CPU定点観測所

現行47製品のCPU性能を一斉テスト!!オーバー5万円勢の実力は?

【新装第2回/通算第8回】帰ってきた「CPU定点観測所」最新大検証!後編 text by “KTU”加藤 勝明

 本稿は2023年末で休刊となった「DOS/V POWER REPORT」で展開していた不定期連載「CPU定点観測所」のリブートである。Intelの第13・第14世代Coreプロセッサーを筆頭にAMDはRyzen 7000〜9000シリーズ、Socket AM4世代のRyzenやRyzen Threadripper 7000Xシリーズ(以降Ryzenは略)の主要なモデルを横並びで比較することで、今のCPUの立ち位置を俯瞰しようというものだ。

 すでに実売価格50,000円より下のゾーン(若干の例外あり)に属するCPU比較は前編としてお届けしたので、今回は50,000円より上の価格帯で流通しているCPUの比較を試みる。以下の表は今回検証のために用意した47モデルの型番と、10月半ばにおけるおおよその実売価格(主要ショップにおける新品価格。ただし特価品を除く)となる。前回は21モデルだったのに対し今回は25モデル(うち2モデルはThreadripper)と、案外うまい感じに分割できたのではないだろうか。

リブート第1回目用に準備したCPU。本稿では比較するのは色の付いた製品となる。現行モデルなのに漏れているもの(Ryzen 9 5900 XTなど)は、予算や時間の制約とご理解いただきたい


検証環境

 今回のテスト環境は前回とまったく同じもの、検証の時期についても前回と同じ(9月中旬〜10月初旬まで)。それぞれの検証環境においては、極力環境を統一することを目指したがThreadripper環境だけはメモリch数や仕様が特殊(4ch&Registered DDR5)であることから、ここだけメモリ容量が異なっている。各環境におけるメモリクロックは、CPUがサポートする定格最大クロックに合わせている(例:Ryzen 7 7700XならDDR5-5200、Ryzen 7 9700XならDDR5-5600)。

 OSはWindows 11の23H2としたが、Ryzenの分岐予測改善のコードが含まれるBuild 22631.4112を選択。さらに、メモリ整合性やSecure Boot、Resizable BAR、Windows HD Color(HDR)はすべて有効とした。またディスプレイのリフレッシュレートは144Hz(GIGABYTE「M27U」をDisplayPort接続で使用)としている。

【検証環境】
検証環境:Intel 第13/14世代 Coreプロセッサー(LGA 1700)
マザーボードASRock Z790 Nova WiFi
(Intel Z790、BIOS 6.02)
メモリMicron CP2K16G56C46U5
(16GB×2、DDR5-4800/DDR5-5600)
検証環境:Ryzen 7000/8000/9000シリーズ(Socket AM5)
マザーボードASUS ROG STRIX X670E-F GAMING WIFI
(AMD X670E、BIOS 2401)
メモリMicron CP2K16G56C46U5
(16GB×2、DDR5-5200/DDR5-5600)
検証環境:Ryzen 4000/5000シリーズ(Socket AM4)
マザーボードASRock X570 Taichi Razer Edition
(AMD X570、BIOS 5.63)
メモリG.Skill F4-3200C16D-32GTZRX
(16GB×2、DDR4-3200)
検証環境:Ryzen Threadripper 7000Xシリーズ(Socket SP6)
マザーボードASUS Pro WS TRX50-SAGE WiFi
(AMD TRX50、BIOS 0702)
メモリG.Skill F4-3200C16D-32GTZRX
(16GB×2、DDR4-3200)
共通
ストレージMicron CT2000T700SSD3
(2TB、NVMe M.2、PCI Express Gen5)
CPUクーラーNZXT Kraken Elite 360
(簡易水冷、360mmラジエーター)
電源ユニットSuper Flower LEADEX PLATINUM SE 1000W-BK
(1000W、80PLUS Platinum)
OSMicrosoft Windows 11 Pro(23H2)
Core i9 14900KとRyzen 9 9900X。今回はハイエンドCPUの検証を中心に紹介する

