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「NASにゲームをインストール」するのはどうなのか?Synologyの「DS918+」で試してみた
SteamやOriginの人気タイトルをインストール text by 加藤勝明
2019年3月29日 18:40
ゲームでNASを活用してみる
最近のPCゲームは、特に注目作になればなるほどインストール容量が肥大化する傾向にある。基本無料のゲームでも20GB~30GBは当たり前、50GB以上や100GB超のタイトルももう珍しくない。
ヘビーに遊ぶゲームは「PC内のSSDに入れる」ということでいいと思うが、しばらく遊ばないゲームまでSSDに入れてしまうと、容量圧迫は必至。大容量SSDを購入したり、HDDと使い分けするのも手だが、物理的、あるいは価格的に難しい場合もあると思う。
そこで今回は、新たな視点として「NASを活用する」という手段を検証してみたい。
昨今のNASはかなりの速度があり、ギガビットLAN越しであれば、シーケンシャルで2.5インチHDDに近い速度をたたき出す。それでも「SATA接続の3.5インチHDDやSSDの代わり」という速度は出ないわけだが、NASのメリットである「大容量のデータをRAIDそのほかの機能で安全に保存する」ことを考えるなら、総合的には意味のある使い方ができるだろう。
例えば、ゲームのバックアップなどがそれにあたる。
ゲーム内容によっては、バックアップせず、再ダウンロードで済ます手もあるが、ゲームの容量も増えているし、セーブデータがローカルに保存されている場合も多い。また、MODなどでカスタマイズした場合は細かい環境を含めて保存しておかないと、再構築に苦労するのは明らかだ。
さて、普通の流れとしては「そこでゲームをバックアップ……」ということになるわけだが、今回はそうした「普通」ではなく、一風変わった活用として「NASにゲームをインストールする」という実験をしてみたい。
なお、先に結果を言ってしまうと、SSDや3.5インチHDDに比べた待ち時間は当然増してしまうものの、ストレージ不足のノートPCで「アンインストールせずに使える退避先」として利用したり、容量不足をカバーするための「ちょっと我慢して使う格納先」としての性能は十分あった。
「NASとゲーム」という視点で見るなら、バックアップだけでなく、プレイ動画やスクリーンショットの保存などでも活用できるため、総合的に活用するなら「ゲームでNAS」というのもなかなか面白い選択肢と言えるかもしれない。
NASにゲームをインストールする手順~NASの初期設定からSteam/Originの設定まで~
そもそもの話として、NASにゲームをインストールすることが可能なのだろうか?
筆者は主にSteamとOriginのゲームを楽しんでいるが、結論としては、Steamのゲームはゲームのインストールフォルダ(Steamライブラリ)を複数の場所に持てるので問題なく実現できたが、Originのゲームはダメなものもあった、という状況だ(後述するが、iSCSIを使うことで改善することもできる)。
まず、その手順を簡単に解説しよう。
今回はSynologyのNAS「DS918+」に、「WD Red」の4TBモデル(WD40EFRX)を4台組み込んだNASを準備した。NASとPCは同一のギガビットLANに接続されているものとする。DS918+にはM.2接続のNVMe SSDを2枚組み込みキャッシュとして利用することもできるが、ギガビットLANに接続する以上、劇的に性能は変わらないため、今回はHDDのみを利用する。
DS918+に4台のHDDを組み込んだ場合、デフォルトではSynology独自の“SHR”というRAID5ベースの独自RAID規格が選択される。あえて速度重視のRAID0や冗長性重視のRAID0+1にすることもできるが、今回はシンプルにSHRを選択した。4TB×4台のSHR構成の場合、10TB強のストレージスペースが利用可能になる。
以下にざっくりとDS918+でSHRを構成しWindows用の共有を作成、そしてネットワークドライブドライブとしてドライブ文字を割り当てる流れを解説しておこう。
