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近未来のNASを先取り、オールSSD+10GbE+小型化でどれだけ便利になるのか試してみた

QNAP NASとSamsung SSDで高速NASを構築、PCから内蔵HDDが無くせる日がくる? text by 坂本はじめ

QNAP TBS-453DXとSamsung SSD 860 EVO M.2を使って近未来のNASのトレンドを先取りしてみた。

 今回のレビューでは、数年後に一般化すると思われるNASの姿を紹介してみたい。キーとなるのは「オールSSD」、「10GbE対応」、「小型」の3つ。

 現在のNASは、3.5インチHDDを複数台搭載するものが主流で、サイズ的にも置き場所が限定されるほか、速度もそれほど高速では無いため、用途もある程度限定される。これがオールSSD + 10GbEのNASになれば、速度面やサイズ面が変革と言えるレベルで変わるため、NASの概念を大きく変える可能性を秘めている。

 もちろん、近未来のNASのスタイルは確立されているわけではないので、今回紹介するのは方向性の一例となるが、QNAPの10GbE対応SSD専用NAS「TBS-453DX」とSamsungのM.2型SATA SSD「860 EVO M.2」を使用し、NASが今後どれくらい便利になりそうなのかを見てみよう。

10GbE NASに2TB SSDを4基搭載、小型かつ最速なNASを先取り

 今回は、「オールSSD」、「10GbE対応」、「小型」をキーにNASを構築するが、この条件に合致するモデルを用意している。

 NASは小型かつSSD専用で10GbEを備えているQNAPの「TBS-453DX」。SSDはM.2型でSATA接続に対応したSamsungのSSD「860 EVO M.2」の2TBモデルを4基用意した。この組み合わせでオールSSD構成の10GbE NASを構築する。まずはそれぞれの特長から簡単に紹介しよう。

M.2 SATA SSD専用の10GbE対応4ベイNAS「QNAP TBS-453DX」

 QNAP TBS-453DXは、M.2型のSATA SSDを最大で4基搭載できる10GbE対応NAS。QNAP独自NASbookコンセプトに基づいたB5サイズのコンパクトデザインが特徴で、本体サイズは230×165×30mm。本体重量は約0.8kgで、ACアダプタ込みで約1.7kg。

 対応ストレージをM.2型SSDに限定することで大胆な小型化を実現しながらも、外部ストレージの接続が可能なUSB 3.0ポートや、4K60p出力に対応したHDMI 2.0ポートを備えた、多機能なマルチメディアNASである。

 このモデルはクラウドストレージのファイルをNAS上にキャッシュ化することで、ほぼLAN接続と同じ速度でクラウド上のファイルにアクセスできるようにする「Hybrid mount」をサポートしており、クラウドストレージのゲートウェイとして動作することができる。また、クラウド上のファイルをNAS側のファイル管理機能を利用して管理できるので、クラウドサービスを跨いだファイル管理が可能であったりと、新鋭的な機能も備えたモデルになっている。

QNAP TBS-453DX。QNAP独自のNASBookコンセプトに基づいたコンパクトデザインが特長のSSD NAS。
内部には4基のM.2スロットを搭載。対応するインターフェイスは6Gbps SATAで、フォームファクターはM.2 2280。
本体背面のインターフェイス。中央部の10GbEの他、4K60p出力対応HDMI 2.0、1GbE、USB 2.0×4、オーディオ入出力などを備える。
本体重量は約0.8kgで、ACアダプタなどを含めても1.7Kgに収まる。

高耐久V-NAND採用のM.2 SATA SSD「Samsung SSD 860 EVO M.2」

 Samsung SSD 860 EVO M.2は、M.2型の6Gbps SATA対応SSDで、250GBから2TBまでの容量をラインナップしている。今回使用するのは、その最大容量モデルである2TBモデルの「MZ-N6E2T0B/IT」だ。

 コントローラにSamsung MJX、フラッシュメモリにSamsung V-NAND 3bit MLC(3D TLC NAND)を採用しており、MTBF150万時間という高い信頼性と、総書き込みバイト数最大1,200TBW(2TBモデル)に達する耐久性を備えている。

Samsung SSD 860 EVO M.2の2TBモデル「MZ-N6E2T0B/IT」。6Gbps SATAに対応しており、フォームファクターはM.2 2280。
Core i9-9900K + Z370マザーボード環境でのMZ-N6E2T0B/ITのCrystalDiskMarkの実行結果。6Gbps SATA SSDとしては、ハイレベルなパフォーマンスを備えている。
基板裏面側。
製品パッケージ

