(2013/10/22 11:30)
昨年あたりから3Dプリンタに関する番組やニュースなどを盛んに目にするようになった。
ホビー用途に絞ってみても、お気に入りのキャラクターをオリジナルフィギュアにして飾ったり、プラモデルをカスタマイズするためのパーツを作るなど、活躍する場面は多そうだが、3Dプリンタに興味はあるものの、まだ3Dプリンタを使っていない人」はまだまだ多いはず。
今回、そのハードルを少しでも下げよう、ということで開始したのが「あなたのイラストを3Dプリンタでフィギュア化!イラストコンテスト」。これは、「2Dのイラストを応募すると、3Dモデルを作ってもらえる、というコンテストだが、やはり「最終的には、自分でイチから作ってみたい」という人も多いだろうし、仕組みを知ることで幅が広がるのもまた事実。
そこでここでは、「3Dプリンタに興味があるが、あまり詳しいことは知らない」という人のために、3Dプリンタでオリジナルの造形物を出力するにはどうしたらいいか、その一連の手順やポイントを解説していきたい。
3Dデータ作成から3Dプリンタでの出力までの流れ
まず、「自分がイメージした物体」を3Dプリンタで出力するまでの流れを示そう。
ステップ1 | 3Dデータの作成 |
---|---|
ステップ2 | STL形式での出力(またはSTL形式への変換) |
ステップ3 | STLデータの整合性をチェック |
ステップ4 | STLデータをツールパスデータに変換 |
ステップ5 | ツールパスデータを3Dプリンタに読み込ませて出力を行う |
基本的な流れは以上の通りだ。それぞれのステップについては、順に説明していくので、まずは基本的な手順だけ理解して欲しい。なお、3D CADソフトを利用して3Dデータを作成した場合や、3Dデータ配布サイトから3Dデータを入手した場合は、ステップ3の工程は省略しても大丈夫だ。
3Dプリンタも3Dデータがなければ「タダの箱」
3Dプリンタで物体を出力するためには、その物体の3Dデータが必要になる。
3Dプリンタは、あくまで3Dデータに基づいて造形を行う機器であり、3Dデータがなければ役に立たない。3Dプリンタと3Dデータの関係は、パソコンとソフト、スマートフォンとアプリの関係にも似ており、高価な3Dプリンタもデータがなければ「タダの箱」だ。
では、3Dデータをどうやって用意すればよいのだろうか?
3Dデータを用意する方法は、大きく分けて3つある。一つは、3D CADソフトや3D CGソフトなどの3Dデータを直接取り扱うソフトを使って、自分で3Dデータを作成する(3Dモデリングと呼ぶ)方法である。この方法は、自分の頭の中だけにしかない物体も自由に3Dデータ化でき、最も自由度が高いが、3D CADソフトや3D CGソフトの操作に習熟する必要がある。
もう一つは、物体をスキャンして3Dデータに変換する3Dスキャナと呼ばれる機器を利用する方法だ。この方法は、一から物体を3Dモデリングする必要はないが、すでに世の中にあるものしか3Dデータ化できないことが欠点だ。また、3Dスキャナの精度によって、3Dデータの精度が決まってしまうため、「大体の形をコピーできればいい」という用途以外では使いにくい上、3Dスキャナでスキャンした生データにはノイズが乗っていることが多いので、不要部分の削除や足りない部分の追加など、手作業での修正も必要だ。
最後の方法は、3Dデータ配布サイトなどから、3Dデータをダウンロードして利用する方法だ。海外には、「Thingiverse」や「Cubify.com」をはじめ、さまざまな3Dデータ配布サイトがあるが、日本でも「3D CAD DATA.com」や「SHAREDMESH」などの3Dデータ配布サイトがオープンしている。これらのサイトから、3Dプリンタ用の3Dデータを無料または有料でダウンロードできる。これなら3Dモデリングのスキルは不要だが、自分の欲しい3Dデータがあるかどうかが問題だ。
以上、ざっと見てきたが、3Dプリンタを使いこなすには、自分で3Dモデリングを行い、3Dデータを作るのが王道であろう。一から3Dモデリングを行うのが大変なら、3Dデータ配布サイトから入手した3Dデータをベースに、一部をカスタマイズするという手もある。
方法 | 必要な機材やソフト | 長所 | 短所 |
---|---|---|---|
3Dモデリング | 3D CADソフトまたは3D CGソフト | 自分で考えた3Dデータを作成できる | 3D CADソフトや3D CGソフトを扱うスキルが必要 |
