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【 2008年8月30日号 】
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脳波入力は新たなゲームインターフェイスとなるか?
FPSゲーマーfumioが試す「Neural Impulse Actuator」
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8月30日(土)にCyAC主催で行われるWarsowの大会に参加予定。「もちろん優勝狙い」とのこと。
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- fumio -
FPS系のゲームを中心にプレーするゲーマー。過去、世界最大のe-SportsイベントWorld Cyber Gamesに日本代表の一員として参加しているほか、フリーのFPSゲームWarsowの国内大会での優勝、Crysisアジア大会で4位の成績を収めるなど、国内トップクラスの実力を有する。
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2008年8月某日。AKIBA PC Hotline!の新製品情報の中に異様な雰囲気を放つブツがあった。その名はNeural Impulse Actuator(以下nia)。なんでも脳波でゲーム操作が可能になるという、サイバネティックで前衛的な素敵デバイス。やべえ……カッコイイ……。
筆者の場合、FPSで撃ち合いなんかしていると脳の中で麻薬物質がとめどなく排出されたり、脳波が出まくってる感覚を覚えることがあり、そういう集中力が高まった状態ならサイコミュだろうがなんだろーが動かせそうな気がしてくるわけで、こういうデバイスもちょちょいのちょいで使いこなせそうな感じがするわけです。僕が一番ガンダムをうまく使えるんだ!みたいな。わかるよね!?
とまあ、筆者の好奇心をビンビンに刺激しまくってくれてるこのniaだけど、もちろん実用面でも期待している。PCゲームというのは非常に多くのボタンを使うので、片手が担当する操作の数は結構多い。でも、片手あたりの操作量が増えすぎると反応に致命的な遅れが出てしまうこともあって、可能ならほかの場所に操作量を分散させたいところなのだ。腕がもう一本あれば楽なんだけどね。そうしたこともあり、niaは三本目の腕の代わりとしてゲーマーの救世主となってくれるかも?と期待しているわけである。
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筆者としてもそんな夢のあるアイテムを放っておくつもりはなく、是非に試したいという気持ちはあったが、展示機のある店舗になかなか足を運べず悶々としていた。そんな折、AKIBA PC Hotline!編集部から「一個買ってきたから貸してあげるよ。んで何か書いてちょ」とのありがたいお言葉を賜った。うう、ありがとうございます。というわけで今回は、筆者とniaの苦悩に満ちた数日間をお伝えしていきたいと思う。
1日目「五里霧中の初日、周辺環境の影響を受けやすい?」
編集部でniaを受け取る際に、「店頭デモで動かせた人はほとんどいない」と説明を受けた。また、記事では脳波マウスという触れ込みだったが、nia単体ではポインティング操作は行えないこともわかった。脳波でギュンギュン狙い撃つことができないというのは正直残念ではあるが、「選ばれし人間しか使えない」「素人お断り」みたいな雰囲気はバッチコイ。
niaを抱え意気揚々と帰宅する筆者。早速PCに繋ぎ、付属CDからドライバをインストールしつつ頭に取り付けた。センサーと額の間に髪の毛などが挟まると正常に動作しないなど、シビアな読み取りを行うようなので細心の注意の元装着したのだが、ヘッドバンドの締め付けが調整しても弱いため、少し不安になった。
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割り当てられるのはマウスボタンやキー操作などで、ポインティング操作を割り当てる場合は別途マウスエミュレーションソフトなどが必要になる。
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ドライバのインストール後は初めにキャリブレーションを行うことになる。キャリブレーションは画面に現れる球体とその周りを回転する輪っかを数秒間見ているだけなのですぐに終わる。しかし「信号が強すぎてなんかおかしいッスよ旦那」とかそんなメッセージが出るばかりでうまく調節できない。信号が緑のラインと赤のベースラインの間に来るくらいが良いらしいが、ヘッドバンドをつけて安静にした状態でも信号を検出しまくっててどうしようもない! しょうがないからキャリブレーションは放置して、アクションに対する信号の変化を見ようした。するとなぜだろう、いくら気合を入れてがんばっても、信号はピクッと変化したかなーくらいが関の山。いくら念じても画面上には目立った変化が起きない。頭に力を入れたり瞑想してみたり、歌ってみたり、「いけ!ファンネル!」と叫んでみたりと、小一時間色々働きかけてみれどウンともスンとも反応してくれない。「これがオールドタイプの限界か」と早々に諦めかけたが、ここで終わってしまっては貸出してくれた編集部にも読者にもまるっきり示しがつかない。ひとまずアプローチを変えてみようということで、設定関係をいじくってみる。
まずはお約束ということで、メーカーサイトから最新のドライバをダウンロードしてインストール。ドライバを更新すれば反応しやすくなるかもしれないという儚い望みに賭けたのだ。更新が終わると設定ユーティリティの画面が説明書のものと同一のものになり(付属CDのものは説明書と異なっていた)、そして3種類あった訓練用のゲームが何故か1種類(Pongのみ)に減った……減った?あれ?……結果としてそれ以外は特に変化が見られず、センサーの反応が良くなるようなこともなかった。うーん。
