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Socket AM4 Ryzenの最終アップグレード!?Ryzen 7 1800XからRyzen 9 5950Xへの載せ換えを今こそ改めて検証してみる

Ryzen 1000シリーズから5000シリーズへの進化の過程で性能は約2倍に text by 瀬文茶

Socket AM4 Ryzenの最後のハイエンドCPUと最初のハイエンドCPUを比較

 2017年3月、AMDはSocket AM4向けの完全新設計CPU「初代Ryzen」を発売しました。あれから7年以上が経ったいま、すでに旧世代ソケットであるにもかかわらずSocket AM4の人気は根強く、Ryzen 9 5900XTとRyzen 7 5800XTという新製品の発売がアナウンスされています。

 初代Ryzenから第4世代のRyzen 5000 シリーズまで、長きにわたってRyzenシリーズを支えてきたSocket AM4。プラットフォームとしての最終的な製品ラインナップも見えてきたので、5000シリーズにいたるまでにRyzenがどれだけの進化を遂げたのか、初代Ryzen最上位のRyzen 7 1800XとRyzen 5000シリーズ最上位の「Ryzen 9 5950X」を比較してみることにしました。

Socket AM4は初期チップセットでもRyzen 5000までアップグレード可能かなり長い間一線で使えたASUSのX370搭載マザーを使ってテスト

 AMDのSocket AM4は、初代Ryzenが登場する少し前の2016年から2022年のSocket AM5登場までの期間、AMDのデスクトップ向けプラットフォームの主力として展開されていました。この間に、Ryzenシリーズは初代の「Ryzen 1000シリーズ」から「Ryzen 5000シリーズ」まで4世代の製品がSocket AM4に投入されています。

Socket AM4は2016~2022年まで、AMDのデスクトップ向けプラットフォームの主力だった。

 CPUソケットとしてのSocket AM4は最初から最後まで互換性を維持し続けており、2022年にリリースされたAGESAのアップデートによって初期にリリースされたAMD 300シリーズ・チップセット搭載マザーボードでも、最新CPUのRyzen 5000シリーズが利用可能です。

 そこで今回は、初代RyzenとともにSocket AM4の最初期に発売されたマザーボード「ASUS PRIME X370-PRO」に、初代Ryzenの最上位CPU「Ryzen 7 1800X」と、Ryzen 5000 シリーズの最上位CPU「Ryzen 9 5950X」を搭載。Socket AM4対応Ryzenにおける最大級のアップグレードで、どこまでCPU性能が向上するのかを確かめてみます。

X370チップセットを搭載する「ASUS PRIME X370-PRO」。Socket AM4最初期に発売されたマザーの一つ。
ASUS PRIME X370-PROの最新BIOS「6203」なら、後期ハイエンドのRyzen 9 5950Xにも初期ハイエンドのRyzen 7 1800Xにも対応可能。

 Ryzen 7 1800XはZenアーキテクチャーを採用する8コア/16スレッドCPUで、Ryzen 9 5950XはZen 3アーキテクチャーを採用する16コア/32スレッドCPUです。両CPUの主な仕様は以下の表にまとめました。

 “世代の最上位モデルである”という点は共通していますが、実際にはCPUコアの数も格付け(初代Ryzenに“9”はなかった)も異なる両CPU。今回のテストではSocket AM4における最初と最後の最上位Ryzenを比較することです。

Ryzen 9 5950XのCPU-Z実行画面。
Ryzen 7 1800XのCPU-Z実行画面。

ベンチマークテストで見るSocket AM4対応Ryzenの進化世代を重ね最終的な性能は2倍ほど向上

16コア/最大4.9GHz動作のRyzen 9 5950X。数字的な面だけでも初期型からかなりの進化。
8コア/最大4GHz動作のRyzen 7 1800X。発売当時は高コスパ/高性能8コアCPUとして注目を集めた。

 ここからは、ベンチマークテストを使ってRyzen 7 1800XとRyzen 9 5950Xの性能を確認していきます。CPUとマザーボード以外の機材については以下の表のとおりです。

