プロダクトレビュー・ショーケース
まだまだあるぞ、4,000円前後で買える“優秀な”シングルタワーCPUクーラー!2製品を追加してさらにテスト
AK400最新モデルを含む6製品で横並び比較 text by 石川 ひさよし
2025年11月13日 09:00
前回は、製品名・型番に「400」が付くシングルタワー型空冷CPUクーラーを集めて計測を行なった。CPUクーラー検証のためのリストアップをした際、「400」という番号が付く製品が目立ったことから、「400」でまとめてみたわけだ。
今回はその後編として、製品名に「400」は付かないが、2025年にリリースされたシングルタワー型空冷クーラーで、ポジショニングが前回紹介したものに近い2製品を追加でテストした。前編での4製品と合わせ、シングルタワー型空冷CPUクーラー6製品の冷却性能と静音性を見てみよう。
検証環境と計測条件
計測環境および条件は前回と同様。結果は、全6製品のグラフで掲載する。
| DeepCool | AK400 CTT 2.0 Ver. |
| CPS | RZ400V2 |
| DeepCool | AG400 ARGB V2 |
| Thermaltake | UX400 ARGB Sync |
検証環境は以下のとおり。
| CPU | AMD Ryzen 7 9700X (8コア16スレッド、TDP:105W設定) |
| マザーボード | ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO |
| メモリ | DDR5-5600 32GB (PC5-44800 DDR5 SDRAM 16GB×2) |
| システムSSD | M.2 NVMe SSD 1TB (PCI Express 5.0 x4) |
| ビデオカード | ZOTAC GAMING GeForce RTX 5060 Ti 16GB TWIN EDGE OC |
| 電源 | 1,200W(80PLUS Gold) |
| OS | Windows 11 Pro |
| 検証台 | 親和産業 2WAY ベンチテーブル SMZ-2WBT-ATX |
| グリス | 親和産業 SMZ-01R |
※室温:26℃、暗騒音:30dB以下、CPUクーラー換装時、グリスをなじませるため本計測の前に数回Blender Benchmarkを実行
温度ログの取得にはHWiNFO64を使用した。ログの取得間隔はデフォルト2,000ms(=2秒)だが、PC全体の負荷によってタイミングのズレが生じるため、“約2秒ごとの計測回数カウント”(=count、約2秒で1カウント)としている。また、ログ取得開始のタイミングを完全に合わせることは困難なので、グラフに多少のズレが生じている点はご容赦いただきたい。
ファン回転数の設定は使用したマザーボードのユーティリティ、ASUS Armoury Crate「FanXpert 4」を使用し、設定は標準モードを適用している。また、動作音についてはFanXpert 4のマニュアル設定で回転数指定から最小回転、最大回転としたものも加えている。
なお、Ryzen 7 9700XのTDP 105W設定を使用した理由については前回記事を参照いただきたい。
2製品を加えたシングルタワー型空冷CPUクーラー6製品の計測結果
それではさっそく計測結果をまとめたグラフを見ていこう。まずはCPUのアイドル時およびアプリ使用時の最大値をまとめたのが次のグラフだ。

「Blender Benchmark 3.2.0」は、CPU高負荷時のCPU温度推移を見るために、CPUによるレンダリングを選択している。サイバーパンク2077は内蔵ベンチ実行時に計測した結果で、1,920×1,080ドットのフルスクリーン、画質はレイトレーシング:ウルトラに設定した。なお、計測前には5分間のアイドルタイムを設け、CPU温度を落ち着かせている。
次は動作音の計測結果。二つのベンチマーク時の最大動作音に加え、FanXpert 4から固定回転数を選び設定可能な最小、最大回転数でも計測している。

最小回転数についてはあくまでも“FanXpert 4が設定できる最小”で、その製品自体の“本当の最小回転数”ではない場合もある。また、騒音計の計測限界に近く、マザーボードも多少のコイル鳴きが生じているので、CPUクーラー“以外”の動作音である可能性も考えられる。今回のテストでは、35dB以下の値のものについては「きわめて静か」という評価でよいと判断した。
