【 2012年8月8日 】 | |
[不定期連載]PCパーツ最前線: LianLiに聞く「LianLiケース、ここがポイント」(前編) アルミケースは高価、でも価格以上に長く使える製品を Text by 石川ひさよし |
- 前編:
アルミケースは高価、
でも価格以上に長く使える製品を 
2012年6月4日から9日までの期間、台湾台北市で開催されたCOMPUTEX TAIPEI 2012は、アジアのみならず、欧米、中東、アフリカなど世界各国のメーカー、バイヤー達が集まるIT関連トレードショーだ。今年も6日間の会期中、約13万人が訪れたと言う。以前は台北市の中心部にほど近いTWTCエキシビションホール1〜3にて開催されていたが、出展者の増加からここ数年はエキシビションのホール1とホール3、周辺にあるホテル、そして少し離れた南港に新設された南港展覧館を利用するようになった。
南港に出展するメーカーは、大手を中心に増加しており、例年、1Fは主に電源やメモリ(フラッシュメモリ)、ケースを中心としたメーカー、3FはIntel、AMDをはじめとした半導体メーカーに加え、マザーボードやグラフィックスカードなどのメーカーがブースを構えている。およそホール毎に取り扱う製品の種類が分かれていること、そして似通った製品を扱うメーカーがブースを並べることから、アピール合戦も白熱している。
さて、今回とりあげるのは、南港1Fにブースを構えたLianLi。
今後登場予定の新製品については僚誌PC Watchに任せるとして、ちょうど同社社長のMichael Chen氏(以下、Chen氏)が来場していたので、同社の製品にかける思いと、設計思想について伺った。
聞き手:石川ひさよし
協力:LianLi
実施日:2012年6月6日増えてきた小型ケース
Mini-ITXが1/3以上
−−最近の新製品は小型ケースが増えているように思うのですが、メーカーサイドから見た「PCケースのトレンド」を教えて下さい。
LIAN LI INDUSTRIAL
General manager
Michael Chen氏
成長著しいMini-ITX向けのケース。用途や電源の有無など、豊富なラインアップを揃え、ユーザーに選択肢を提供する[Chen氏]最近のLianLi内のトレンドは、価格面と汎用性の2点です。従来であれば、デザイン性や機能性を追求してきましたが、ここ最近、ユーザー層が変化してきた、と感じているためです。
−−ユーザー層が変化してきた、というのはどのようなことですか。
[Chen氏]これまでは、ATXマザーボードが搭載できるミドルタワーケースを中心に製品展開してきました。そして、今も多くの方にご愛用いただいています。
そうしたATXフォームファクタが自作PCの中心であることは変わらないのですが、最近はmicroATXやMini-ITXの製品の売れ行きが伸びてきました。小型フォームファクタの人気は日本市場が先行していますが、今ではヨーロッパなど世界的にも人気が高まっています。このような背景から、我々の製品ラインアップも変化してきています。
−−具体的に、現在の製品ラインアップにおけるATXモデルとMini-ITXモデルの製品比率というのはどのくらいになっていますか。
[Chen氏]日本未発売の製品を含めると、ATX仕様が21モデルに対し、Mini-ITXは13モデルまで増えてきています。
ポイントは「共振防止」
ゴムブッシュを各所に採用
−−各フォームファクタごとに多くの製品ラインアップを抱えるLianLiですが、一方で現在のユーザーはどのような点をポイントにケースを選んでいると感じていらっしゃいますか。また、そうした動向を元に力を入れている機能などはありますか。
側面パネルの固定をプッシュピン式にすることで、共振防止とツールフリーを同時に実現している
PC-V650では電源ユニット装着スペースにも防振ゴムを装備
ゴムブッシュ式のファンガード(1)
ゴムブッシュ式のファンガード(2)
ツールフリーのHDD固定[Chen氏] ユーザーの視点というのは我々も是非把握したいところですね(笑)。しかしおそらく多くのユーザーは、機能面を重視していると思われます。
その機能としてとくに注目いただきたいのが、側面パネルの固定方法です。弊社では最新モデルを中心に、プッシュ式で固定できる側面パネルを採用しています。
従来のようにネジで固定する方法は、ケースの共振を呼ぶ最も大きな原因です。
とくに大型なケースほど、数個のネジで大きな側面パネルを固定しなければならないため、共振問題はより顕著になります。一方、プッシュピンで固定する方法は、接点が多く、確実に固定できることで共振を抑えます。また、ドライバーを使わなくて済むツールフリー構造ですから、組み立てやメンテナンスの際の手間を省いてくれます。
また、振動の要因のひとつであるファン、そのファンの固定にも防振対策を行なっています。
ゴムブッシュを用いたスライド式の固定方法ですが、最新モデルではそのアイデアを発展させ、ファンガードにも防振対策及びツールレスの観点で手軽に着脱できる機能をつけました。こうした工夫で、共振の防止に加え、フィルターのメンテナンスもツールフリーで簡単に行うことが可能になりました。
また、このゴムブッシュによるスライド固定方式は、HDDの着脱にも採用しています。HDDも内部で円盤が回転する機械ですから、こちらも防振に効果抜群です。これに電源接地面の防振シートなどを合わせ、徹底的な共振対策を施しています。
−−プッシュピンやゴムブッシュのようなツールフリーは機能的にも利便性でもメリットがあるということでした。しかし全ての製品、全ての箇所に採用されているわけではありませんよね。ネジ固定とツールフリーの比率というのはあるのでしょうか。
[Chen氏]まず、ネジ固定とツールフリーではコストが違います。当然、ケース全体にツールフリーを施せば、利便性は向上しますがそのぶん高価な製品になってしまいます。
