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「高速なゲーマー用SSD」を投入、Micronの新ブランド"Ballistix"にかける意気込みを聞いてきた

「尖った人向け」のブランドとしてCrucialから独立、第一弾は本気のゲーミング製品 text by 石川ひさよし

Senior Product ManagerのJeremy Mortenson氏(左)とSSDを担当するMarketing ManagerのJonathan Weech氏(左)

 COMPUTEX TAIPEI 2016において、BallistixがCrucialから独立したブランドとなることがMicronから発表された。

 Ballistix(バリスティックス)は、これまでCrucialのOCメモリなどに冠されていた名称だが、高性能かつコストパフォーマンスの良さを追求した製品を投入するブランドになるという。その第一弾の製品として投入されるのがゲームに適した性能持つというOCメモリとM.2 SSD。これらは、ハイエンド層や高いゲーム性能を求める尖ったユーザーをターゲットに開発された製品だ。

 ここではCOMPUTEX TAIPEI 2016におけるMicronの発表会で伺ってきた話を紹介しよう。

尖ったユーザーのために製品を開発する「Ballistix」高性能・高コストパフォーマンスな製品を投入

ゲーマー向けを前面に打ち出すBallistix

――これまでのBallistixはどのような製品をどのようなターゲットに販売していくのでしょうか。

[Mortenson氏]Ballistixは、従来Crucialブランドのメモリ製品のなかで、ゲーマーが求めるXMPのようなオーバークロック仕様や低レイテンシといったパフォーマンスを追求する製品に付けられていた名称でした。そしてBallistixブランドになっても、パフォーマンスを求めるユーザーがターゲットである点に変わりはありません。

――それではBallistixが製品シリーズ名から独立したブランドへと変わった理由はどのようなところにあるのでしょうか。

[Mortenson氏]まず一つ目の理由はBallistixのコンセプトをストレートにお客様に伝えるためです。

Crucialブランドのメモリは、JEDECに準拠したPCB基板を用い、規格に対し完全に準拠することで高い安定性を提供してきました。そして長年に渡り信頼を築いてきたことで、今では多くのマザーボードメーカーやPCメーカーに、検証用として使っていただけるメモリになっております。多くの方がCrucial製品=安定動作するスタンダードな製品というイメージを持っているのではないでしょうか。

これがCrucialのスタンダードなメモリモジュール。コストパフォーマンスに優れ、Micron製DRAMの安定性でも定評があり、さらには16GBモジュールのような大容量モデルも用意されている

[Mortenson氏]一方、Ballistix製品群は、パフォーマンスを求めるユーザーにOCメモリなどを投入しており、Crucialの中では少し毛色の異なる製品をラインナップしています。しかし、Crucialのなかでは、オプションの一つといった範囲にとどまり、より高いパフォーマンスを求めるゲーマーやハイエンドユーザーにフォーカスした製品展開を行うことは難しい状況でした。

そうしたなかで、高性能・高品質を求めるユーザーの要望に応えられる製品を投入できる体制を検討した結果、Ballistixを一つのブランドとして独立させることになりました。これにより、製品開発やプロモーションも性能を求めるゲーマーやハイエンド層といった「尖ったユーザー」をターゲットにした展開が可能になります。このように、CrucialとBallistixでは、ターゲットとするセグメントが異なります。この点をハッキリさせたことが、Ballistixブランド独立の大きな目的なのです。

[Weech氏]Ballistix製品群はただ高性能を求めるのではなく、コストパフォーマンスも重要なポイントとして考えています。SSDではCrucialのMXシリーズが大きな成功を収めましたが、これは高コストパフォーマンスな製品であった点が大きな理由といえます。Ballistixでも、コストパフォーマンスの高さを意識した製品開発を行っていく予定です。

DRAM/NANDを製造するMicronグループだからできる開発独自チューンかつ安定性も損なわない製品を開発

Ballistix TX3。M.2、NVMe対応でPCI Express Gen3 x4接続という、現在コンシューマー向けで最も高速なインターフェースを採用して登場

――Ballistix製品は、第1弾としてオーバークロックメモリモジュールとM.2 SSDが発表されました。これらの製品の特徴と、今後の展開についてお聞かせください。