次は一定時間内のCPU温度の推移を比較してみる。こちらのグラフはBlender Benchmark 3.2.0実行中のもの。

PURE ROCK 3はBlender Benchmark 3.2.0について見ると1つ目、2つ目のレンダリング中は中間的な位置、3つ目のレンダリング中は上限温度に張り付いていた。取得したログではサーマルスロットリングの発動は記録されていなかったが、留意しておきたい結果だ。
一方のAssassin Spirit 120 EVOはBlender Benchmark 3.2.0の1つ目のレンダリング時において右肩上がりのグラフとなった以降は、DeepCoolの2製品、AK400 CTT 2.0 Ver.とAG400 ARGB V2に近いところで推移していた。スペック上、搭載しているファンの風量、静圧はそこまで高いものではないのだが、ヒートシンクのフィン枚数を実際に数えたところ、今回テストした製品の中では最も多かった。放熱に大きく影響するヒートシンクの表面積はこの6機種の中では大きい部類で、その効果があったとみてよさそうだ。
次はサイバーパンク2077実行中のCPU温度推移グラフだ。

このグラフでは、PURE ROCK 3もAssassin Spirit 120 EVOも近い温度帯で推移している。十分に冷却できていると言えるだろう。サイバーパンク2077実行中の動作音はPURE ROCK 3が最も静かだったので、ゲームプレイがメインの場合、本機は“十分に冷却できて静か”という評価になる。
また、Assassin Spirit 120 EVOは平均的な動作音で、Blender Benchmark 3.2.0時よりも10dBほど下回っていた。Assassin Spirit 120 EVOは、CPUの負荷が高くなる用途でも高い冷却性能を発揮しつつ、高負荷時はややうるさくても、ゲームプレイなどの中程度の負荷であれば十分に静かに動作する、といった性格の製品と言えそうだ。
追加2製品の仕様と特徴
それでは、今回の2製品の仕様や特徴を解説していこう。
PURE ROCK 3はこだわりの詰まった製品と言える。今回6製品中では唯一、AMD CPU向けリテンションプレートでオフセット機構を備えていた。現行のRyzenではヒートスポットがCPU中心から若干ズレていると言われるが、それに対応させるものだ。
この製品に向いているのはゲーミングや音楽や映像コンテンツの視聴といった用途だろう。コンテンツに集中したいなら、PCには静かであってほしい、というのがユーザーの心理だからだ。また、CPU負荷が中程度なら冷却性能は高いほうだった点でも、この製品のいちばんオイシイところの使い方と言えるだろう。
Thermalrightもヒートシンクで定評あるメーカーと言えるだろう。製品名がややこしいのはさておき、Assassin Spirit 120 EVOの冷却性能は高かった。その上でほどほどのCPU負荷ならまずまず静か。ゲーミングも動画編集もといったように幅広いCPU負荷を想定される使い方に適していると言えるだろう。
なお、リテンションプレートおよびスペーサーの見た目はUX400 ARGB Syncのものと似ていた。ただしこちらにはリブ加工もあって強度は高そうだ。ほか、やや無骨に見える外観もThermalrightらしさが表れている。
今どきの“4,000円前後で買える”高性能クーラーを使ってみて
同じシングルタワー型の空冷CPUクーラーなので形状はもちろんサイズ感も近い。ヒートパイプもΦ6mm×4本と揃っている。価格も4,000円を挟んで±500円といったところ。それでも冷却性能や静かさで個性を見出すことができた点で検証のしがいがあった。
細かく見ればヒートシンクのフィン面積で大きい小さい、フィン枚数の多い少ないがある。ファンについても、2,000rpmを挟んで±200rpm。回転数の高いものは2,200rpm、低いものは1,800rpmだ。風量も最小59.6cfm、最大86.7cfm。静圧も最小1.47mmH2O、最大3.20mmH2Oだ。
| PURE ROCK 3 | Assassin Spirit 120 EVO | AK400 CTT 2.0 Ver. | RZ400V2 | AG400 ARGB V2 | UX400 ARGB Sync | |
