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Z490マザーは電源回路とインターフェースで選べ!Core i9-10900KとMSI MEG Z490 ACEを使ってみた

8万円クラスの製品と同じ電源回路が半額で手に入る!? text by 芹澤正芳

MSI MEG Z490 ACE

 2020年5月20日午後10時、ついに発売されたデスクトップ向けの第10世代Coreプロセッサーと、それに対応するZ490チップセット搭載のマザーボード。最上位の「Core i9-10900K」は、10コア20スレッドで動作クロックは1コアで最大5.3GHz、全コア同時で最大4.9GHzとメニーコアかつ高クロック仕様。その一方で消費電力と発熱の目安となるTDPの仕様は125Wに達している。Z490マザーボードではその強烈なパワーを持つCPUを、高負荷状況下で長時間にわたって安定動作することが求められる。

MSIのハイエンドZ490マザーボード「MEG Z490 ACE」。実売価格は4万7,000円前後

 数あるZ490マザーの中で注目を集めているのが、MSIの「MEG Z490 ACE」。MEGとは同社のゲーマー向けマザーボードの中でハイエンドモデルに冠される型番だ。同社では、MEGのほか、アッパーミドルの「MPG」、エントリーの「MAG」といったゲーマー向けシリーズも用意している。

 MEG Z490 ACEは、実売価格4万7,000円前後と高価な部類だが、電源回路は同社のZ490マザーボードで最上位に位置するMEG Z490 GODLIKE(8万8,000円前後)と同等。もちろん、搭載されている機能に差はあるものの、マルチコア時代のマザーボードでもっとも重要なCPUへの電源供給という点では最上位と変わらない。となれば4万円台の製品としては破格なのでは? と思えてくる。

 ここでは、実際にCore i9-10900Kを使って、どれだけ安定して動作するのか、VRMの温度も含めてチェックしていきたい。

16+1フェーズの強力な電源回路

 MEG Z490 ACE最大の魅力は最上位モデルのMEG Z490 GODLIKEと同じ、16+1フェーズの電源回路だ。Core i9-10900Kの登場で、マザーボード各社はフェーズ数を増やす傾向にあるが、その中でもMEG Z490 ACEは最大級だ。16フェーズをCPU専用に割り当てており、MOSFETは90A SPSを採用(SPSはいわゆるDrMOSと同種のもの)。さらに、フェーズコントローラにはIntersilのISL69269を採用し、各フェーズ均等に電力を供給する「Mirrored Power Arrangement」機能を搭載。これにより、大出力でも安定した電力の供給を可能にしている。

16+1フェーズのVRMを搭載。CPU専用が16フェーズ
ヒートシンクを外したところ。MOSFETには90A SPSを採用している
フェーズコントローラはIntersilのISL69269
CPUの補助電源は8ピンのEPS12Vを2系統搭載する

 また、VRMには冷却用としてヒートパイプを備える大型のヒートシンクを備えているが、OCなど高負荷時に温度が上昇することを考慮し、内部に小型のファンを搭載。背面にも90A SPSを冷却するためのヒートシンクを備える徹底ぶりだ。

VRMのヒートシンクには冷却用の小型ファンを内蔵
ガッチリとプレートで補強された背面。VRM部分の背面にもプレートを配している

 これがどれだけの安定動作を生み出すか早速試してみた。テストの使用したパーツは以下のとおり。OCCT 5.5.7のLinpackを10分動作させたときのCore i9-10900Kの動作クロック(Core #0)とVRMの温度をチェックした。VRMの温度は、ハードウェア情報を表示できるアプリ「HWiNFO64」でMSI MEG Z490 ACEの欄に表示される「T15」という項目の温度を追った結果だ。このT15という項目は、MSIのユーティリティ「Dragon Center」のHardware MonitorでVRM温度を示すMOS(T)と同じ温度かつ同じように数値が変化することを確認したため採用している。

