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4K動画編集PCに足すならこれ! MSI「GeForce RTX 2080 VENTUS 8G OC」

もう一つ上の快適さを最新GPUで実現 text by 小寺信良

年々寿命が延びるとされるPCだが……

 内閣府が毎年発表している「主要耐久消費財の買替え状況の推移(xlsファイル)」によれば、PCの買い換えサイクルは、すでに7年近くとなっている。PCを日常的に使うユーザーにとっては、7年前のPCはさすがに遅すぎだと思われるだろうが、年に1回年賀状をプリントするだけみたいな使い方なら、そういうものかもしれない。だが3~4年前にはあまり存在しなかったPCのタスクがある。4K動画編集だ。

 iPhoneをはじめとするスマートフォンや普及価格帯のミラーレス一眼で、4Kが撮影できるようになったのが2015年。YouTuberが小学生にも知られるようになったのが2016年あたりのことである。当時は4Kでシェアする方法がなかったため、それほど4Kで撮るメリットはなかったが、今ではYouTubeが4K対応したことで、4K動画はめずらしいものではなくなった。むしろテレビよりも、ネットで4K作品を見る機会のほうが多いぐらいだ。

 ネット動画は、ライブ配信の時代が終わり、今は編集の時代である。ちょっとPCで4K編集を……でも、うちのPCで動くのか? という疑問もあることだろう。

 確かに高解像度の動画を扱うなら、CPUやストレージは速いほうがいいし、メモリはたくさんあったほうがいい。ついつい、PCの中心部であるCPUは買い換えても、ビデオカードは2~3年前のままという人も多いのではないだろうか。4K編集では、実はここがボトルネックになっている可能性がある。

映像編集とGPUの関係

 一口に動画編集と言っても、その作業は2段階に分けられる。編集と出力だ。

 編集中は、当然ながら4K動画をリアルタイム再生する必要がある。色補正やエフェクトを追加したときでも、その結果がリアルタイム再生で確認できないと、その効果が適したものか判断できない。編集とは、常にリアルタイムで結果を確認していく作業なのだ。そこで多くの編集ソフトは、GPUをフル回転させてのリアルタイム表示に命を賭けるようになった。

iPhoneの4K動画はHEVCがデフォルトとなった

 その試金石となるのが、iPhoneで撮影した4K動画だ。2017年にリリースされたiOS 11から、動画コーデックにはHEVC(H.265)がデフォルトになった。これまでの標準であったH.264と比較すると、このデコードはかなりの負荷となる。つまり単に再生するだけで、相当のCPUパワーを食うのだ。そこでPCの編集ツールでは、このデコードをGPUを使って行うようになった。

 ということは、GPUの性能が高ければ、iPhoneで撮影した4K動画の編集も十分なパフォーマンスが期待できる。逆にCPU統合型GPUや非力な旧型のGPUに頼っていては、リアルタイム再生ができないケースが出てくる。

 一方出力とは、編集した結果をエンコードによってファイル化するプロセスだ。ここは編集ソフトのエンコーダの考え方が如実に反映される部分だ。あくまでもソフトウェアエンコードでやるというのであれば、CPUパワーに完全に依存することになる。逆にGPUを使った高速エンコードに力を入れるソフトもある。この手の編集ソフトであれば、ビデオカードを替えただけで、ファイル出力が高速化する可能性がある。

最新のQuadro GP100の価格は90万円を超える

 ではビデオカードはハイエンドであればあるほどいいのか、と言われればそうでもないのがおもしろいところだ。

 たとえばNVIDIA Quadroシリーズは、最上位モデルともなれば100万円近いスーパーハイエンドだが、4K編集のリアルタイム再生にそこまでの投資は、コストに見合う結果にはならない。