[Weech氏]SSDのBallistix TX3は、最新技術の3D MLC NANDを採用したハイエンドモデルになります。PCI Express Gen3 x4接続でNVMeをサポートし、リードで最大2.4GB/sという転送速度は、とくにリード性能が重要となるゲーミング用途に最適です。同時に、ライトで最大1GB/sの転送速度は、写真や映像などのコンテンツ制作における制作時間の短縮にも貢献すると考えております。

ゲーム向けの特性を持ったモデルではありますが、コンテンツ制作にも適したモデルといえます。コンテンツ制作という点では耐久性も重要になりますが、3D MLC NANDのアドバンテージ、そして独自のデータ保護機能「RAIN」による信頼性の高さも重要なポイントとなるでしょう。

高性能と高信頼という2つの点をクリアしたBallistix TX3は、ハイスペックを求めるお客様に広く利用していただける製品です。また、こうした製品の投入は、Crucialとは異なる新しいセグメントのお客様を得るチャンスだと考えており、Micronのブランドを拡大するという意味でもとても重要なのです。

テスト用の試作基板。2枚が動作する状態でデモされていた。RAIDは組まれておらず、単体の性能はリード2.4GB/s、ライト770MB/sを示していた。

[Mortenson氏]これまでのBallistixメモリは、とくに日本で展開されている製品に関しては、オーバークロックメモリではあっても、比較的JEDECのクロックから大きく外れないものが中心だったかと思います。積極的にクロック競争に参加していたとは言えません。しかし今後はより積極的に高クロックのオーバークロックメモリを展開していきます。

今回、「Sport LT(スポーツ エルティー)」、「TACTICAL(タクティカル)」、「ELITE(エリート)」という3シリーズの展開を発表しました。動作クロックで言えば、SportLTは2400MHzまで、TACTICALは2,666~3,000MHz帯を、最上位のELITEでは3,200MHz以上を想定しています。「Good」、「Better」、「Best」といったイメージです。デザインの点では、Ballistixは全モデルでヒートシンクを搭載しています。Heavy、Solidといったゲーミングをイメージしたヒートシンクになります。

BallistixのSportLTシリーズのメモリモジュール。3色のカラーバリエーションでマザーボードとのコーディネートもできる
TACTICALシリーズはSportLTよりも高クロックで、専用のヒートシンクデザインを採用
最上位のELITEはDDR4-3200超クラス。温度センサーを搭載するほか、専用デザインのヒートシンクは放熱効果を追求した構造
マザーボードメーカー各社との間でチューニングを行い相性を解消していく

――クロックという点では分かりやすいですが、そのほかにCrucialのメモリとBallistixのメモリに違いはあるのでしょうか。

[Mortenson氏]定格での安定動作を目指しているCrucialのメモリと、より高クロックで動作するBallistixのメモリでは異なります。BallistixはJEDECスタンダードのガーバーデザインをベースとしつつも、Ballistix専用設計の基板を起こしています。同時に、搭載するコンデンサや抵抗などの部品も異なりますので、基板をよく見ればお分かりいただけると思います。ほか、最も高クロックで動作するELITEシリーズには、基板上に温度センサーを搭載しています。

また、チューニングという点も重要となります。より多くのマザーボードで安定動作するよう、メーカー各社と協力して開発しています。

――Ballistixメモリに関しては、SportLTが「Good」、TACTICALが「Better」、ELITEが「Best」といったグレード分けをされているとのことですね。では現在まだ1製品のSSDも、今後、製品が出揃った時にはこのようなグレード分けを検討されるのでしょうか。

[Weech氏]いずれは必要だと考えております。とはいえまだBallistix TX3の1製品ですので、Ballistix TX3は中間、Betterのポジションと捉えていただければよいかと思います。ライバルのNVMe SSDのバリエーションやユーザー層を見れば、さらにパフォーマンスの高い「Best」クラスの製品が求められますし、コストパフォーマンスを求める「Good」クラスの製品も求められるでしょう。ただし現在はまず最も求められる部分に対し、まず第1弾の製品をリリースしたという状況です。今後のラインナップ拡充にご期待ください。

