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Core i7-8086K Limited Editionは50年のIntel史上最強のゲーミングCPU!?

40年前の8086プロセッサ搭載の初代PC-9801とのベンチ比較も! text by 鈴木雅暢

Core i7-8086K Limited Edition

 Intel創業50周年記念、およびIntel 8086プロセッサ発売40周年記念モデルとして「Core i7-8086K Limited Edition」が発売された。

 6コア/12スレッド対応で動作周波数は基本4GHz、Turbo Boost時最大5GHz、現行最高速モデルのCore i7-8700Kとコア/スレッド数は同じで周波数はいずれも300MHz上回る。このスペックは動作周波数が効くゲームユースにおいてとくに期待が持てる。早速実物を入手したので、ベンチマークを走らせてみた。

世界初のx86プロセッサの名を受け継ぐ特別モデル

右がCore i7-8086K Limited Edition、左がCore i7-8700K。ヒートスプレッダの形状は共通で、刻印以外、外観に違いは見られない

 Core i7-8086K Limited Editionの名称は、Intelが開発し、1978年に発売された16bitプロセッサ「Intel 8086」にちなんだものだ。

 このIntel 8086は、NECのPC-9801などに採用されたほか、これをベースに外部データバスを8bitとした「Intel 8088」がIBM PCに採用され、普及。その後32bitの「IA32」、64bitの「x64(Intel 64/AMD64)」へと拡張されて現代にいたる。この系統のIntelの命令セットアーキテクチャを総称して「x86アーキテクチャ」と呼ぶことがあるが、その「x86」はこのIntel 8086に由来している。まさに現代コンピュータの根源となるプロセッサと言ってよいだろう。

裏面。右がCore i7-8086K Limited Edition。左のCore i7-8700Kとは細かい部品を含めて違いがない

シングルスレッドを強化、定格動作で最大5GHzに到達

 Core i7-8086K Limited Editionのスペックを見るとコア数は6で対応スレッド数は12、動作周波数は基本4GHz、Turbo Boost時最大5GHz。動作周波数はいずれも現行最高速モデルのCore i7-8700Kを300MHz上回る内容となっている。TDPは95Wだ。

【Core i7-8086K Limited Editionのスペック】
Core i7-8086K Limited EditionCore i7-8700K
開発コードネームCoffee Lake-SCoffee Lake-S
コア/スレッド数6C12T6C12T
基本周波数4GHz3.7GHz
Turbo Boost時最大周波数5GHz4.7GHz
L3キャッシュ容量12MB12MB
対応メモリDDR4-2666×2chDDR4-2666×2ch
内蔵GPUIntel UHD Graphics 630Intel UHD Graphics 630
GPUコア数24EU24EU
GPU周波数350~1,200MHz350~1,200MHz
プロセスルール14nm++14nm++
TDP95W95W
主な拡張命令SSE4.1/4.2、AVX2SSE4.1/4.2、AVX2

 なお、公式スペックとしては公開されていないのだが、Intel Turbo Boost Technology 2.0では、アクティブコア(負荷がかかっているコア)の数ごとに動作周波数の上限が決まっている。実際に動作させてTurbo Boostのアクティブコア別の上限を調べてみると、Core i7-8700KとCore i7-8086K Limited Editionの違いは1コアアクティブ時のみで、これが5GHzへと引き上げられている。このことからシングルスレッドに特化して強化されていることが分かる。

【定格のアクティブコア別上限周波数(筆者調べ)】
基本周波数最大周波数1C時2C時3C時4C時5C時6C時
Core i7-8086K4GHz5GHz5GHz4.6GHz4.5GHz4.4GHz4.4GHz4.3GHz
Core i7-8700K3.7GHz4.7GHz4.7GHz4.6GHz4.5GHz4.4GHz4.4GHz4.3GHz

 ただ、リアルタイムに周波数がモニタできるツールで実際に5GHz表示を出すのは難しい。と言うのも、この仕様だと、5GHzで動作するのは本当に1コアにしか負荷がかかっていないときのみであるからだ。

 Windows 10はマルチタスクOSであり、ほぼ常時バックグラウンドで複数のプロセス(プログラムの1単位)が走っており、モニタツールのプロセスも存在する。ユーザーがシングルスレッドのアプリを一つだけ使っているつもりのときでも実際にアクティブコアは一つとは限らない。そのため、実際に5GHz動作の恩恵が実益として受けられる場面もかなり限定されることが予想される。

ASUSTeKのマザーボードの場合、付属する「AI Suite III」のTPUツールでアクティブコア別の倍率を確認することができる。UEFIセットアップで確認できる製品もある
CPU-Zなどのツールを使えばリアルタイムでCPUの周波数が確認できる。シングルスレッドでCGレンダリングを行なうCINEBENCH R15のCPU(シングルコア)を実行している最中でも4.5~4.6GHzの表示が多いが、ごくまれに5GHz表示が出る瞬間がある

