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PCケースが塔になるほどの在庫量、STORMのPC工場でケースへのこだわりを聞いてきた

BTO PCでも自由にケースが選べる環境を提供、メモリ品質へのこだわりも text by 平澤寿康

 BTO PCは購入時にスペックを細かくカスタマイズできることから、自作PC感覚で製品を購入できる点が大きな魅力だ。

 ただし、カスタマイズできるのはCPUやメモリ、ビデオカードや内蔵ストレージなど、PCの核となるパーツが中心で、ケースはブランドの統一感を持たせるために固定となっているメーカーも多い。

 そういった中、アイティーシーが展開するBTO PCブランド「STORM(ストーム)」では、多種多様なケースラインナップを用意し、ケースについてもユーザーが自由に選択できるようにしている点が大きな特徴となっている。なぜSTORMではケースにも力を入れているのか、そのこだわりを茨城の工場でチェックしてきた。

塔のように積み上げられたPCケース選択の自由を実現するための大量の在庫を工場に保管

茨城県龍ケ崎市に位置するアイティーシーの工場。畑に囲まれたのどかな雰囲気の中でSTORMブランドのBTO PCが製造されている。

 STORMブランドのBTO PCラインナップを見てみると、内部は同じ構成でケースが異なる商品をたくさん用意していることがわかる。これは、ケースをBTOメニューに入れているのとほぼ同等と言える。そこでまず、STORMブランドのBTO PCではどういったケースが選べるようになっているのか、実際にSTORMブランドのBTO PCを製造しているアイティーシーの工場に足を運んでチェックしてきた。

 アイティーシーの工場は、茨城県龍ケ崎市に位置している。畑に囲まれたのどかな景色が広がる場所で、PC関連の工場があるとは言われなければ想像もできないといった雰囲気。

 工場は大きく分けて2棟の建物で構成されており、一方が完全な倉庫、もう一方が倉庫兼製造工場となっている。大半のエリアがPCパーツの在庫を保管する倉庫として利用されている。しかも、そのほとんどがPCケースの在庫で、2棟ある工場の大半にケースの在庫がひしめいている姿はかなり圧巻だ。

こちらの棟はパーツの倉庫として利用されている。内部に置かれているのはほとんどがPCケースの入った箱。
PCケースは場所を食うが、毎回まとまった数を輸入していることもあって常にかなりの数のPCケースが在庫として収納されているという。

 倉庫兼製造工場となっている棟だが、倉庫スペースはかなる高い位置までケースが積み上げられており、ちょっとした塔のような印象だ。BTO PCを製造するスペースよりもPCケースを保管するエリアがかなり広くとられているが、PCケースはPCを構成するパーツの中で飛び抜けてサイズが大きいものなので、そうなるのが必然ともいえるだろう。PCケースを自由に選べるようにするため、多くの在庫が確保されている。

こちらの棟は、倉庫兼組み立て工場となる。
入り口からはアイティーシーのロゴマークが見える。
こちらのエリアも多くのPCケースが保管されている。
入り口の付近にはPCケース以外にもメモリはSSDなども保管されていた。
倉庫の奥側、かなりの高さまでPCケースが積み上げられている。段ボールの中には複数のPCケースが入っており、人が小さく見えるほど。
2棟ある工場の倉庫スペースのほとんどがPCケースで埋まる光景は工場好きにはたまらないかもしれない。

STORMのBTO PC用ケースは大きく分けて4ジャンル、代表的なケースをチェック

 現在、STORMブランドのBTO PCで利用されているケースは、大きく4種類に分類できる。それは、ゲーミングPC向けケース、オーソドックスケース、コンパクトケース、そしてメーカーコンプリートPC向けケースだ。今回の工場見学に合わせ、代表的なモデルの実機を見せてもらった。もちろんこれら以外にも多数のPCケースが取り扱われている。

イルミネーションが楽しめるモデルや静音モデルも用意されたゲーミング向け

ゲーミングPC向けケース

 ゲーミングPC向けケースは、ハイエンドのCPUやビデオカードを余裕を持って搭載できる優れたカスタマイズ性のミドルタワーやフルタワーをラインナップ。PHANTEKSのEclipse P300やECLIPSE P400Sなどがこれに該当する。

 光るケースファンやイルミネーションの搭載、内部が見える透明側面パネル仕様、内部を綺麗に仕上げられエアフローも有利となる裏配線対応なども特徴となっている。また、逆に透明パネルなどがなお静音向けのケースも用意されており、ユーザーの好みに合わせた構成が可能だ。

色も選べてクリエイター用にも使えるオールラウンドな一般向け

オーソドックスケース

 オーソドックスケースは、シンプルなデザインでオールラウンドな用途に対応でき、カスタマイズ性にも優れているミドルタワーが中心。MetallicGear Neo V2やJONSBO U4などがこれに該当する。

 一般向けPCからクリエイター向けPCまで、幅広いモデルで選ばれている、STORMブランドBTO PCの主力ケースシリーズとなっている。カラーバリエーションが豊富な点も魅力のひとつだ。

