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競技オーバークロックの世界大会に参戦!知られざるPCパーツマニアの世界

テクニックに合わせ運も重要、最高峰のOC世界大会は短期決戦 text by 鈴木 海斗

知られざるオークロックの世界を紹介。
オーバークロッカーの鈴木 海斗(どーにゃ)氏。直近ではオリオスペック動画配信で極冷オーバークロックのデモも行った。

 AKIBA PC Hotline!の読者の皆様、はじめまして。オーバークロッカーの“どーにゃ”こと鈴木 海斗です。

 私は、ごくごく一般的な社会人ですが、“オーバークロック(通称OC)”というパソコンの速さを競う競技の日本代表として去年より活動していたりもします。

 自作PCユーザーであれば、オーバークロックという単語は知っている人が多いと思いますし、CPUの動作倍率を変えたり、メモリを高クロック動作させている人はそこそこいるのではないでしょうか。

 ただし、競技としてのオーバークロックはかなり特殊なもので、実際に何が行われているのかを詳しく知る人は少ないはず。特にオーバークロックの世界大会を見たことがある人はかなり限られるのではないでしょうか。

 そこで、今回は、日本代表として参加してきたOC世界大会を例に、「OCの世界大会って、具体的にどういう場所なのか?」を拙筆ながらリポートしたいと思います。

世界の強者が一堂に会する史上最大規模のOC大会、予選を突破した上位12名と歴代チャンピオンがバトル

 今回紹介するOC大会は、2018年12月8日、ベトナム・ホーチミンにて開催されたGALAX主催のOC世界大会の決勝、「GOC2018 Finals」。

主催のGALAX以外にも有名パーツメーカーがスポンサーとなっています。

 2018年開催のGOCは、10周年記念大会ということで、参加者は予選を勝ち抜いた12人(筆者含む)と、歴代のチャンピオン8人の計20名で決勝大会を実施。

 歴代のチャンピオンが参加する実力派揃いとなったほか、IntelやNVIDIAなど、大手メーカがスポンサーととして協賛するなど、大がかりな大会となりました。

世界大会が行われた「THE ADORA CENTER」という大きな建物。GOC会場の隣の部屋では結婚式が行われていました。
選手が実際にオーバークロックをするステージ。大会中は照明が落とされるのでかなり暗かったです。
隣では「GEC2018」というゲームの世界大会が行われており、PUBGのゲーム音が響き渡っていました。
今大会の参加者。日本からは私を含めた3名が出場しています。
会場に設置されていた液体窒素を充填するための巨大なタンク。
液体窒素をPOTに注ぐために用意された水筒。

液体窒素を使って行う極限のオーバークロック大会選手によって異なる機材セッティングのスタイルも見所

Plastidipという液状ゴムスプレーでコーティングされたMSI Z390 GODLIKE。

 世界で行われているOCの大会は、一般的な空冷クーラーや水冷クーラーなどを使うのではなく、液体窒素やドライアイスなどを使って冷却を行い、PCパーツが動作する限界クロックに挑むものが主流です。自動車でいうドラッグレースをイメージしてもらえると近いかもしれません。

 液体窒素やドライアイス等を用いてオーバークロックをする際は、結露などによってパーツが破損しないように養生を施す必要があります。この部分は、国や地域によって防水加工へのアプローチが異なることも多く、世界大会はそういった世界各国のスタイルをみることができる貴重な機会でもあります。

赤いスポンジシートで養生されたROG MAXIMUS XI GENE。
マザーボードにコーティングはせず、紙タオルを敷き詰めて養生を行う選手もいました。

勝負運の強さも重要、主催者が用意したPCパーツで戦うOC世界大会

GALAXが用意していた、大会用のOSがインストールされたSSDとintel Core-i9 9900K。

 OC大会には、選手が機材を全て持ち込んで行うタイプと、CPUやビデオカードは主催者が用意し、それを用いて記録に挑むタイプの2パターンがあります。

 今回紹介している「GOC2018 Finals」は後者のタイプで、選手は会場入場後に約1時間程度の準備時間が与えられ、その後使用するメインPCパーツの抽選が行われます。