CEOのメッセージカードも同梱された特別アニバーサリーパッケージも魅力

 Core i7-8086K Limited Editionは、リテールパッケージも、記念モデルらしい特別仕様だ。厚みのあるしっかりした化粧箱で、中には記念モデルあることを示す証明書、Intel CEOであるBrian Krzanich氏の署名入りのメッセージカードが同梱されている

Core i7-8086K Limited Edition(右)とCore i7-8700K(左)のリテールパッケージ。デザインイメージは共通だが、前者はやや厚みのある化粧箱となっており、記念モデルらしい存在感がある
リテールパッケージの裏側。右がCore i7-8086K Limited Editionだ
Core i7-8086K Limited Editionのリテールパッケージの内容物。記念モデルあることを示す証明書、CEOであるBrian Krzanich氏の署名入りのメッセージカードが同梱されている

40年の進化はいかに? 初代PC-9801とベンチマーク対決

 さて、今回はAKIBA PC Hotline!で「ボクたちが愛した、想い出のレトロパソコン・マイコンたち」を連載している佐々木 潤氏から機材と技術サポートを得て、Intel 8086互換(Intelからライセンスを受けたセカンドソース品)のNEC μPD8086(5MHz)が搭載された初代PC-9801とCore i7-8086K Limited Edition(最大5GHz)の最新システムをベンチマークテストで比較してみた。40年の時を経て動作クロックは5MHzから5GHzへと1,000倍に高速化したわけだが、はたしてどんな結果になるだろう?

佐々木 潤氏に用意してもらった初代PC-9801環境

 両方のシステムで動作するベンチマークテストプログラムとして、「ZOB.Club」(http://zob.club/zob/)が配布している「CPUBENCH 0.99c」を利用させていただいている。1982年に初代バージョンが公開された整数演算ベンチマークテストで、現在配布されている最新のバージョン(v0.99c)では1996年のクレジットが入っている。

 PC-9801ではFDDから日本語MS-DOS 3.3Cを起動し、プログラムもFDDから実行するわけだが、当時とはFDDのインターフェースやフォーマット規格の違いなどもあって、CPUBENCHをPC-9801で読み込めるようにするだけでも一筋縄でいくものではない。佐々木氏のサポートにより、なんとか実現することができた。なおメモリは標準の128KBから384KBへ増設している。

カバーを開けると、メイン基板の上部にもう1枚大きな基板が装着されており、それを外すとCPUが見える
これがx86アーキテクチャに対応した最初のCPU「Intel 8086」だ(正確にはセカンドソースのNEC μPD8086)。表面のプリントは「NEC」、「JAPAN」、「8224E9」、「D8086D」とある

 さて、このベンチマークテストは、Dhrystoneを3万回ループし、実行時間とともに初代PC-9801との差を倍率で表示するのだが、実際に今回用意した初代PC-9801の実機で実行すると「1.23倍」、「55秒802.3ms(ミリ秒)」と出た。なぜ1倍でないのかは今回の短い検証時間では突き止められなかったが、40年前のCPUの実力を知る目安にはなるだろう。

 一方、最新のCore i7-8086K Limited Editionのシステムでは、USBメモリからFreeDOS 1.2を起動して実行した。結果は、PC-9801に対する倍率が「4,745.85」、実行時間は「14.6ms」であった。実機ベースの比較では「約3,858.41倍(4,745.85を1.23で割って算出)」の性能ということになる。体感では「1分」と「一瞬」の違い、スコアにして4、5千倍もの差だ。むろんマルチスレッド対応をはじめとするさまざまな最新スペックを加味すれば真の性能差はこんなものではない。

初代PC-9801環境でCPUBENCHを実行した結果
Core i7-8086K Limited EditionシステムでCPUBENCHを実行した結果。「4745.85倍」、実行時間は「14.6ms」であった。なお、CPUは「Pentium 3431MHz」と認識されている

Core i7-8086K Limited Editionは最強なのか? Core i7-8700Kと比較

 初代からの40年の進化を確認したところで、今度はCore i7-8700Kとベンチマークテストで比較してみよう。テストに利用した環境は以下の表のとおりで、CPU以外は完全に共通である。

