最新自作計画

エアフロー重視設計と高いカスタマイズ性。CORSAIRの新時代スタンダード「FRAME 4000D」を試す

【新装第7回/通算第85回】従来モデルを踏襲しつつ、最新デザインにアップデート text by 竹内 亮介

 CORSAIRの「FRAME 4000D」シリーズは、前面や天板、右側面や電源ユニットスペースなどありとあらゆる場所にメッシュ構造を採用して通気性を高め、エアフローを強化したPCケースだ。また背面コネクター対応のマザーボードに対応したり、組み込むパーツに合わせて内部構造をある程度変更できるようにしたりと、先進的な取り組みにも積極的である。

 今回はこのFRAME 4000Dシリーズの中でも、ベースモデルとなる「FRAME 4000D Modular Mid-Tower PC Case」(以下FRAME 4000D)の機能性を検証するとともに、比較的高性能なシステムを組み込んだ作例とその温度状況などを紹介していこう。

36cmクラスラジエーターの設置場所を3カ所から選択可能

 FRAME 4000Dシリーズでは、搭載するケースファンが異なる3モデルを用意している。前面に3基の12cm角ファンを備える「FRAME 4000D RS Modular Mid-Tower PC Case」(実売価格:17,000円前後)、同じく前面にアドレサブルRGB対応の12cm角ファンを3基備える「FRAME 4000D RS ARGB Modular Mid-Tower PC Case」(同:18,000円前後)、そして今回紹介するケースファンを搭載しない「FRAME 4000D」(同:15,000円前後)という構成だ。組み込みたいケースファンは購入済みと言うユーザー向けのモデルとなる。

今回はFRAME 4000Dの付属ファンなしモデルを使用
【FRAME 4000Dの基本スペック】
フォームファクタExtendedATX
前面USBType-C
ベイ3.5インチ×2
または2.5インチ×4
標準搭載ファンなし
搭載可能ファン20/14cm角×2または12cm角×3(前面)、14/12cm角×1(背面)、14cm角×2または12cm角×3(天板)、14cm角×2または12cm角×3(右側面)、12cm角×2(電源カバー上)
搭載可能な
ビデオカードの長さ
43cm
搭載可能な
CPUクーラーの高さ
17cm
搭載可能な
ラジエーターの長さ
36cmクラス(前面、天板、右側面)
本体サイズ(W×D×H)239×490×486mm
重量約7.8kg
カラーブラック、ホワイト

 前面のパネルは、一般的なメッシュパネルのように平面的なものではなく、立体的な構造を持つベンチレーション、和風に例えるなら“粗めのおろし金”のような立体感のあるデザインを採用している。このパネルとその奥にある防塵フィルターは、手前から簡単に着脱できる構造なのでホコリを清掃しやすい。

 電源ボタンやフロントポートは、最近のミドルタワーケースではめずらしく前面下部に装備する。机の上に置き、内部を見て楽しむことも想定したレイアウトだ。

目の粗いおろし金のようなスタイルの前面パネル
前面パネルとその裏の防塵フィルターは、簡単に着脱できる
フロントポートは前面下部に装備する

 FRAME 4000Dは従来モデルより若干大きくなり、奥行きは3.7cmアップの49cm、高さは2cmアップの48.6cmとなったが、それでも最近のミドルタワーとしては一般的なサイズ感。また、電源ユニット組み込みエリアなどを右側面に逃がすデュアルチャンバー構造でもないが、にもかかわらず大型ラジエーターも各所に搭載でき、前面と天板、そして内部フレームを換装すれば右側面と、計3ポジションが選べる。もちろん、ラジエーターだけでなく3連ファンの取り付けも可能だ。

天板と前面に36cmクラスラジエーターを装備可能
パッケージ付属するファンマウンターは、右側面のプレートと交換すると、ファンやラジエーターの取り付けが可能になる

 ケースファンの対応も充実しており、同じく前面や天板のほか、同じく内部フレームを換装することで右側面に12cm角ファンを3基まで搭載可能だ。また前面と天板には2基までの14cm角ファンを組み込めるほか、前面には超大型20cm角ファンを2基取り付けられる。このサイズ感のPCケースとしては、信じられないほどの拡張性であり、通気性の高い筐体デザインとよくマッチした設計だ。

 こうした多様なサイズのファンに対応するため、ファンを固定するネジ穴のレールを移動して調整する「InfiniRail」という機構を搭載する。同じように大型ファンを搭載できるようにするため、フレームにそれぞれのサイズに対応するネジ穴をあけて対応するモデルもあるが、フレームによってエアフローが阻害されることも多い。InfiniRailはフレームに遮られることによる風量の損失を避け、大口径ファンのポテンシャルを最大限に活かすための仕組だろう。

