VIDEO CARD LABORATORY
GeForce RTX 5060 Tiの8GB版はゲーマーにとって意味のある選択なのか?
各種ベンチマークテストで実力・立ち位置を改めて分析する text by “KTU”加藤 勝明
2025年5月8日 11:00
NVIDIAの“RTX Blackwell”アーキテクチャーを採用した新GPU「GeForce RTX 5060 Ti」は4月16日に販売が解禁されたが、このRTX 5060 TiにはVRAM搭載量が16GBと8GBの2モデルが用意されている。
RTX 5060 Ti 16GBの実売価格は最安8万5000円前後〜上位モデルで10万円超、これに対しRTX 5060 Ti 8GBの実売価格は最安7万5000円前後〜上位モデルが9万円弱で流通している。つまりVRAM 8GB増量したモデルが1万円程度の予算上乗せで手に入るのだから、RTX 5060 Ti 16GBのほうが圧倒的にお買い得だ。
RTX 5060 Ti 16GBの性能については筆者がYouTubeチャンネル「PAD」の動画配信で評価しているとおり、AI(LLM)で大きな学習モデルを扱う場合や、VRAM消費量の大きなAAAタイトルを高画質+高解像度設定で動かす際にVRAM 16GBが威力を発揮する。とりわけVRAMを限界まで使うような状況では、VRAM 12GB搭載のRTX 5070よりもVRAM 16GBのRTX 5060 Ti 16GBのほうがより高い性能を示すことがこれまでの検証から分かっている。
RTX 5060 Ti 8GB版の立ち位置をベンチマークで検証する
ただゲームのVRAM消費量は年々増加傾向にあるし、LLMはこれからのPC利用において活用が期待される存在であることを考えると、今VRAMの少ないモデルを買うメリットはない(筆者註:これが本稿の結論である)。
しかし、誰もがゲームを最高画質で動かすわけでもないし、誰もがローカルAI環境を構築するわけでもない。特に軽めのゲーム中心で遊ぶ、あるいはフレームレートを重視した画質をやや下げた設定で遊ぶ場合では、RTX 5060 Ti 8GBでも問題ないと言えるかもしれない。本稿ではこれを検証するものだ。
今回の検証環境は以下のとおりである。今回用意したRTX 5060 Ti 8GBはファクトリーOCモデルであり、対比させるRTX 5060 Ti 16GBはリファレンス準拠のモデルである。動作クロックはわずかにRTX 5060 Ti 8GBが上であるため、素の性能はわずかにRTX 5060 Ti 8GBのほうが高くなるが、VRAM搭載量が影響するような状況ではクロックの優位性が消失すると予想できる。そのほか、RTX 4060 Ti 8GBとRTX 4060というVRAM 8GB搭載のGeForceも準備した。RTX 5070との比較はすでにPC WatchにおいてRTX 5060 Ti 16GBと対比させる形で三門氏がレビューしているので除外している。
CPU | AMD Ryzen 7 9800X3D(8コア/16スレッド) |
マザーボード | ASRock X870E Taichi(AMD X870E、BIOS 3.20) |
メモリ | Micron Crucial Pro CP2K16G64C38U5B DDR5-6400 32GB(PC5-51200 DDR5 SDRAM16GB×2、DDR5-5600で使用) |
ビデオカード | Palit GeForce RTX 5060 Ti Infinity 3 16GB、 ZOTAC Gaming GeForce RTX 5060 Ti 8GB Twin Edge OC、 NVIDIA GeForce RTX 4060 Ti Founders Edition、 NVIDIA GeForce RTX 4060 VENTUS 2X BLACK 8GB OC |
ストレージ | Micron Crucial T700 CT2000T700SSD3 [M.2(PCI Express 5.0 x4)+2TB]、 Silicon Power SP04KGBP44US7505 [M.2(PCI Express 4.0 x4)、4TB] |
CPUクーラー | EKWB EK-Nucleus AIO CR360 Lux D-RGB (簡易水冷、36cmクラス) |
電源ユニット | ASRock TC-1300T (1300W、80PLUS Titanium) |
OS | Microsoft Windows 11 Pro(24H2) |
また、本検証ではベンチマーク中に各ビデオカードが消費する電力を直接計測するHWBusters「Pownetics v2」を組み込んでいる。これによりビデオカードにつながる補助電源ケーブル(16ピン/8ピン)を流れる電力のほか、PCI Express x16スロット経由で供給される電力についても直接計測することができるようになる。
ただし、x16スロット経由の電力を計測するためにライザーカードを接続する関係上、マザーのBIOS設定でPCI Express x16スロットのリンク速度をPCI Express Gen 4に制限している。しかし、PCI Express x16スロットのリンク速度をGen 5からGen 4に落としても描画性能にはほぼ影響がないことは確認済みである。
また、GPUドライバは検証時点で最新のHotfixドライバであるGameReady 576.15を使用している。Resiazble BARやSecure Boot、メモリ整合性およびカーネルモードのハードウェア適用スタック保護、HDRなどは一通り有効化。ディスプレイのリフレッシュレートは144Hzに設定した。
ゲームのフレームレートはゲーム内ベンチマーク機能の有無に関係なく、すべて「CapFrameX」を利用して計測するが、フレームタイムの算出基準は画面変更のタイミングに注目する「MsBetweenDisplayChange」を採用している(従来使われてきたMsBetweenPresentsは使用していない)。
基本性能と消費電力
手始めに定番「3DMark」で描画性能を見ておこう。


