CPU定点観測所
現行47製品のCPU性能を一斉テスト!! まずはアンダー5万円勢の結果を詳細レポート
【新装第1回/通算第7回】帰ってきた「CPU定点観測所」最新大検証!前編 text by “KTU”加藤 勝明
2024年10月21日 10:00
2024年冬号をもって休刊となった「DOS/V POWER REPORT」で展開していた不定期連載「CPU定点観測所」を、ここAKIBA PC Hotline!上でリブートすることになった。その時代々々における主要なCPUを横並びに一斉比較することを志向しており、GPU版である「GPU Round-Robin Benchmark」と対をなすものである。
GPU Round-Robin Benchmarkの1回目を夏に仕上げ、次はCPU定点観測所も……という予定だったがRyzen 9000シリーズ発売からコア間レイテンシーの改善にいたる流れ、さらにIntelの第13・14世代の不具合問題に対するBIOSの投入といった要素が断続的に着手を阻んでいた。ようやく着手に踏み切れたのが9月半ば。IntelのCore Ultra 200Sシリーズ(Arrow Lake-S)発売まであと数日という間の悪さではあるが、ここまでのCPU比較の総まとめ的なスタンスで読み進めていただければ幸いだ。
今回のレビューを動画で総まとめ!【YouTube】
47製品を一挙テスト、今回は21機種分を解説
以前は誌面という物理的制約から検証するCPUは30種類程度に絞らざるを得ないが、ここAKIBA PC Hotline!なら関係ない。DOS/V POWER REPORT最終号からかなり時間が経過したため、今回は一挙47製品の比較を試みる。Intelの第13・第14世代Coreプロセッサーを筆頭にAMDはRyzen 7000〜9000シリーズを中心に揃え、Socket AM4世代のRyzenやRyzen Threadripper 7000Xシリーズ(以降Ryzenは略)も若干数加えている。具体的な製品は以下のとおりだ。また、10月半ばにおけるおおよその実売価格(主要ショップにおける新品価格。ただし特価品を除く)も併記している。
だが47製品をいきなりすべて載せるのは厳しいため、本稿では実売価格50,000円より下のものに注目する。そこに国内新品流通のないモデル(Ryzen 5 7500FおよびRyzen 7 5800X3D)や比較する上で含めたほうがよいもの(Core i5-13500)を加えた、合計21モデルの比較にフォーカスする。実売価格50,000円より上のモデルに関しては次の記事でお届けし、全部一気に眺めたい方のためにまとめ版も掲載予定だ。
・CPUの現在位置(2024年10月前半時点)
・検証環境
・Cinebench 2024
・Blender Benchmark
・UL Procyon - Office Productivity Benchmark
・LM Studio
・UL Procyon - Photo Editing Benchmark
・オーバーウォッチ2
・黒神話:悟空
・F1 24
・Mount & Blade: Bannerlord II
・Cities Skylines II
・Starfield
・HandBrake
・エンコード中の実消費電力
・エンコード時のワットパフォーマンス
・ゲーム中の実消費電力
・次回は
CPUの現在位置(2024年10月前半時点)
ここまではIntelにとって厳しい年であったとことは間違いない。第13・14世代の不具合問題報告が2023年の12月あたりから出始め、2024年の3月頃にかけて同様の報告が頻繁に観測されるようになった。詳細はPC Watch掲載の大原氏の記事に譲るが、結果としてIntelはこの問題の影響を受けると考えられるモデルの保証期間を2年延長すると発表した。
原因については改めて解説はしないが、最終的にマザーをマイクロコード0x12Bを含んだBIOSに更新することで、不具合問題に完全に解決したとIntelは主張している。現在のZ790マザーのBIOSにおける具体的な設定値はマザーメーカーごとに異なるが、以前のようにPL1やPL2を無制限にする、というような設定は影を潜めている。以前のK付きモデルは消費電力や発熱は大きいが強烈な性能が簡単に得られるのに対し、今のK付きモデルはユーザーの設定への介入を経て性能を引き出すという感じに落ち着き、K付きとKなしの力関係が、このBIOS設定のパラダイムシフトでどう影響されたのかに注目したいところだ。