 当然、用意されたPCパーツのは個体差があるので、テクニックも重要ですが、ここでOC耐性の高いパーツが引けるかどうかで勝負が決まるといっても過言ではありません。

 見た目だけでは善し悪しがわからないこともあり、引きの強さや、勝負運が試される場面でもあります。

選手は順番に自分が使用するCPUを選んでいきます。
CPUと合わせ、OSを立ち上げるためのSSDとスコア提出用のUSBメモリも選びます。
グラフィックカードが敷き詰められている段ボール。中に入っているのは全てGeForce RTX 2080 Ti。総額でいくらになるのやら……。
グラフィックカードは各選手2枚ずつ選んでいきます。
今回使われたグラフィックカードはGALAX製RTX 2080TI HOF。極冷仕様にチューニングされたスペシャルな逸品です。
支給された GALAX製のDDR4-4800対応メモリ。大会参加者限定で配布された非売品です。

ベンチマークスコアの限界に挑むOC世界大会、有名ソフトを使って競技スタート

今回用意されたトロフィー。

 機材の抽選など、全ての準備が終わったら、いよいよOC世界大会の始まりです。

 今回の大会は、制限時間は4時間30分、パーツはマザーボード、極冷ポットは自由に持ち込めますが、それ以外は指定されたパーツのみを使用できるルール。

 使用するベンチマークは「Cinebench R15」、「Geekbench3 (Multicoreのスコア)」、「3DMark TimeSpy」、そしてレイトレーシング対応の新ベンチマーク「3DMark PortRoyal」の4つ。

 「3DMark PortRoyal」は大会開催時点では公式リリース前でしたが、GOC参加者には特別にPortRoyalを使うことのできるキーが配布されました。

筆者が実際に競技をしている様子。ギャラリーも大勢いますが、安全性や防犯の意味もあり、選手にはあまり近づけないようになっています。
スコアを提出する際は、必ず審判を呼んで、チート行為や不正行為を行っていないことを確認してもらってから提出します。
大会中の筆者の様子。真剣な顔をしているように見えますが、トイレに行きたくて仕方ないのを我慢しているだけです。PCの状態によってはその場を離れられないこともあります。
大会中は会場に設置されたモニターで順位がリアルタイムで表示されます。

白熱する世界大会、果たして制するのは……3DMarkを圧倒的なスコアで制した選手が新王者に

 20人の猛者の中で栄えあるチャンピオンになったのは、スウェーデン代表のRauf氏。3Dベンチマークで圧倒的な強さで1位に君臨しつつ、2Dベンチも手堅いスコアを記録。

 オーバークロッカーは得意ジャンルが偏ることも多いのですが、Rauf氏は得意ジャンル以外のスコアも高レベルにまとめてきた点が印象的でした。

優勝セレモニーの様子。ド派手な火花に少しびっくりしました。
最後は選手、審判、スタッフ全員で記念撮影。

 今回の筆者の結果は世界13位と振るいませんでした。

 今大会の鍵である3DMarkのベンチマークで良いスコアを出せなかったこと、機材トラブルが多く発生したことが敗因です。オーバークロック用の機材はピーキーな部分も多く、本番で練習通りの結果が出ずに泣く選手も少なくありません……。

 もちろん、万全の準備で挑みはしましたが、後から思い返すと避けられたはずのトラブルや対策できた部分もあるので、しっかり反省して次の機会にはTOP3には食い込みたいところです。

ニッチではあるのもの、PCパーツ好きの実力が試せる競技オーバークロック

 ざっと紹介しましたが、競技オーバークロックに興味があった方もそうでない方も、「オーバークロックの大会ってこんな感じなんだ」と少しでも興味をもっていただけたら幸いです。

 競技オーバークロックはニッチでマイナーな競技ではありますが、PCパーツに関する知識やセッティングのセンスなどがあれば、その実力を試せる場所が世界には用意されています。また、こうした限界性能を引き出す課程で得られたデータはPCパーツの開発にフィードバックされることもあり、より高耐久な製品の開発や、高性能な製品の生み出すためのヒントになることもあります。

 この記事を読んで、「よし、私もやってみよう!」となった人がいるかはわかりませんが、門は全ての人に開かれています。カジュアルなものであればオンラインの大会などもあるので、もし少しでも興味が出たら競技オーバークロックの世界に足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。

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