もちろん、我々の使命として、ケース製品の完成度を高めなければいけませんし、今まで以上の機能を持ったケースを提供していかなければなりません。そこで、各製品の位置付けと照らし合わせ、それが必要なのか、必要無いのかを検討し、選定しています。コストを徹底的に要求されるケースの場合、ツールフリーは搭載できません。また、上位のモデルでも、開閉や着脱の頻度に合わせ、ネジ止めとツールフリーを場所によって使い分けています。
−−価格というテーマに戻って来ましたね。では例えば、価格と機能のバランスに失敗した、という製品はあるのでしょうか。
取っ手のあるPC-TU200。当初はもっと大型の製品にしたかったという。
このまま持ち運べる[Chen氏]失敗ではありませんが、現在のラインアップに「PC-TU200」という製品があります。取っ手の付いた持ち運べるMini-ITXケースです。しかしこの製品、当初はもっと大きなものにしたかったのです。
機能面でもいろいろと盛りこみたかった内容がありまして、しかしその全てを詰め込んでしまうと現在の価格より40%もコストがあがってしまう計算になり、これではダメだと最終的に現在の仕様に収まりました。詰め込みすぎも問題ですね。バランスが重要です。
このようにコンセプトは定まっているが、コスト的な問題で発売できなかった製品は多いです。
増設用のファンマウンタがある製品も多い−−ファンの数やレイアウトという点もケース選びではよく議論されるところですが、LianLiとしてはどのようにお考えでしょうか。
[Chen氏]よく負圧、正圧という議論を聞きますが、これはシステム構成や外気温、湿度そのほか様々な条件に影響されますので、一概に「これが正解」という答えは無いと考えています。しかし正解が無いということは、ユーザーの選択に応えられるだけの汎用性を備えている必要があります。
また、求められるファンは製品ごとに、極端な話では同じ製品でも出荷先の要求によっても変わります。そしてこだわる方は、ファンを交換しますし、とくに日本のユーザーはファンのブランドにもこだわりがあると聞いています。
ですから、我々は必要最低限の機能として提供しているに過ぎません。ただ、正圧にも負圧にも、増設にも、サイズ的にどうしても無理な製品もあるにせよ、ほとんどの製品には、様々なユーザーニーズに応えられる機能を備えています。
アルミの良さは「高い質感」と「飽きのこないシンプルさ」
旧モデルでも使えるオプション・アップグレードパーツも用意
−−少し切り口を変えて、デザイン面でのトレンドというのはありますか。
同社の人気ケースのひとつ「PC-V700」
mini-ITX対応の「PC-Q18」
※掲載当初、対応フォームファクタに誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます[Chen氏]トレンドと言いますか、我々は基本的に「長く使っていただきたい」ということを念頭にデザインしています。その結果、他社と比べるとどうしても大人しい印象があるかもしれません。
しかし、高い質感を醸し出すアルミという素材、そして直線を多用したデザインはシンプルで飽きが来ないと自負しています。一方、これは我々の製造方法にも制限を受けています。
弊社では、アルミ板からパーツを切り出し、そして折り曲げるといった工程でケースを製造しています。あらかじめ鋳型を作り、そこに溶けたアルミを流し込む、といった方法とは異なります。その結果、曲線を作り出す加工はあまり得意としていません。
また、「トレンド」とは逆の話になりますが、長く使って頂けると、保守やカスタマイズのニーズも高まります。内部の組み換えで気分を変えたいという事も多いと思います。そこで我々は多くのオプションパーツを提供しています。
例えばプッシュピンを固定する樹脂パーツ、ゴムブッシュやそれを固定するネジなど、弊社製品特有の特殊部品はもちろん、5インチ、3.5インチベイアクセサリ、気分に合せて変更したい側面パネルなど、これほどオプションパーツの多いメーカーは他には無いと思います。これも汎用性のひとつだと思います。
USB 3.0対応用パーツの例。対応機種であればUSB 2.0の前面コネクタをUSB 3.0化できる
オプションパーツのパンフレット。この裏面にもぎっしり掲載されている。Web上のオプション一覧はこちら−−オプションパーツというのはどのくらい前の製品まで対応しているのでしょうか。
[Chen氏]およそ3年前のケース製品までは対応しています。また、様々な製品で共通して利用できるパーツもたくさんあります。各ケース製品とのフィッティングに関しては、代理店のサポートに問い合わせてご確認いただくことも可能です。
売り上げという点で考えると、いろいろな製品を試していただきたいですが、一方で自信を持ってリリースしている製品ですから、末永くお使いいただきたいですね。
アルミは樹脂やスチールよりも高価ですし、我々のようにこだわりを形にしてしまうと製品も高価になりがちです。ですから、そのぶん長くお使いいただいても大丈夫な堅牢性を保たせ、飽きの来ないデザインを選び、変化に対応する汎用性を持たせ、そして保守部品などのオプションパーツもご用意しています。我々もさらに長く使っていただけるよう、現状に満足せず、日々新しい機能、新しいデザインを追求して参ります。
次ページ→:後編: 奇抜な、そしてハイエンドなギミックはどこからくる?
□LianLi
http://www.lian-li.com/
□ディラック
http://www.dirac.co.jp/index.html□関連記事
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http://akiba-pc.watch.impress.co.jp/hotline/20120428/sp_case_ll.htmlLianLi製品 [取材協力:株式会社ディラック]