| 最大回転数 | 2,000rpm | 2,000rpm | 1,850rpm | 2,200rpm | 2,000rpm | 1,800rpm |
| 風量 | 59.6cfm | 68.9cfm | 66.5cfm | 86.7cfm | 75.9cfm | 62.7cfm |
| 静圧 | 2.41mmH2O | 2.21mmH2O | 2.04mmH2O | 3.20mmH2O | 2.53mmH2O | 1.47mmH2O |
| ヒートシンク サイズ(W×D×H) | 124×45×114mm | 120×48×117mm | 120×45×117mm | 130×53×118mm | 120×45×117mm | 121×45×100mm |
| フィン | 56枚 | 57枚 | 55枚 | 50枚 | 52枚 | 45枚 |
こうした仕様の違いが個性を生み出している。Blender Benchmark 3.2.0実行時のような100%負荷に近い状態、ファン回転数も100%に近い状態において静かだったのは最大1,800rpm台のAK400 CTT 2.0 Ver.、UX400 ARGB Sync。この2製品の次に静かだったのがPURE ROCK 3だ。PURE ROCK 3は最大2,000rpmのファンを搭載するが、ほかの最大2,000rpmファン搭載モデルより大幅に静かで、どちらかと言えば最大1,800rpm台のモデルに近い動作音だ。サイバーパンク2077実行時やアイドル時については最も静かだった。be quiet!がbe quiet!らしい性能を見せたと言えるだろう。
CPUを酷使する用途がメインならば、冷却性能の高いCPUクーラーでサーマルスロットリングの発生を抑えたいところだ。今回テストはいずれもなかなかの接戦ではあったが、そんな中でピックアップするとしたら、AG400 ARGB V2、Assassin Spirit 120 EVO、次点でCPS RZ400V2だ。AK400 CTT 2.0 Ver.も加えてよいが、少しだけ傾向が異なるので後ほど触れたい。
基本的には、冷却性能が高いほど高負荷時の動作音も大きくなる、という傾向がある。Blender Benchmark 3.2.0実行時のような100%負荷に近い状態であれば、特にはっきり感じるはずだ。ただし、サイバーパンク2077実行時のようなCPUにかかる負荷がそこまで厳しくない状況だとそれほどでもなくなる。38dB前後のAG400 ARGB V2、Assassin Spirit 120 EVOあたりでも「まずまず静か」と感じるだろう。ただ、CPS RZ400V2はほか2モデルよりファン回転数が200rpm高い分だけ音量が大きい。気になるならファン回転数設定をチューニングしてみるとよいだろう。
現在の最有力機種の最新モデルであるAK400 CTT 2.0 Ver.は、冷却性能ではAG400 ARGB V2に逆転されるたものの、動作音ではより静かだった。“価格と性能のバランスがよい製品”というイメージは相変わらずだ。Blender Benchmark 3.2.0実行中ではファン回転数がいち早く上限に達するが、それでも動作音自体はそこまでうるさくならず、回転数が上限に達したといっても冷却性能不足はない。CPU中負荷のテストでは、CPU温度こそテストは全体の5番手だが、静音性では2番手と、総合成績は優秀だ。幅広い用途において十分な性能を発揮しており、今回の6モデルの中でも安価とあって魅力に陰りはない。
前回も触れたが、UX400 ARGB Syncは、今回の6製品の中では少し性格が異なる存在だ。やや小ぶりのサイズ感でファンの最大回転数も低めの設定なので、Blender Benchmark 3.2.0実行時、サーマルスロットリングが生じるシーンも見られた。サーマルスロットリングはCPUの保護制御であり、その後CPU温度の上昇が抑制され、テスト後に正常に低下していることから、冷却不足でCPUが即壊れるという心配はないが、クロックや電圧を落とすため、性能面では多少のマイナスにはなる。ただし、テスト結果から分かるとおり静かなCPUクーラーである。9700Xの本来のTDPである65Wで運用すれば、必要十分な冷却と特徴である静かさを生かせるだろう。