ファンを取り付けるレールが可動式な「InfiniRail」機構を搭載。レールを固定するネジが前面側は上部と下部に計4か所、天板側は前方と後方に2か所にあり、これを緩めて幅を調整することで、さまざまなサイズのファンの取り付けを可能としている
もっとも幅を狭くした状態(左)と、広げた状態(右)。前面および天板ともに12cmファンなら3台、14cmファンなら2台の取り付けが可能

 電源ユニットカバーは、これもまためずらしく全面的にメッシュ構造になっている。カバー上部には2基までの12cm角ファンを取り付けるためのファンマウンターを装備しており、ビデオカードに風を当ててしっかり冷却できる。メッシュ構造になっている左側板下部は、付属の目隠しパネルでふさぐことも可能など、好みに合わせてデザインを変更する工夫もある。

電源ユニットカバーは上部と左側面がメッシュ構造になっている
左側面下部を目隠しして内部を見えなくするカバーも同梱される

 ギミック的にもかなり凝っている。ビデオカードを下から支える支柱は、左側面から固定位置を変更することが可能。つまり左側板を外すだけで、ビデオカードの挿し換えと支柱の調整が行える。マザーボードベースの各所には、裏面ポート搭載マザーボードに対応する穴があいており、そうした最新パーツも問題なく利用できる。

重量級のビデオカードを支える支柱を装備
マザーボードベースは、裏面ポート対応マザーボードでも利用できる構造だ

 電源ユニットカバーの天板には、ビデオカードを垂直方向に設置するためのネジ穴も装備している。またビデオカードの垂直設置に合わせて拡張スロットの取り付け方向を変更する機能もあり、これでもかと言うほどにカスタマイズのギミックを詰め込んでいる印象だ。これほど作り込んだ設計のPCケースが1万円台半ばというのは、正直ちょっと驚きだ。

ビデオカードを垂直設置するために、拡張スロット部分を90度回転させる機能もある
フレームのみの状態までバラすことが可能(写真では外し忘れているが、電源ユニットカバーの側面カバーも外せる)。サイズ的にも余裕があるので、PCケース内での作業はかなり快適な部類と言ってよいだろう
パーツの組み換えで右側面方向にファンやラジエーターの取り付けも可能なため、右側面パネルの前方はメッシュ構造になっている

内部はスッキリ、iCUE LINK対応パーツならケーブルも最小限

 ここからは実際にパーツを組み込み、基本性能や温度の状況などを検証していこう。組み込んだパーツは下記の表のとおりだ。

【今回の構成のまとめ】
カテゴリー製品名
CPUAMD Ryzen 9 9900X(12コア24スレッド)
マザーボードASRock X870E Nova WiFi(AMD X870E)
メモリCORSAIR Vengeance RGB DDR5
CMH32GX5M2B6000Z30K(PC5-48000 DDR5 SDRAM 16GB×2)
ビデオカードZOTAC GAMING GeForce RTX 5080 SOLID OC
(NVIDIA GeForce RTX 5080)
SSDCORSAIR MP600 ELITE(1TB、PCI Express 4.0)
PCケースCORSAIR FRAME 4000D
Modular Mid-Tower PC Case(ExtendedATX)
電源ユニットCORSAIR RM850x SHIFT
(850W、80PLUS GOLD)
CPUクーラーCORSAIR iCUE LINK TITAN 360 RX RGB
AIO Liquid CPU Cooler(水冷式、36cmクラス)
ケースファンCORSAIR iCUE LINK RX120
RGB 120mm PWM Fan(12cm角)×6

 CPUはAMDのRyzen 9 9900X、マザーボードはAMD X870Eをチップセットに採用するASRockの「X870E Nova WiFi」だ。22+1フェーズという強力な電源回路を装備しており、後述する最新のビデオカードと合わせ、安心して利用できる。

 ビデオカードは最新鋭のGPUである「GeForce RTX 5080」を搭載するZOTACの「GAMING GeForce RTX 5080 SOLID OC」。かなり大型のGPUクーラーを備える重量級のビデオカードであり、性能の高さとともに発熱をきちんと処理できるかどうかも見どころだ。

マザーボードはASRockの「X870E Nova WiFi」。ASRockのX870E/X870マザーとしてはアッパーミドルレンジの製品で、ブラック基調にラインアートが美しい。強力な電源回路に計5本のM.2スロットなどのパワフルな基本性能、ツールレス着脱可能なM.2ヒートシンクやビデオカードの取り外しが楽なPCIe EZ Releaseなどのアシスト機能も便利
CPUは準ハイエンドのRyzen 9 9900Xをチョイス。Ryzen 7 9800X3Dが人気だが入手困難な状況にあり、単純なコア数と入手性や価格を考えるとこれもよい選択肢
ビデオカードは最新のZOTAC GAMING GeForce RTX 5080 SOLID OCが試用できた。ハイエンドクラスのパーツを組み合わせた状態でのFRAME 4000Dの冷却能力に期待したい