最新のRTX 2080搭載カードを試す

 グラフィックスにおけるQuadroシリーズの真骨頂は、CADや3DCGにおいて、ソフトウェアとのマッチングでパフォーマンスが保証されるところにある。一方でどんなGPUでも、あればあっただけ使い倒すというビデオ編集の世界では、こうした動作保証された高級品よりも、「旬な」ビデオカードのほうが投資効率が高い。

 そこで今回は、MSIからNVIDIA GeForce RTX 2080搭載のビデオカード「GeForce RTX 2080 VENTUS 8G OC」をお借りした。GDDR6メモリ8GB搭載の、デュアルファンが目を引く最新カードだ。出力にはDisplayPort 1.4×3、HDMI 2.0b×1、USB Type-C×1で、同時に4画面出力が可能。ビデオ編集マシンでは、メインUIと映像プレビュー出力を別ディスプレイに分けて使用するケースも多いが、こうした構成も可能になっている。

デュアルファンが目を引く「GeForce RTX 2080 VENTUS 8G OC」。ベースクロックは1,515MHz、ブーストクロックは1,800MHz
DisplayPort×3基、HDMI 2.0b×1基に加えてUSB Type-Cと、十分な端子を用意

 MSIのビデオカードには、クーラーやクロック設定の違いや、オススメの用途やユーザーの位置付けが異なる製品バリエーションが用意されている。上位モデルは、パフォーマンスを極限に高めるためのオーバークロック設定と、それを支える大型のクーラー、そしてハデなLED発光演出も備える、ハイエンド志向のゲーマー向けのとがった仕様の製品だ。

 一方、今回試用した「VENTUS」シリーズは、上位モデルよりもオーバークロックを控え、その代わりに、クーラーのサイズを抑えたり、LED発光機能を省いたりすることによりコストダウンを図った、より幅広いユーザーを狙ったものである。クロックの細かな違いこそあれ搭載しているGPUは同じなので、価格重視派のゲーマーだけでなく、最新のビデオカードは欲しいけど、超高性能クーラーや華美な発光演出は不要という、クリエイターにも適した選択肢と言える。

 今回試用した「GeForce RTX 2080 VENTUS 8G OC」は、デュアルファン仕様のクーラーを搭載し、カード長は26.8cm、重量も1,046gに抑えられている。ビデオカードが30cm超となると、PCケース内にスペースがない、PCケース内のほかの部品と接触してしまう、といった問題が起きかねず、取り付けそのものが困難になることも考えられる。その点、27cm弱だと、よほど小型のPCケースでなければ、多くの環境で利用できるだろう。

製品を横から見たところ。マザーボード上の3スロット分の拡張スロットを占有する
PCI Express補助電源として8ピンと6ピンの端子を一つずつ接続する必要がある

EDIUS Pro 9.3でGPUを使い倒す

 では実際にGPUの違いによる4K編集時の差をテストしてみよう。今回ベースとして使用したPCは、CPUにIntel Core i9-9900K、メモリ16GB、SSD 476GBのWindows 10 Pro 64bit版搭載モデルである。

今回テストに使用した自作マシン
比較用に使用したGeForce GTX 780 Ti

 ビデオカードは「VENTUS 8G OC」との比較用として、NVIDIAのGTX 780 Tiを用意した。GTX 780 Tiは2~3年前の標準的なスペックということで、編集部に用意していただいたものだ。2013年当時GTX 700シリーズの最上位モデルであり、GTX TITANより安くて性能が上と言われたカードである。

 編集で使用するのは、Grass ValleyのEDIUS Pro 9.3の試用版である。比較的GPUを効率よく使うソフトで、エフェクト類もGPUで処理する専用のものが用意されている。編集する動画は、iPhone XSで撮影した4K/30P、HEVCのファイルである。EDUISでは、HEVCのデコードをGPUで行う。さらに負荷をかけるため、全カットにGPUで処理するプライマリ・カラーコレクションを加え、トランジションエフェクトを多用した編集を行ってみた。