一方AMDは8月にZen 5世代のRyzen 9000シリーズを発売。特にRyzen 5 9600XやRyzen 7 9700XはTDPが65Wと絞られたことで発熱量も消費電力も少ないCPUに仕上がった。しかし全体としてRyzen 7000シリーズから劇的に性能が伸びているとは言い難い検証結果が出たこともあり、9000シリーズのローンチはやや厳しかった。
Ryzen 9000シリーズが発売されてからもさまざまな動きがあった。発売後に下位モデルのTDPを105WにするモードをBIOSに実装したり、Ryzenの分岐予測を改善するコードをWindows Updateで配布したり、果ては上位モデルのコア間レイテンシーが前世代に比して非常に遅いという問題に対しBIOSで対策するといった動きがあった。Ryzen 9000シリーズの発売日がずれ込んだ(当初は7月末発売と予告なのに8月発売)ことも考え合わせると、AMDはRyzen 9000シリーズの発売を急ぎ過ぎたため、発売後のアップデートが矢継ぎ早に発生したと推測したのは筆者だけではあるまい。
ただ、下方修正が続いたIntelと比較すると、こちらは常に上方修正であったため、ユーザー目線では“よくやっている”という評価が妥当だろう。
検証環境
今回のテスト環境を紹介しよう。それぞれの検証環境においては、極力環境を統一することを目指したがThreadripper環境だけはメモリch数や仕様が特殊(4ch&Registered DDR5)であることから、ここだけメモリ容量が異なっている。各環境におけるメモリクロックは、CPUがサポートする定格最大クロックに合わせている(例:Ryzen 7 7700XならDDR5-5200、Ryzen 7 9700XならDDR5-5600)。
OSはWindows 11の23H2としたが、Ryzenの分岐予測改善のコードが含まれるBuild 22631.4112を選択。さらに、メモリ整合性やSecure Boot、Resizable BAR、Windows HD Color(HDR)はすべて有効とした。またディスプレイのリフレッシュレートは144Hz(GIGABYTE「M27U」をDisplayPort接続で使用)としている。
検証環境:Intel 第13/14世代 Coreプロセッサー(LGA 1700) | |
マザーボード | ASRock Z790 Nova WiFi (Intel Z790、BIOS 6.02) |
メモリ | Micron CP2K16G56C46U5 (16GB×2、DDR5-4800/DDR5-5600) |
検証環境:Ryzen 7000/8000/9000シリーズ(Socket AM5) | |
マザーボード | ASUS ROG STRIX X670E-F GAMING WIFI (AMD X670E、BIOS 2401) |
メモリ | Micron CP2K16G56C46U5 (16GB×2、DDR5-5200/DDR5-5600) |
検証環境:Ryzen 4000/5000シリーズ(Socket AM4) | |
マザーボード | ASRock X570 Taichi Razer Edition (AMD X570、BIOS 5.63) |
メモリ | G.Skill F4-3200C16D-32GTZRX (16GB×2、DDR4-3200) |
共通 | |
ストレージ | Micron CT2000T700SSD3 (2TB、NVMe M.2、PCI Express Gen5) |
CPUクーラー | NZXT Kraken Elite 360 (簡易水冷、360mmラジエーター) |
電源ユニット | Super Flower LEADEX PLATINUM SE 1000W-BK (1000W、80PLUS Platinum) |
OS | Microsoft Windows 11 Pro(23H2) |
