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ブラウザ1,000タブも8K動画も余裕、256GBのDDR4メモリをPCに搭載してみた
使い切るのは無理?今組める最高の環境を体験 坂本はじめ
2020年3月9日 00:01
去る2019年、UDIMMでありながら1枚で32GBの容量を実現するDDR4メモリが発売された。これにより、メインストリームクラスのプラットフォームでも128GB、ハイエンドデスクトップ(HEDT)向けなら256GBという超大容量のメモリシステムを構築可能となった。
今回は、CrucialのDDR4-2666対応32GBメモリと、32GBメモリモジュールに正式対応する第3世代Ryzen Threadripperを使って256GBメモリ環境を構築。ストレージ容量と見紛うほどの超大容量メモリシステムを体験してみた。
256GBメモリ環境を構築する上での注意点から、その大容量がどういったシーンで活用できるのかをチェックしているので、大容量メモリシステムの構築に興味のあるユーザーはぜひチェックしてもらいたい。
約16万円で手に入る256GB分の32GBメモリモジュール意外と現実的な価格で超大容量メモリ環境は構築可能
今回、256GBのメモリシステムを構築するにあたって利用したのは、DDR4-2666対応32GBメモリの2枚組「Crucial CT2K32G4DFD8266」。これを4セット用意することで、32GB×8枚構成による256GBメモリを実現した。
記事執筆時点で、Crucial CT2K32G4DFD8266の価格は税込で約3万9千円であり、4セット用意するのにかかるコストは15万6千円前後だ。金額自体は大きいが、一般的なPCの基準からすれば途方もない大容量である256GBのメモリを実現するためのコストと考えれば、むしろこの程度で済むのかと思える額でもある。
2年半ほど前に、16GBメモリモジュールを8枚使って128GBメモリ環境を構築した際、当時の価格でメモリに13万6千円前後のコストが掛かっていたことを考えれば、大差ない金額で2倍の容量が実現可能な現在は、大容量メモリシステムを構築したいユーザーにとっての良い時代であると言えよう。
32GBメモリモジュールの利用にはシステム側の対応が必要対応BIOSは必須、第8~10世代のCoreシリーズ上位や第3世代Ryzenがサポート
2019年に発売された32GBメモリモジュールを利用するには、システム側が32GBメモリモジュールに対応している必要がある。
各マザーボードメーカーは、2018年末から2019年夏頃にかけて32GBモジュールに対応するUEFIアップデートを提供。CPUについては、Intelの第8~9世代Core i5以上とHEDT向けのCore X 10000シリーズ(Cascade Lake-X)、AMDの第3世代RyzenおよびRyzen Threadripperが、正式に32GBモジュールをサポートしている。
なお、32GBモジュールへの対応を正式に公表していないCPUであっても、マザーボード側のUEFIがアップデートされていれば利用できる可能性はあるが、マザーボード側の対応はほぼ必須。32GBモジュールを使ったメモリのアップグレードを行うなら、かならず事前にUEFIを最新版にアップデートしておこう。
今回使用しているメモリの「Crucial CT2K32G4DFD8266」だが、JEDEC準拠のスタンダードメモリなので、UEFIでのメモリ設定なども不要で扱いやすい。安定したメモリ大容量環境を手軽に構築したい場合はスタンダードメモリを選んだ方が良いだろう。
32GBモジュール正式対応の第3世代Ryzen Threadripper環境を用意してテスト
今回、256GBメモリを構築するのに使用したのは、AMD最新のHEDT向けCPUである「Ryzen Threadripper 3970X」と、同CPUに対応するSocket sTRX4マザーボード「MSI Creator TRX40」だ。
Ryzen Threadripper 3970X擁する第3世代Ryzen Threadripperと、同CPU向けに追加されたSocket sTRX4プラットフォームは、いずれも32GBメモリモジュールに標準対応しており、8本のメモリスロットを備えるMSI Creator TRX40は安心して256GBメモリを実現できるマザーボードだ。
