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80PLUSは品質を見るものではなかった?CORSAIRが語る10年保証電源のこだわり
保証期間ギリギリまで使わない方が良い?メーカーが考える品質と保証 text by 石川ひさよし
2018年11月27日 06:05
CORSAIRと言えばもはやゲーミング向PCパーツ/デバイスの大手と呼んで差し支えないだろう。
LEDを搭載したOCメモリに、水冷CPUクーラーやPCケース、そしてキーボードやマウスなどのゲーミングデバイスに加え、ゲーミングチェアまで幅広く取り扱っている。そんなCORSAIR製品のなかにあって根強い人気を持つのが電源ユニットだ。
今回は、CORSAIR製電源ユニットの2018年モデルに関して、本社でPSUエンジニアリングディレクターを務めるJohnny Guru氏にインタビューすることができたので、設計のこだわりや最新モデルの改良点などを聞いてみた。
また、メーカーが考える品質の見方や、電源買い換えのタイミングなどの回答も得られたので、CORSAIRファンに限らず、電源の品質や寿命などを気にするユーザーも是非チェックしてもらいたい。
【記事目次】
・RMx(2018)シリーズは筐体内のエアフローを改善し、さらに静音化
・コンデンサの組み合わせで変わる効率と品質
・実は80PLUS認証だけではわからない電源の品質
・今後の電源トレンドはIntelの新ガイドライン対応品
RMx(2018)シリーズは筐体内のエアフローを改善、さらに静音化
今回メインに聞いたのは今年上半期にリリースされたRMx(2018)シリーズについて。
RMx(2018)シリーズは、550/650/750/850Wと4つの出力がラインナップされている80PLUS GOLD認証のATX電源ユニットだ。フルプラグイン方式を採用し、コンデンサ、ファンともにこだわった設計で、GOLD認証電源としてはハイエンドに相当する。
販売価格は550WのRM550xが税込12,000円前後、ラインナップ中最大出力のRM850xが税込15,000円前後と、入手しやすい価格帯の製品といえる。
――RMx(2018)シリーズはどのような位置づけの製品なのでしょうか
[Johnny Guru氏]RMx(2018)シリーズは、我々の販売する電源のなかでも機能と価格のベストコンビネーションを実現している製品です。フルモジュラーで低ノイズ、さらに変換効率にも優れております。
――RMx(2018)シリーズはRMxの第2世代モデルですが、従来のRMxシリーズとどこが大きく異なるのでしょうか
[Johnny Guru氏]もっとも異なるのは基板設計です。我々はRMx(2018)モデルの開発にあたり、従来モデルでメイン基板とプラグインコネクタ用基板の間に用いていたワイヤ配線をなくすことを目標に掲げました。
――そこにこだわったのはどのような理由でしょうか
[Johnny Guru氏]ワイヤ配線を排したことにより、いくつかのメリットがありました。一つ目はエアフローの改善、二つ目は750/850Wモデルの奥行きを従来モデルより20mm短くすることが可能に、三つ目は工場での組み立てが効率化され、その分品質を高めることができました。
――そのほかの部分は従来モデルと大きく変わらないのでしょうか
[Johnny Guru氏]例えば、ファンは引き続き大口径ライフルベアリングファンを採用しておりまして、性能で前モデルから劣るような部分はありません。
基板などを小型化すると、その分安全性や品質の面で劣ると思われるユーザーさんもいらっしゃるかもしれませんが、電源の異常動作を防ぐスーパーバイザーICには前モデルと同じWeltrend製「WT7502」を採用していますし、全ての地域の安全認定も新たに取得しているので、こうした部分の信頼性も変わりはありません。
――筐体内デザインの改良によりエアフローが改善されたことで、ファン制御にも変化はあったのでしょうか。動作音に違いはありますか
[Johnny Guru氏]ファンコントローラも従来モデルと同様で、低負荷時にファンの回転を止めるZero RPMファンモードの設定にも変更を加えていません。ただし、エアフローが改善した分熱が籠もりにくくなり、内部をより効率よく冷却できるようになったため、動作音は静かになっています。
基板レイアウトはエアフローに大きな影響を与えるため、非常に重要な部分になります。電源ユニットでは、限られたサイズに様々な異なる部品を実装していく必要があります。