各マザーのBIOSは本格的に検証の始まった9月後半時点における最新版を導入している。すなわちIntel環境は不具合問題の完全解決にいたる一歩手前のBIOS(0x129)で統一している。CPUの電力制限に関しては、Kなしモデルに関してはBIOSのデフォルト設定のまま、K付きに関しては手動で「Performance Mode」と「Baseline Mode」を指定した。以降のグラフ中では「(P)」がPerformance Mode、「(B)」がBaseline Modeの結果であることを示す。また、このPerformance/Baseline Modeにおける具体的なPL1/PL2/ICCmaxなどの設定はすべて検証に使用したマザーの設定にもとづいている、という点は強調しておきたい。
Cinebench 2024
では定番Cinebench 2024からテストを始めよう。10分余熱した後にスコアを算出するデフォルトのモードを利用している。本稿での検証範囲ではSocket AM4のRyzen 9 5900Xがもっとも論理コア数が多く(12コア24スレッド)、Core i5-14600K(14コア20スレッド)がそのすぐ後を追っている。Intel製CPUはEコアを含むため物理コア数が多いものの、同社のCore i7以上と比較するとEコアのクラスターが少ないため、マルチスレッド性能の爆発力は今一つ期待できない。
本稿で登場するK付きモデルはCore i5-14600Kと13600Kのみであり、どちらもBIOS設定でPerformance Modeを指定しているが、PL1/PL2を無制限に設定時と大差ないスコアが出ている。これはZ790マザーのBIOSの設定がそうなっている(PL1/PL2ともにCore i5だけ4096W)からであるが、Baseline Modeにしても性能はたいして変わらないというのがおもしろい。そしてCore i5-14600Kのすぐ後ろに売れ筋であるCore i5-14500が控えているのがおもしろい。Core i5-14600KをBaseline Modeで使うくらいなら、Core i5-14500が費用対効果的に好適であることを示している。
一方AMDはRyzen 5 9600Xが唯一の最新現行シリーズからの参戦だが、1世代前のRyzen 5 7600Xや7600に比してマルチスレッド性能はさほど伸びていないことが再確認できる。ただしシングルスレッド性能はこのクラスでは最速だし消費電力(後述)の点でも強みがあるため、決して悪いCPUではない。ただTDP 65Wに絞ったことで前世代と分かりやすく差別化できなかったことは確かだ(これが発売後のTDP 105Wモード実装につながる)。Socket AM4のRyzen 7 5800Xや5700Xもマルチスレッド性能ではRyzen 5 9600Xに近く、結果としてRyzen 9000シリーズの下位打線のもの足りなさをさらに演出してしまっている格好だ。スコアが欲しければRyzen 9 5900X、今回テストできなかったが5900XTも選択肢に入ってくるため、Socket AM5へ乗り換えるモチベーションがなかなか沸いてこないという人も多いだろう。
Blender Benchmark
Cinebench 2024とややかぶるが、同じ3DCGレンダリング系ベンチマークとしてBlender Benchmarkを試す。Blenderのバージョンは“4.2.0”とし、CPUでレンダリングした場合のスコアを比較した。
全体傾向はCinebench 2024とあまり変わっていないが、6コア12スレッドであるRyzen 5 8500Gと8400Fの値に注目。型番から考えるとRyzen 5 8500Gのほうがより高いスコアを出せるのではと考えてしまうが、実際には8400FのほうがCPUパワーは高い。その理由はRyzen 5 8500GはZen 4とZen 4cのハイブリッド構成、かつZen 4(IntelにおけるPコア相当)は2コアなのに対し、8400FはすべてZen 4であるため同じTDPでもパワーをより効率よく利用できている。単純なパワーはCPUの型番だけで判断できない、というのがAMD製CPUの是正していただきたい部分だ。
UL Procyon - Office Productivity Benchmark