今回は32コアCPUを使用しているが、Socket sTRX4には64コアCPUの「Ryzen Threadripper 3990X」も存在しており、強力なCPUと大容量メモリを組み合わせた「個人向けワークステーション」を構築するのに適したプラットフォームであると言えよう。
256GBメモリを使うならWindows 10 ProWindows 10 Homeは64bit版でも256GBメモリに非対応
256GBメモリを実現するにあたって見落としがちなのが、Windowsで利用できる最大メモリ容量の制限だ。「32bit版OSは4GBまでしかメモリを使えない」ということは知られているが、64bit版でも利用可能なメモリ容量に制限があることは忘れがちである。
現在の最新OSであるWindows 10では、以下のように利用可能なメモリ容量が制限されている。64bit版のWindows 10 Proが最大2TBまでのメモリを利用できるのに対し、Windows 10 Homeは64bit版でも128GBまでのメモリしか利用できない。
つい最近まで、一般ユーザー向けのシステムで構築可能なメモリ容量の最大値が128GBであったのだから、64bit版Windows 10 Homeの最大メモリ容量の制限が忘れられがちなのは当然だ。32GBメモリモジュールの登場が、OSの想定する「一般ユーザー向け」の範囲を超えたからこそ、この制限が有効になったのである。
実際に256GBメモリを搭載したシステムにWindows 10 Homeをインストールするとどうなるのかを試した結果が以下のスクリーンショットだ。
Windows 10 Homeでも搭載しているメモリ容量が合計256GBであることは認識しているが、利用可能なメモリ容量は128GBに制限されている。一方、同じシステムにWindows 10 Proをインストールした場合は256GBが全て利用可能となっており、Windows 10で256GBのメモリ容量をフル活用するには、Windows 10 Proが必要であることが分かる。
OSが使うメモリは誤差レベル?メモリ使用量は僅か2%そう簡単には使い切れない圧巻の256GBメモリ
それでは実際に256GBメモリ環境を使用した際の様子を紹介しよう。まずはOSのメモリ使用からだ。
Windows起動直後のメモリ使用量は5.8GBで、使用率はわずか2%。ほぼ使われていないといったような状況だ。
利用可能なメモリ容量「250GB」という途方もない空きメモリ容量は、どんな作業なら使い切ることができるのだろう……。次の節からはメモリ使用量が大きいとされるアプリケーションが、どこまでメモリを使えるのかテストしてみた。
メモリ食いで知られるブラウザ「Google Chrome」1,000タブ展開時のメモリ使用量はどれくらい?
数あるウェブブラウザの中でも、特にメモリを積極的に活用することから「メモリ食い」として知られているのが「Google Chrome」だ。一度開いたタブを閉じずに保持する使い方をしていると、Chromeだけで数十GBのメモリを占有していることも珍しくない。
そんなChromeを使って1,000個のタブにウェブサイトを開いた場合、果たしてそのメモリ使用量はどれほどに到達するのか。20個のタブを開いたウインドウ50個展開して試してみた。
結果として、Chromeで1,000個のタブでウェブサイトを開いた時に、システム全体のメモリ使用量は53GB弱に達した。これは相当なメモリ使用量ではあるのだが、256GBのメモリにとっては全体の21%程度の使用率に過ぎない。
実際にブラウザが使用するメモリ容量は、開くウェブサイトの内容によっても変わってくるため、1タブあたりのメモリ使用量が今回のテストより大きくなることはあるだろうが、いかにメモリ食いで知られるChromeであっても、ウェブブラウザ単体で256GBのメモリをフル活用するほど容量を食わない。256GBのメモリがあれば正直メモリ食いだとも思わないだろう。
ちなみに、1,000タブを開いた状態のChromeは動作が緩慢になり、メモリの空き容量とは関係のない所で快適性が損なわれていた。ブラウザに関しては、256GBもあればメモリがネックになるようなことは無いといえるだろう。