どのテストもRTX 5060 Ti 16GBよりもRTX 5060 Ti 8GBのスコアが伸びているが、これは評価用に使用したRTX 5060 Ti 8GBがファクトリーOCモデルであり、OCされている分スコアも伸びたためだ。これらのテストではVRAM 8GBで性能に問題が出るほど不足するという事態にはならないため、VRAM 8GBでも特に問題はないと判断されるだろう。
続いては消費電力の比較を行う。アイドル中とは文字どおりアイドル状態で3分間放置した際の平均消費電力を、高負荷時とは3DMarkの「Steel Nomad」実行中の消費電力を示すが、高負荷時は平均値/99パーセンタイル点/最大値の3種類の観点で集計した。消費電力はシステム全体およびTBP(Total Board Power:カード単体の消費電力)の二つの観点で集計している。


RTX 5060 Tiの消費電力はVRAM搭載量の違いで特に大きく変わるわけではない。どちらも平均値では非常に近い値を示しているが、若干RTX 5060 Ti 8GBのほうが大きな値を示している。これはRTX 5060 Ti 8GBがOCされているためであるが、カード自体のPower Limitが180Wに制限されているため平均値で見るとRTX 5060 Tiの定格である180Wに近付く(OC効果による消費電力上昇は最大値と99パーセンタイル点に表われている)。
クリエイティブ系用途やAIではどう変わる?
ゲームでの検証に入る前にもう一つ、クリエイティブ系アプリでの処理やAIのパフォーマンスにVRAM搭載量がどう影響したかを軽く確認しておきたい。まずは「Blender Benchmark」だが、バージョン4.4.0を使用して検証した。

前世代のRTX 4060 TiやRTX 4060を基準にすれば、同じVRAM 8GB搭載でもSMが増えメモリ帯域が拡大(約1.6倍)されたことの恩恵は大きいと言える。ただ、RTX 5060 Ti 16GBと8GBの比較で言えば、実質的な差はない。RTX 5060 Ti 8GBのスコアが高いのは今回使用した評価用カードのOC設定の差である。
続いては「UL Procyon」の “Video Editing Benchmark”を利用し、Adobe Premiere ProにおけるGPUエンコード時間を比較する。このテストはH.264とH.265で2本ずつ、合計4本の動画をGPUでエンコードする時間からスコアを算出するというものだが、それぞれのエンコード時間も見てみよう。エンコードデバイスにはGPUを使用している。



RTX 5060 Tiは前世代のRTX 4060 TiやRTX 4060よりも明らかに速い。このテストのタスクは再生時間60〜70秒の動画を処理するというものだが、RTX 5060 Tiは旧世代に対しH.264では10〜15秒、H.265では20〜30秒の大差を付けている。SM数が増えているせいもあるが、RTX 50シリーズではメモリ帯域が太くなっていることも強い関連があると考えられる。ちなみにこのテストではRTX 5060 Ti 8GBのOC設定のアドバンテージは特にないようだ。
AIの検証はUL Procyonの“AI Text Generation Benchmark”で検証する。大小四つの学習モデルにそれぞれ七つのテキスト生成タスクを課し、出力されるトークン生成スピードおよび最初のトークンまでの待ち時間からスコアを導き出す。総合スコアのほか、その算出の根拠であるトークン生成スピードと、最初のトークンまでの時間を比較する。



