウェアではGPU Tweakをアップデートした「GPU Tweak II」を導入します。

 GPU-Zとの共同開発という点は引き続き同じで、より分かりやすいUIを目指しております。旧来の詳細なUIもありますが、初心者向けにメーターパネルを模した分かりやすいクロック表示や、プロファイル切り替えのボタンも大きくしています。

 ほか、STRIXシリーズはファン停止機能が特徴ですが、ファンを止めたくないという方もおりますので、「0dBファン」のオン/オフ機能も設けました。

 さらに新機能としましては、「Gaming Boost」として、OSの最適化機能を加えています。

 例えばWindowsのビジュアル・エフェクトをオフにすれば1fps程度の影響がありまして、これに不要なタスクを終了させればさらに1fps程度変わります。これだけで2fps程度の向上が見込めることになります。

 さらに、メモリデフラグ機能はメインメモリのデフラグを行い、空き容量を300~500MB程度確保することができます。これらはビデオカードのGPU機能ではありませんが、こうした機能もゲームをより快適にプレイするための機能として提供いたします。

 そのほかではXsplitのプレミアムライセンスも提供します。こちらのXsplitは、ASUSのカスタムUIを採用し、GPU Tweak II上から起動できるよう設計されています。

 カスタムUIというのは見た目のことだけではなく、UIを自由に設計できるというものになります。例えばストリーミングしながらでもGPUのプロファイルを切り替えられるようになります。


OSのビジュアル・エフェクトをオフとし、システム負荷を下げる
不要なプロセス・サービスを停止し、ここでもシステム負荷を下げる
メインメモリ上でデフラグを行い、連続した空き領域を確保する

XsplitのASUSカスタム版をバンドルし、GPU Tweak IIから起動&カスタマイズ可能に
XsplitのカスタムUIではOSDを追加表示でき、ゲーム中にAlt+Tabキーでアプリケーションを切り替える必要なく様々な制御ができると言う
GPU Tweak IIのデモが行われていたマシン。搭載されているのは3連ファンのSTRIX GTX 980 Tiだ

OC用キー付きを備えるキーボードや、側面に多数のキーを備えるマウスなども展示

 ASUSブースではゲーミングデバイスの展示も行われていたので、目立った製品を2点ほど紹介しよう。

まだ開発段階で、デザインにも変更が加わる可能性があるという「CLAYMORE RGB MECHANICAL KEYBOARD」。発売は2015年第4四半期の予定。シンプルなレイアウトのゲーミング向けキーボードだが、ROGシリーズマザーボードと組み合わせることでさらに多機能へと進化する
CherryのLED搭載軸を採用し、発光が可能。注目は、「CPU OC」や「RAM OC」、「Fan -」や「Fan +」と刻印されたキーの存在。(今後の)ROGマザーボードとの組み合わせでPCハードウェアの制御が可能になるとのことだ
キーボード裏には、USB 3.1のパススルー端子が搭載されている。先のインタビューで触れたとおり、USB 3.1を高速に使うためにはケーブルの長さが関わってくるため、これがどの程度帯域に影響を与えるのか不明だが、帯域を気にしないのであれば便利だろう
有線/無線が切り替え可能な「SPATHA WIRELESS/WIRED GAMING MOUSE」
底面は軽量化のためマグネシウム合金を採用している
側面にはキーボードの「7」~「+」キーに割り当てられたボタンを用意。ウェポンの切り替えなどで手のポジションを移動させることなくプレイできると言う

[制作協力:ASUS]

石川 ひさよし