3Dスキャン | 3Dスキャナ、3Dデータ修正用ソフト | 一からモデリングをする必要がない | 現実にあるものしか3Dデータ化できず、精度にも限界がある |
3Dデータ配布サイトからのダウンロード | とくになし (データをカスタマイズする場合は3D CADソフトまたは3D CGソフト) | 3Dモデリングのスキルや特別な機材が不要 | 自分が欲しい3Dデータがあるとは限らない |
3D CADソフトと3D CGソフトの違い
それでは、自分で3Dモデリングを行い、3Dデータを作る方法について説明しよう。
3Dモデリングを行うためには、3D CADソフトか3D CGソフトが必要になる。どちらも、3Dの物体をモデリングするために使われるソフトであるが、それぞれ得意不得意がある。3D CADソフトは、もともと機械設計などに使われるソフトであり、正確な寸法を入れた精密なモデリングが可能だ。立方体や円錐などを組み合わせてモデリングしていくソフトが多く、平面や比較的単純な曲面の組み合わせで構成される物体のモデリングに向いている。例えば、スマートフォンなどのケースや名刺入れ、オモチャの壊れたパーツを複製する場合などは、3D CADソフトが適している。
それに対し、3D CGソフトは、映画のような美しいCGやCGアニメーションなどを作るためのソフトであり、粘土をつまんで引っぱったり、押し込んだりするような感覚でモデリングできるものが多い。3D CGソフトは、複雑な曲面を持つ物体のモデリングに向いており、人間などのキャラクターやクリーチャーなどを造形するには、3D CGソフトが便利だ。
一口に3D CADソフトや3D CGソフトといっても、無料で配布されているソフトから、数百万円する業務用ソフトまで、さまざまなソフトがあるが、3Dプリンタで出力するために3Dモデリングを行うことが目的なら、高価なソフトを使う必要はない。無料で利用できるソフト、あるいは数千円で購入できるソフトで十分だ。
入門者にお勧めの3D CADソフトとしては、オートデスクの「123D Design」や「Tinkercad」(無料)、Trimbleの「SketchUp Make」(無料)、RSコンポーネンツの「DesignSpark Mechanical」(無料)、Triple Squid Software Designの「MoI 3D」(36,750円)などが挙げられる。また、入門向けの3D CGソフトとしては、Blender Foundationの「Blender」(無料)やN.Ishizaka氏が開発した「StoneyDesigner」(無料)、テトラフェイスの「Metasequioa 4 Standard」(5,250円)、イーフロンティアの「Shade 3D Basic」(10,290円)などがある。
これらのソフトについては表にまとめたので、参考にしてもらいたい。
ソフト名 | 開発元 | 対応OS | 価格 | 標準保存形式 | STL出力 | STL入力 |
---|---|---|---|---|---|---|
123D Design | オートデスク | Windows/OS X/iOS/ブラウザ | 無料 | 123dx | ○ | × |
Tinkercad | オートデスク | ブラウザ | 無料 | クラウドに自動保存 | ○ | ○ |
SketchUp Make | Trimble | Windows/OS X | 無料 | skp | ○ | ○ |
DesignSpark Mechancal | RSコンポーネンツ | Windows | 無料 | rsdoc | ○ | ○ |
MoI 3D | Triple Squid Software Design | Windows | 36,750円 | 3dm | ○ | × |
ソフト名 | 開発元 | 対応OS | 価格 | 標準保存形式 | STL出力 | STL入力 |
---|---|---|---|---|---|---|
Blender | Blender Foundation | Windows/OS X/Linux | 無料 | blend | ○ | ○ |
StoneyDesigner | N.Ishizaka | Windows | 無料 | sde | ○ | ○ |
Metasequioa 4 Standard | テトラフェイス | Windows | 5,250円 | mqo | ○ | ○ |
Shade 3D Basic | イーフロンティア | Windows/OS X | 10,290円 | shd | ○ | × |
