夏のイチオシ!PCパーツ特集

クリエイティブ作業でRyzenを使いたいならCG・映像制作特化のGIGABYTE「X570S AERO G」

液タブとの接続もケーブル1本で楽々、“白マザー”派にも! text by 芹澤 正芳

 Ryzen 5000シリーズ対応チップセットの最上位に君臨するAMDの「X570」。チップセットだけの機能で見ればX570のほうが上だが、B550は後発ということもあり、対応マザーボードレベルで見るとB550マザーのほうが電源回路回りやインターフェース類に最新トレンドを取り入れたものが多く、Ryzen購入検討者には悩ましい状況となっていた。

 その状況を打破すべくマザーボードメーカー各社が相次いで投入しているのが型番に“X570S”と付く新製品。搭載されるチップセットは従来のX570と機能的な変更はない。ただし、設計の見直しなどによってほとんどのX570マザーに搭載されていたチップセットファンは非搭載となり、多くの製品で電源まわりの強化、USB 3.2 Gen 2x2への対応などが行なわれ、細かくブラッシュアップされているのが最大の特徴となっている。

 そんな最新デザインのX570マザーの中から、ここでは“クリエイター向け”をコンセプトにしたGIGABYTEの新モデル「X570S AERO G」を紹介する。クリエイター向けと銘打っているが、幅広いニーズに応えられる万能型のハイエンドマザーに仕上がっている。

GIGABYTEのクリエイター向けマザーボード「X570S AERO G」。実売価格は4万8,000円前後

多彩なシーンで活躍する「Vision LINK」

 「X570S AERO G」は、GIGABYTEの「VISION」シリーズの流れをくむクリエイター向けマザーボードだ。同じRyzen 5000シリーズ対応のマザーボードとして先に発売された「B550 VISION D」は、白を基調としたスマートなデザインに加え、Thunderbolt 3ポートを備えるなどクリエイター向けらしい仕様で大きなインパクトを与えた。

 X570S AERO Gは、それを踏襲した作り。白/銀基調に、青とホログラムのワンポイントが入ったスマートなデザインが印象的だ。電源まわりは12+2フェーズで、50A対応のDrMOSが採用されており、これはB550 VISION Dと同じだ。さらに、CPUの補助電源(EPS12V)はB550 VISION Dでは8ピンだけだったが、X570S AERO Gでは8ピン+4ピンに強化されている。これならば16コア32スレッドのRyzen 9 5950Xも安心して運用が可能だ。電源部のヒートシンクはシンプルなデザインだが、ヒートパイプを内蔵、厚めのサーマルパッドを挟むなど高い冷却性を確保している。

12+2フェーズの電源回路。CPU専用が12フェーズ
MOSFETは50A対応のVishay「SiC649A」。同社のZ590 VISION Gなどにも採用されている
PWMコントローラはルネサスの「RAA229004」。多くのマザーで採用されている定番チップ
CPUの補助電源は8ピンと4ピンの組み合わせ。ケーブルを隠す白いカバーは簡単に外すことが可能だ
電源回路を冷却する大型のヒートシンクを採用。シンプルなデザインだがヒートパイプも備える本格派

 X570チップセットの強みは、CPU直結、チップセット経由どちらのM.2スロットおよびPCI ExpressスロットもPCI Express 4.0に対応していること(CPUにはRyzen 5000/3000シリーズが必要)。B550はCPU直結のスロットだけがPCI Express 4.0対応で、チップセット経由のものはPCI Express 3.0対応となる(その分チップセットの負荷が小さく、ファンレス設計にしやすいという利点があったわけだが)。

 そのためX570S AERO Gは当然、M.2スロットおよび拡張スロットはすべてPCI Express 4.0対応。クリエイター向けらしく、M.2スロットを4基も備えており、大容量の動画ファイルを扱うため高速なストレージ環境を求めることが多い、本格的な動画編集にも対応しやすい。x16形状のPCI Express拡張スロットも3基あり、複数のビデオカードも搭載が可能で、エンコード専用にビデオカード1枚追加、といったニーズにも応えやすい。なお、3番目のPCI Expressスロットと3番目のM.2スロットは排他仕様になっている。

PCI Expressスロットは3本。1本目と2本目はCPU直結で、1本目だけを使う場合はx16。2本目と同時に使う場合はそれぞれx8動作になる
4スロット厚級の超大型ビデオカードを使用する場合、2本目のPCI Expressスロットを使うのはかなり難しそうだ
M.2スロットは全部で4本、すべてにヒートシンクが搭載されている
チップセットのヒートシンクも大型。M.2スロットのヒートシンクも利用して熱を分散させる作り