ネットワークドライブとしてドライブ文字を割り当てたら、あとはSteam側の設定だ。そのドライブ内にSteamライブラリフォルダを作り、そこにゲーム本体を入れるようにしよう。
次はSteamやOriginの設定だ。
SteamやOrigin用のフォルダを上記ドライブに作成し、それをSteamやOrigin側に設定するだけ。Steamの場合、複数のドライブにSteamライブラリフォルダを作ってゲーム別にインストール先を振り分けるのは簡単だが、Originは指定したフォルダにのみインストールできるという違いがある(ただそれまでインストールしたゲームは旧インストールフォルダのままでもそのまま利用できる)。
また、Originの場合、「インストール先を今回マウントしたフォルダに設定することはできるものの、実際インストールを始めるとエラーが出る」といったことがあった。解決策として、「Program Files」の下にジャンクションを作るやり方で対応してみた(下記)が、これも「Battlefield V」では成功したものの、「Apex Legend」ではうまく行かず、NASのファイル共有を利用したネットワークドライブにはインストールできなかった(これについては、別途iSCSIでの検証も行っている)。
まずは基本性能を測定
では、実際にDS918+が提供するネットワークドライブにゲームをインストールした時、ゲームの起動時間はどの程度になるのか検証してみたい。以下が検証に用いたPCのスペックだ。
【検証環境】
CPU: AMD Ryzen 7 2700X(8C16T、ベース3.7GHz/ブースト4.3GHz)
マザーボード: MSI X370 GAMING PRO CARBON(AMD X370)
メモリ: G.Skill F4-3200C14D-16GFX(DDR4-3200 8GB×2、DDR4-2933で運用)
グラフィック: GeForce RTX 2080 Founders Edition
ストレージ: Plextor PX-512M5Pro(SATA SSD、512GB)、Seagate ST8000VN0022(SATA HDD、7200rpm、8TB)、Western Digital WD20SPZX(SATA HDD、5400rpm、2TB)
電源: Silverstone SST-ST850F-PT(850W、80PLUS Platinum)
OS: Windows 10 Pro 64bit版(October 2018 Update)
DS918+とはギガビットLANで接続している。検証機搭載のSSDはやや古い型のものだが、シーケンシャルリード性能はSATAのほぼ限界近くまで到達しているので問題ないと判断した。
また普通にHDDを増設した場合と比べどう違うかも考えておきたい。デスクトップのゲーミングPCのサブHDDを想定しSeagate製「Iron Wolf」の8TBモデル(ST8000VN0022)と、ノートPCを想定したWesternDigital製「WD Blue」の2TBモデル(WD20SPZX)をそれぞれ内蔵SATAポートに接続した状態でもテストする。2.5インチHDDはUSB 3.0接続の外付けケース(Satechi製)に入れた場合も検証した。
単純な読み書き性能はどの程度か?
まずは「CrystalDiskMark」を利用し、各ドライブの読み書き性能を計測してみたい。テスト条件はデフォルトの1GiB×5を利用している。
検証機のSSDは世代的にやや古いものを使わざるを得なかったが、シーケンシャルリードは520MB/secを越えているので、最速ではないがさほど遅くもない、という程度。これに対し、NASのネットワークドライブはギガビットLAN接続でも最高120MB/secに満たない。この数値は今回準備した2.5インチ HDDより微妙に遅い程度ということが分かった。
この時点でなんとなく結果は見えてきたが、論より証拠、実際のゲーム等を利用して実測してみよう。
ゲームで検証ギガビットNASの速度感は「2.5インチHDDの1.1~1.2倍、SSDの1.5~2.4倍」
まずは「ファイナルファンタジーXIV:紅蓮のリベレーター」の公式ベンチを利用して、速度の概要感を見てみたい。
ベンチ終了時に表示されるローディングタイムを比べてみよう。ベンチマーク中シーンが切り替わる際の読み込み時間の合計なので、短ければ短いほど快適、ということになる。