四つのテストをすべて完走できたのはRTX 5060 Ti 16GBのみ。ほかのGeForceは最後のLLama-2-13Bはスコアを出すことができなかった。理由がVRAMにあることは明確である。LLama-3.1-8BまではVRAM 8GBでなんとか実行できるが、それよりもパラメーターの多いLLama-2.1-13BではVRAM不足に陥るからだ(ちなみにこのテストはGeForceの場合VRAM 12GB以上、それ以外のGPUでは16GB以上が推奨されている)。
実行できたLLama-3.1-8Bにおいても、RTX 5060 Ti 8GBはトークン生成スピードや最初のトークンまでの時間においてRTX 5060 Ti 16GBに大きく後退しており、VRAM搭載量が非常に重要であることを裏付けている。ローカル環境でAIを構築したいという用途においては、RTX 5060 Ti 8GBは“やれることの限界”がRTX 5060 Ti 16GBも低く、効率の悪い選択と言わざるを得ない。
ゲームでのパフォーマンスは?
ここからさまざまなゲームにおけるフレームレートを検証する。解像度はフルHD(1,920×1,080)、WQHD(2,560×1,440)、4K(3,840×2,160)の3とおりで比較する。今回GPUドライバは検証時点で最新のHotfixドライバを使用したのだが、一部ゲームではRTX 5060 Ti 8GBに限り安定しないという印象が強かった。昨今のGeForce向けドライバは安定性に問題があるという指摘があるが、今回の検証でもまさにそれに該当したわけだ(Hotfixなのに……)。
RTX 5060 Ti 16GBの検証過程や前掲のLLMのパフォーマンス検証において、VRAMをギリギリまで使い込むような状況ではVRAM 8GBでは足りないという結論が出ている。そこで今回はVRAMをそこまで追い込まない設定にしている。具体的にはRTX 5060 Ti 16GB環境でテストし、「フルHD時に」ベンチマーク中のVRAM消費量の平均値が8GB以内に収まるような設定を採用している。
Apex Legends
Apex LegendsではAPIはDirectX 12、画質は最高設定とした。射撃訓練場における一定の行動をとった際のフレームレートを計測した。フルHDにおけるVRAM平均使用量は5.5GB前後(RTX 5060 Ti 16GBでの値。以下同様)である。



もともと300fpsで頭打ちになってしまう設計であること、RTX 4060でも画質をよくばらなければ十分なフレームレートが出るゲームであるため、RTX 5060 TiのVRAM搭載量はフレームレートにほぼ影響がないことが分かる。4KでプレイしたところでVRAM消費量は7GBもない。RTX 4060でも十分遊べていたが、ディスプレイをWQHDや4KにしたいのでGPUも強化しよう……と考えているのであれば、RTX 5060 Ti 8GBも輝くだろう。だが、RTX 5060 Ti 16GBのほうが“後々の”心理的安心感が高くなることは言うまでもない。
上の表はベンチマーク時にPownetics v2を通じて観測されたTBPと、10Wあたりのフレームレート、すなわちワットパフォーマンスの一覧である。RTX 5060 TiのTBPはRTX 4060やRTX 4060 Tiよりも確実に上昇しているが、その分フレームレートも出ているのでワットパフォーマンスも同程度である。今回テストしたカードの中ではRTX 4060 Ti 8GBのワットパフォーマンスはよいが、10Wあたり17.5fpsが10Wあたり19fpsへの向上にとどまるため特別優秀というわけではない。
Call of Duty: Black Ops 6
Call of Duty: Black Ops 6を使用した。画質は「バランス重視」に設定。ゲーム内ベンチマーク再生時のフレームレートを計測した。この設定の場合フルHD時のVRAM平均使用量は約7.5GBである。



このゲームではRTX 5060 Ti 16GBと8GBの差が出ていない。RTX 4060 Ti 8GBからRTX 5060 Tiへ乗り換えるメリットはないが、RTX 4060(以下)からであれば十分なパフォーマンスアップが期待できるだろう。
では、このゲームでもっと画質を上げた場合はどうだろうか? そこでもっとも重い「極限」設定にした場合のフレームレートを見てみよう。フルHD時のVRAM平均使用量は約12.5GBである。



Black Ops 6で画質を極限設定にするとVRAM使用量警告が出るのだが、実際にはほとんど差らしい差は出なかった。VRAM使用量を見るとApex Legendsの倍近く消費しているのだが、このゲームにおいてはこれが致命的なパフォーマンス低下を招かない。ただ、こういうゲームはなかなかめずらしいパターンであり、このデータをもって「VRAM 8GBで十分」論を展開するのは大間違いだ。
TBPの傾向はApex Legendsとほぼ同じ。VRAM搭載量が多いRTX 5060 Ti 16GBのほうがTBPは増えると思いがちだが、現実にはほぼそんなことはないことが分かる。
モンスターハンターワイルズ ベンチマーク
モンスターハンターワイルズは公式のベンチマークツールでは画質は「高」、レイトレーシング(RT)はOFF、 DLSS“クオリティー”に設定。ただしフレーム生成(DLSS FG)はOFFとした。これはRTX 4060 TiやRTX 4060といったメモリ帯域が細いGeForceでDLSS FGを使用するとかえってフレームレートが出なくなりやすい(VRAM使用量も多いに関係する)ためである。フルHDにおけるVRAM平均使用量は7.7GB前後である。