 対応メモリも強化されている。これまでのX570マザーはDDR4-4400程度までの対応が多かったが、X570S AERO GはRyzen 5000シリーズならDDR4-5100まで、Ryzen 4000GシリーズならDDR4-5400まで対応と強力なOCメモリを組み合わせられるようになった。ただし、高クロックのOCメモリが動作するかは、メモリやCPUの個体差によって変わる。確実というわけではない点は覚えておきたい。

メモリスロットは金属補強なしのタイプで、両端の固定フックが開くいわゆる両ラッチ仕様

 X570S AERO Gの目玉であり、クリエイター向けと言える真骨頂が「Vision LINK」だろう。これはバックパネルに備わっているDisplayPort出力と60W出力のUSB PD機能を持つ、USB 3.2 Gen 1のType-Cコネクタのこと。しかも、バックパネルにはDisplayPort入力もあるため、外部ビデオカードの映像をVision LINKから出力することもできる。

 GIGABYTEでは、Type-Cコネクタで映像と電源の入力を行なう液晶タブレットとの組み合わせに最適としているが、筆者としてはモバイルディスプレイとの組み合わせやすいのがメリットと感じる。モバイルディスプレイもType-Cコネクタで映像と電源入力の両方を行なえるものが多いためだ。Vision LINKとType-Cケーブル1本で接続をすませられるのは非常にラク。GeForce RTX 2000シリーズにあったType-Cでの映像出力がRTX 3000シリーズでなくなってしまった今、Vision LINKの価値は非常に高い。Vision LINKにスマホやタブレットをつなげば、急速充電をしつつPCとのデータ転送できるのも便利だ。

ビデオカードをバックパネルのDisplayPort入力につなげば、Vision LINKから映像を出力できる
60W出力のUSB PD機能も持つのでスマホやタブレットの急速充電にも便利

 そのほかのインターフェースもチェックしておこう。バックパネルのUSBは、Vision LINK(Type-C)が1ポート、USB 3.2 Gen 2x2(Type-C)が1ポート、USB 3.2 Gen 2が4ポート、USB 3.2 Gen 1が2ポート、USB 2.0が2ポートだ。映像出力はHDMI 2.1を搭載。PCケースのUSBポート用として、USBピンヘッダで、USB 3.2 Gen2 Type-Cが1ポート分、USB 3.2 Gen 1が4ポート分、USB 2.0が6ポート分用意されている。バックパネルカバーは組み込み済みのタイプだ。B550 VISION Dのウリの一つであったThunderboltには対応していないが、必要があればアドオンカードで増設できる。

 ネットワーク機能は、有線LANがIntelの2.5G LAN。無線はIntel AX200によるWi-Fi 6(IEEE802.11ax)対応だ。5GHz(160MHz)で最大2.4Gbpsの通信が可能となっている。Bluetooth 5.1もサポートする。

バックパネルカバーは一体型のタイプ
USB 3.2 Gen 2 Type-C用のピンヘッダも用意
Wi-Fi用のアンテナも付属
Serial ATAは6ポート
基板上にはCPUやメモリがなくてもUEFIを更新できる「Q-FLASH PLUS」ボタンを備える
CPU/DRAM/VGA/BOOTの四つで構成されるステータスLED。起動時に問題がある箇所のLEDが点灯とトラブル解決に役立ってくれる。大型のビデオカード時は若干見えにくい
ファン用の電源ピンはCPUや水冷用も含めて全部で8基もあり、ファンの接続に困ることはないだろう
オーディオコーデックは定番の「ALC1220-VB」。リアルなサラウンドが楽しめるDTS:X Ultraをサポートする

 X570S AERO Gはスマートなデザインだが、まったく光らない仕様。その辺りはゲーミングマザーとは一線を画すところだが、基板上にはアドレサブルRGBやRGB LED用のピンヘッダは用意されている。白基調のパーツで構成し、白色のLEDでドレスアップしたPCの自作にも挑戦が可能だ。

まったく光らないマザーだが、アドレサブルRGBやRGB LED用のピンヘッダは搭載

VRM、チップセット、NVMe SSDの冷え具合を検証!

