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PlextorのNVMe SSD「M8Se(G)」を試す、ヒートシンクの効果で動作温度は10度低下
text by 石川ひさよし
2017年10月30日 00:00
今回はPlextorの最新SSD「M8Se」をテストする。シリーズ最初の製品は2017年上半期から販売されていたが、M.2 NVMeモデルのヒートシンク付きとなる「M8Se(G)」のみ少々遅れて登場した。すでに発売中のヒートシンクなしモデル「M8SeGN」とどう違うのかを試してみたい。
なお、M8SeGNやM8Se(Y)については以前の記事で紹介しているので、あわせて参考にしていただきたい。
形状で3モデルをラインアップするM8Seシリーズ
M8Seシリーズ自体は、東芝製TLC NANDを採用したSSDである。既存の製品ラインナップには、ヒートシンク付きPCI Expressカード型(PCIe HHHL)の「M8Se(Y)」および、前述のM.2でヒートシンクなし「M8SeGN」があった。これにM.2ヒートシンク付きの「M8Se(G)」が加わり、全3モデルが揃った格好となる。接続インターフェースは現行最新のPCI Express 3.0 x4であり、NVMeにも対応する。
転送速度はリードが最大2,450MB/s、ライトが1,000MB/sということで、3モデル共通だ。転送速度の点で見れば、最速の製品ではない。TLC NANDを用いてコストを抑え、PCI Express NVMe対応のコントローラを採用することで速度を狙っている。
ではなぜ3モデルもあるのかと言えば、使いどころにあわせた冷却機構が用意されているためである。冷却面でもっともよいのはPCIe HHHL型のM8Se(Y)であることは間違いない。もっとも大きなヒートシンクを搭載しているためだ。ただし、PCI Expressカードであるため、これを利用できるのは拡張スロットに余りのあるデスクトップPCに限られる。続いて、ヒートシンク付きのM.2モデルM8Se(G)は、冷却と省スペースを両立させる製品と言える。ただしヒートシンクの高さがあるため、M.2であるがノートPCに搭載することはスペース的に難しく、ゲーミングやクリエイティブ環境向けのデスクトップPC用だろう。最後のM8SeGNは、ヒートシンクがないことから冷却性能で見ればもっとも弱いものの、サイズの制約はなく、ノートPCにも装着できる。
ここまでヒートシンクにこだわる理由は、NVMe対応コントローラチップやNANDチップの発熱にある。転送速度が速ければ速いほど、そこに流れる電気は多く、発熱も大きくなる。Serial ATA 3.0接続モデルと比べ、シーケンシャルリードで4倍も速いわけだから、NVMe対応モデルが冷却にシビアなのは当然だ。そして、電子機器であるSSDには、動作に適した温度域というものがある。発熱が限界に近づけば、故障を防ぐために保護機能が働く。温度を下げるために、転送速度を抑えるわけだ。これをサーマルスロットリングと呼んでいる。SSDの性能を常に最高のものとするためには、このサーマルスロットリングを生じさせないだけの冷却が必要というわけだ。
このほかに、価格面も3モデルは異なる。PCe HHHL型のM8Se(Y)は同じ容量でももっとも高く、次いでヒートシンク付きのM8Se(G)、ヒートシンクのないM8SeGNはもっとも安い。ただし、例えば安いからとヒートシンクのないM8SeGNを買い、組み込んでみたらサーマルスロットリングが生じ、結局ヒートシンクを購入して装着するといったことになると、トータルコストでM8Se(G)を超えてしまうといったことも考えられる。こうした理由で、ヒートシンク付きのM8Se(G)モデルが存在するわけだ。
速度検証 - 後発のM8Se(G)のほうがわずかに速い傾向
では、M8Se(G)とM8SeGNの2つの違いを検証で明らかにしていこう。まずは速度検証としてCrystalDiskMark 5.2.2 x64で転送速度を計測してみた。