次に、脳波という微弱な電気の流れを読み取る機器という性質を考慮して、nia本体からあらゆる電子機器を遠ざけてみた。具体的には無線LANのアクセスポイントを離してみたり、USBポートの周辺機器をすべて外したりしてみた。すると、全く反応しなかった先ほどまでに比べ、装着者の挙動にあわせ何らかの反応を示すようになったじゃないか。例えば、普段ゲームをするときと同じポジションを取ると表情筋の緊張を読み取る「Muscle」メーターが急激に反応する。またイライラして怒っている状態を再現したり、テキストエディタに向かって文章を打っているとα波・β波などの脳波を含むすべてのメーターが振り切れた。「あいうえおかきくけこ~」のように意味のない文字を打っているときは反応しないが、文章を考えながら打つと反応しているように見える(自信無さげ)。
しかし、ちょっと額当てがずれると反応が鈍くなったり、そうでなくても突然動かなくなったりと、使いこなせていると言うには程遠い状況。思っていたよりもはるかに気難しい動作っぷりに根拠の無い自信が揺らぎはじめるが、装着者の挙動に連動しているようなそぶりが見られたことにちょっぴり満足し、初日の試用はここまでとした。脳みそに力入れたり訳のわからないことを続けるのも結構しんどい。
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キャリブレーション中の画面
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姿勢による影響も出るため、無理の無い体勢で使用するのが望ましい。
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2日目「操作成功のカギはキャリブレーション」
今日は夕食後にテストを行ってみた。ちなみになにを食べたかというと焼肉である。好物の豚カルビとか食べて精神的に充足した状態でのテストにより何か違いが出るかもしれないし、出ないかもしれない。まあ、結論を言っちゃうと出なかったんだけど。相変わらず使いこなせてない感じだったので、もうちょっと設定をいじくることに。
キャリブレーション画面の適当な場所をクリックすると右下に2つの数字が表示され、上段の数字をクリックすることでEOG(眼電信号)、下段だとEMG(筋電信号)の入力値を調整することができる。デフォルトではどちらも10.0になっているのだが、このままではキャリブレーションもうまくいかないくらい信号を拾ってしまっているので、いい具合になるように調整してみた。
筆者宅の環境ではEOG:5.8、EMG:0.1でちょうどベースラインの間に信号が収まるよう調整できた。この状態でキャリブレーションをしてみると、おお!今度はCalibration Successfulになった!わずかながら前進できたことが妙に嬉しい。
そのままテストキャリブレーションに進み、実際に意図したとおりの動きをniaが読み取れるかチェックしてみる。ここで確認できるのは、表情筋の緊張を読み取る「Muscle」と、眼球の動きを読み取る「Glance」の2種類。Muscleのほうは目を見開いて額に皺を作る様に顔を動かすことで容易に反応させることができた。楽勝?だが、問題はGlanceだ。眼球を思いっきり動かしても余り反応してくれなかったり、右に動かしてるのに左に動いたり、右から中央に戻す際に左への動きを検知したりとかなりめんどくさい。筆者が試したのは
・瞼を閉じる
・眼を動かすだけでなく、視界に入ったものをちゃんと認識するよう心がける
・びっくりして振り向くくらいの勢いで左右を見る
など。いろいろと目玉をぐりぐり動かして試してみたが、以上のようにすればある程度の精度で認識してくれるように感じた。とはいえ、動かすつもりのないときでも反応してしまうことが多々あり、これをゲームで使うのはまだ無理がある。もっと練習・研究しなければ思い通りの操作など夢のまた夢という感じだ。
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信号が安定して読み取られている様子
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キャリブレーションが正常に済むと信号の波を意図的に操作可能になる
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「Muscle」は表情筋の緊張、「Glance」は眼球の動きを読み取っている。
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結局2日目までどうにかコントロールできるようになったのはMuscleのみ。それも、練習用のPongでeasyにすら勝てない程度のコントロール。微妙にラリーを続けることはできるが、後一歩でどうしても負けてしまう。使いこなせるのかこれ……。nia道は思っていたよりもはるかに険しい。
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[動画] Pong Game / 31秒 (左側が人間の操作)
後日、難易度easyであれば勝てるようなった。バーを両端に動かすON/OFF的な操作は簡単だが、中間で止めるようなアナログ的な操作は難しい。
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3日目「脳波コントロールに四苦八苦」
三日目にしてようやくというか今更というか、「眼を動かしたり、顔の筋肉を動かしたりする行為で操作する」ということが自分がイメージしていた「脳波操作」とすごくかけ離れていることに気づいてしまった。これのどこが脳波だよ!