【検証環境(CPU以外はすべて統一)】

マザーボード:ASUSTeK ROG STRIX Z370-F GAMING(UEFI:0616)
メモリ:Crucial Ballistix BLT2K8G4D26AFTA(PC4-21300 DDR4 SDRAM 8GB×2)
ビデオカード:NVIDIA GeForce GTX 1080 Ti Founders Edition(ドライバ:NVIDIA Display Diver 397.93)
ストレージ:Samsung SM961(512GB、3D MLC)
電源:Seasonic SS-660XP2S(660W、80PLUS Platinum)
OS:Microsoft Windows 10 Pro 64bit(1803)
CPUクーラー:Thermaltake Floe Riing RGB 280 TT Premium Edition
電力計:Electronic Educational Devices Watts up? PRO
電源プラン 高パフォーマンス
6/12更新 初掲載時にビデオカード名を「GALAKURO GK-GTX1070Ti-E8GB/WHITE」と記載しておりましたが、正しくは「NVIDIA GeForce GTX 1080 Ti Founders Edition」になります。お詫びして訂正いたします。

定番ベンチプログラムの結果

 まずは定番のベンチマークテストとして、「CINEBENCH R15」、「PCMark 10」、「WebXPRT 3」を実行した。

 シングルスレッドでCGレンダリングするCINEBENCH R15のCPU(シングルコア)ではCore i7-8086K Limited Editionのシングルスレッド強化の効果が確認できる差が出ている。マルチスレッドでCGレンダリングをするCINEBENCH R15のCPUスコアはほぼ同じだったが、これは前述の仕様的に妥当だろう。

CINEBENCH R15のスコア。CPU(シングルコア)でCore i7-8086K Limited Editionが少し高速だ

 システムの総合的な性能を計測するPCMark 10では、ビジネススイートを複数使った作業をシミュレートするProductivityで少しCore i7-8086K Limited Editionがよいスコアだった。また、ブラウザベースでWebアプリの実行性能を計測する「WebXPRT 3」でも小差ながらCore i7-8086K Limited Editionのほうがよいスコアをマークした。いずれもシングルスレッド処理作業がそれなりに含まれているので、周波数差がスコアに現われたのだろう。

PCMark 10(1.0.1493)のスコア。ProductivityでCore i7-8086K Limited Editionが少し速い
Web XPRT3(Edgeブラウザで実行)のスコア比較。わずかではあるが、Core i7-8086K Limited Editionのほうがよいスコアだった
Web XPRT3(Edgeブラウザで実行)の項目別スコア。Stock Option Pricing以外はすべてCore i7-8086K Limited Editionのほうがわずかながらよいスコアだ

クリエイティブアプリの実測結果

 Photoshop CC 2018では、レンズ補正、ノイズの低減、スマートシャープの各フィルタをかけ、回転、切り抜きを行ない、JPEGで書き出す処理をアクション(バッチ処理)に登録し、RAWデータ(Nikon D810)に対して10枚連続で行なうのにかかった時間を計測した。

Photoshop CC 2018のバッチ処理にかかった所要時間。Core i7-8086K Limited EditionとCore i7-8700Kの間に差はなかった

 Premiere Pro CC 2018では、7本の4KクリップをトランジションエフェクトでつないだプロジェクトをメディアファイルへH.264、H.265それぞれのコーデックを使って出力(エンコード)する時間を計測した。

Premiere Pro CC 2018でメディア書き出し(エンコード)にかかった時間を測定した。こちらも両CPUの差は誤差と言ってよい差だ

 どちらもCore i7-8086K Limited EditionとCore i7-8700Kの間にはっきりした差は見られなかった。Photoshop CC 2018はコア/スレッド数だけでなく動作周波数の影響も反映されやすい内容だが、8086Kが強みを発揮するアクティブコアが一つのみという状況にはならないようだ。

3Dゲーム/VR系テストの結果

 3DMark、VRMarkに加えて、FINAL FANTASY XIV:紅蓮のリベレーターベンチマーク、FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITIONベンチマークの結果を掲載した。

  3DMarkでは、Fire Strike、Time SpyともCore i7-8086K Limited Editionのほうがよい傾向があり、差は主にGraphicsで付いている。GPUのちょっとしたブーストの具合かもしれないが、シングルスレッド強化でCPUのボトルネックが解放されている部分があるのかもしれない。

3DMark v2.4.4264(Fire Strike)の結果。若干Core i7-8086K Limited Editionのほうがよいが、誤差の範囲内でもある
3DMark v2.4.4264(Time Spy)の結果。やはりCore i7-8086K Limited Editionがよく、Fire Strikeより少し差が大きい

 VRMark、そしてFINAL FANTASY XIV:紅蓮のリベレーターベンチマークとFINAL FANTASY XV WINDOWS EDITIONベンチマークは、Core i7-8086K Limited Editionが勝っているものとCore i7-8700Kが勝っているものがあるが、いずれも差は少しであり、ちょっとしたOSの状態などによる誤差ではないかと思われる。