画質高+RT OFF設定でもVRAM消費量が7GBを超えるため、RTX 5060 Ti 8GBでは若干性能にハンデが付いてしまうことが分かる。差をなくすには画質中設定にまで下げる必要性があるが、今回の検証環境ではRTX 5060 Ti 8GBの動作が非常に悪く、画質中設定では完走しなかったため検証はできなかった(RTX 4060 Ti 8GBなどでは完走するので、完全にGPUとのかみ合わせの問題)。
ではこれを画質「ウルトラ」+レイトレーシング「高」+DLSS FGありで実行した場合はどうなるのだろうか? フルHDにおけるVRAM平均使用量は約13GBである。



今度はRTX 5060 Ti 8GBがどの設定でも完走せず。RTX 4060 Ti 8GBやRTX 4060で動いているのだから、RTX 5060 Ti 8GBで完走できないのは謎だ。ドライバの問題もそうだが筆者の環境の問題(いわゆる“おま環”)も多分に含まれていると思われる。
VRAMへのプレッシャーを減らしDLSS FGをOFFにして検証しているため、メモリ帯域の細いRTX 4060 Ti 8GBなどでもそこそこ動けている印象。RTX 5060 Tiの2モデルでは解像度が低いほどTBPが低くなっているが、これは低解像度ではGPUが遊んでいる、もしくはメモリアクセス頻度がそれほど高くないことを示唆している。
The Elder Scroll IV: Oblivion Remastered
先日公開されたThe Elder Scroll IV: Oblivion Remasteredでは、画質は「中」、DLSS“クオリティ”およびフレーム生成も有効化、さらにRTX 5060 TiにおいてはNVIDIA Appを利用しDLSS MFG(Multi Frame Generation)の“3x”設定も付与したパターンも追加している。“ウェイノン修道院”より一定のコースを移動した際のフレームレートを計測した。フルHDにおけるVRAM平均使用量は約7.1GBである。



画質を中設定にしてVRAM使用量を抑えたものの、解像度が高まるほどにRTX 5060 Ti 8GBが16GBに引き離されていくことが分かる。フルHDはVRAMのハンデはないがWQHDではRTX 5060 Ti 8GBのフレームレートが急激に息切れする。ただWQHDでDLSS MFG 3xを併用するとRTX 5060 Ti 16GBと8GBに差が出なくなる点を考えると、なんらかの理由でRTX 5060 Ti 8GBはパフォーマンスを出し切れていないと判断すべきだろう。
ただ4KではVRAM平均使用量が9GBを超えるため、RTX 5060 Ti 8GBは完全に失速する。RTX 5060 Ti 16GBでも4Kでは60fpsを大きく下回ることが発生するため、4KでRTX 5060 Ti 16GBは実用的であるとは言い難い。
では画質「最高」設定の場合はどうなるだろうか? フルHDにおけるVRAM平均使用量は約8.6GBである。



フルHDの段階ですでにRTX 5060 Ti 16GBよりも8GBのフレームレートが低く、VRAM搭載量の少なさがハンデになっていることが読み取れる。解像度を上げるとさらにその傾向が加速するが、4Kでは動作困難な状況になったため検証は見送った。ただ同じVRAM 8GBのRTX 4060 Ti 8GBやRTX 4060が4Kでギリギリ動けているため、ドライバの改善で4Kでも動作するようになる可能性もある。ただRTX 5060 Ti 16GBでも4Kで平均42fps(DLSS FGのみ)であることを考えると、RTX 5060 Ti 8GBでキチンと動作するようになったところで、実用的な性能が出せるとはとうてい考えることはできない。
DLSS MFGを併用するとフレームレートは大きく上昇するのでワットパフォーマンスは跳ね上がる。単なるDLSS FGだけのときのワットパフォーマンスはRTX 4060 TiとRTX 5060 Tiで大差ないことに注目したい。
Grand Theft Auto V Enhanced
名作Grand Theft Auto V(GTAV)にレイトレーシングやDLSSなどの最新技術を盛り込んでリマスターしたGrand Theft Auto V Enahancedも試してみる。画質は「最高値レイトレーシング」とし、DLSS“クオリティー”に設定。RTX 5060 TiはNVIDIA AppでSmooth Motionを有効化したパターンも加えた(グラフ内ではSMと表記)。
テストは、ディレクターモードを使用しLSダウンタウンにおいて夜間&降雨の状況をセットアップし、一定のコースを移動した際のフレームレートを計測した。フルHDにおけるVRAM平均使用量は約7.2GBである。