【検証環境】
CPUIntel Core i9-10900K(3.7GHz)
メモリMicron Crucial Ballistix RGB BL2K8G36C16U4BL(PC4-28800 DDR4 SDRAM 8GB×2)※PC4-23400で動作
SSDLite-On Plextor M9PGN Plus PX-1TM9PGN+[M.2(PCI Express 3.0 x4)、1TB]
ビデオカードZOTAC GAMING GeForce RTX 2080 SUPER AMP Extreme(NVIDIA GeForce RTX 2080 SUPER)
CPUクーラーCorsair iCUE H115i RGB PRO XT CW-9060044-WW(簡易水冷、28cmクラス)
電源Seasonic PRIME GOLD SSR-1000GD(1,000W、80PLUS Gold)
OSWindows 10 Pro 64bit版

 OCCTの結果画面を見れば一目瞭然だが、全コアに負荷をかけ続けても動作クロックにまったくブレは起きていない。完璧に安定して4.9GHz動作を維持している。合わせて「Intel Extreme Tuning Utility」のMonitoring機能でも確認してみたところ、高温によって動作クロックが落ちるサーマルスロットリングのフラグが立つことはなかった。28cmクラスの簡易水冷を使っていることもあり、CPU温度は50℃台から60℃台で推移していた。このド安定ぶりは、16フェーズの強力な電源回路とMirrored Power Arrangementが有効に機能していると言えるだろう。

OCCT 5.5.7 Linpackを10分間動作させたときのCPU動作クロック
OCCT 5.5.7 Linpack実行が終わった瞬間のIntel Extreme Tuning UtilityのMonitoring

 筆者はDOS/V POWER REPORTの誌面で何枚ものマザーで同様のテストを行なっているが、ハイエンドモデルでも高い負荷をかけ続けると若干だがCPUの動作クロックにブレが見られることはある。そのクロックの差がアプリのパフォーマンスに及ぼす影響はわずかだが、高性能CPUを使うのであれば、やはり性能を100%発揮させたいもの。より負荷が高いOC駆動を狙う際にも気になる部分と言える。

 次は、OCCT 5.5.7 Linpack実行時のVRM温度推移だ。開始直後は53℃で、最大でも62.3℃とまったく問題のない温度。標準設定ではVRMのファンは65℃以上で動き出すようになっている。全コア4.9GHzが10分続く程度では、ファンを使わずともヒートシンクだけで十分冷やせるレベルということだ。

VRM温度推移(OCCT 5.5.7 Linpack実行時)

2.5G LANにWi-Fi 6、USB 3.2 Gen 2x2と充実装備

 インターフェース類をチェックしよう。MEG Z490 ACEのバックパネルは、前モデルのMEG Z390 ACEと同じく内蔵GPU用の映像出力を備えていない。Intel CPUのマザーボードとしてはめずらしい仕様だが、ハイエンドクラスなので内蔵GPUは使わないという潔い判断だろう。バックパネルのUSBは、USB 3.2 Gen 2x2が1ポート、USB 3.2 Gen 2が3ポート、USB 3.2 Gen 1が2ポート、USB 2.0が2ポートと充実している。また、マザーボード上のUSBピンヘッダで、USB 3.2 Gen2 Type-Cが1ポート分、USB 3.2 Gen 1が2ポート分、USB 2.0が4ポート分を用意されている。なお、バックパネルカバーは最近上位マザーでは標準装備となりつつある組み込み済みのタイプだ。

バックパネルカバーは一体型のタイプ。内蔵GPU用の映像出力は備えていない。Type-Cはデータ転送専用だ
USB 3.2 Gen 2 Type-C用のピンヘッダも用意されている

 ネットワーク機能は、有線LANがRealtek 8125Bの2.5GとIntel I219VのギガビットLANのデュアル仕様。無線はIntel AX201によるWi-Fi 6(IEEE 802.11ax)対応だ。5GHz(160MHz)で最大2.4Gbpsの通信が可能となっている。

 MSIの「Dragon Center」に搭載されているLAN Managerを使えば、アプリケーションごとに通信の優先度を設定が可能。ゲームの通信を最優先にして、ゲームの速度低下をできるだけ抑える、といった使い方ができる。