 各マザーのBIOSは検証開始時点(9月後半)における最新版を導入している。IntelのLGA1700環境は不具合問題の完全解決にいたる一歩手前のBIOS(0x129)、AMDのSocket AM5環境はRyzen 9000シリーズのコア間レイテンシーが改善されたAGESA 1.2.0.2準拠のものとしている。

 また、Intel製CPUのKなしモデルに関しては、電力制限はBIOSのデフォルト設定のままだが、K付きモデルにおいては手動で「Performance Mode」と「Baseline Mode」を指定した。以降のグラフ中では「(P)」がPerformance Mode、「(B)」がBaseline Modeの結果であることを示す。また、このPerformance/Baseline Modeにおける具体的なPL1/PL2/ICCmaxなどの設定はすべて検証に使用したマザーの設定にもとづいている。

Z790 Nova WiFiのBIOS設定画面。CPUがK付きの場合のみ、Performance Power Delivery Profile相当を示すPerformance Modeと、Baseline Profile相当を示すBaseline Modeが表示される


Cinebench 2024

 定番Cinebench 2024は、10分余熱した後にスコアを算出するデフォルトのモードを利用する。本稿で取り扱う50,000円オーバーの取り扱うCPUの中ではThreadripper 7980Xが64コア128スレッドで最多コア数を誇るが、Threadripperはシングルスレッド性能が弱いことが分かっている。日常的な処理やゲームで効きやすいシングルスレッド性能の出方にも注目したいところだ。

Cinebench 2024の検証結果

 筆者の手元にあるCore i9-14900KSでは、Baseline Modeで動作したもののPerformance Modeではシステムが非常に不安定で完走すらしなかったため、値なしとした(以降同様)。どうやら検証に使用した個体の問題なのか、それとも回路の劣化によって不安定になったのかまでは不明だ。

 まずIntel勢で注目したいのは、Core i9-14900Kと14900無印のスコアの出方だ。Performance Modeにおけるマルチスレッド性能は辛うじてCore i9-14900Kが14900無印を上回ったが、Baseline Modeでは14900無印>14900Kと逆転を許してしまう。検証環境であるZ790 Nova WiFiのBIOSでは、無印モデルではPL1/PL2が原則的に無制限(4096W)仕様になるため、PL1/PL2に強い制限をかけるBaseline Modeよりもマルチスレッド性能が伸びやすい。しかしシングルスレッド性能はCore i9-14900Kのほうが高いので、K付きの尊厳は辛うじて保たれている。

 Intelは不具合問題の緩和策として電力制限をかける設定(Performance Power Delivery ProfileやIntel Baseline Profile)をアナウンスしたが、これらの設定によってK付きモデルは以前の“電力制限なしで動かし誰でも高性能が得られる”から“電力設定に注意を払うことのできるユーザーでないと性能が十全に出せない”になった。マザーの電力まわりのデフォルト設定がどうなっているのかにも依存するところが大きい話だが、Intelは自らの施策によって第13・14世代のKつきモデルの価値を損なったしまったと言えるだろう。

 一方Ryzen勢(Threadripperは除く)、特にSocket AM5世代についてはRyzen 9000シリーズのスコアが全体に高い。マルチスレッド性能おいては7000シリーズと大差ない(伸び幅は5%前後)が、シングルスレッド性能が10%以上伸びており、改めてZen 5アーキテクチャーの優位性が確認できる。マルチスレッド性能の伸び幅が狭いのは、Ryzen 9000シリーズのTDPが前世代よりも下がっている(9950Xのみ据え置き)ためだ。


Blender Benchmark

 Blender Benchmarkでは、バージョン“4.2.0”を指定。3種類のシーン(monster/junkshop/classroom)をCPUでレンダリングしたときのスコアを比較した。

Blender Benchmarkの検証結果

 全体的なスコアの出方はCinebenchの結果と傾向は似ている。メインストリーム向けCPUでのスコアトップはRyzen 9 9950Xである。IntelのCore i9-14900Kや13900KSのスコアは不具合問題への対策で電力制限がかかっているために、スコアの伸びは今一つ。とりわけCore i9-13900KSのスコアが13900Kよりも低いのが興味深いが、電力制限が課せられた影響で本来のパフォーマンスが出せなくなっていると思われる(が、テストに使用したCPUの劣化も否定できないのは悲しいところ)。