 このほかメモリやSSD、電源ユニット、簡易水冷型CPUクーラー、ケースファンはCORSAIR製の製品を組み合わせた。簡易水冷型CPUクーラーの「iCUE LINK TITAN 360 RX RGB AIO Liquid CPU Cooler」とケースファンの「iCUE LINK RX120 RGB 120mm PWM Fan Triple Starter Kit」は、電源とLEDケーブルを1本にまとめたシンプルなケーブルでファンや水冷ポンプ部分を制御できる「iCUE LINK」機能に対応している。

今回は少ないケーブル接続で設置可能なCORSAIRの「iCUE LINK」に対応したアイテムで冷却システムを構築した。CPUクーラーには簡易水冷型「iCUE LINK TITAN 360 RX RGB AIO Liquid CPU Cooler」をチョイス
ケースファンはiCUE LINK対応の12cm角ファンを計6個組み込むことにしたので、「iCUE LINK RX120 RGB 120mm PWM Fan Triple Starter Kit」を2組用意した。パッケージには3基の12cm角ファンとコントロールユニット(いわゆるハブ)が同梱
iCUE LINKのコントロールユニット。今回用意した構成だと、クーラーに1台、ファンのパッケージにそれぞれ1個ずつの合計3個が手元にあることになるが、デイジーチェーンですべての対応パーツをつないでいけるので、実際に組み込んだのは1台のみ

 マザーボードやビデオカードなどを組み込む左側面のエリアにはほとんど構造物がないため、大型のパーツの組み込みで問題が発生することはないだろう。前面パネルや防塵フィルター、天板のメッシュパネルは簡単に着脱できるので、パーツの組み込みやケーブルの引き回しはしやすい。

内部の様子。全体的にゆったりとしており、組み込みは容易だ。ただ天板の背面側がちょっときつめで、ケーブルを通しにくい

 前面には3基の12cm角ファン、天板には36cmクラスの簡易水冷型CPUクーラーを組み込むため、それぞれのファンマウンターのレールを12cm角タイプの位置に移動してから組み込み作業をしよう。ネジを緩めてレールを動かすだけなので、この作業は簡単だ。

 また簡易水冷型CPUクーラーとケースファンはiCUE LINKに対応するため、ファン同士は直接連結、離れたファン同士や水冷ヘッドとの接続は付属のケーブルで、数珠つなぎ(デイジーチェーン)で、コントロールユニットを起点に接続していけばよい。一般的なアドレサブルRGB LED内蔵のファンや簡易水冷ユニットを使用する場合は、電源系とLEDの制御系のケーブルをそれぞれ接続する必要があるが、iCUE LINKを利用した場合は接続しなければならないケーブルの本数が非常に少なく、かなりスッキリまとめることができる。今回の構成では、簡易水冷型CPUクーラーに付属するコントロールユニットのみですべてのファンとポンプユニットを接続・制御できた。

裏面配線の様子。合計9基もの12cm角ファンや簡易水冷型CPUクーラーを組み込んでいるとは思えないほどスッキリしている。マザーボードベース裏面には、iCUE LINKのコントロールユニットを固定する(マグネットで貼り付ける)ためのスペースもある

 今回の電源ユニットは、各種ケーブルを背面ではなく横方向から引き出す「SHIFT」タイプで、PCケースの右側面にケーブルを引き出すことになる。とはいえマザーボードベース裏側のスペースはかなり広く、問題にはならなかった。

 また前面側に広くケーブルをまとめられるスペースがあり、太い電源ケーブルはここでまとめるとよいだろう。ケーブルを各所でまとめるフックや面ファスナーも数多く装備しており、全体的に組み込み難易度は低い。

電源ユニットは右側面にモジュラーコネクターを搭載するRM850x SHIFT。一般的な電源ユニットより組み込んだ状態でのケーブルの着脱が楽
メモリはVengeance RGB DDR5 CMH32GX5M2B6000Z30K。RGB LEDを内蔵するOC仕様。ファン類と同様にiCUEアプリでLED発光を制御できる

高性能ゲーミングPCらしい性能を発揮各部の温度もかなり低い

 実際の作例は下の写真のとおりだ。天板に組み込んだ簡易水冷型CPUクーラーが搭載する3基の12cm角ファンのほか、6基の12cm角ファンを各所に組み込んでおり、各パーツをしっかりと冷却できる構成となる。強化ガラスの左側板越しに、組み込んだLEDファンの美しいイルミネーションが楽しめる。

