石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』
中古ゲームの売買は違法か? 2002年に結論が出た「中古ゲームソフト訴訟」を知っておこう
2026年8月27日 09:05
今年7月、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は、2028年1月以降に発売する新作ゲームをダウンロード販売のみとし、以後は物理ディスクの生産を行わないことを発表した。
PCゲームではかなり前からダウンロード販売が主流になっており、家庭用ゲーム機にも時代の変化がやってきたという、印象的な出来事だ。まだSIEに限ったことであり、任天堂など他社のゲームソフトは物理メディアでの販売が続くと思われるが、ファミコンの時代から続くゲーム販売店も、今後はより厳しい状況になっていくことが予想される。
そこでふと気になったのが、中古ゲームの存在だ。レトロゲームから最新ゲームまで、現在も中古ゲームの売買は行われているが、そもそもこれは違法な行為ではないのだろうか? 適法ならば、どのような根拠に基づくものなのだろうか。
これは2002年に最高裁判決が出た「中古ゲームソフト訴訟」で結論が出ている。どんな内容だったのか確認してみよう。
ゲームメーカーが中古ゲームソフト販売店を訴える
まず前提として、ゲームメーカーは中古販売を認めたくない。新品でゲームを販売すればメーカーの利益になるが、中古で売買されてもメーカーは利益が得られないからだ。
中古ゲームの売買は、1990年代にはかなり広く展開されていた。新品ゲームを売るかたわら、ユーザーからゲームソフトを買い取り、販売している店は全国津々浦々、大小さまざまにあった。
ユーザーからすれば、遊ばなくなったゲームソフトを、買ったお店に持っていけば買い取ってくれて、それでまた新しいゲームが買えるという、ありがたい存在だった。こういった店側は、中古ソフトを買い取って、それを原資に新品のソフトを買ってくれるのだから、メーカーにもメリットは大きいと主張していた。
しかし実際には、中古ゲームソフトを買うユーザーも多い。メーカーは新品ゲームソフトの販売機会を逸していると考え、何とかして販売を食い止めたいと考えていた。
そして実際に、メーカーが販売店を訴えることになる。訴えはいくつか起こされており、原告となったメーカーは筆者が確認できた範囲では、エニックス、カプコン、スクウェア、ナムコ、ソニー・コンピュータエンタテインメント、セガ、コナミとなっている。当時から競い合っていた大手ゲームメーカーが、ここではがっちり手を組んでいた。
映画と同様の「頒布権」がゲームソフトにもあるのか
この裁判で原告が争ったポイントは、ゲームソフトが「映画の著作物」にあたり、著作権者に「頒布権」があるかどうかだ。
「映画の著作物」というのは、著作権法において「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物」と定義されている。簡単に言えば、映画のように映像や音声を使って表現されるものだ。ゲームソフトもこれに当たる、という主張である。
これが認められたら、その次にあるのが「頒布権」である。劇場用映画のビジネスは、映画会社がフィルムを映画館に貸し出して、映画館が上映するという形をとっている。このフィルムを映画館が別の映画館に売ってしまうと、映画会社のビジネスが難しくなる。そのため、映画のフィルムには映画会社が流通をコントロールできる強い権利が与えられている。これが「頒布権」である。
映画のフィルムにおける頒布権は、貸与後も失われることはなく、映画会社が常に保持し続ける。貸与するだけで、勝手に売買はできない。
ゲームメーカーは、この考え方をゲームソフトにも持ち込もうとした。ゲームソフトが映画の著作物にあたり、ゲームメーカーに頒布権があるならば、ゲームメーカーの許可なく中古ゲームソフトを売買するのは著作権侵害だ、と言えることになる。
既に映画のビジネスで使われている法律を、ゲームソフトにも適用させることで、中古ゲームソフト販売の対抗策に道筋を付けたというわけだ。
頒布権はあるが、中古ゲームソフトには適用されない
この裁判はいくつか行われ、大阪地裁では中古ゲームソフトの販売差し止めを認める判決も出ている。しかし続く控訴審で、大阪高裁は地裁の判断を覆す。そして2002年4月25日、最高裁の判決が下された。
その内容は、ゲームソフトが「映画の著作物」であることを認め、さらに著作権者に頒布権があることも認めた。しかし、その頒布権は最初に適法な譲渡(小売店でユーザーが正規に購入すること)が行われた時点で消尽する、とされた。
ゲームソフトが一度販売された時点で頒布権は消えるので、中古ゲームソフトの売買は、法律上問題ないという結論だ。一見するとゲームメーカーの頒布権も認められ、主張がかなり通ったように見えるが、結論としては最高裁が中古ゲーム売買に問題はないというお墨付きを与えた形で、メーカー側の明確な敗訴である。
読者の皆様は安心して中古ゲームソフトを売買していただいて大丈夫だ。とはいえ、今では当たり前になっている中古ゲームソフトの売買も、四半世紀前にこのようなやりとりを経たことで成立している、というのは知っておいていいだろう。その後はゲームメーカーも判決を粛々と受け入れ、中古ゲームソフトの売買についての論争は起きていない。
これらの経過については、僚誌GAME Watchに当時の記事が残っている。この記事は被告側のテレビゲームソフトウェア流通協会の記者会見で、高らかに勝利宣言している格好だ。
また同日、原告側である社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会の声明も発表されている。興味深いのは、当時の専務理事である久保田裕氏が個人的見解として、パッケージメディアからネットワークに移行することに触れている点だ。
現在、ゲーム販売が物理メディアからダウンロードへと移っているのは、クリエイターの収益性追求よりも、ユーザーの利便性とゲームハードおよびネットワーク環境の変化によるものが大きい。
ダウンロード販売が本格的に始まったのは2000年代半ばからで、家庭用ゲーム機にHDDや大容量フラッシュメモリが搭載されてからになる。PCに関しても、Steamでのゲーム販売が本格的に動き出したのは2004年の「Half-Life 2」発売以降なので、はるかに先行していたというほどでもない。
中古販売に規制がかからなかったものの、物理メディアでのゲーム販売は長く続いている。そして中古ゲームソフト問題とは関係なく、物理メディアの終焉が見えてきたのが2026年の現在だ。
この先、ゲーム販売店はどうなっていくのか……という話は長くなるので今回は控えるが、筆者周辺のミクロな話でいえば、軒並みカードゲームショップに変わっていた。時代の変化に追従する小売店のたくましさに感心している。息子にねだられたポケモンカードゲームがあまりにも手に入らないのをきっかけに知ったわけだが。

1977年生まれ、滋賀県出身
ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜で連載『石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』』(AKIBA PC Hotline!に移動)、『使ってわかるCopilot+ PC』などを執筆。
・著者Webサイト:https://ougi.net/
PCゲームに関する話題をコラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。