画質設定は“最高品質”とし、解像度は1,920×1,080ドットに設定。ベンチマークは5回実施し、ローディングタイム5回分の中央値を比較する。
CrystalDiskMarkのシーケンシャルリードの速い順にローディングタイムは短くなる。CryslalDiskMarkのシーケンシャルリード性能の高いものほど短時間で終了しているが、ギガビットLAN接続と2.5インチ HDDの性能がほぼ近かったのに、実際のゲームの読み込みは2.5インチ HDDよりもギガビットLANの方が8秒ほど遅い。
では実ゲームでの検証結果を紹介しよう。
Battlefield V
最初に紹介するのは「Battlefield V」だ。DXR無しのDX12モード、画質“最高”&フルHD設定で検証する。起動してから最初のメニューが表示されるまでの時間と、シングルプレイヤー用「最後の虎」のプレイを再開する(ステージ開始時のムービーの出ないセーブポイントを利用)際の時間を計測した。
結果に目を向けてみると、SSDへインストールした時の待ち時間を1とすると、3.5インチ HDDは約1.2、2.5インチだと約1.5、ギガビットLANのネットワークドライブなら1.8……という具合に、実にきれいな序列ができあがった。HDDとの比較をすると、3.5インチHDD比で1.5倍、2.5インチHDD比で1.2倍、USB3.0接続の2.5インチHDD比で1.1倍といった具合。
ヘビーにプレイするゲームならともかく、環境と条件によっては許容できる場合もあるだろう。
ちなみに、Originのゲームでは、ネットワークドライブにはインストールできないゲームが存在した(Apex Legendsがその一例)。Battlefield Vはインストールできたタイトルだったが、ネットの状態によってはインストール先を見失うことも経験した。今回試した範囲ではOriginのタイトルはネットワークドライブへの導入には向かない印象だ。
BIOHAZARD RE:2
Originのゲームはやや難ありなので、ここからはSteamで配信されているゲームで検証しよう。
まずは「BIOHAZARD RE:2」だ。フルHD&最高画質に設定したが、アンチエイリアスだけはFXAA+TAAとした。ゲーム起動からタイトル画面が出るまでの時間と、セーブデータを選択しプレイが始まるまでの時間を計測した。
待ち時間自体はBFVより短めだが、SSDを基準にした時の待ち時間の増加率はBFVより増加した。
各種HDDとの比較では、3.5インチHDDとの比較で1.6倍、2.5インチHDDとの比較で1.2倍、USB3.0接続の2.5インチHDDとの比較で同1.18倍、といった状況だ。
2.5インチ HDDのシーケンシャルリードはUSB 3.0接続時の方がSATA接続より遅いという結果が出ていたが、ゲームの待ち時間はそう変わっていない。ストップウォッチ計測であるため誤差は完全に排除できないが、シーケンシャルリードが早いNAS接続よりもUSB3.0接続の方が待ち時間が短いということは、ファイル共有プロトコルを通すことがボトルネックになっていると考えられる。
Shadow of the Tomb Raider
続いては「Shadow of the Tomb Raider」だ。DirectX12モード、画質“最高”&フルHDに設定した。ランチャーの“起動”ボタンクリックからメインメニューが表示されるまでの時間と、そこからコンティニューしてプレイ再開するまでの時間を計測した。
結果を見ると、2.5インチHDDより遅い環境で、待ち時間が大幅に延長している。特にコンティニュー時の待ち時間は非常に長くなるようだ。これは、ゲームが参照するデータが非常に大きいためと思われる。
NASの速度比を見てみると、3.5インチHDD基準で1.6倍、2.5インチHDD基準で1.1倍、USB 3.0接続の2.5インチHDD基準で1.08倍といった数値となった。
Monster Hunter: World
最後に試すゲームは「Monster Hunter: World」だ。画質“最高”&フルHDに設定し、ゲーム起動からタイトル画面が出るまでの時間と、集会所を作成してプレイを開始するまでの時間を計測した。