9基ものイルミネーションファンを組み込んでいることもあり、内部はかなり明るく、発光の仕方も美しい
電源ユニットカバー上のファンは吸気方向で固定しており、ビデオカードの冷却をサポートする

 今回のケースファンと簡易水冷型CPUクーラーは、CORSAIRの「iCUE」アプリを利用して制御する。インストールやセットアップを終えてファンの回転数を見ると、アイドル時や軽作業時など負荷が低い状況ではすべてのファンが300~350rpmだった。ビデオカードや電源ユニットは低負荷状態だとファンが停止するタイプなので、動作音はほぼ聞こえない。

アイドル時のファンの回転数を確認すると、iCUEで制御しているすべてのファンが300~350rpm前後で動作していた

 基本的な性能を検証する「PCMark 10 Extended」と、グラフィックス性能を検証できる「3DMark」の各種テストのScoreは以下の表のとおりだ。ハイエンドに近い構成だけに、Scoreはかなり高い。

PCMark 10 Extendedの計測結果
3DMarkの計測結果

 PCゲームについては「サイバーパンク2077」のベンチマークモードと、「モンスターハンターワイルズ ベンチマークテスト」を試した。さすがにこのクラスの構成だとフルHD(1,920×1,080ドット)は現実的ではないので、解像度はWQHD(2,560×1,440ドット)と4K(3,840×2,160ドット)に設定した。

 サイバーパンク2077のグラフィックス設定は[レイトレーシング:ウルトラ]をベースに[DLSS品質]を[クオリティ]に変更したほか、[Flame Generation]をオフ、2X、4Kの三通りに設定してテストを行った。モンスターハンター ワイルズではグラフィックスプリセットを[ウルトラ]に設定し、[フレーム生成]をON/OFFのふた通りでテストし、スコアではなくフレームレートで結果を比較する。

サイバーパンク2077の計測結果
モンスターハンターワイルズ ベンチマークテストの計測結果

 どちらも重量級のゲームだが、さすがにこのクラスの構成なら4Kでのプレイも十分視野に入る。またどちらのゲームでもフレーム生成機能に対応しており、有効にすることでフレームレートは大きく向上し、なめらかな動きでゲームを楽しめるようになる。ハイリフレッシュレート対応の液晶ディスプレイのポテンシャルを活かせる構成と言えるだろう。

 さらにいくつかの状況を設定して、CPUとビデオカードの温度を計測したのが下のグラフだ。アイドル時は起動後10分間の平均的な温度で、動画再生時は動画配信サイトの動画を1時間視聴中の平均的な温度で、主に軽作業時の状況を想定したものだ。

 3DMark時は3DMarkの「Time Spy Stress Test」を実行中の平均的な温度で、モンスターハンターワイルズ時もベンチマークテストを4回繰り返したときの平均的な温度。こちらは長時間のPCゲームプレイを想定したものとなる。Cinebench時は、CPU負荷が非常に高いCinebench R23実行中の最高温度だ。温度計測はOCCT 13.1.14を利用した。

各部の温度

 CPUもビデオカードもハイエンドに近い構成であることを考えると、それなりに高い温度になるのではないかと予想した。しかしグラフを見れば分かるとおり、いずれの状況でもかなり低い温度にとどまっている。特に驚いたのがGPU温度だ。電源ユニットカバー上に設置したケースファンが、よい影響を与えたことが予想される。

 今回は多数のケースファンを組み込んでおり、強力なエアフローを整えたということは前提としてある。しかしケースファンを追加したからと言って、素直に冷却性能が向上するPCケースばかりではない。今回の結果を見るに、FRAME 4000Dのエアフローにこだわった設計とその拡張性は疑いのないものであり、冷却パフォーマンスを最大限に引き出せることは間違いなさそうだ。

FRAME 4000Dが体現するPCケースの最新スタンダード

 これらの検証結果で明らかになった冷却拡張性、組み込みやすさ、カスタマイズ性、先進的なパーツへの対応など、最新のPC環境に要求されるさまざまな要素をバランスよく備える優れたPCケースと言ってよいだろう。大型水冷への柔軟な対応、裏面コネクターマザー対応のような先進性も魅力的だ。

 ハイエンドのゲーミングPCを作りたいユーザーはもちろんオススメだが、パーツを組み換えながらじっくりと自作PCを楽しんでいこうという初心者にも、高い満足感を与えてくれるだろう。人気のスタンダードモデルをさらにブラッシュアップしたFRAME 4000Dは、これから長く付き合っていける最新スタンダートとなり得る1台だ。