UL Procyon - Office Productivity Benchmark

 次はUL Procyonでの検証だ。Office 365(Word/Excel/Powerpoint/Outlook)を実際に動かし、さまざまな操作における時間をスコア化する“Office Productivity Benchmark”で検証する。グラフは総合スコアと各アプリ別のテストグループ別スコアに分けている。

UL Procyon:Office Productivity Benchmarkの検証結果
UL Procyon:Office Productivity Benchmarkのテストグループ別スコア

 コア数よりもシングルスレッド性能がスコアに影響しやすいテストであるため、コア数が多くてもシングルスレッド性能が今一つなThreadripperでは高スコアは望めない。コア数のより少ないモデル(ここでは7970X)のほうがスコアが伸びる傾向すらある。総合スコアではシングルスレッド性能の高いRyzen 9000シリーズや第14世代のCoreプロセッサーがよい結果を出しているが、Intel対AMDという比較では、どちらかに決定的な優勢があるとは言い難い。

 しかし各CPUの世代やシリーズ感で比較をすると、より後発のモデルやTDPの高いモデルのほうがスコアを稼いでいることが分かる。特に顕著なのがRyzen 7000シリーズと7000X3Dシリーズの差で、どちらも同じZen 4でコア数は特に増えても減ってもいないのに7800X3Dシリーズはスコアが控えめ。特にテストグループ別スコアで分かりやすい差が付いている。3D-V Cache搭載モデルではTDPやブーストクロックが若干抑えられているためである、それが各テストのスコアにしっかり反映されている形だ。


LM Studio

 ここではLM Studioを利用し、CPUを利用したLLMの処理性能を比較する。学習モデルは「Meta Llama 3.1 8B Instruct」を選択しているが、GPU Offloadを0にすることでCPUコアのみを使うよう設定している。以下のようなプロンプトを用い、1秒あたりのトークン生成量を比較した。どのCPUを使ってもこの問題に対し正確な結論を導き出すことはできなかったため、回答の正確さは評価していない。シード値も固定にしているが、毎回生成される文章の量が違うため、3回の平均値を採用した。

ある男性3人がホテルに泊まることになった。宿泊料は1人10ドル。男性客たちは合計30ドルを受付係に払った。しかし実際の宿泊料は3人で25ドルであったため、5ドルを返金しなければならないと気が付いた。しかし受付係は「5ドルは3人で割り切れない」と考え、2ドルを自分のポケットにしまい残りの3ドルを客たちに返した。ここで男性客たちは1人9ドルで合計27ドル支払ったことになる。そこに受付係がポケットにしまった2ドルを足すと29ドルになり、最初に支払った30ドルにはならない。残りの1ドルはどこに消えたのか? 解説してください。

LM Studioで学習モデルを読み込む際にCPU Offloadを0にするとCPUコアで推論する
LM Studioでのトークンの生成スピード(3回実施の平均値)

 前回のアンダー50,000円CPU比較では、CPUのスペックと生成時間が連動している様子は強く感じられなかったが、今回は様子が異なる。Threadripperが圧倒的なコア数やメモリ帯域を背景にトークン生成スピードではトップに立った。しかし大多数のメインストリームCPUではトークン生成スピードに決定的な違いがあるとは言い難い。IntelもAMDも、上位陣は6秒あたりで頭打ちとなった。

 今回参加したCPUの中では、Ryzen 9 5950XとRyzen 7 9700Xがトークン生成スピードにおいて一歩下がった位置にある。前者はアーキテクチャーが古くメモリ帯域も細いという問題から、後者はTDP 65W仕様であるという制約にあると思われる。


UL Procyon - Photo Editing Benchmark

 続いてはUL Procyon“Photo Editing Benchmark”で検証する。Ryzen 9000シリーズ(Zen 5)とやたら相性のよいImage Retouching(Photoshop)と、コア数の多いCUが有利なBatch Processingテスト(Lightroom Classic)で構成されている。後者はEコアが多いIntel製CPUが強かったが、今回は電力制限(Performance ModeとBaseline Mode)がかけられているため、コア数の優位性が失われてしまう可能性がある。