続いてはUL Procyonから“Office Productivity Benchmark”で検証する。Office 365(Word/Excel/PowerPoint/Outlook)を実際に動かし、さまざまな操作における時間をスコア化するベンチマークだ。CPUのコア数よりもシングルスレッド性能が重視されやすい。グラフは総合スコアとテストグループ別スコアに分けている。
Cinebench 2024やBlender Benchmarkでは猛威を奮っていたIntel勢は全体にトーンダウン。総合スコアでの最強はRyzen 5 9600Xだが、これはCinebench 2024のシングルスレッドスコアでトップであることと連動している。このシングルスレッド性能はWordのスコアに反映されやすいが、Ryzen 5 7600XなどのSocket AM5のエントリー寄りモデルもWordのスコアが割とよい。というよりもIntelのCore i5-14500より下の廉価モデルではWordやPowerPointのスコアが伸びていない。Ryzen 8500Gより下のモデルはスコアのブレが大きく、ここの部分に関してはCore i5-14400やCore i3-14100に対し決定的なアドバンテージを作れるにはいたっていない。
LM Studio
続いてはAI、特にLLMにおけるCPUのパフォーマンスをLM Studioを利用して比較する。AI処理ではGPUが圧倒的な強さを誇っているが、処理の内容や規模によってはまだまだCPUは使われるのだ。
今回の検証にあたって、学習モデルは「Meta Llama 3.1 8B Instruct」を使用した。ただしGPU Offloadを0にしてCPUだけで処理するよう設定している。以下のようなプロンプトで問いかけ、1秒辺りのトークン生成量を比較した。評価にあたり回答の正確さは評価していない(全47CPUで正解数は0であった)。
ある男性3人がホテルに泊まることになった。宿泊料は1人10ドル。男性客たちは合計30ドルを受付係に払った。しかし実際の宿泊料は3人で25ドルであったため、5ドルを返金しなければならないと気が付いた。しかし受付係は「5ドルは3人で割り切れない」と考え、2ドルを自分のポケットにしまい残りの3ドルを客たちに返した。ここで男性客たちは1人9ドルで合計27ドル支払ったことになる。そこに受付係がポケットにしまった2ドルを足すと29ドルになり、最初に支払った30ドルにはならない。残りの1ドルはどこに消えたのか? 解説してください。
シードの値もすべて統一しているが、生成される文章にブレがあるため、生成スピードとCPUのスペックはあまり連動していない。コアの少ないCore i3-14100などの廉価モデルでは明らかに応答の生成時間が伸びるが、Ryzen 5 9600Xでは7600Xよりも伸びないなど、直感に反する結果もいくつか見られる。
ただ、Ryzen 5 7600X〜8400FまでのSocket AM5勢と、Ryzen 9 5900X〜Ryzen 5 5600XまでのAM4勢では明確に生成時間に差が付いており、Zen 3に対するZen 4の優位性が確認できた。肝心のRyzen 5 9600Xの性能が奮わない理由については謎だが、LM Studio自体が結構なペースでバージョンアップしており、原稿執筆時最新である0.3.4ではまた違った傾向が出ていることから、新世代CPUに関してはまだ最適化不足という側面があると考えられる。
UL Procyon - Photo Editing Benchmark
再びUL Procyonに戻り、今度はPhotoshopとLightroom Classicを実際に動かす“Photo Editing Benchmark”で検証する。上位CPUだとEコアの多いIntel製CPUがBatch Processingテスト(Lightroom Classic)で猛威を奮うのだが、本稿のように50,000円より下のIntel製CPUはEコアも少ないためIntel勢の優位性は総じて低め。逆にImage Retouchingテスト(Photoshop)はRyzenの5000シリーズ以降と相性がよく、特にRyzen 9000シリーズの評価が高い。