VRMark v1.2.1701の結果。両CPUに差は見られない
FINAL FANTASY XIV:紅蓮のリベレーターベンチマーク(最高品質、フルスクリーン)の結果。解像度によって違うが、誤差だろう
FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITIONベンチマーク(標準品質、フルスクリーン)の結果。Core i7-8086K Limited Editionが少しよいが、差は少ない

実ゲームベースのテスト結果

 実ゲームベースのテストとして、Tom Clancy's Ghost Recon Wildlands、PUBG(PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS)を使った。Tom Clancy's Ghost Recon Wildlandsでは、内蔵のベンチマーク機能を利用して計測した。また、PUBG(PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS)は、リプレイデータを使い、パラシュートで着地した直後から3分間のフレームレートをFRAPSで計測して比較した。

Tom Clancy's Ghost Recon Wildlandsに用意されているベンチマーク機能を利用した比較(1,920×1,080ドット、フルスクリーン、最高)。両CPUでほとんど違いがない
Tom Clancy's Ghost Recon Wildlandsに用意されているベンチマーク機能を利用した比較(2,560×1,440ドット、フルスクリーン、最高)。Core i7-8086K Limited Editionの最低フレームレートが若干よい
PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS(1,920×1,080ドット、ウルトラ、フルスクリーン)。両CPUではっきりした違いは見られない
PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS(2,560×1,440ドット、ウルトラ、フルスクリーン)。両CPUではっきりした違いは見られない

 どちらでもはっきりした差は認められない。どのテストでも小差ながら最低フレームレートではCore i7-8086K Limited Editionのほうがよい傾向にあることは指摘できる。

システム全体の消費電力

 最後に消費電力を見よう。シングルスレッド、マルチスレッド関係なく、全般的にCore i7-8086K Limited Editionのほうが不可解なほど高く出ている。これは周波数の影響と言うよりは、個体差の問題ではないかと思われる。筆者はこれまで複数のCore i7-8700Kをテストしてきているが、CPUの固体によってかなり消費電力が異なることを確認している。比較対象として使っているCore i7-8700Kは筆者が市販品を購入したものだが、これまでテストした中でも比較的消費電力や温度が低い傾向があることが分かっている。

 また、Turbo Boostの電力リミッターが外れてしまっているような消費電力の出方でもある。同じ個体でもUEFIの最適化で改善される可能性もある。

システム全体の消費電力の比較。テストの種類にかかわらず、Core i7-8086K Limited Editionのほうがかなり高かった

x86アーキテクチャの歴史を感じられるアニバーサリーモデル

 Core i7-8086K Limited Editionは、Turbo Boost時の最大周波数とはいえ、Intelのコンシューマ向けCPUとして初めて5GHzに到達した製品だ。

 この5GHzという数字から性能面を期待したユーザーにとっては、ベンチマークテストの結果は少し意外だったかもしれない。しかし、1アクティブコア時のみ5GHzという仕様が確認できた段階で予想できたことでもある。せめて2コアアクティブ時の周波数も5GHzに設定されていれば、アドバンテージがある場面は多く存在したのでは、という意見もあるだろう。それに関しては、Core i7-8700Kと同様にアンロック仕様なので、自分でIntel Turbo Boost Technology 2.0の上限周波数をカスタマイズして希望の仕様にすることはもちろん可能だ(メーカー未保証の動作)。

 もっとも、Core i7-8086K Limited Editionが性能面で8700Kに負ける部分がないのも事実。少しでもゲーミングパフォーマンスを高めたいのであれば有力な選択肢になる。ゲーマー以外にとっても魅力は大きい。ヒートスプレッダに刻まれた「8086K」の文字は、通常モデルにはない特別感があるし、CEOのメッセージカード、高級感ある包装など、Intelの歴史、およびx86アーキテクチャの歴史を感じられる要素がちりばめられている。Intelの熱心なファンならば、手に入れる価値は大いにある製品だろう。

ヒートスプレッダに刻まれた「8086K」という数字は、最近のプロセッサー・ナンバーの傾向にないだけにとても新鮮に映る。x86アーキテクチャの記念モデルとして所有欲を刺激する要素の一つだ

本日6月8日(金)21時よりCore i7-8086K Limited Editionを生動画レビュー!

 初代8086との40年越しのベンチ対決も本日21時より、“KTU”こと加藤勝明氏とDOS/V POWER REPORT編集長佐々木がCorei7-8086K Limited Editionを生動画配信でレビューします。なんと初代8086プロセッサを搭載した初代PC-9801も用意して40年越しの新旧ベンチマーク対決も敢行。“改造バカ”高橋敏也氏は台北出張中なのでネット参加の予定です。

【「40年前のIntel 8086(5MHz)と最新のCore i7-8086K(5GHz)をベンチで比較!」本ナマ!改造バカ 第44回】