ここからは実際のパーツを組み込み。ベンチマークや冷却のテストをしてみよう。テストの使用したパーツは以下のとおり。

【検証環境】
CPUAMD Ryzen 9 5900X(12コア24スレッド)
メモリセンチュリーマイクロ CB8G-D4U3200H
(PC4-25600 DDR4 SDRAM 8GB)×2
SSDPCI Express 4.0 x4対応NVMe SSD
ビデオカードGIGABYTE AORUS GeForce RTX 3080 XTREME 10G
(NVIDIA GeForce RTX 3080)
CPUクーラーCorsair iCUE H115i RGB PRO XT
(簡易水冷、28cmクラス)
電源Super Flower LEADEX V G130X 1000W
(1,000W、80PLUS Gold)
OSWindows 10 Pro 64bit版
ビデオカードにはブーストクロック1,905MHzと高OC仕様の「AORUS GeForce RTX 3080 XTREME 10G」を使用。カード長31.9cm、4スロット厚の大型カードだ

 まずはPCの基本性能を測る「PCMark 10」、3D性能を測る「3DMark」、画像処理と動画編集の性能を測る「UL Procyon」を実行してみる。

PCMark 10の結果。比較対象がないので分かりにくいがクリエイティブ系の処理をするDigital Content Creationで優秀なスコアを出している
3DMarkのFire StrikeとTime Spyの結果。どちらも良好なスコアで、Ryzen 9 5900XとRTX 3080の性能を十分引き出せている
UL Procyonのの結果画面。左がAdobe Photoshopを実際に使って写真編集処理の速度を計測する「Photo Editing」。右がAdobe Premiere Proを使って動画編集処理速度を計測する「Video Editing」の結果。近年ではAdobeのクリエイティブアプリをRyzen環境で使いたいという声が増えている

 続いて実ゲームの性能もテストしておこう。中量級として人気のバトルロイヤルFPS「Apex Legends」、重量級としてレイトレーシングとDLSSに対応するアクションRPG「サイバーパンク2077」を用意した。Apex Legendsはトレーニングモードの一定のコースを移動した際のフレームレートを「CapFrameX」で計測。サイバーパンク2077は街中の一定のコースを移動した際のフレームレートを「CapFrameX」で計測している。

Apex Legendsの計測結果
サイバーパンク2077の計測結果

 あくまで今回の組み合わせでは、このフレームレートが出るという参考程度に見てほしいが、Apex Legendsは最大で300fps。フルHDなら、平均で299.9fpsとほぼ最大まで出ており、さすが高OCのRTX 3080という結果だ。サイバーパンク2077もRTX 3080としては優秀なフレームレートを出している。GIGABYTEはホワイトカラーのビデオカードも出しており、シャレたゲーミングPC自作に挑戦するマザーとしてもよさそうだ。

 続いて、VRM(電源まわり)、チップセット、M.2スロットの冷却力を見てみよう。まずはVRMから。CINEBENCH R23を10分動作させたときのVRMの温度をチェックする。VRMの温度は、ハードウェア情報を表示できるアプリ「HWiNFO64」で「Temperature 5」という項目の温度を追った結果だ。同社のシステム管理アプリ「System Information Viewer」で表示される「VRM MOS」と「Temperature 5」の温度推移が同一だったため採用している。室温は25℃だ。

VRM温度の推移

 時間経過で緩やかに温度は上がっていくが、それでも最大45℃と十分に低い。テストはベンチ台の上に置いただけのバラック状態、CPUの冷却は簡易水冷なのでVRM周辺を冷やす要素はヒートシンクのみだが、それでも全コアに負荷をかかる処理を行なって、45℃程度なので長時間のエンコードやゲームプレイなど高負荷な状態が続いても安心と言える。

 さらに、CPU動作クロックの安定度を確かめるため全コアに大きな負荷をかけるOCCT 8.2.5のCPUテストを10分間実行したが、動作クロックはほぼ全コア4.525GHzで安定。ごくたまに20MHzブレる程度だった。12+2フェーズで50AのVRMは、CPUの安定動作も生み出している。この辺りはさすがクリエイター向けという設計だ。

OCCT 8.2.5でCPUテストを実行したときの動作クロック。全コア4.525GHzで安定していた

 続いて、M.2スロットごとの速度と温度をチェックする。CPUに近い1基目はCPU直結でヒートシンクも一番分厚く、上下の両方にサーマルパッドを搭載とガッチリとした冷却構造。2基目と3期目は共通のヒートシンクでチップセット接続、4基目は1基目と同じく独立したヒートシンクだが薄型でサーマルパッドも上だけでチップセット接続だ。すべてPCI Express 4.0 x4対応だが、CPU直結のほうが速度が出やすい傾向にある。なお、今回のテストには公称シーケンシャルリード7,000MB/s、シーケンシャルライト5,100MB/sのNVMe SSDを使用した。