総合スコアで見るとRyzen 5 9600Xがトップであり、その後に7600XやCore i5-14600Kと続く。Core i5-14600Kと13600Kに関して言えば、モードがBaselineでもPerformanceでもスコアに差は付かない。Lightroom Classicでは比較的マルチスレッド性能が重視されるが、性能をフルに発揮する前にパワー制限がかかってしまうようだ。
テストグループ別スコアを見ると、Ryzen勢のPhotoshopとの相性が非常によいことが分かる。Lightroom ClassicのBatch ProcessingテストはIntel勢と大差ないが、Image RetouchingテストだけはRyzenがしっかり優位性を出せている。ただ例外はRyzen 3 4100で、こちらはZen 2世代(いわゆるRenoir)かつコア数も少ないため、Intel 300のような最新のローエンドモデルよりもImage Retouchingテストの評価は芳しくない。
オーバーウォッチ2
ここから先はゲームでの検証となる。GPUは強力なRTX 4080を使用しているが、GPU側にボトルネックが発生しないよう画質は低く、解像度はフルHD1本に絞り、高フレームレートを維持するためにCPUがひたすら働くような状況下でのテストにした。フレームレートの計測についてはすべて「CapFrameX」での計測に統一している。
まずはオーバーウォッチ2だが、画質はプリセットの“低”、レンダースケール(RS)は100%、フレームレート制限は上限の600fpsとした。マップ“Eichenwalde”におけるbotマッチ観戦中のフレームレートを計測した。
Intel 300やCore i3-14100といった廉価CPUを使うとRTX 4080のパフォーマンスが十全に引き出せない、ということが分かるだろう。そこからCPUパワーを上げていくほどにフレームレートが伸びるが、350fps辺りで見えない壁に阻まれる。Core i5-14500やRyzen 7 7600X辺りが本稿における“天井”である。Socket AM5勢ではRyzen 5 9600Xが強いが、最低フレームレートという観点ではCore i5-14600Kが強い。Baseline Modeを選択していても平均フレームレートに大差は出ない。
一方売れ筋のCore i5-14500になると、内部設計の差からか平均フレームレートが一気に落ちる。平均フレームレート重視ならRyzen 5 7600などがよいが、カクつき防止という観点ではCore i5-14600Kが優秀だ。
とはいえ、安めCPUでの最強はRyzen 7 5800X3Dであることに疑いはない。今までRyzen 7 5800X3Dはどのベンチマークでもパッとしなかったが、ゲームとなると話は別だ。次回の50,000オーバーの上位CPU編ではこれを上回るCPUをご覧戴くことになるだろう。
黒神話:悟空
続く黒神話:悟空では、画質は“低”を選択。レイトレーシングはGPU負荷を抑えるため無効とした。また、アップスケーラーはFSR 3とするがレンダースケールは100%(つまりドット等倍)、フレーム生成はオフとした。専用のベンチマークアプリでシーン再生中のフレームレートを計測した。
オーバーウォッチ2はCPUの影響が割と強かったのと対照的に、これは画質低設定でもGPU側が強い律速になる。どんなに強いCPUを持ってきても196fps辺りで頭打ちになる。さすがのRyzen 7 5800X3Dでもこの壁は越えることができないようだ。
Core i5-14400やRyzen 5 8600GといったCPUパワー控えめ(コア設計も古め)なCPUではフレームレートが伸びなくなるため、CPUのパワーが一定以上確保できたら、残りの予算はビデオカードに投資するのがこの黒神話:悟空におけるベストプラクティスとなるだろう。
F1 24
F1 24では、画質は“超低”とし、異方性フィルタリングは16x、アンチエイリアスはTAA&FidelityFXとした。ゲーム内ベンチマーク(条件は“モナコ”+“ウエット”)再生中のフレームレートを計測した。
Intel 300やCore i3-14100、Ryzen 3 4100クラスではゲームの負荷にCPUが忙殺され、GPUに適切な仕事を割り振ることができない。CPUが上位になるほどフレームレートが伸びるが、特にこれが顕著なのがIntel勢。Core i5-14500や13500と、その一つ上のモデルとのフレームレートの差が段違いに高い。