 いくつか補足しておくと、今回の環境ではAMD X370チップセットの制限によりPCI Express 3.0までしか利用できないため、PCI Express 4.0 x16に対応するRyzen 9 5950XとIntel Arc A770でもバスインターフェースはPCI Express 3.0 x16です。また、CPU以外はできるだけ条件を統一したかったので、メインメモリの速度はあえて初代Ryzenに合わせてDDR4-2666で揃えています。

 なお、Ryzen 7 1800XはWindows 11のCPUサポートリストには記載されていませんが、今回のマザーボードとの組み合わせではWindows 11の最小要件を満たせるため(2021年から要件緩和)、Ryzen 9 5950Xと同じようにWindows 11をインストール可能でした。

Cinebench 2024

 Cinebench 2024では、マルチスレッド性能を計測する「CPU (Multi Core)」にて、Ryzen 9 5950Xが「1,237」、Ryzen 7 1800Xは「522」を記録。Ryzen 9 5950Xが約2.4倍という大差でRyzen 7 1800Xを上回りました。

 シングルスレッド性能を計測する「CPU (Single Core)」のスコアについても、Ryzen 9 5950Xが「96」、Ryzen 7 1800Xは「59」となっており、Ryzen 9 5950XがRyzen 7 1800Xの約1.6倍のスコアを記録しています。

 「CPU (Multi Core)」実行中のモニタリングデータを推移グラフにまとめると以下のようになります。

 どちらのCPUも温度リミットまで十分な余裕が確保できており、ファンスピードを最大にしているとはいえ、エントリークラスの空冷CPUクーラーである「サイズ KOTETSU MARK3」でも苦もなく冷却できている様子がうかがえます。CPUパワーを引き出すのに高価で大型のCPUクーラーを必要としないのもSocket AM4対応CPUのよいところです。

Ryzen 9 5950Xのモニタリングデータ。
Ryzen 7 1800Xのモニタリングデータ。

Cinebench R23

 Cinebench R23での「CPU (Multi Core)」のスコアは、Ryzen 9 5950Xが「22,870」、Ryzen 7 1800Xは「8,653」となっており、Ryzen 9 5950Xが約2.6倍という大差でRyzen 7 1800Xを上回りました。

 「CPU (Single Core)」のスコアは、Ryzen 9 5950Xが「1,544」、Ryzen 7 1800Xは「936」で、こちらもRyzen 9 5950XがRyzen 1800Xの1.6倍以上のスコアを記録しています。

 以下のグラフは「CPU (Multi Core)」実行中のモニタリングデータをまとめた推移グラフです。Cinebench 2024でも同様ですが、CPUクロックが3,700MHzでほぼ一直線になっているRyzen 7 1800Xに対し、Ryzen 9 5950XのCPUクロック(CCD-0/1)は、CPUの稼働状況などに応じて細かく変化している様子がみられます。

 これは、CPUのブースト機能がより高度で複雑なものに進化したことを示すもので、状況に応じてより性能を引き出せるように機能が強化されています。

Ryzen 9 5950Xのモニタリングデータ。
Ryzen 7 1800Xのモニタリングデータ。

3DMark「CPU Profile」

 3DMarkの「CPU Profile」は、処理を実行するCPUスレッド数ごとのパフォーマンスを計測するベンチマークテストで、ここでもすべての条件でRyzen 9 5950XがRyzen 7 1800Xを大きく上回るスコアを記録しています。

 スコアのままでは性能差が少々分かりづらいので、Ryzen 7 1800Xのスコアを基準に指数化した結果が以下のグラフです。

 16スレッド以上ではRyzen 9 5950XがRyzen 7 1800Xを2.4倍超の大差で上回っており、8スレッド以下でもRyzen 9 5950Xが1.8倍以上のスコアを記録していることを確認できます。

 Ryzen 7 1800Xの2倍CPUコアを備えるRyzen 9 5950Xが8スレッドを超える処理で強いのは当然ですが、8スレッド以下でも大幅に性能が向上していることから、さほどマルチスレッド処理に最適化されていないアプリや作業でもCPU性能の向上を体感することができるでしょう。

ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク

 ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマークでは、フルHD/1080p解像度でグラフィックプリセットを「最高品質」に設定し、動的解像度(DLSS/FSR)は無効にした状態でテストを実行しました。

 スコアと平均フレームレートは、Ryzen 9 5950Xが「14,269 (106.1fps)」で、Ryzen 7 1800Xは「8,747 (67.0fps)」となっており、GPUが同じIntel Arc A770であるにもかかわらずRyzen 9 5950X環境がRyzen 7 1800X環境の約1.6倍のパフォーマンスを発揮しています。

 ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマークはテスト半ばあたりにCPU負荷の高いシーンが配置されているのですが、ベンチマーク実行中のモニタリングデータではここでGPU消費電力やシステム消費電力が低下している様子が見られます。これは、CPUのボトルネックによってGPUが最大限に性能を発揮できていないことを示すものです。

 スコアに大きな差が付いた理由は、現代のGPUとしてはミドルレンジ下位クラスの性能であるIntel Arc A770との組み合わせでも、Ryzen 7 1800Xではその性能を十分に引き出すことができないためです。

Ryzen 9 5950Xのモニタリングデータ。
Ryzen 7 1800Xのモニタリングデータ。

システム消費電力とワットパフォーマンス

 最後に、ワットチェッカーで計測したシステム消費電力とワットパフォーマンスを紹介します。システム消費電力は、最小値を計測した「アイドル時」を除き、平均値と最大値をグラフにしました。

 TDP 95WのRyzen 7 1800Xの電力リミット(PPT)が128.2Wなのに対し、TDP 105WのRyzen 9 5950Xは142Wに引き上げられたほか、電流リミットも相応に開放されていることもあり、Ryzen 9 5950Xのほうがより多くの電力を消費していることが確認できます。

 「ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク」ではRyzen 9 5950Xが100Wほどたかい平均消費電力を記録していますが、これはRyzen 9 5950XがIntel Arc A770からより多くの性能を引き出せたことに伴うGPU消費電力の増加が影響したものです。

 ベンチマークスコアを平均システム消費電力で割ることによって求めた「ワットパフォーマンス」を、Ryzen 7 1800Xを基準に指数化したものが以下のグラフです。

 これを見ると、消費電力の絶対値自体は上昇しているRyzen 9 5950Xですが、CPU処理である「Cinebench」ではRyzen 7 1800Xの1.95~2.5倍という圧倒的なワットパフォーマンスを発揮しています。また、GPU処理が支配的な「ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク」でも、Ryzen 9 5950Xによって20%弱ほどワットパフォーマンスが改善している様子がみられます。

最初期マザーでもここまでアップグレードできるSocket AM4最後のSocket AM4最上位Ryzenは性能も電力効率も大幅に向上

 最初期に発売されたAMD X370搭載マザーボードを使って、Socket AM4における最初と最後の最上位Ryzenを比較してみた結果、性能とワットパフォーマンスが大きく向上していることを改めて確認できました。

 Ryzen 9 5950Xは、今回の条件だとチップセットの制限やDDR4-2666メモリによって機能や性能を最大限に発揮しきれない“足枷あり”状態ではあります。しかしそれでも、最初期のマザーボードのままCPUを交換するだけでこれだけのアップグレードが可能であるというこの互換性の高さは、Socket AM4プラットフォームの大きな魅力であると言えます。

 正直なところ、すでにSocket AM5でRyzen 7000シリーズのパフォーマンスを体感している身としては、十分な予算があるならRyzen 5000シリーズを勧めたいとまでは思えません。しかし、すでにSocket AM4環境をお持ちで、かつSocket AM5環境に一気に移行できるほどの予算をかけられない、ということであれば、導入コストを重視した最後のアップグレード先としてRyzen 9 5950XやRyzen 9 5900XTを選ぶことも、一考の価値があるかもしれません。