256GBのメモリがあれば8K動画の編集も余裕?編集時や書き出し時のメモリ使用量をチェック
メモリ使用量が大きな処理として知られているのが、動画コンテンツの編集や制作作業だ。特に、近年は4Kや8Kといった高解像度コンテンツが登場し、これらの制作に用いるPCにも従来以上の性能が求められる。
実際にどの程度のメモリが消費されるのか、あればあるだけ快適になるのか、「Adobe Premiere Pro」と「Adobe After Effects」でチェックしてみた。
動画編集制作ソフト「Adobe Premiere Pro」で、8K動画を作成/編集
まずはAdobeの動画編集制作ソフト「Premiere Pro」を使って、4K60p動画を4本を束ね、1分の8K動画制作を実行し、その際のメモリ使用量をチェックしてみた。
編集作業中のメモリ使用量はおおよそ30GB前後で、プレビュー再生などを行うとメモリ使用量が増加する様子がみられた。
一方、制作した8K60p動画(7,680×4,360ドット)を、ソフトウェア処理でHEVC形式に書き出している際は、最大で50GBほどのメモリを使用していた。
「Adobe After Effects」や動画変換も大量のメモリを消費
Adobeの動画編集ソフト「After Effects」もメモリを積極的に活用するアプリケーションであり、8K60p動画をAfter Effectsで開き、プレビューの再生を行うと70GB近いメモリを使用した。
また、Adobeの動画変換ソフト「Media Encoder」を使って、8K60p動画をソフトウェア処理でHEVC形式の4K60p動画に変換する際のメモリ使用量は36GBほどに達していた。
いずれも256GBメモリの半分も使っていないが、編集作業の内容やプレビューの解像度、動画の長さなどによってもメモリの使用量は変わってくるので、実際にどの程度のメモリが必要なのかは作業内容次第な部分はある。簡単な8K動画の編集でこの程度のメモリを消費することもあるので、参考にしてもらえればと思う。
また、クリエイター向けのアプリケーションは複数立ち上げたまま並走して作業をすることも多いだろう。今回の場合であれば、「Premiere Pro」と「After Effects」が最大にメモリを消費した状態でも256GBあればメモリにまだゆとりがある。メモリ容量の不足が処理速度の大幅な低下を招くことを考えれば、大量のメモリを使用するクリエイティブシーンにおいて、256GBというメモリ容量は心強いものであると言えよう。
256GBあればRAMディスクでSSD並みの容量を実現可能空き容量を超高速ストレージとして有効活用
RAMディスクは、メインメモリの一部をストレージとして利用するというもの。メインメモリは一般的なSSDよりも高速で、なおかつ書き換え寿命も存在しないため、読み書きの多いキャッシュ用途などに使うことでPCのパフォーマンスを向上させることができる。
ただし、RAMディスクは電源を落とすとデータを保持できない点はともかく、そもそもメインメモリの容量がストレージ容量より遥かに少ないことから、その用途は大容量を必要としないキャッシュ用途などに限定されていた。
しかし、今回のテストPCには、SSDの容量と言っても不思議ではない256GBものメモリ容量がある。このストレージ容量並みのメモリ容量を活用してRAMディスクを構築すれば、容量不足というRAMディスクの欠点を補うことができるはずだ。
そんなわけで今回は、最大192GBのRAMディスクを利用できる市販ソフト「RAMDA」を使って、RAMディスクを作成してみた。RAMDAは2つのRAMディスクを作成可能で、1台目の容量が上手くコントロールできないトラブルはあったものの、2台目のディスクでは100GBを超えるRAMディスクを作成することができた。
作成したRAMディスクのパフォーマンスをCrystalDiskMarkで測定した結果が以下のスクリーンショットだ。シーケンシャルアクセスで、リードが約9.4GB/s、ライトが約7.0GB/sを記録していおり、まずまずといったところだろう。
特に注目してもらいたいのがRND4K Q1T1のリード性能。この部分の値は、ランダムアクセス性能を見るものだが、最速クラスのNVMe SSDでも100MB/sを超えるのは難しい。しかし、RAMディスクは軽々と1GB/sを超えるリード性能を実現している。通常のSSDよりも遥かに小さいレイテンシでアクセスできるメモリの強みが反映された結果であり、これこそがRAMディスクの速さやレスポンスの良さの秘訣なのである。