UL Procyon:Photo Editing Benchmarkの計測結果。YouTubeのPADチャンネルで配信したときのデータ(Core i9-13900)のデータに不備があったため、再計測を行い訂正してある
UL Procyon:Photo Editing Benchmarkのテストグループ別スコア

 まず総合スコアで見るとスコア上位陣は五十歩百歩で特に差が付いていないように見える。IntelのK付きモデルもPerformance ModeとBaseline Modeで差が付いていないものがあったり、なかにはBaseline ModeのほうがPerformance Modeを逆転しているもの(Core i7-14700K)もあるが、これはブレの範囲内と言える。

 ただテストグループ別スコアを見るとIntelとAMDの特性がハッキリと見えてくる。前述のとおりRyzen 9000シリーズはImage Retouchingテストで高スコアを稼いでいる一方、Batch Processingテストでは今一つ伸びきらない。逆にIntelの第14世代はBatch Processingテストでライバルに差を付けているものの、Image Retouchingテストが伸びない。よい塩梅でスコアが伸びるテストと伸びないテスト構成になっているため、総合スコアでは一見すると差がないように見えるのだ。PhotoshopとLightroom Classic、どちらのアプリを多用するかでCPUを選ぶ、というのもアリだろう。


オーバーウォッチ2

 ではゲーム検証に入る。前回アンダー50,000円CPU比較では、コア数の少ないCPUだとRTX 4080のパワーがまったく引き出せなくなることが分かったが、今回はコア数もクロックも高いCPUが揃っているので、RTX 4080のパワーを存分に引き出すことができるだろう。今回の検証においてもGPU側にボトルネックが発生しないよう画質は低く、解像度はフルHD1本に絞り、高フレームレートを維持するためにCPUがひたすら働くような状況下でのテストにした。フレームレートの計測についてはすべて「CapFrameX」での計測に統一している。

 まずオーバーウォッチ 2では、画質はプリセットの“低”、レンダースケール(RS)は100%、フレームレート制限は上限の600fpsとした。マップ“Eichenwalde”におけるbotマッチ観戦中のフレームレートを計測した。

オーバーウォッチ2:1,920×1,080ドット時のフレームレート

 このテストの性質上毎回展開が異なるため、フレームレートが出るときと出ないときの差が激しく、試行に試行を重ねて中庸な結果(平均フレームレートで中央値が出たサンプル)を採用している。

 前回のアンダー50,000円CPU比較の際は360fpsあたりで頭打ちになっていたが、今回はそれを突破。Core i9-14900KやRyzen 9 9950Xといったハイエンドであれば400fpsを大きく超えた。Intel製のK付きモデルにおいてはBaseline ModeにするとPerformance Modeよりもフレームレートが下がるものの、下げ幅はせいぜい5fps程度と小幅にとどまる。Cinebench 2024などではBaseline ModeにするとKなしモデルに負けてしまう理不尽な結果が得られていたが、ゲームの場合それほどCPU負荷が高くないので、Baseline Modeを選択してもCPUの序列は保たれる。

 だがいくらメインストリームCPUが頑張ったところで、ゲームに特化したAMDのRyzen 7000X3Dシリーズのパワーには負ける。ここまでの検証でX3Dシリーズはコア数なりの、悪く言えば凡庸な結果しか出せていなかったがゲームとなれば話は別。Ryzen 7 9700Xはコア数が倍あるRyzen 9 7950X3Dと並ぶどころか最低フレームレートでアドバンテージを発揮している。


黒神話:悟空

 黒神話:悟空の専用ベンチマークを利用して検証する。画質は“低”、レイトレーシングは検証の趣旨から無効とした。また、アップスケーラーはFSR 3、レンダースケールは100%(つまりドット等倍)、フレーム生成はオフとした。ベンチシーン再生中のフレームレートを計測した。

