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“OS込み9万円”でスタンダードPCを作る、高速&コスパ優秀のミドルレンジNVMe SSDが決め手!

by 竹内 亮介

 新CPU、新GPUの話題が花盛りの昨今だが、普段使いのPCを作る際に、体感速度にストレートに影響するのがSSDだ。CPUやGPUの性能向上の真価は、写真や動画の本格的な編集や3Dゲームのプレイなどで発揮されるが、ストレージの高速化・大容量化は、日々のPC利用において、アプリ起動やファイル操作と言った頻繁に行なうアクションではっきり体感できるほど違いが分かることも多い。

 現在の多くのPCに搭載されているSSDは、HDDに比べて圧倒的に高いリード/ライト性能を持つ。Windows 10のシステムドライブとして利用すれば、Windows 10やアプリの起動速度が大幅に向上し、日常的な応答速度も劇的に改善されるため、自作PCではマストの存在と言える。

PCストレージのスタンダードとなったSSD。インターフェースはM.2/NVMeのシェアが拡大中だ

 容量あたりの価格という点だけ見ると、まだHDDのほうが上。だが、SSDの低価格化がかなり進んでこともあり、ストレージは大容量SSDが1台のみという構成のPCも現実的になった。そこで今回は、各販売店やオンラインショップで人気となっているM.2/NVMe SSDとしてはミドルレンジのSSDの1TBモデルを軸に、手頃な価格で使い勝手にもストレージ容量にも余裕があるPCを作ってみた。

今回検討した作例。今年のキーワードの一つ“10万円”をクリアしつつ、テレワークや自宅学習、ちょっとした余暇のホビーにも活躍できるスペックを目指した

高速な大容量SSDなら自作PCを長く安心して利用できる

 今回の予算は、10万円でWindows 10まで揃えられる範囲、パーツだけで8万円以下と比較的お手軽なところを目標とした。重視したポイントは、長く安心して利用できること、そしてテレワークなど日常的な作業はもちろん、息抜きの軽いPCゲームや動画再生まで問題なくこなせるレベルの性能は十分サポートすることの二つだ。

 PCを長く使いたい場合、システムドライブとして利用するストレージの選択は非常に重要だ。たとえ価格が安くても、読み書き性能が遅いモデルでは長い時間使うと陳腐化が進んで不満もたまりやすいし、容量が少なければ早い段階で容量不足の不満が生じてくる。

 そこで注目したいのが、M.2/NVMeタイプでシーケンシャルリード/ライト性能が2,000MB/s台のミドルレンジSSDだ。SSDは各カテゴリーで低価格大容量化が進んでいるが、このクラスのNVMe SSDは、従来の2.5インチSSDに迫る価格になりつつある一方、性能面では数倍という単位で上回る。まさに今回取り上げるべきSSDと言える。

今回のPCのキモとなる1TBのミドルレンジSSD、WD Blue SN550 NVMe SSD WDS100T2B0C。実売価格は14,000円前後

 2020年1月に発売された「WD Blue SN550 NVMe SSD」は、Western DigitalのSSDの中では、ミドルレンジに位置する製品。容量のラインナップは250GB、500GB、1TBの3モデルで、今回は1TBモデルをチョイスした。

 250GBモデルや500GBモデルだとちょっともの足りないな、と感じる人は多いが、1TBともなるとそうした不満はほぼ感じなくなるはず。大量の音楽データや写真、大容量の動画なども十分保存できる。

人気FPS「Call of Duty Modern Warfare」。最新のアップデートを当てた後のディスク上の容量は200GBを大きく超えている……
WD Blue SN550のデータシートよりスペックの一部を抜粋。容量によりTBWは大きく異なる

 インストールファイルの合計が100GBを超えることもめずらしくない最新のPCゲームを複数インストールしても、空き容量が逼迫するようなこともないだろう。しばらくはシステムドライブを換装する必要もなく、安心して使い続けられることは間違いない。

 また、容量が大きいモデルは、「この容量までは安心して書き込んで利用できる」ということを示す目安となるTBW(Terabytes Written)の容量が大きい。今回のWD Blue SN550 NVMe SSDで言うと、250GBモデルのTBWは150TBだが、今回組み合わせる1TBは600TBまでの書き込みが可能だ。こうした耐久性を考えても、大容量SSDを選ぶ意味は大きい。

AMDのAPUを活用してPCゲームへの適性を高める

 核心部が決まったので、ほかのパーツも考えていこう。

 PCゲームのためだけにコストが高いビデオカードを利用するのは難しそうだ。今回は、非常に高い3D描画性能をサポートするGPUを内蔵する、AMDの最新APU「Ryzen 3 PRO 4350G」を組み合わせ、ビデオカードは利用しない。

 Ryzen 3 PRO 4350Gは、CPU部分も定評のある「Zen 2」アーキテクチャを採用しており、Webブラウズを利用する調べ物や書類作成など、日常的な作業ではまったく問題ない。CPUクーラーは、ロングセラーで冷却性能にも定評のあるサイズ「虎徹 MarkII」を選択。