――ところで、CrucialもBallistixもメモリモジュールとSSDを扱っておりますが、開発は分かれているのでしょうか。

[Mortenson氏]BallistixとCrucialで分かれているところもあり、一緒に行うところもあります。チーム分けはCrucialとBallistixというより、メモリモジュールとSSDといった分かれ方になりますがリソースは共有しています。これまでCrucialは安定性を重視しJEDECに準拠することにリソースを注いできましたが、Ballistixではオーバークロックにリソースを注ぐことが可能になりました。

[Weech氏]これまでSSDはMicronのストレージ部門(SBU)と共同でその分野の専門家を招き製品を開発してきました。さらにNVMeやSerial ATAの専門家をチームに迎え、協力を受け製品を開発できるようになりました。

SSDは3D NANDで一気に大容量化?フローティング方式を採用で高い信頼性と大容量を実現

BallistixのSport LT SO-DIMMとTX3 SSDをIntel製NUC「Skull Canyon」(NUC6i7KYK)に搭載したデモ機も展示されていた

――Ballistix TX3とCrucial MX300、今回発表された2つのSSDで用いられている新技術、3D NANDについてお聞かせください。まず、今後は3D NANDが主流となっていくのでしょうか。

[Weech氏]全てが3D NANDに移行するわけではなく、2D NANDも継続していきます。ニーズに合わせ、用途に適したものを投入していく予定です。

――NANDフラッシュメモリでは、これまでSLCからMLC、TLCと新技術が登場する際、常に耐久性という点が焦点となってきました。3D NANDではいかがでしょうか。

[Weech氏]Crucialでは、BX200でTLC NANDを採用しましたがその際、1世代前でMLC NANDを採用していたBX100に対して同等の耐久性(72TBW)を実現しました。今回、Crucial MX300では新技術の3D TLC NANDを採用しつつ400TBW(2TBモデル)を実現しています。TLCのBX200に対して飛躍的に耐久性を高めておりますし、MXシリーズ内での比較でもMLCのMX200が320TBW(1TBモデル)だったのでこれを上回っております。

3D TLC NANDを採用するCrucial MX300 SSD。インターフェースはSerial ATA 3.0で、2.5インチ型とM.2型で展開される。なお、2TBモデルは2.5インチ型のみで、M.2型は1TBまで
フローティングゲート方式を採用するMicronの3D NAND

[Weech氏]3D NANDで高い耐久性を実現できるヒミツはフローティングゲート方式の採用にあります。フローティングゲートは従来のNANDでも使われてきた技術であり新しいものではありませんが、これを受け継ぐことで3D NANDという新技術を投入しつつさらなる設計変更を抑えることができ、最終的に高い品質と信頼性を実現できました。

一方で、3D NANDのメリットは1チップあたりの容量密度を飛躍的に向上させられる点にあります。Micronの3D NANDでは積層セルを32層とし、合わせてロジックICとなるCMOS回路をメモリアレイの下に配置することでダイサイズの拡大を抑えています。これにより、1チップあたりで3D MLC NANDでは32GB、3D TLC NANDでは48GBという32層3D NANDダイとしては最高のGb/平方mmを実現しています。

Micron直系のこだわりやメリットはそのまま、Ballistixは新たなユーザー層を開拓

――CrucialやBallistixのメモリモジュールやSSDの強みはどのようなところにあるのでしょうか。

[Mortenson氏]やはり常にベストなシリコンを使えるところでしょう。メモリモジュールの要であるDRAM、SSDの要であるNANDを製造するMicronの直系として、特性を熟知した上で開発できることは、信頼性や高速性という点で非常に重要であると考えています。

――Ballistixブランドについて最後になにかありましたらどうぞ。

[Mortenson氏]Ballistixの製品情報ページはこれまでCrucial製品情報サイトのなかにありました。しかし、今回独立を果たしたことで、専用のサイトを構築することができました。専用サイトを構築できたことにより、Ballistix製品群をより多くの方に知っていただくことが可能になったと思います。今後はこれまで以上により積極的にゲーマーが求めるパフォーマンスとスタイルを提案していきます。また、BallistixブランドでもこれまでのMicronブランドを支えてきたパフォーマンスと価格のバランスを継続していく姿勢です。今後の展開、製品の発売にご期待ください。

――ありがとうございました。

[制作協力:Micron]

石川 ひさよし