VRAMの使用量は8GBで厳しいように見えるゲームだが、実際には16GB版と8GB版の差は観測されない。むしろRTX 5060 Ti 8GBのOC設定のアドバンテージがフレームレートに出ていると言える。4KにおけるVRAMの平均使用量は約9GBだが、このゲームではVRAM 8GB環境で動かしてもフレームレートが激減するほどの使われ方はしていない。ゲーム中に「HWiNFO」経由でGPU Memory UsedやDedicatedの値を見て一喜一憂してしまいがちになるが、VRAMが実際足りるか否かはこうして動かしてみるまで分からないのだ。
Smooth Motionを利用するとTensorコアによるフレーム生成がオーバーヘッドになるため、TBPは若干下がるがワットパフォーマンスはほぼ倍になる。
インディ・ジョーンズ/大いなる円環
VRAMをとにかく食うことで知られるインディ・ジョーンズ/大いなる円環も試してみよう。すでにRTX 5060 Ti 16GBレビューの段階でVRAM 12GBでないとフルHDですら動かない(パストレーシングが非常にVRAMを食う)ことが把握できていたので、RTX 5060 Ti 8GBに合わせ画質「中」+パストレーシングはOFFとした(画質中設定以下ではパストレーシングはOFFになる)。DLSS“クオリティー”にフレーム生成も有効化し、RTX 5060 TiではDLSS MFG 3x併用パターンも追加。マップ「サンタンジェロ城」内の一定のコースを移動した際のフレームレートを計測した。フルHDにおけるVRAM平均使用量は約8.3GBである。



画質中設定+パストレーシングなしでは、VRAM 8GBで動かせるのはフルHDが限界である。それ以上の解像度になるとVRAM 8GBのGeForceではフレームレートが一気に下がる。パストレーシングのすごさを体感するにはRTX 5060 Ti 8GBはどうにもスペックが足りないが、パストレーシングさえ抜けばフルHDで快適に遊べるのである。
では画質「高」+パストレーシング「高」設定ではどうなるのだろうか? フルHDにおけるVRAM平均使用量は約8.7GBである。

パストレーシング設定を高にするとフルHDですらこの有様。最低でもVRAMが12GB搭載されていないとゲームは起動すらしないのだ。Indiana Jonesをプレイする人の中でパストレーシングの有効化にどの程度の人が興味を示すかはさておき、プラス1万円でVRAM 16GB搭載モデルにすることで、ゲームの画質設定の選択肢は大きく拡がるのだ。
RTX 5060 Ti 8GB〜RTX 4060において、WQHDのTBPがフルHDに比べ著しく低下しているのは処理が滞り過ぎてGPUが仕事を碌に回せていないことを示している。
60番台GeForceのコスパを判断するには時期尚早?
以上でRTX 5060 Ti 8GBの検証は終了だ。今時のAAAタイトルにおいてVRAM搭載量はメモリ帯域と同様に重要なスペックであり、RTX 5060 Ti 16GBを狙える予算があるならば、RTX 5060 Ti 8GBを選ぶメリットはない。The Elder Scroll IV: Oblivion Remasteredやインディ・ジョーンズ/大いなる円環のようにVRAM搭載量が少ないと画質を絞ってもパフォーマンスが低下するケースもあるため、AAAタイトルを次から次へと遊ぶスタイルの人であれば、8GB版は避けるべき製品と言える。
逆に基本プレイ無料のゲーム、今回で言うならApex Legendsのようなタイトルでは、プレイヤーの間口を拡げるためにVRAMはあまり使わない傾向。そうしたゲーム中心のプレイヤーであれば、RTX 5060 Ti 8GBは少し安くて実用的、かつRTX 4060よりもパワーがあるという評価もできる。費用対効果的に納得がいくかは別だが、この手のGPUの搭載カードは長く販売されることを考えると、“次世代”のGeForceが登場する頃には「コスパよし」として評価されている可能性も考えられる。今すぐビデオカードを買おうという状況でなければ、RTX 5060 Ti 8GBの評価もいま決めてしまう必要もないだろう。