例えば、MOSFETを実装するにしても、ハウジングバスバーに実装することができれば、大きなヒートシンクや多くのヒートシンクを搭載する不要がなくなり、基板上のスペースを開放することでエアフローが改善されます。
コンデンサの組み合わせで変わる効率と品質設計は製造メーカーと組んでとことんこだわる
――CORSAIRの電源の設計におけるこだわりを教えてください
[Johnny Guru氏]多くのブランドはすでに存在するOEMモデルの中から選び、それをリブランディングあるいは簡単な変更をしただけで製品として販売することが多いようです。
CORSAIRは電源を開発するにあたり、製品コンセプトを明確に定義することからスタートします。まず仕様を定め、その後に複数の電源開発ベンダーにアプローチし、実際に仕様通りに製造できるのか、製造技術や品質面での確認を行い、仕様を満たすことができるメーカーと組んで製品化します。
電源を製造できる工場は限られるため、製造を委託する部分は他メーカーと同じではありますが、限りなくオリジナルに近い製品をユーザーに提供しているという点は他のOEMモデルを販売するメーカーと大きく異なる部分です。
CORSAIRは、中国、台湾、米国にそれぞれ電源試験装置を備えたラボを構え、エンジニアを配置しています。そのため、地域を問わず製品の開発段階から製造メーカーに深く関与することができます。また、生産段階でも製造工場に品質管理を担当するエンジニアリングチームを置いています。
――RMx(2018)シリーズでは日本製コンデンサ採用がアピールされていますが、コンデンサを選ぶ基準というのはあるのでしょうか
[Johnny Guru氏]コンデンサはスイッチング電源において要と言える部品です。コンデンサごとにホールドアップ時間やリプルノイズ、リプル電流、ノイズフィルタリングなど用途に合わせた使い分けが必要になり、特性が異なってきます。
そして重要なのは、コンデンサの容量も適切なものを選ぶ必要があり、搭載数が多すぎても少なすぎても変換効率はよくならないという点です。
ホールドアップ時間や、リップルとノイズを抑制することと、電源効率を高めることには関連性があり、最も良い組み合わせを選び出しています。また、この部分にはこだわりを持って設計を行っています。
――RMx(2018)シリーズは10年間保証と非常に長いのも特徴になっています、他の電源には無い特別な部分があるのでしょうか
[Johnny Guru氏]我々の電源は、一般的な使用環境温度において24時間×1週間フルロードで動作可能なように設計しています。
それに加え、MTBF(平均故障間隔)とは異なるDMTBF(先頭文字のDは「Demonstrated:実証する」の意)という基準を独自に設け検証し、それに耐えられるモデルを製品として販売しています。このため製品の耐久性にはかなりの自信を持っており、それは保証期間10年というかたちに現れています。
実は80PLUS認証だけではわからない電源の品質信頼性重視の運用なら保証期間内での買い換えを
――電源選びでは、どのような点がポイントになるでしょうか
[Johnny Guru氏]よく知られる基本的な部分ではありますが、まずは必要なコネクタの数から考えるべきでしょう。CPUやビデオカード、ドライブ数などで変わってくる部分なので、どのコネクタをどれだけ必要なのか確認することは重要です。また、システムに合わせた容量を選択することも大切で、容量が足りない場合は不安定になったり危険な状態で使用することになります。
そうした部分を考慮した上で、プラグインケーブル方式か直付けケーブル方式か、ファンノイズなどの動作音はどのくらいか、などなどの点で絞り込んでいくというのがポイントになるのではないでしょうか。
――品質という部分では何を指標にするのがよいのでしょうか
[Johnny Guru氏]勘違いされやすいのですが、80PLUS認証は品質を測る指標では無いということです。あくまで電源効率の良さを見るためのものなのですが、80PLUS認証のグレードが上であればあるほど品質も高いと多くのユーザーを混乱させてしまっています。
また、現行の80PLUS認証制度は、変換効率の正しい指標とは必ずしも言えないと考えております。なぜなら、変換効率を3~4つの負荷率、10%(Titanium認証のみ)、20%、50%、100%でしか判断していないからです。その間の負荷率における変換効率はおろそかにすることもできてしまいます。