テストに使用したGrass ValleyのEDIUS Pro 9.3

 4K解像度でのカラーコレクション程度であれば、GTX 780 Tiは現在でも高いパフォーマンスで動作する。しかしカラーコレクションとGPUトランジションを同時に組み合わせた場面では、GTX 780 Tiのほうに若干のもたつきが見られる。

GPUを使用するプライマリ・カラーコレクション
GPUで処理するエフェクトが別に用意されている

 一方VENTUS 8G OCの場合は、エフェクトを掛けてももたつきは見られず、スムーズな再生が実現できている。比較画像は、EDIUSの編集プレビュー画面をリアルタイムキャプチャしたものである。左上がVENTUS 8G OC、右下がGTX 780 Tiだ。

【ビデオカードを替えて同じ編集作業をプレビューしてみた】
左上がVENTUS 8G OC、右下がGTX 780 Ti。エフェクトのクオリティは同じに見えるが、前半から少しずつ時間が遅れ始めている

 画像を変形させるトランジションは、表現にあまり差がないように見えるが、実際にはVENTUS 8G OCと比べてGTX 780 Tiでは、再生時間に遅れが生じている。

 とくに大きく差が出たのは、最後のパーティクル系エフェクトの部分である。ここではエフェクトがスロー再生のようになり、指定した効果の長さ自体も変わってしまっている。およそ58秒の動画だが、最終的には再生時間が1秒以上違ってしまうという結果となった。

 エフェクトの長さが実際とは違ってしまうのであれば、レンダリング前にプレビューで確認している意味がない。もちろん、最終的にレンダリング出力すれば結果は同じものができあがるのだが、そこで「なんか編集したときと印象が違う」ということになったら、プレビュー時に何が正しいのかわからなくなってしまう。

パーティクルエフェクトは、GTX 780 Tiでは完全にはプレビューできなかった
58秒の動画再生に、1秒以上の差が出ている

 続いて、レンダリング出力でも差が出るのか試してみた。4K解像度のままで、H.264へとエンコードしてみる。EDIUSではH.264エンコードにもGPUを使用するので、おそらく差が出るだろう。レンダリング時間を計測してみたところ、58秒の動画の出力にVENTUS 8G OCでは1分47秒、GTX 780 Tiでは1分51秒であった。約1分の動画で4秒という差は、ビデオカードのベンチマーク結果の差ほどではないように思うが、そもそもレンダリングの大半はCPUパワーでこなすため、GPUの能力差は限定的ということだろう。

レスポンスに差が出るグラフィックス性能

 動画編集は、少なくとも動画クリップの再生が実時間でなめらかに行われるのが大前提となる。たとえば、このクリップを5秒ぐらい使いたい、と思ってカットしたところ、再生がつまずいていて実際には4秒しかなかった、というのでは、自分のリズムで作れないということになる。編集は、間合いが大事だからだ。快適かどうか、という問題ではなく、プレビューが完成時の実時間と違ったら、編集にならない。

 今回は4K動画の中でも比較的処理が重いH.265の素材を使用したが、iPhoneのデフォルトがこれになった以上、今後の素材はこれベースで考えていく必要がある。加えて今後は、HDRで撮影できるカメラも増えていくことだろう。そうなるともう1段処理が重くなるので、GPUの違いが編集レスポンスに大きな違いをもたらしていくことは想像に難くない。

 一時期ビデオカードは、仮想通貨のマイニング用として大量に購入されたため、一般市場では異様な高値と入手難だったことは記憶に新しいところだ。だがそれも一段落して、ようやくわれわれPCユーザーの手の届くところまで戻ってきた。

 ゲーミングに限らず、動画制作作業においても、いまが一番ビデオカードの恩恵を受けやすいタイミングである。4K動画編集で、CPU、メモリ、ストレージも十分なのに再生が引っかかるなと思ったら、ビデオカードの性能を疑ってみるべきだろう。

 そんな中、GeForce RTX 2080搭載のVENTUS 8G OCは、これからあと数年は戦えるカードだと言える。

[制作協力:MSI]