4ベイでも一気に小さくなるオールSSD NAS、置き場を選ばないサイズに

 ストレージが全てSSDになった場合、性能が変わるのは当然だが、サイズも一気にコンパクトになる。

 M.2 SSDを利用するNASであれば、4ベイタイプでもBlu-rayやゲームのトールケースより二回りほど大きい程度に収まるので、置き場所の制約がかなりなくなる。気軽に卓上に置けるのはもちろん、ディスプレイの裏や机の裏側、ちょっとしたスペースに詰め込んだりと、扱いやすくなる。

 3.5インチHDD用のNASはサイズもそれなりになり、しっかり安定した場所に置く必要がある。このため、置き場所が無いためにNASが導入できないとったケースもあるかと思うが、SSD化 + 小型化でこれまで導入を見送っていたユーザーにも対応できるものになる。

SSD×4台搭載でもBlu-rayのトールケースより二回り程度大きいサイズに収まる。
ルーターなどに近いサイズで、置き場所などの制約がかなり無くなる。
一般的な4ベイのNASと比較してもかなり小さい。
横幅は若干4ベイNASよりも大きいものの、奥行きが短くなり、厚さは圧倒的に薄くなる。

 また、サイズだけで無く重量もかなり軽くなる。HDDの動作音や振動も無くなるので、NASが重量感があるものという印象から大きく変わるはずだ。重さや動作音の面からも設置場所などを選ばなくなるので、NASはより扱いやすいものになるだろう。

NAS本体のみの重量は約0.8kg。
SSDやACアダプタ込みでも約1.2kgとかなり軽い。

NASの速度はリード700MB/sオーバー、内蔵HDDを使う必要がなくなるかも?

 外観に続いて実際のパフォーマンスを見ていこう。

 TBS-453DXがサポートするRAIDレベルは、「RAID 0、1、5、6、10」の5種類で、ストレージを束ねるだけのJBODもサポートしている。RAID 1、5、6、10利用時は、予備領域を確保することでSSDの性能と耐久性を向上させる「オーバープロビジョニング」の設定を行うこともできる。

 ベンチマークテストでは、速度最優先のRAID 0と、NASで利用されることの多いRAID 5でのパフォーマンスをチェックしてみた。なお、RAID 5ボリュームについては、標準で設定される10%のオーバープロビジョニングを適用している。

 NASと接続してパフォーマンスを測定するPCには、Core i9-9900Kを搭載したIntel Z390環境を用意。玄人志向の10GbE NIC「GbEX-PCIE」を搭載し、NASと10GbEで直接接続している。

M.2 SSD×4 RAIDで速度を計測。
TBS-453DXはSSD向けにオーバープロビジョニング機能(RAID 1/5/6/10利用時)も備えており、ユーザーが任意の容量を指定することもできる。
RAID 0ボリュームを構築した際のステータス、記憶容量は7.11TBとなっている。
RAID 5ボリューム。オーバープロビジョニングで容量の10%を確保しているため、記憶容量は4.80TBとなっている。

 まずはテストPCにネットワークドライブとして接続したNASに対して、CrystalDiskMarkを実行した結果だが、10GbE接続時の結果に加え、1GbE接続でのパフォーマンスも測定した。

 10GbE接続では、RAID 0構成時にリード724.2MB/s、ライト858.2MB/sを記録。RAID 5構成時の結果でもリード723.3MB/s、ライト618.2MB/sを記録。SATA接続の内蔵ドライブであれば、2.5インチのSSDであれば速度は550MB/s前後、3.5インチ/5,900rpmのHDDであれば速度は160MB/s前後なので、これらを大きく上回る速度を発揮している。

 一方、1GbE接続ではRAID 0とRAID 5とも、データ転送速度は最大で120MB/s弱しか出ておらず、最大帯域幅が125MB/sの1GbEがボトルネックとなっていることと、10GbE接続の優位性が確認できる結果となっている。

▼10GbE接続時のパフォーマンス
RAID 0構成時。
RAID 5構成時。
▼1GbE接続時のパフォーマンス
RAID 0構成時。
RAID 5構成時。

 1GbE接続では、SSDでも速度向上には限界があり、最終的なデータの保管場所に利用するのが適しているといった印象だが、10GbE接続であれば内蔵SATAドライブの理論値(最高600MB/s)を超える速度を引出すことが可能だ。

 これだけの速度があれば内蔵HDDにデータを置いて作業をするよりも明らかに高速となるので、ユーザーによってはOSとアプリケーション以外のデータはすべてNAS上に置いて運用するといったことも現実的になる。