LAN Managerでアプリごとに通信の優先度を決められる
無線LANアンテナを同梱。最大2.4Gbpsの通信をサポートする

 ストレージについては、Serial ATA 3.0が6ポート、M.2が3スロット用意されている。M.2は2スロットがPCI Express 3.0 x4とSerial ATA 3.0の両接続に対応、1スロットがPCI Express 3.0 x4接続だけの対応となる。また、M.2スロットにはすべて同社独自のM.2 Shield Frozrと呼ばれるヒートシンクを搭載。厚めのサーマルパッドも備えており、高い冷却力を確保している。

M.2は3スロット搭載。すべてにヒートシンクを用意している
一番CPU側のM.2スロットで、ヒートシンクの有無によりどこまで温度が変わるのかテストした

 実際にPlextorブランドの最新モデル「M9PGN Plus PX-1TM9PGN+」で、M.2 Shield Frozrの有無でどれほど温度が変わるのか試して見た。PX-1TM9PGN+はシーケンシャルリードで最大3,400MB/sとPCI Express 3.0 x4対応のSSDとしては最速クラス。当然コントローラもそれ相応の発熱がある。テストはTxBENCHでシーケンシャルライト(QD32)を5分間実行した際の温度をHWiNFO64で測定している。

M9PGN Plus PX-1TM9PGN+に5分間連続で書き込みを続けたときの温度推移

 結果はご覧のとおりだ。M.2 Shield Frozrがない状態ではSSDの温度は70℃をあっという間に超え、74℃付近でサーマルスロットリングが発生。書き込み速度の低下も見られた。その一方でM.2 Shield Frozrを装着すれば、温度の上昇は緩やかになり最大でも62℃でサーマルスロットリングは発生しなかった。これならば、ほとんどのM.2 SSDをサーマルスロットリングが発生しない温度で運用できるだろう。3スロットともヒートシンクがあるので、RAIDを組むのにも便利だ。

サウンドにもコダワリあり

 MSIの「MEG」シリーズはサウンドにもこだわっている。ゲーミング系のマザーボードがサウンドを重視するのは当たり前ではあるが、MEG Z490 ACEはハイレゾ再生をサポート。バックパネルのサウンド入出力は金メッキ仕様なのに加え、ESSのオーディオDACも搭載、600Ωの高インピーダンスヘッドホンもサポートとゲームだけではなく、映画や音楽も高音質で楽しめる環境が整っている。

オンボードサウンド部分のカバーを外した状態。高品質のオーディオコンデンサなどを採用する。オーディオプロセッサにはRealtekのALC1220を搭載
ESSのオーディオ用ハイエンドDAC「SABRE 9018」を搭載。DSDのネイティブ再生にも対応する

 ゲームでは、Microsoft Storeからダウンロードできる「Nahimic」を使えば、バーチャルサラウンドやマイクのノイズキャンセル、銃声や足音といった音の情報を視覚的に表示するサウンドトラッカーといった機能が利用できる。なお、サウンドトラッカーはゲーム側の対応も必要だ。対応するゲームはNahimicのサイトで確認できる。

Nahimicをインストールすれば、バーチャルサラウンドなどを利用できる

コントロール機能は「Dragon Center」に集約

 RGB LEDの発光制御やハードウェア情報の表示、OCの設定まで、マザーボードの機能はMSIのユーティリティ「Dragon Center」に集約されている。RGB LEDはMystic Lightメニューで設定でき、MEG Z490 ACEはバックパネルカバーとチップセット部分にRGB LEDを内蔵。ハデではないが、黒いマザーの渋さを引き立てるように光る印象だ。

マザーボードに関する機能を集約した「Dragon Center」
“Mystic Light”でRGB LEDの発光制御ができる
RGB LEDはバックパネルカバーとチップセット部分に搭載されている