CPUコアにZen 2アーキテクチャを採用するAMDのRyzen 3 PRO 4350G。実売価格は22,000円前後
CPUクーラーは定番製品の虎徹 MarkII。実売価格は4,000円前後

 マザーボードは、AMD B550を搭載するASUSTeKの「TUF GAMING B550-PLUS」。B550を搭載するマザーボードの中では比較的低価格なモデルだが、高速なNVMe対応SSDの性能を100%発揮できるPCI Express対応のM.2スロットを2基も搭載する。ここしばらくは必要ないにせよ、数年後にSSDを追加したくなっても安心だ。

 また、メモリにはPC4-25600対応で8GBモジュールを2枚組み合わせたMicronの「Crucial CT2K8G4DFRA32A」を選択した。APUのグラフィックス性能はメモリ速度にも影響されやすいので、なるべく高速なメモリを利用したい。

AMD B550を搭載するスタンダード製品、TUF GAMING B550-PLUS。実売価格は17,000円前後
PC4-25600にネイティブ対応するMicronのメモリ「Crucial CT2K8G4DFRA32A」。実売価格は7,000円前後

 PCケースは、SilverStoneのATX対応PCケース「FARA R1 SST-FAR1W-G」。前面と天板がメッシュ構造になっており、エアフローに優れる。今回はさほど発熱が大きな構成ではないが、将来的に高性能パーツを組み込みたくなったときでも安心して利用できる。電源ユニットは、定格出力が500Wで80PLUS Standardを取得したThermaltakeの「SMART 500W STANDARD」を組み合わせた。

ATX対応のPCケース、SilverStoneのFARA R1 SST-FAR1W-G。実売価格は7,000円前後
電源はお手頃価格が魅力のThermaltakeのSMART 500W STANDARD。実売価格は5,000円前後

 パーツ攻勢を改めてまとめると以下のとおり。合計額は目標どおり8万円を切ることができた。Windows 10 Homeであれば通常版でも9万円強、ProならDSP版をチョイスすればセットで10万円切りが可能だ。

【今回の作例の構成/仕様】合計:78,000円前後
カテゴリー製品名実売価格
CPUAMD Ryzen 3 PRO 4350G
(4コア8スレッド、GPU内蔵)
24,000円前後
マザーASUSTeK TUF GAMING B550-PLUS
(AMD B550)
17,000円前後
メモリMicron Crucial CT2K8G4DFRA32A
(PC4-25600 DDR4 SDRAM 8GB×2)
7,000円前後
SSDWestern Digital WD Blue SN550 NVMe SSD WDS100T2B0C
[M.2(PCI Express 3.0 x4)、1TB]
14,000円前後
ケースSilverStone SST-FAR1W-G(ATX)7,000円前後
電源Thermaltake SMART 500W STANDARD
(500W、ATX,80PLUS Standard)
5,000円前後
CPUクーラーサイズ 虎徹 MarkII
(サイドフロー、12cm角)
4,000円前後

 ※10/27更新 初掲載時にマザーボード名に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

CPUソケット近くのM.2スロットがオススメ

 今回の構成では、パーツの組み込み作業自体には難しいところはとくにない。ただ、NVMe接続のM.2 SSDは高速な製品ほど発熱が大きく、SSD用ヒートシンクを使用するなどの対策が一般的。今回使うWD Blue SN550 NVMe SSDは発熱に神経質になる必要がない非常に扱いやすい製品なのだが、この機会に取り付け方をチェックしておこう。

 TUF GAMING B550-PLUSは、M.2スロットを2基装備しており、標準ではチップセットに近いM.2スロットにヒートシンクが固定されている。しかし、実はCPUソケットに近いほうのM.2スロットにもこのヒートシンクを固定するスペーサが設けられており、どちらのM.2スロットにもヒートシンクの取り付けが可能だ。

今回の構成なら、CPUソケット近くのM.2スロットを利用するのがオススメ
CPU側のM.2スロットにもヒートシンク取付用のスペーサがあるので、今回はこちらに移設する

 TUF GAMING B550-PLUSの仕様では、チップセット近くのM.2スロットを利用した場合、Serial ATAポートの5番と6番が利用できなくなる。CPUソケット近くのM.2スロットに挿した場合はそうした制限がないため、拡張性を重視するならこちらのM.2スロットを利用するほうがよいだろう。

 なお、M.2スロットのヒートシンクには、熱伝導シートが貼ってある。熱伝導シートがSSDと接触する面には保護フィルムが貼ってあるので、組み込み前にきちんとはがしておくのも忘れないように!