Ryzenの場合Socket AM5では新アーキテクチャーを擁するRyzen 5 9600Xがバランスよく強く、旧世代だが3D V-Cache持ちのRyzen 7 5800X3Dとほぼ対等の結果を出している。Ryzen 5 7600〜8400F、Ryzen 9 5900X〜5600X(5800X3Dは除外)は全体にフレームレートが伸びない。Ryzen 5 8500Gのパフォーマンスがこの中では特に低いのは、Zen 4cコアの存在による部分が大きいと考えられる。
Cities Skylines II
CPU負荷がきわめて高いCities Skylines IIでは、画質“最低”をベースにアンチエイリアスにFXAAを指定。アップスケーラー系はすべて無効とした。人口60万人弱の都市を用意し、フライバイ的な視点に設定したカメラをマップの端から端まで移動した際のフレームレートを計測した。計測時にはゲーム中の時間は止めず、リアルタイムでシミュレーションが動いている状態で計測している。
Ryzen 7 7800X3Dを使ってもなお重いテスト条件であるため、どのCPUも最低フレームレートはせいぜい30fps、コア数の少ないCPUでは10fps台にまで落ちてしまう。全体にIntel勢、特にK付きモデルはフレームレートが高い一方で、Kのないモデルはフレームレートの目減りが激しい。Core i5-14400と14500を比較する場合、平均フレームレートだけで13fps程度の大きな差が発生する。これはEコアが4基よぶんにあるかないか(Eコアクラスター一つ分)の差による部分が強く影響している。
Starfield
ゲーム検証はStarfieldで終了だ。画質プリセット“低”をベースにレンダースケールはFSR 3“バランス”相当の58%とした。フレーム生成機能はオフ、異方性は1xに設定。都市ニューアトランティスのMAST地区を移動する際のフレームレートを計測した。
CPU負荷がかなり高めのゲームだけに、Intel製のK付きモデルにおけるパフォーマンスは良好だ。Zen 5世代とはいえ6コア12スレッドとコア数の控えめなRyzen 5 9600Xだと、前世代所か前々世代の8コアCPU(Ryzen 7 5700Xなど)とフレームレートにおいて大差ないという点に注目。Ryzen 7 5800X3Dも3D V-Cacheの効果がしっかりと出ているが、CPUの設計自体が古いためCore i5-14600Kなどに勝てないようだ。
HandBrake
最後に消費電力系の検証になるが、その前にHandBrakeによるH.264およびH.265のエンコード性能を見ておきたい。再生時間約3分、4K@60fpsのMP4をプリセットの「Super HQ 1080p30 Surround」や「Super HQ 2160p60 4K HEVC Surround」を利用してMP4形式で出力する。
HandBrakeはNVEncなどのGPU内蔵エンコーダーを利用することが可能だが、このテストで使用しているのはすべてCPUでエンコードする。そのため処理時間はCPUコア数と密接な関係がある。2コア4スレッドのIntel 300の処理時間が突出して長いのはこのためだ。そしてCore i5-14600KやCore i5-13600K、Ryzen 9 5900Xの処理時間が短い理由でもある。Ryzen 5 9600Xは同じ6コア12スレッドのRyzen 5 7600X、8コア16スレッドのRyzen 7 5800Xなどに比較すると劇的に処理時間が短くなっており、Zen 5アーキテクチャーの優秀さがよく表われている。
エンコード中の実消費電力
前掲のHandBrake(Super HQ 1080p30 Surround)でエンコードしている最中にどの程度の電力が消費されているかをHWBusters「Powenetics v2」を利用して計測する。システム全体の消費電力とは、ATXメインパワー+EPS12V×2に加え、ビデオカードに接続されるPCI Express x16スロットおよびPCI Express 8ピン×3(最終的に16ピンに変換)のケーブルを流れる電力を直接計測したもの。そしてCPUの消費電力とはEPS12V×2の分だけ抽出したものとなる。