1基目のM.2スロット。分厚いヒートシンクを作用し、SSDの表裏の両方にサーマルパッドが付くという豪華仕様
2基目と3期目は共通のヒートシンク。サーマルパッドはSSDの表面だけに付く
4基目のヒートシンク。薄型でサーマルパッドはこちらもSSDの表面側だけ

 テストはTxBENCHを使い、書き込み範囲を100GBに設定して10分間シーケンシャルライトを続けるというもの。温度と書き込み速度を「HWiNFO64」で追っている。2基目と3期目は共通のヒートシンクということもあり、3基目の測定はパスとした。

M.2スロット1基目搭載SSDの温度(左軸)と書き込み速度(右軸)の推移
M.2スロット2基目搭載SSDの温度(左軸)と書き込み速度(右軸)の推移
M.2スロット4基目搭載SSDの温度(左軸)と書き込み速度(右軸)の推移

 意外にも一番冷えたのは4基目のM.2スロット。ヒートシンクは薄めだが、チップセット経由でのPCI Express 4.0接続となるためCPU直結よりも速度が出ず、SSDの温度も上がりにくかったと考えられる。最大で71℃だった。その一方で同じチップセット経由の接続なのに一番温度が高くなったのは2基目。これはヒートシンクがチップセット冷却用のヒートシンクとつながっているためチップセットの熱が伝わりやすく、さらにビデオカードの直下になるため熱が逃げにくいという条件が重なったためだろう。最大81℃に達した。速度面では1基目の圧勝だ。5,180~5,200MB/s前後と公称を超える速度が出ている。温度は最大78℃だった。すべてのスロットでサーマルスロットリングは発生しなかったので運用上は問題ないと言えるが、1基と4基目を優先して使うほうがよいだろう。

 補足として、各スロットのCrystalDiskMark 8.0.3の結果も掲載しておく。チップセット経由の2基目、4基目よりもCPU直結の1基目のほうがより高速な結果が出ていることが分かる。

M.2スロット1基目搭載SSDのCrystalDiskMark 8.0.3の計測結果
M.2スロット2基目搭載SSDのCrystalDiskMark 8.0.3の計測結果
M.2スロット4基目搭載SSDのCrystalDiskMark 8.0.3の計測結果

 もう一つ、チップセットの温度も確認しておこう。X570Sでは、チップセットのファンが非搭載となったのが大きなウリだが、そもそも高温になるためファンが必要だったのであり、ファンレスで大丈夫なのか気になるところ。1基目と2基目の上記温度と書き込み速度テストを行なった際のチップセットの温度を「HWiNFO64」を追ってみた。1基目のM.2スロットにSSDを搭載した際はCPU直結なのでチップセットには負荷かからない、だが2基目はチップセット経由なので大きな負荷がかかり、温度が上がるだろうと予測したためだ。

チップセット温度の推移

 予想どおり2基目のM.2スロットにSSDを搭載した場合、チップセット温度は高くなったが、それでも最大60度程度と心配のいらない温度。チップセットファンがなくても問題ないことが分かった。

クリエイターはもちろん、幅広い自作ユーザーにオススメしたい1枚

 12コア24スレッドのRyzen 9 5900Xを全コアフルに動作してもクロックがほとんどブレない安定志向の作りはまさにクリエイター向け。4基のM.2スロットで高速かつ大容量のストレージ環境を作りやすく、PCI Express x16形状のスロットが3本あるので、マルチGPUを取り入れたり、高速なRAIDカードを搭載したりすることが可能なのもポイントだ。

 さらに、数少ない白基調のマザーボードであり、騒々しくないスマートなデザインは映えるPCを作りたい人にも向いている。Vision LINKでマルチディスプレイ環境も作りやすく、メインのディスプレイでゲーム配信をしつつ、モバイルディスプレイでコメントを拾いたいといったニーズにも余裕で応えられる。クリエイター向け、ホワイトカラー、光らないと現在のトレンドとは異なる個性派マザーと思わせておいて、オシャレかつ多機能な誰にでもオススメしやすい1枚に仕上がっている。

[制作協力:日本ギガバイト]