チップセット側のM.2スロットに取り付けられているヒートシンクを一旦外し、CPU側に取り付ける。M.2 SSDやヒートシンクの取り付けには精密ドライバーを使うのが一般的
チップセット側のM.2スロットを使用すると一部のSerial ATAポートが利用できなくなる。2.5インチSSDやHDD、光学ドライブを複数台使いたい場合には注意が必要

 PCケースの内部はすっきりとした構造であり、マザーボードなどメインパーツの組み込みで苦労することはないだろう。ストレージがM.2対応SSDのみなので、2.5インチSSDのようにSerial ATAケーブルやSerial ATA電源ケーブルの接続や配線も必要ない。ケーブル配線も含め、PCケースへの組み込み作業が楽になるのも、M.2対応SSDを利用する利点の一つである。

組み込み完了後のPC内部。ビデオカードや1台につき2本のケーブルが必要なSerial ATAのドライブを使用せず、5インチベイもないPCケースを使用したため、非常にすっきりとしている。コンパクトだが、作業は非常にしやすかった

NVMe対応SSDの圧倒的な性能に震える

 まずはWD Blue SN550とWestern Digitalの2.5インチ/Serial ATA接続のSSD「WD Blue 3D NAND SATA WDS100T2B0A」、さらに一般的な仕様の3.5インチHDD(5,400rpm、4TB)の3台でCrystalDiskMarkを実行し、そのリード/ライト性能を比較したのが下のグラフだ。

CrystalDiskMarkの計測結果

 PCI Express 3.0 x4に対応し、広い帯域で通信できるWD Blue SN550は、Serial ATA接続であるWD Blue 3D NAND SATAと比べると、シーケンシャルリード性能で約5倍、シーケンシャルライト性能も約4倍と、非常に大きな差を叩き出した。3.5インチHDDとの比較では正直勝負にならないレベルだ。

 さらに実際の使用感を、PCMark 10で検証してみた。PCの総合性能を計測する「PCMark 10 Extended」の数値は、WD Blue SN550とWD Blue 3D NAND SATAでほとんど違いはなかったが、ストレージの応答性や速度を計測する「Full System Drive」テストや、「Data Drive」テストといったストレージの性能にフォーカスしたテストにおいては、おおむね2倍近い差が出ている。

 また一般的に重いとされるアプリの起動速度もWD Blue SN550のほうが速い。実使用上の応答性などを総合的に考慮すると、3製品の中では、NVMeタイプのWD Blue SN550がシステムドライブとして最適とはっきり分かる結果と言ってよいだろう。

PCMark 10の計測結果
アプリケーション起動時間の計測結果

 「NVMe対応SSDは温度が高くなりやすい」という印象を持っているユーザーは多いだろう。前述のとおりWD Blue SN550は発熱が大きくない製品なのだが、日常的な利用状況を想定してPCMark 10 ExtendedとFull System Driveを実行し、その最大温度を計測してそのことを確認しておく。

 計測結果は下記のとおりで、ストレージに高い負荷がかかりやすいFull System Driveテスト中でも44℃と、性能に影響が出るなどといった問題になるレベルではまったくない。WD Blue SN550自体の発熱が小さいこともあるが、放熱用のヒートシンクも冷却効果を高める助けになったのだろう。

SSD温度の計測結果
SSDの放熱にはヒートシンクに加えてケース内部のエアフロー改善が効果的。今回使用したPCケースは、フロントパネルがメッシュ構造なので、吸気用のケースファンをここに設置して、前面から背面に向かうエアフローを作ろう。とはいえ、WD Blue SN550を使う分には神経質になる必要はない

 最後に、息抜きや余暇のお楽しみとしてゲームではどのくらい使えるのか、という点も「3DMark」でチェックしておこう。今回のPCでは、Ryzen 3 PRO 4350Gが内蔵する強力なGPUを利用できることから、軽めのPCゲームへの適性もあり、最近人気のFPS「VALORANT」では、フルHD/高画質設定でも一般的にゲームがスムーズに遊べるフレームレートとされている60fpsをクリアできる(Ryzen PRO 4000 シリーズの詳細な性能はこちらを参照)。

 ただ、本格的な最新ゲームではさすがにやや力不足なところもある。ゲーム性能を重視するなら、GeForce GTX 1650 SUPERのようなエントリークラスのビデオカードを追加するのもよいだろう。参考までに、下記のグラフにはASUSTeKの「TUF-GTX1650S-O4G-GAMING」の計測結果も追加している。

3DMarkの計測結果
ASUSTeKの「TUF-GTX1650S-O4G-GAMING」。ゲームをより快適にプレイしたいなら、このクラス以上のビデオカードを追加したい

 8万円以内というやや厳しめな予算ながら、長く使えて使い勝手についても満足できるレベルのPCに仕上がったと言ってよいのではないだろうか。

 スペースに余裕があるATXケースにエントリーグレードながら必要十分のマザーボードを採用したため、将来的な拡張性もしっかり確保してあることも、長期間使用するという目的に合致している。先ほども挙げたビデオカード回りの強化だけでなく、1TB SSDだけではデータの記憶容量が足りなくなった場合のストレージの増強、たとえば空いているもう一方のM.2スロットにSSDを追加する、データの保存用途に特化して容量単価の非常に安い大容量HDDを追加する、といったプランもオススメだ。

 何と言っても、この価格で構成したPCながら、WD Blue SN550をチョイスしたことにより、日常使用上の「起動が遅い」、「読み出しが遅い」といったイライラが非常に少ないことが今回の作例の大きな特徴だ。巣籠りを快適に過ごす、テレワークにPCを活用する、PC自作にこれから挑戦する、そんな皆さんにぜひとも参考にしていただきたい。

[制作協力:テックウインド]