STL形式とは?3Dデータ形式を理解しよう
3Dデータを手に入れる方法については前述したが、その形式についても注意が必要だ。
一口に3Dデータといっても、そのデータ形式にはさまざまなものがある。例えば、動画ファイルには、QuickTime形式やAVI形式、MP4形式など、さまざまなものがあり、ソフトによって対応している形式が異なる。3Dデータと3D CADソフト、3D CGソフトの関係もそれと同じだ。ほとんどの3D CADソフトや3D CGソフトは、複数のデータ形式に対応しているが、標準で保存される形式は、それぞれのソフトによって異なる。3Dモデリングの途中でデータを保存する場合は、ソフトの標準形式で保存するのが無難だ。ソフトによっては、ある形式でのデータの書き出しのみサポートしており、読み込みには対応していないものもあるからだ。また、標準以外の形式にエクスポートした場合、ポリゴン展開などの誤差によって細部が正しく再現できない場合もある。
しかし、ソフトによって保存するデータ形式がバラバラでは、3Dプリンタで扱いにくい。そこで、一般的な3Dプリンタでは、STL形式と呼ばれる3Dデータ形式が利用されている。
STL形式は、立体の表面を数多くの3角形で近似する、ポリゴンフォーマットの一種である。STL形式で扱えるのは、あくまで3角形の集合であり、曲面をそのまま取り扱うことはできないが、分割数を増やしてより細かな3角形で近似するようにすれば、ほぼ曲面のように見える。上に挙げた3D CADソフトや3D CGソフトは、STL形式での出力が可能だが(プラグインによって対応するものもある)、STL形式の入力に対応していないソフトもあるので、3Dデータ配布サイトからダウンロードしたデータをカスタマイズしたいという場合は、他のソフトを使うことになる(3Dデータ配布サイトの多くは、STL形式でデータを配布している)。
また、STL形式で出力する際に、ポリゴンの分割数を指定できるようになっているソフトもあるが、3Dプリンタで出力する場合は、とりあえずデフォルト設定で問題ないだろう。
最近の3D CGソフトは、STL形式での出力をサポートするものが増えてきたが、少し古い3D CGソフトでは、STL形式での出力に対応していないものも多い。その場合は、いったんOBJ形式で出力を行い、フリーソフトの「MeshLab」などを使って、STL形式に変換すればよい。
なお、STL形式では物体の色に関する情報は保存されず、単色となる。そのため、フルカラー出力が可能な石膏粉末タイプの3Dプリンタでは、STL形式ではなく、色情報の保存が可能なPLY形式やVRML形式の3Dデータが用いられる。
STL形式の3Dデータが立体として破綻していないかチェックする
STL形式での3Dデータを得られても、そのまま3Dプリンタで正しく出力できるとは限らない。
データとしては問題なくとも、「立体として成立していない」場合があるからだ。3Dプリンタは、あくまで現実の立体物を出力する機器であり、立体として破綻しているデータを扱うことはできないのだ。
例えば、ポリゴンが抜けて穴が空いていたり、壁がポリゴン1枚のみで厚さがゼロの場合などは、3Dプリンタで出力することはできない。また、ポリゴンには法線が指定されているため、裏表が存在するのだが、その裏表が統一されていない(表面の一部で裏返っていたり)と、やはり正しく出力できない。3D CADソフトを使って3Dデータを作る場合は、そもそも立体として成立しない形状を作れないようになっているので、こうした問題は起こりにくいが、3D CGソフトの場合は、どのようなモデリングも可能であるため、問題のあるデータが生成されてしまうことも多い。
そこで、3D CGソフトを使って3Dデータを作成した場合は、3Dプリンタで出力を行う前に、STLデータに破綻がないかチェックするとよい。STLデータ検証用ツールとしては株式会社カタッチの「MoNoGon」や「netFabb Studio Basic」(無料)などがあるほか、前述の「MeshLab」も利用できる。MoNoGonは、当日ライセンス800円の有料ソフトだが、STL出力機能を利用せず、単にデータチェックだけなら無償の体験版でも可能だ(修正したSTLを保存することはできない)。
スライスソフトを利用してSTLデータをツールパスデータに変換する
STL形式のデータに破綻がないことが確認できたら、そのSTLデータを3Dプリンタを制御するためのデータに変換する必要がある。