ここまで、Core i5-14600KやCore i5-13600KのPerformance ModeとBaseline Modeで性能差はあっても大きくはない、という結果を積み上げてきたが、消費電力は例外だ。Core i5-14600Kの場合、Performance Modeの場合CPUの平均値だけで227Wと飛び抜けて高い一方で、Baseline Modeにするだけで50W近く減り、格下のCore i5-14500と同等になる。PerformanceとBaseline Modeの最大値は似たような値だが、どちらも最大値に到達するのはコンマ1秒程度の瞬間的な値である。
一方Ryzenの場合、平均値も最大値も総じて低めだが、アイドル時の消費電力を見るとIntel勢よりも総じて高い。特にRyzen 5 9600X〜7500Fまでのメインストリーム系のモデルにおいては、アイドル時の消費電力(CPU)がIntel勢に比べ目立って高い。CPUのアイドル時消費電力の差がそのままシステム全体のアイドル時消費電力に転嫁されているため、今のRyzenのアイドル時の消費電力が高いのは、CPUのチップレット構造に関係が深いことを示唆している(Ryzen 8000Gシリーズはチップレットではない、モノリシック構造)。
エンコード時のワットパフォーマンス
HandBrakeではエンコード終了時にエンコード効率をフレームレートという形で示してくれる。そしてSuper HQ 1080p30 Surroundにおけるエンコード中に消費された実消費電力のデータもある。そこで各CPUにおいて100Wあたりのフレームレートを計算することで、ワットパフォーマンスを計算してみた。
ワットパフォーマンスのワーストは処理時間が特に長かったIntel 300。Core i3-14100や13100は論理コア数も少なく(SMT非対応)コア数が増え消費電力も増えた分しか性能が上がっていないため、ワットパフォーマンスとしてIntel 300と大差ない結果になった。Core i5-14600KのPerformance Modeは消費電力がムダに高いためワットパフォーマンスは18fpsを割り込んでしまうが、Baseline Modeを利用することでワットパフォーマンスは大幅に改善する。これはCore i5-13600Kについても同様だ。
Ryzen勢はIntel勢に比してワットパフォーマンスは優秀だが、特にRyzen 7 5700Xの値が突出して高い。処理時間は8分強と下から数えたほうが早いポジションだが、消費電力がRyzen 5 7600Xなどよりも抑えられているため、結果的に高評価となった。ただ処理時間も加味するとZen 5世代のRyzen 5 9600Xは消費電力も比較的小さい(CPU単体で平均118W)割に処理時間も短い(Ryzen勢の中では最速)という点は見逃せない。
ゲーム中の実消費電力
最後に今回検証したゲーム系ベンチ実施中に観測されたCPUの消費電力を比較しておこう。このデータはCapFrameXでフレームレートを計測している最中にPowenetics v2を通じて消費電力データを取得、それを平均値としてまとめたものだ。
コア数の多いCore i5-14600Kや13600K、Ryzen 9 5900Xの消費電力が多いのは当然だ。しかしCore i5-14600Kや13600Kでは、Performance ModeのほうがBaseline Modeよりも消費電力が大きいという結果に注目したい。
HandBrake実行中の消費電力はBaseline Modeのほうが小さいのに、なぜゲームでは一様にBaseline Modeのほうが増えているのか? これを完璧に説明できるだけの材料は得られていないのだが、Baseline ModeにするとCPUのブーストと電力制限の綱引きが激し過ぎ、結果的にロスが大きくなった、と推測している。そしてこれは次回の記事のネタバレだが、同じ傾向が上位のK付きモデルでも再現できているので、このデータには一定の信頼性はあるようだ。
次回は実売価格50,000円より上のモデルで比較
以上で今回の検証は終了となる。実売50,000円より下の21モデルと絞った割には数値多めの老眼には見づらい記事になってしまったが、次回は50,000円より上の上位CPU26モデルでの比較となる。