動画も写真も音楽も、すべてのデータをNASに置いて快適に

 ベンチマークではオールSSD + 10GbEのNASが高速であることはわかったが、実際にユーザーが使った時に本当に快適なのか、実際の利用シーンに近いデータを転送して速度を計測してみた。

 今回は内蔵HDDに対して高速なNASがどれだけ優位性をもつのかも比較するため、3.5インチ/5,900rpmの一般的な6Gbps SATA HDDのデータも比較用として計測している。なお、テストに使用しているHDDのシーケンシャル速度は実測でリードが約159MB/s、ライトが約151MB/sだ。

 NAS側は10GbE接続で、利用しているユーザーが多いRAID 5でボリュームを構築した状態で速度を計測している。なお、オーバープロビジョニングの設定はNASのデフォルト値の10%のままにした。

M.2 SSD(SATA)×4でRAID 5構成時のNASの速度(10GbE接続)。
比較に使用した3.5インチ/5,900rpmの3TB HDDの速度。

動画ファイルの転送は内蔵HDDの4倍高速、大容量ファイルの扱いも快適に

 1ファイル約25GBという大容量の動画を2つ、合計約50GBの動画ファイルをPCのデータ用NVMe SSDから、10GbE NASと内蔵HDDにそれぞれ転送した際の時間を測定した。

 RAID 5構成の10GbE NASは1分19秒を記録。内蔵HDDの転送時間は5分46秒で、RAID 5構成の10GbE NASが実に4倍も高速な結果となった。4K動画など、大容量のファイルを扱うのであればこうした高速なNASが快適だ。

50GBの写真データも2分強で転送完了、写真を楽しむならオールSSD NASがお勧め

 PCのデータ用NVMe SSDから、約50GBの写真データ(RAWファイル)を転送するのに要した時間を比較した結果が以下のグラフだ。

 RAID 5構成の10GbE NASは2分14秒で50GBの写真データのコピーを完了した。6Gbps SATAで直結した内蔵HDDは7分04秒かかっており、10GbE NASが内蔵HDDを圧倒する結果となった。写真を趣味にしているユーザーであればもっと多くのファイルを扱っていると思われるが、本格的に写真を楽しむユーザーほどレスポンスなども含めオールSSD NASが快適だ。

大量の音楽ファイルの転送も快適に、高速NASならライブラリの引っ越しも短時間に

 写真データの転送と同じ要領で、約50GBの音楽ファイルを10GbE NASと内蔵HDDにそれぞれ転送した際の時間を測定した。

 ここでも、RAID 5構成の10GbE NASは2分17秒と短時間で転送を完了。内蔵HDDは7分16秒を要しており、10GbE NASは3倍高速に処理を完了している。大量のファイルを転送する際は10GbE NASがかなり有利だ。

バックアップで待たされる時間も半分に、よりデータを安全に守りやすくなるオールSSD NAS

 バックアップソフトの「Acronis True Image 2020」を使い、10GbE NASと内蔵HDDにテスト用PCのシステムディスクをバックアップするのに要した時間を比較した。

 RAID 5構成の10GbE NASは2分18秒を記録。4分34秒を要した内蔵HDDの半分程度の時間でバックアップの作成を完了している。毎日バックアップをとる用途などであれば、2倍の速度差はかなり大きな差と言えるだろう。

内蔵ストレージと外付けストレージの概念を変える可能性を秘めた10GbE NASSSDと10GbE対応機器の値下がりでメインストレージになる可能性も

 1GbE以前のNASは、シーケンシャルアクセス性能でPC内蔵のHDDに及ばない場面もあったが、インターフェイスの帯域幅が10倍に強化された10GbEへの対応によって、内蔵HDDを凌ぐ性能を実現可能となった。

 容量単価の低下と大容量化が進んだことで、NASの記憶媒体としてSSDを用いるという選択も現実味を帯びてきており、今回試したQNAP TBS-453DXのように、旧来のNASとは異なるデザインコンセプトのSSD NASも登場している。SSDの利用を前提とすることで、10GbE時代のNASはより小型で高性能なものが登場することになるはずだ。

 今はまだ高価な選択肢である10GbE対応かつオールSSDのNASだが、このまま低価格化が進めば、データの保管庫としてHDDをPCに内蔵するという選択にとって代わる可能性を秘めている。それが現実のものとなるのは、そう遠くない未来の話かもしれない。

[制作協力:Samsung]