 お手軽にOCをやってみたいなら、User Scenarioメニューが便利だ。あらかじめ複数のプリセットが用意されている。筆者が試す限り、プリセットの「Balanced」を選択するとCore i9-10900Kは全コア最大5GHz動作のチョイOC設定、「Extreme Performance」を選ぶと全コア最大5.3GHzと、なかなかすさまじいOC設定が有効になる。さすがに全コア5.3GHzは高負荷がかかると28cmクラスの水冷クーラーでもアッという間にCPU温度が100℃に到達。そうとうな冷却環境がないと安定動作は厳しい攻めたプリセットだ。なお、自分でCPUの動作倍率や電圧などを設定も行なえる。

“User Scenario”には3種類のCPU動作プリセットが用意されている
ハードウェアの監視機能も備える
マザーボード上に電源やリセットボタンを搭載。RGB LEDのON/OFFスイッチもある
ケースファン用の電源コネクタは全部で6個も用意。多数のファンを搭載した環境も作りやすい

気になるCore i9-10900Kの実力もZ490 ACEでチェック!

 MEG Z490 ACEの安定ぶりが分かったところで、Core i9-10900Kを使ったベンチマークをもう少しやってみたい。Core i9-10900Kは発売されたばかり。その性能が気になる人もいるだろう。比較用として、前世代の8コア16スレッドCPU「Core i9-9900K」を用意した。マザーボードはASUSTeK ROG STRIX Z390-F GAMINGを使用し、それ以外のパーツはMEG Z490 ACEの検証環境と同様だ。ただし、メモリはCPUに合わせてDDR4-2666で動作させている。

CINEBENCH R20の計測結果

 まずは、CGレンダリングでCPUパワーを見る「CINEBENCH R20」から。コア数、スレッド数ともにCore i9-10900Kのほうが上回るため、大きくスコアを伸ばしている。シングルコアのテストでは、短時間ではあったが5.3GHz動作を確認でき、Turbo Boost Max Technology 3.0やThermal Velocity Boostといった第10世代Core i9から新たに追加された機能も相まってスコアが伸びていると考えられる。

PCMark 10の計測結果

 次はPCの総合性能を測る「PCMark 10」の結果を見てみよう。こちらも順当に伸びている。とくにCGや動画編集性能を測る「DCC」では、Core i9-10900Kの10コア20スレッドが効いているようで大きくスコアを伸ばした。

3DMarkの計測結果

 定番の3Dベンチマーク「3DMark」の結果だ。こちらもPCMarkと同じ傾向だ。Fire StrikeではCPUパワーが影響する「Physics」、Time Spyでも「CPU」の項目が大きくスコアアップしている。その一方で、GPUの性能が大きく影響するGraphicsの伸び幅は小さい。これは、Core i9-9900KでもGPUの性能(今回の環境ではGeForce RTX 2080 SUPER)を十分引き出せているから、とも言える。とはいえ、それでもCore i9-10900Kのほうがスコアは上。ゲーム少しでもfpsを稼ぎたいのであれば、Core i9-10900Kを使う価値はある。

10コア20スレッドのパワーを安定して発揮させたいならこの一枚

 MEG Z490 ACEはその強力な電源回路により、高性能だがマザーボードへの負荷が高いCore i9-10900Kを見事安定動作させることに成功している。この安定ぶりは、長時間負荷のかかるゲームプレイではもちろん、動画のエンコードやCGレンダリングといったクリエイティブ系の作業にも向いている。

 冒頭、電源回路のグレードは最高峰のGODLIKEと同等ゆえに、4万円台の製品としては破格と述べたが、検証を通じてもその実力が伺えた。加えて、M.2 SSD周辺の仕上げ、Z490で強化されたネットワーク機能、サウンドや付属ユーティリティなど、総合的な実力の高さはご紹介したとおりだ。安定志向のユーザーに、鉄板の1枚となりそうな完成度の高さと言っていいだろう。

【Core i9-10900KとMSI MEG Z490 ACEを改造バカとKTUが動画で動作検証!】

[制作協力:MSI]

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