パーソナル3Dプリンタで一般的なFDM方式では、糸状の樹脂を熱で加熱し、一筆書きをするような感じで、一層一層積み上げていくことで、立体物を造形していく。イメージとしては、ソフトクリームやホットボンドを思い浮かべてもらえばよい。つまり、実際は、ポリゴンデータであるSTLデータに従って、3Dプリンタは動作しているわけではない。まず、STLデータを1層1層スライスして、ヘッドを動かすためのツールパスデータ(Gコードなどと呼ばれる)に変換する必要がある。その変換ソフトは、スライスソフトやスライサーなどと呼ばれるが、利用する3Dプリンタによってツールパスデータの形式が異なるため、それぞれに3Dプリンタにあわせたスライスソフトを利用する必要がある。ホットプロシードの「Blade-1」やGenkeiの「atom 3Dプリンタ」といった、RepRap系の3Dプリンタでは、スライスソフトとしてフリーソフトの「KISSlicer」などが使われるが、MakerBotの「Replicatorシリーズ」や3D Systemsの「Cube」などの、大手メーカー製3Dプリンタでは、それぞれ専用ソフトが用意されている。
なお、STLデータをツールパスデータに変換する際に、ラフトと呼ばれる土台の有無やサポート部分をつけるかどうか、インフィルと呼ばれる立体内部の充填率など、さまざまな設定が可能だ。慣れないうちは、デフォルトの設定を利用すればよいが、造形する物体によって設定を変更することで、より精度の高い造形が可能になる。
ツールパスデータを読み込ませて3Dプリンタを動かす
STLデータをツールパスデータに変換したら、そのデータを3Dプリンタに読み込ませて出力を開始すればいいのだが、その方法は2通りに分けられる。動作時にPCを必要とせず、スタンドアロン(単体)で動作するタイプと、PCからの制御で動作するため、動作時にPCを接続し、専用ソフトを動かす必要があるタイプである。
前者の3Dプリンタは、USBメモリやSDメモリーカードからのデータ読み出しが可能で、本体に液晶ディスプレイや操作ボタンなどが用意されている。PCで変換したツールパスデータをUSBメモリやSDカードに入れておけば、3Dプリンタだけで出力ができる。それに対し、後者のタイプは、PCとUSB経由で接続を行い、PCから送られる制御信号に従って動くため、出力中、ずっとPCの電源を入れておく必要がある。手軽さでいえば前者のタイプが優れているが、後者は、細かな設定や出力状況などを、PCの大画面で確認できることがメリットだ。
スタンドアロンで動作するパーソナル3Dプリンタとしては、MakerBotの「Replicatorシリーズ」や3D Systemsの「Cube」などがあり、PCからの制御で動作するパーソナル3Dプリンタとしては、ホットプロシードの「Blade-1」やGenkeiの「atom 3D プリンタ」、CellP projectの「CellP 3D Printer」、オープンキューブの「SCOOVO」などがある。
PCに繋いで動かすタイプの3Dプリンタで出力を行うには、PCで3Dプリンタ制御ソフトを動かす必要がある。
Blade-1やatom 3D プリンタなどでは、「Printrun」と呼ばれるフリーの3Dプリンタ制御ソフトを使うことが推奨されているが、他の3Dプリンタ制御ソフトを利用することも可能だ。CellP 3D PrinterやSCOOVOでは、スライスソフトと3Dプリンタ制御ソフトが一体化されており、2つのソフトを使い分けることなく、STLデータを読み込み、ツールパスデータに変換して、そのまま出力を行うことができる。
以上が、自分でデザインしたオリジナルのフィギュアや市販されていないオリジナルケースなどを3Dプリンタで出力するまでの基本的な手順だ。文章にすると、面倒に見えるが、一番難しいのはやはり3Dモデリング作業だ。ここさえできるようになれば、あとは、ソフトの指示に従って、データ変換などの作業をするだけなので、別に難しくはない。
3Dプリンタでの出力に興味があるのなら、まずは、3Dモデリングに挑戦してみることをお勧めする。3Dプリンタを持っていなくても、STLデータをアップロードすることで、出力を行ってくれる3Dプリント出力サービスを利用すれば、自分で作った3Dデータを手で触れる現実の物体にすることができる。
今回のイラストコンテストに応募するだけなら、上記のようなことを考える必要はないが、「3Dモデルを作り、それをカタチにする」というのはまた格別。自分でモデリングしてみるにせよ、イラストコンテストに応募してみるにせよ、「3Dプリンタの世界」に身を投じる参考にしてほしい。