黒神話:悟空:1,920×1,080ドット時のフレームレート

 前回のデータと比較すれば分かるが、このベンチにおけるフレームレートはCPUがある程度強力ならCPUの性能はほとんど関係しない。Core i5-14600KやRyzen 5 9600Xが出した平均フレームレート(196fps前後)からほとんど変わっていない。ほかのゲームで猛威を奮うRyzen 7000X3Dシリーズでも、この検証においてはあまり力を発揮できないようだ。つまりこの黒神話:悟空検証ではGPU性能が不足しており、今後より強力なGPUが出ない限り、上位CPUの差は観測できない可能性が高い。

 ちなみに今回の検証において、Threadripperの2モデルとRyzen 7 8700Gのフレームレートが伸びていないが、どれもアーキテクチャーや設計的にシングルスレッド性能が弱く、それが原因になっていると思われる。


F1 24

 F1 24では画質は“超低”、異方性フィルタリングは16x、アンチエイリアスはTAA&FidelityFXとした。ゲーム内ベンチマーク(条件は“モナコ”+“ウエット”)再生中のフレームレートを計測した。

F1 24:1,920×1,080ドット時のフレームレート

 全体にコア数がフレームレートに与えるインパクトが大きく、特にRyzen 7000シリーズより下の結果においてコア数の影響が分かりやすく反映されている。Intel勢はグラフがゴチャゴチャして少々見づらいが、コア数が同じモデルであればだいたいフレームレートも同じような感じになる。ちょっと特殊なのはRyzen 9000シリーズとRyzen 7000X3Dシリーズの3モデルで、Ryzen 9 9900XとRyzen 7 7900X3Dの2モデルにおいてコア数の少ないRyzen 7 9700Xや7800X3Dに負けているが、これはこれ以降で紹介するゲームでも観測できるパターンだ。


Mount & Blade: Bannerlord II

 Mount & Blade: Bannerlord IIでは画質は“Low”、アンチエイリアスはFXAA、さらにCPU負荷を高めるためにBattle Sizeを最大(1000)、アニメーション精度も最大に設定。ゲーム内ベンチマーク再生中のフレームレートを計測した。

Mount & Blade II: Bannerlord:1,920×1,080ドット時のフレームレート

 3D-V Cacheを搭載しないCPUの中ではCore i9-14900Kが強い一方、Ryzen 9 9950Xは今一つ。CPU負荷が高いテストだが、Ryzen 9のような構造を採用したCPUでは何かしらのボトルネックが発生していることが分かる。

 特に分かりやすいのがRyzen 9 7950X3Dや7900X3DよりもRyzen 7 7800X3Dのほうがフレームレートが伸びるという点。Ryzen 9 7950X3Dや7900X3Dでは3D-V Cacheのないコア側も動員して処理するため、3D V-Cacheの搭載しているコアとの足並みが揃わない結果フレームレートが伸び悩むが、Ryzen 7 7800X3Dに関しては3D-V Cacheの載っているコア“しか”ないため、上位モデルのようなデメリットは発生しない。

 Ryzen 9000シリーズの3D-V Cache搭載モデルでは2基のCCD両方に3D-V Cacheを搭載するという“噂”があるが(以前AMDは性能があまり出ないからとしてデュアル3D-V Cacheは否定していたのだが……)、もしこれが実現したらRyzen 7 7800X3Dを上回る性能が期待できる。


Cities Skylines II

 Mount & Blade: Bannerlord II以上にCPU負荷が高いCities Skylines IIでも検証しよう。画質“最低”をベースにアンチエイリアスにFXAAを指定。アップスケーラーはすべて無効とした。人口60万人弱の都市を用意し、フライバイ的な視点に設定したカメラをマップの端から端まで移動した際のフレームレートを計測した。計測時にはゲーム中の時間は止めず、リアルタイムでシミュレーションが動いている状態で計測している。

Cities Skylines II: Bannerlord:1,920×1,080ドット時のフレームレート

 Core i9-14900K〜Core i7-14700K、あるいはRyzen 9 7950X〜Ryzen 7 7700のデータを見ると、Cities Skylines IIではCPUコア数が多いほうが有利であることが分かる。しかし今回のテストで最多のコア数を誇るThreadripper 7980Xは不発どころか、今回用意したCPUの中でもっとも低いフレームレートしか出せていない。CPUの並列度とシングルスレッド性能、この両方が高くないとCities Skylines IIを快適に遊べるようにはならない。現状のCPUではまだまだCities Skylines IIを軽々動かせるにはいたらないようだ。