実際には、設計の良し悪しや使用している実装パーツの質、製造のクオリティなど、品質を見るには様々な点を見る必要があります。
これらは見えにくい部分でもあるので、一般ユーザーが判断するのは難しい面もあるのですが、出力特性や分解検証などを行っているレビュー記事を確認するのが、正しく品質を見るという意味では手助けになるはずです。
――電源の買い換えはどのくらいで検討するのがよいのでしょうか
[Johnny Guru氏]保証期間が一つの目安とは言われますが、保証期間ギリギリまで使い続けることはあまり推奨いたしません。
電源であれば、ファンが一番はじめに壊れやすい部分ではありますが、ファンが壊れたからといって電源は即動作しなくなるわけではありません。ファンが壊れた場合、電源回路やコンデンサが高熱に晒された状態になり、最終的には破壊されます。
電源だけが止まるというのであれば問題ありませんが、壊れ方次第ではほかのパーツにも影響を与えてしまう可能性があります。このため、ファンが止まってしまった場合は保証期間にかかわらず即交換するタイミングといえるでしょう。
RMx(2018)シリーズは10年間保証の製品であり、信頼性に自信を持っていますが、個人的には保証期間を使い切る前に電源を交換することを推奨したいです。実際に壊れてから交換する場合はPCが使えなくなるダウンタイムもありますし、故障によるダメージが無い状態で電源は交換することが運用面での信頼性を高める使い方になるはずです。
――自作PCでは一度組んだ後にパーツを組み替えるようなこともあります。その際に気をつけたほうがよい点などはありますか
[Johnny Guru氏]もっとも気をつけていただきたいのはコネクタの数です。とくにビデオカードで用いる補助電源コネクタが必要な数に足りているのかご確認ください。変換コネクタの類いは基本的に常用すべき物では無く、危険な場合もあると認識してもらいたいです。
Serial ATA - PCI Express補助電源コネクタ変換ケーブルを例に挙げると、PCI Express補助電源ケーブルには+12V線を3本用いています。一方でSerial ATAケーブルの+12V線は1本です。ビデオカードが求める電力負荷に対して3本必要なところをそれ以下の本数で賄うことになり、ムリがあることは明白です。最悪の場合、ケーブルやコネクタが発火する恐れがあります。
このように、一見使えても非常に危険な状態となるケースは多々あるので、コネクタが足りなくなった場合は電源を買い換えた方がよいでしょう。はじめからコネクタ数などにゆとりのあるものを選んでおくというのも、電源を長く使う上ではポイントになります。
――PC電源では+12V出力が重要視され、マルチレールとシングルレールのモデルが販売されていますが、どちらが良いのでしょうか
[Johnny Guru氏]出力性能という意味ではどちらも変わりありません。マルチレールはレール毎の最大出力などが決まっているため、安全性の面などで有利な部分もありますが、扱いやすさではシングルレールの方が優れています。電源の出力性能という面ではユーザーは仕様を意識しなくてもよいでしょう。
今後の電源トレンドはIntelの新ガイドライン対応品さらなる小型/大容量出力電源の開発を目指すCORSAIR
――今後の電源トレンド、あるいは今後チャレンジしてみたいことはありますか
[Johnny Guru氏]IntelからPSU DG(デザインガイド) 1.4xが公開されています。
PSU DG 1.4xでは、従来のACPI S3を置き換える「Alternative Sleep Mode」を実現するためのT1、T3タイミングが再定義されています。これをサポートすることが今後のトレンドになるでしょう。また、2%の負荷効率改善の要件も盛り込まれているので、仕様を満たせるかどうかもポイントになるでしょう。
このほかでは、電力密度を向上させ、より大きな出力をより小型の筐体で実現したいと考えています。
――ありがとうございました
このように、RMx(2018)シリーズでは主に基板設計を見直すことでエアフローが向上、750Wや850Wモデルにおいては性能を損なわず小型化されている部分がポイントとなるとのことだ。
そして電源開発姿勢も、OEMメーカーに対し深く関与することでCORSAIR流の仕様・品質を実現しているという。今回のインタビューを参考に、電源選びや使い方、買い換え時、そしてトレンドなどを考慮し、よりいっそう安心で安定したPCの構築を目指してみてはいかがだろうか。
[制作協力:CORSAIR]