基本的に同一製品であるため、転送速度の違いは小さい。シーケンシャルリード(Q32T1)は、2,480MB/s前後。同ライトはM8Se(G)が1,000MB/s前後で、M8SeGNは980MB/s台後半といったところだ。4K(Q32T1)では、リード/ライトともにM8Se(G)がM8SeGNと比べて50~60MB/s程度速い傾向が見られた。シーケンシャルリード/ライト(Q1T1)、4Kリード/ライト(Q1T1)は、わずかにM8Se(G)のほうがよい値だが、大きくは変わるものではない。
次にCrystalDiskMarkよりも計測時間の長いPCMark 8のStorageを計測したが、サーマルスロットリングが生じた様子はない。スコアも概ね誤差の範囲である。
温度検証 - M8Se(G)のヒートシンクの効果は10℃前後
温度のテストパターンは、ケースファンなしの状態とケースファンを当てた状態の2つで計測してみた。温度ログの取得にはHWiNFO64を用いている。
まずアイドル時の最小温度、高負荷(CrystalDiskMark 5.2.2 x64を実行中)時の最大温度を見てみよう。ファンなしの状態ではアイドル時が51℃で同じだが、高負荷時で違いが生まれた。M8SeGNは最大72℃に達したが、M8Se(G)は67℃で、両者に5℃の温度差が生じた。これは、M8Se(G)のヒートシンクによって放熱面積が拡大した効果と言えるだろう。
続いてケースファンを当てた場合、アイドル時は43℃で並んだ。これはケースの前面ファンから風を当てるだけだったが、先のファンなしのアイドル時と比べて8℃も低い値になった。そして高負荷時の温度はM8SeGNが62℃、M8Se(G)が55℃。それぞれファンなしの時と比べて10℃以上低くなっているものの、温度差は7℃に広がっており、ヒートシンク付きのM8Se(G)のほうがより冷却できているようだ。
また、もう一つログから温度推移をグラフ化してみた。2つの製品の違いがよく現れているのは開始200秒あたり。それまでのテストで温度が上昇しているところに、さらに負荷がかかってもう一段上昇するのだが、M8Se(G)はゆるやかに上昇するが、M8SeGNは大きく上昇している。
FLIRで撮影した映像も確認しておこう。HWiNFO64のチップ温度とは異なる値になるが、傾向自体は同じ。温度がより低いのはヒートシンク付きのM8Se(G)だ。また、ファンなしの状態ではSSDの周辺などにより温度の高い黄色で表された領域ができている。
後からヒートシンクを買うよりもM8Se(G)のほうが手軽でお得?
ここまでM8Se(G)とM8SeGNを比較してきたが、基本的に性能面ではほぼ同じだ。CrystalDiskMarkで多少の差が生じているが、あくまでも後発のM8Se(G)のほうがファームウェアのチューニングが進んでいるのかもしれない、といった程度だ。
その上で、M8Se(G)は冷却性能がM8SeGNよりもよい。M8SeGNも、ヒートシンクを後から装着すれば冷却性能を高めることができるが、それの手間とコストを考えれば、M8Se(G)のほうがお手軽だ。両者の価格差は2,000円前後でしかない。
いちおう、ケースファンのありなしで計測しているが、27℃程度の室温のなか、バラック状態でテストしても、サーマルスロットリングは生じなかった。つまり、M8Seシリーズの発熱自体はそこまで大きくはない。ただし、Serial ATA SSDと比べれば大きいので、冷却が重要であることは間違いない。マザーボードによっては、CPUと1番目のPCI Expressスロットの中間や、Mini-ITXマザーボードなどでは基板裏といった具合で、冷却の難易度の高い場所にM.2スロットを配置しているものもあり、こうした環境でM8Se(G)はさらに力を発揮するだろう。自身の環境や用途にあわせて3ラインナップから選んでいただきたい。
[制作協力:Plextor]