ちなみに、ランダムアクセスのベンチ―マーク速度がNVMe SSDの10倍近く速いのであれば、シーケンシャルアクセスももっと速くなっても良いのはずだと思うかもしれない。これはCPUのシングルスレッド性能がボトルネックとなった結果であり、ベンチマークの設定を変更し、実行スレッド数を増やすことで更なる速度を引き出すことが可能だ。条件が整えばリードの最高速度は70GB/sを超える。
RAMディスクで最高のゲーム環境を構築してみた100GBオーバーの超大容量ゲームの高速化が可能に
ストレージ容量と見紛うばかりのメモリ容量を使って作成したRAMディスクは、SSDを上回る高速性をそなえながら100GBを大きく超える記憶容量を実現できた。
これをどのように生かすのかはユーザー次第なのだが、ひとつ筆者が試してみたかったのが、32GBモジュール登場以前の128GBメモリでは実現不可能だった「超大容量ゲーム」のインストールディスクとしての利用だ。
昨今のPCゲームは大容量化が著しく、数十GBのインストール容量はもはや珍しくもないのだが、その中でも100GBを超える超大容量のゲームが存在する。今回はその典型例である「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION」と、大型アップデートで注目を集める「モンスターハンターワールド:アイスボーン」で、RAMディスク利用の効果を確かめてみよう。
RAMディスクをゲームのインストールディスクに用いることの効果を確かめる手段として、RAMディスクと比較用SSDにそれぞれゲームをインストールし、各ゲームでロード時間を測定する。比較用のSSDにはCrucialのNVMe SSDである「P1 SSD」を利用し、ゲームの描画設定は4K解像度かつ最高品質設定とした。
まずはFINAL FANTASY XV WINDOWS EDITIONだが、SSDに対するRAMディスクのアドバンテージは3~6%ほどで、実時間にして1秒弱ほどロード時間を削減している。
一方、モンスターハンターワールド:アイスボーンでは、RAMディスクがSSDより1.8~3.7秒早くロードを完了しており、おおよそ2割前後のロード時間短縮を実現している。比較相手が高速なNVMe SSDであることを考えれば、かなり優れたパフォーマンスであると言えよう。
NVMe SSDをも上回るロード時間短縮を実現できるRAMディスクは、少しでもロード時間を削りたいというエンスージアストの願いを叶えてくれる。256GBメモリを用いて作成したRAMディスクなら、最新の超大容量ゲームでもインストール可能であり、その高速性の恩恵にあずかることができる。
ただし、実用性を考慮するなら、RAMディスクがデータを保持できるのは電源を投入している時のみに限られるのが問題だ。バックアップ機能を備えたRAMディスク作成ソフトも多いが、100GBを超えるゲームのバックアップと書き戻しには少なくない時間が必要となるし、結局同容量以上のストレージが必要だ。
多くのゲーマーにとって使い勝手がいいとは言えないRAMディスクだが、電源を落とさなければRAMディスク内のデータは消えない。一度も電源を落とすことなく、一気にゲームクリアを目指すタイムアタッカーにとっては使ってみる価値があるかもしれない。
メモリ容量は使い切らないことこそが重要不足することの無いメモリシステムを構築しよう
以上の通り、32GBモジュール8枚で構築した256GBメモリを使いきるというのは、やろうと思ってもなかなか難しい。
だが、使い切れないなら意味が無いかと言えばそれは違う。メモリ容量は使い切ってしまうとパフォーマンスの低下を招くものであり、そもそも使い切ってはならないものだからだ。大量のメモリを使用するクリエイター向けアプリケーションの同時稼働でも、そうそうメモリ不足に陥らないことに価値を見出すべきだ。
HEDT向けのプラットフォームで256GBを構築できる32GBメモリモジュールは、メインストリームでも64GBや128GBの大容量メモリ環境を手軽に構築できる。予算が許すのであれば、自分には使い切れないメモリ容量という快適な環境の構築を目指してもらいたい。
[制作協力:Crucial]