 最適化不足と片付けてしまうのは簡単だが、筆者としては一般的なPCゲームとはCPUの使われ方が根本的に違う説を推したい。


Starfield

 最後に検証するStarfieldでは画質プリセット“低”、レンダースケールはFSR 3“バランス”相当の58%、フレーム生成機能はオフ、異方性は1xに設定。都市ニューアトランティスのMAST地区を移動する際のフレームレートを計測した。

Starfield:1,920×1,080ドット時のフレームレート

 これもCPU負荷が高いゲームなのだが、Intel製CPUではK付きモデルのPerformance ModeとBaseline Modeでフレームレートの出方が目に見えて変わることと、K付きのBaseline Modeよりも、同格のKなしモデル(例:Core i9-14900Kに対するCore i9-14900など)のほうがフレームレートが出るなど、Cinebench 2024のような傾向が見られる。

 そしてRyzen 9 7900X3Dがコア数のより少ないRyzen 7 7800X3Dに負けるなど、Ryzenの独特な内部構造がフレームレートに大きな影響をおよぼすなど、CPUの使われ方が独特なのがStarfieldの特徴だ。


HandBrake

 ここではHandBrakeによるH.264およびH.265のエンコード性能を検証する。再生時間約3分、4K@60fpsのMP4をプリセットの「Super HQ 1080p30 Surround」や「Super HQ 2160p60 4K HEVC Surround」を利用してMP4形式で出力する。

HandBrake:「Super HQ 1080p30 Surround」を利用したエンコード時間
HandBrake:「Super HQ 2160p60 4K HEVC Surround」を利用したエンコード時間

 CPUのコア数が多いほど有利になりやすい検証だが、常時全コアをフル回転させるわけではなく、負荷のかかり方にはムラがある。Threadripperの2モデルはコアが多い分処理時間も短いが、かと言って3分の動画を1分程度でエンコードできるわけではない。コア数は重要だが、Intel製CPUでは電力制限もなかり重要であり、Baseline Modeで運用する場合は同格のKなしモデルよりも遅くなるのだ。


エンコード中の実消費電力

 前掲のHandBrake(Super HQ 1080p30 Surround)でエンコード処理中にの消費電力をHWBusters「Powenetics v2」を利用して計測する。このデバイスは電源ユニットとマザーの間に接続された各種ケーブルおよびPCI Express x16スロットを流れる電力を直接計測するものである。システム全体の消費電力とはATXメインパワー+EPS12V×2、ビデオカードに接続されるPCI Express x16スロットおよびPCI Express 8ピン×3(最終的に16ピンに変換)のケーブルを流れる電力の合計値であり、CPUの消費電力とはEPS12V×2の分だけ抽出したものとなる。ちなみにAIO水冷に使用されるSATA電源ケーブルで消費された電力はカウントされていない。

システム全体の消費電力。99ileとは99パーセンタイル点を示す
CPUの消費電力

 コア数で最多を誇るThreadripperの2モデルよりも、Core i9-13900KS(P)の消費電力が飛び抜けている点に注目。最大で576Wという値に度肝を抜かれるが99パーセンタイル点がかなり平均値(457W)に近いため、576Wに到達するのはほんの一瞬(0.3秒程度)にとどまる。今回Core i9-14900KSが不調でPerformance Modeで動かすことはできなかったが、もしPerformance Modeで動いていたらこれ以上の値になったことだろう。とはいえIntelのK付きモデルはBaseline Modeにするととたんに消費電力がおとなしくなり、Core i9-14900KS〜Core i7-14700K、Core i9-13900KS〜Core i7-13700Kまでは平均180Wあたりに収まるようになる。