このままでは脳波マウスが「筋肉マウス」などというあまり夢のないデバイスになってしまう。いや、既にマウスじゃなくなってるけど。とにかくどうにかしなければ。ということで脳波での操作実現に向け身を乗り出した。手始めに今まで注目しなかったα波・β波のメーターを観察することにする。メーターはつねに波を打つような動きをしていて、落ち着く気配が全くない。脳"波"だから当たり前か。でもこれじゃ思い通りに動かすの無理なんじゃね?
niaの基本的な動作の仕組みは、検知した信号の値がしきい値(任意で変更可能)を上回ったときに設定したキーが入力される、というようになっている。普段は信号に波があっても入力のときだけ信号が強くなれば(しきい値を超えれば)動作上問題はないということになる。はず。あとはsensitivityを下げ、脳波が強くなったときだけメーターが動くくらいに設定すれば何とかなるかも。というわけで、脳波を強くするための工夫を凝らしてみることにする。
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[動画] 脳波確認用の画面 / 15秒
α波/β波は常に動き続けているため、意図してコントロールすることは難しい。自在に操れればまさにニュータイプ?
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まずは両手で握りこぶしを作り、「クリリンのことかー!」といわんばかりに気合を入れるというか怒ってみた。すると一瞬α波、β波のすべてのメーターが完全に振り切れるじゃないか。すげえ!完璧!……と喜んでいたら単に気合を入れたときの表情の変化でセンサーが微妙にずれたのが原因で、しかもmuscle、glanceのメーターも最大限まで振り切れていた。これでは使いようがないよ、ちくしょう。
次に、普段FPSで対戦しているときのような集中状態を意識的に再現してみた。強く集中している間はα波が微妙に強くなったように見えたが、信号の強さ的には誤差の範囲を出ず、これまた微妙な感じだった。なぜだろう……。集中とリラックスは同じもので、どっちもα波が出まくってると某漫画で読んだのに。
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「気合を入れれば反応する」というわけでもないようだ。
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リラックス中にα波が出てるという話はほかにも聞いたことがあったので、今度はひたすらリラックスすることを考えてみた。リラックスといえばアロマテラピーだろう!ということでUSBアロマディフューザーを用意。アキバで調達可能な上、便利なUSB接続。青色LEDがそこはかとなくGEEKな感じしてていいよね!あ、アロマオイルは、デイリーアロマセットをハンズで買いました。使い方は水を入れたポッドにアロマオイルを垂らし、スイッチを入れるだけ。するとすぐにアロマの香りが部屋中を漂い始めた。うーん落ち着く。しかしniaの反応に目立った変化はない。しばらく待たないと効果でないかもな、と思い30分ほどアロマテラピーを満喫した後もう一度試してみる。どうだ?お、変わっ……た……?いや……微妙……。α波がドバドバでてるはずなのに。
その後も額の辺りにキュピーンというエフェクトが出てる様子を想像したり、お茶やコーヒーを飲んだり、風呂に入ったり、いろいろα波を出す努力をしてみたものの、あまり大きな変化は見られず。たまーに本人の様子に連動して変化を見せるようなときもあるが、再現性が微妙すぎて脳波をコントロールできているという確信を得ることはできなかった。
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筆者が利用したアロマグッズ。リラックスはできたものの、niaへの効果は薄かった……。
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最後に裏技を一つ。nia本体に手を置いて使用すると、信号の読み取りが非常に安定するようだ。複数人でテストしてみたが、同様の傾向がみられた。
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その後
それから数日が経過した今、比較的思い通りに操れるのはmuscleのみ、glanceは特に使用者や周囲の環境に左右されやすいようで、7割くらい思い通りに動かせるときもあれば4割がせいぜいといったときもあり、実用レベルと言うには厳しい。脳波にいたっては使いこなす目処が立たないままだ。正直筆者には荷が重い装置だったというか、調子こいてすいませんでしたァァァァーーー!という気持ちである。こいつを100%使いこなせる人間がいたらほんとニュータイプだよ、まじで。かなり本気で尊敬したいです。
でも将来的にはこういうのをみんなが当たり前に使う時代が来るんだろうなあ。それが技術の進歩によるものなのか、人類の進化によるものなのかはわからないけれど、なんにせよ夢のある話だと思う。人類頑張れ。
□nia - Neural Impulse Actuator(OCZ)
http://www.ocztechnology.com/products/ocz_peripherals/nia-neural_impulse_actuator
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