結果の傾向はこれまでに試したゲームと同じだが、ネットワークドライブ上に置いても待ち時間がそれほど長くなっていない点に注目したい。
NASの速度比を見てみると、3.5インチHDD基準で1.3倍、2.5インチHDD基準で1.1倍、USB3.0接続の2.5インチHDD基準で1.1倍となる。ゲームの設計により待ち時間にかなりの違いが出るようだ。
上記4タイトルでの検証結果をざっくりまとめると、3.5インチHDDと比較して1.3~1.6倍、2.5インチHDDと比較して1.1~1.2倍、というのが相場のようだ。3.5インチHDDとの比較はともかく、2.5インチHDDと比較した際の速度は「それほどでもない」と感じた方もいるのではないだろうか。
iSCSIならもう少し改善できる
さて、ここまで検証したからには、「もう少し速くする方法」も考えてみたい。
ここまでの結果を見ると、待ち時間の増加はギガビットLANのスループットやWindowsファイル共有のプロトコル(CIFS)が原因になっていると考えられる。そこで試してみたいのがCIFSを使わないiSCSIを使う方法だ。iSCSI接続にすると接続できるのは同時に1クライアントのみになるが、ゲームのインストール用と限定すれば支障はない。
iSCSIを利用したネットワークドライブはファイルベースとブロックデバイスの2種類がある。
前者はNASに接続されたRAIDアレイの中に仮想ドライブを作りこの中身を読み書きするタイプ、後者はドライブ単体をiSCSIプロトコルで共有してしまうタイプだ。パフォーマンスは理論上、後者の方が良くなるが、今回のように全ドライブをRAIDアレイに割り当てている場合は一度アレイを消去して構成を組み替える必要があるため、パフォーマンスにやや難はあるが、今回は、前者のファイルベースのやり方を使った。
DS918+の「iSCSI Manager」のウィザードに任せ、デフォルト設定で進めていけばファイルベースのドライブ(LUN)が設定される。容量は好きに設定できるので、ゲーム用に2TBを確保した。
ではCIFSを利用したネットワークドライブを使った時の待ち時間と、iSCSIを利用した時の待ち時間を比較してみよう。諸条件は前述のテストと全く同じである。
ネットワークドライブ上にはOriginのゲームフォルダを設定できなかったが、iSCSIを利用すればエラーは出ないため、ジャンクションを作る操作も不要。今回は検証に加えていないが、普通のネットワークドライブではインストールできないApex Legendsも普通にインストールできたことが確認できた。
肝心の速度についても、わずかではあるがネットワークドライブを上回る結果が得られた。ただ、FFXIVベンチのローディングタイムだけは時間が伸びているので、効果のほどはゲームの設計次第というところだろう。iSCSIを使うことでCIFSのプロトコルのオーバーヘッドが解消され、全体的に使い勝手が上がることが確認できた。
ネットワーク環境を改善すれば、今後は面白くなりそう?
以上で検証は終了だ。
結論としては、冒頭に書いた通り、2.5インチベイしか持たないノート、あるいはドライブ増設余地のない軽量ノートであれば、ギガビットの有線LAN経由で使っても良いかな、といったところ。
ゲーム本体のバックアップや、後でまた遊びたくなった時に備え「ゲームをアンインストールしたくない場合の退避先」としてNASを利用するのは十分ありだろう。ちなみにこの場合、単純なファイルコピーで済ませるよりも、ネットワークドライブとしてマウントし、Steamライブラリフォルダを登録→Steamのゲームフォルダ移動機能を利用して内蔵ストレージとNASの間を行き来させると良いだろう。
また、今回はギガビットLANを使ってみたが、最近安くなってきた10ギガビットLAN対応のNASを使う手もある。
10ギガビットLAN対応NASについては、以前、SSDと組み合わせた検証を弊誌で掲載している。この際はネットワーク越しで1.2GB/sといった性能を出しているほか、FINAL FANTASY XIVのベンチマークでもローカルSSDに近い数値を実現している。10ギガビットLANは現状、なかなかコストがかかるが、今後の価格低下にも期待したい。
[制作協力:Synology]