 一方RyzenはIntel勢に比べ消費電力の増え方がずっとマイルドだが、アイドル時の消費電力がIntel勢よりもかなり大きいことが再確認できる。製品にもよるがCPU単体の消費電力はIntel製だと20W前半で済んでいるが、Ryzenだと多いもので50Wを越えている。特にCCDが2基あるRyzen 9でアイドル時の消費電力が大きく、1CCD構成のRyzen 7では若干下がっていることから、Ryzenのアイドル時の消費電力が高いのはチップレット構造の採用によるものである、ということが読み取れる。

 そして2CCD構成のRyzen 9 5950Xはアイドル時の消費電力がさほど高くないので、Socket AM5でDDR5対応になったこともアイドル時の消費電力を押し上げていると考えられる。さらにRyzen 9000シリーズのほうが7000シリーズよりもアイドル時の消費電力が下がっているなど、Ryzenの世代・仕様による違いが読み取れるのはおもしろい。


エンコード時のワットパフォーマンス

 先のHandBrake検証では処理時間を比較したが、ここではフレームレートを軸にワットパフォーマンスを計測する。ソース動画のフレーム数は常に一定なので、それを処理時間で割ればフレームレートが出てくる(これはHandBrake側で出力してくれる)。そして先に計測したCPU単体の消費電力を利用して、CPUで消費された100Wあたりのフレームレートを計算。これをワットパフォーマンスとして比較した。

HandBrakeエンコードにおける100Wあたりのフレームレート(Super HQ 1080p30 Surround)

 まずIntel製CPUではBaseline Modeにするとワットパフォーマンスが激増するが、これは消費電力が抑えられるためだ。その分処理時間が増えるので痛しかゆしではあるが、100Wあたりの効率で考えれば十分リーズナブルと言える。

 一方RyzenはIntelを圧倒するワットパフォーマンスを発揮している。特に優秀なのがRyzen 9 7900無印と7900X3Dの2モデル。Ryzen 9 7900は処理時間では7900Xに負けるものの、TDPが65Wと低めに設定されているおかげで全体に消費電力が抑えられており、結果として最高のワットパフォーマンスという結果に。Ryzen 9 7900X3DにおいてもTDPが7900Xより低い設定になっているが故の結果だ。


ゲーム中の実消費電力

 最後の検証は、前掲のゲーム系ベンチ実施中におけるCPUの消費電力比較だ。消費電力のデータはCPU内の情報をAPIを通じてソフト的に得ることができるが、ハイエンドCPUでは実際に消費された電力との差異が大きく(50W程度の差が出ることもある)なるため、前述のPowenetics v2を通じて消費電力を取得している。これはCapFrameXがフレームレート計測と同時に消費電力データを取得しているので、人間の操作ミスが介在しにくい。

ゲーム系ベンチ中におけるCPUの消費電力(平均値)

 エンコード時はCPUだけで平均460W近く消費していたCore i9-13900K(P)だが、実際のゲーム中はそこまで高くない。ただ消費電力はゲームにより異なり、オーバーウォッチ 2なら158WだがCPU負荷の高いMount & Blade: Bannerlord IIやStarfieldでは300〜400Wも消費する。

 その点Ryzenの消費電力はIntel勢に比べるとだいぶおとなしい(Threadripperは例外)。特にRyzen 9 7950X3Dを筆頭とした3D-V Cache搭載Ryzenの消費電力が低いが、これは3D V-Cacheによりメインメモリへのアクセス頻度が下がり、結果としてCPUの消費電力が下がることによるものだ。Intel製CPUも3D-V Cacheに相当する超大容量3次キャッシュを搭載すれば消費電力が改善する可能性はあるが、まずはプロセスルールの改善が必要だろう。


次回は総まとめ。47モデル全体から俯瞰する

 以上で今回の検証は終了となる。Intel製CPUのPerformance ModeとBaseline Modeによって、性能の上下関係が逆転するなど、なかなか興味深い事実が判明した検証となった。最後に前回と今回のデータを合体させ、47CPUを一覧できるようなまとめを用意している。さらにCore Ultra 200SシリーズおよびRyzen 7 9800X3Dのデータも追加予定だが、それはまた後日紹介するとしよう。

今回のレビューを動画で総まとめ!【YouTube】

【【Intel vs. AMD 2024秋】怒濤のCPU47製品一斉性能比較結果を発表します。】