小さくてもハイスペックが組めるMini-ITX向け

コンパクトケース

 日本では、住環境から小型のPCケースも根強い人気があり、STORMブランドBTO PCではスタイリッシュなデザインのアルミケースをラインナップ。RAIJINTEKのOPHION EVOやMETIS PULSがこれに該当する。

 小型であっても、ゲーミングPCとして高スペックなPCパーツを搭載できるケースとなっている点は大きなこだわりだ。

メーカーコラボや特別モデル向けの個性的なケースも

メーカーコンプリートPC向けケース

 STORMはMSIと連携し、MSI製のパーツで固めた「POWERD BY MSI」製品を取り扱っており、主にPOWERD BY MSI製品で利用されるケースも用意されている。特にMPG GUNGNIR 110Rは、フロントと左パネルに強化ガラスを採用するとともに、前面に3基、リアに1基のLEDファンが組み込まれれ、見た目にもインパクトのあるケース。

 また、2機のPCを内蔵する特別なBTO PC「PUNI 」シリーズには、Phanteks ENTHOO LUXE 2など特殊なケースが用意されている。

使い勝手の良いミドルタワーケースにこだわるSTORM、ポイントをスタッフに聞いてみたメモリのエラー0を目指した取り組みも

アイティーシーでSTORMのBTO PCを担当する宇都木氏
アイティーシーでSTORMのBTO PCを担当する豊田氏

 これらSTORMブランドのBTO PCで採用されているケースは、どのような考えで選択されているのだろうか。実際に工場で製品の組み立てを担当するとともに、採用するパーツ類の選別なども行っているスタッフにこだわりを聞いてみた。

――STORMブランドのBTO PCで採用されているPCケースでは、どういったところにこだわりがあるのか教えてください。

[STORM]STORMは商社が母体となっていることもありまして、とにかくそのまま製品として出せるぐらいの優れた品質を備えたパーツを利用しているところがこだわりです。

PCケースについては、以前は市場で売れ筋のケースを利用することもありましたが、現在では代理店として扱っている高品質なケースのみを扱うようにするなど、とにかく品質にはこだわりがあります。

そして、日本の住宅事情ではあまり大型ケースは好まれませんので、特に人気のミドルタワーに力を入れています。

Phanteks ECLIPSE P300

――ケースラインナップを決める際に基準のようなものはありますか、また人気モデルも教えてください。

[STORM]PCケースとして欠かせない、拡張性や内部の作業性、エアフロー、フロントコネクタの種類などは、日々確認し検証しています。拡張性や内部の作業性はケースとして基本的な要素ですし、高性能PCではエアフローを気にされるお客様が多いので、ドライブ搭載の有無などによる影響もしっかり検証していますから、そういった部分にはかなり自信があります。

また、中が見えるPCケースが7~8割ほどを占めていますので、ファンが綺麗に並ぶか、といったところもチェックしています。人気モデルはやはりミドルタワーで、特に「Phanteks ECLIPSE P300」は人気が高いです。

メモリの品質チェックには特に力を入れているという。
BTO PCに使用する前にエラーが無いかチェックが行われる。
裏配線などはスタッフ間でテクニックやノウハウが共有され、PC好きだからこその良さやこだわりも積極的に取り入れられているという。

――ケース以外にもこだわりやSTORMならではの部分はどういったところでしょうか。

[STORM]まずは品質です。出荷前の動作環境を再現した負荷テストにはしっかり時間をかけています。例えばメモリなどは検証して合格したもの以外は使わないようにしています。もちろん、PCを組んだ後にもテストを行い、メモリのエラーが出ないよう対策を取っています。

また、内部の配線もこだわりの部分です。中が見えるケースが多いこともありますので、組み立てる時にはどれだけ綺麗にケーブルを配線できるか、どこに通していかに配線を見せないようにするか、スタッフの間で日々検証して、いいところはどんどん取り入れています。製造スタッフは、全員が自作PC好きのマニアでもあるので、「ユーザー目線で気に入らないものは製品として出荷したくない」という思いで取り組んでいます。

組み立て時のネジのトルク管理もこだわっている部分です。ネジのトルクは強すぎても弱すぎてもだめなのです。特にマザーボードなどはトルクが強いとすぐに損傷してしまうので、気を付けている部分です。

そして、出荷された製品が問題なくお客様に届けられるように、エアパッキン型クッションを作る装置も導入して、梱包にも気を付けるようにしています。

STORMは様々なPCケースでテストを行っているが、大型のオープンフレームケースなども選べるようにできないかテストを行っているそうだ。

――今後の展望とユーザーへのメッセージをお願いします。

[STORM]パーツの性能はどんどん上がっていて、熱問題が大きくなっています。そのため、エアフローについてはかなり重視している部分ですが、今後の製品選択においても試行錯誤が多くなってくると思います。しかし、そういった中でも時代に合わせたキッチリとした製品を作っていきたいと思っています。

また、ケースではATXサイズのオープンフレームケースを出せればいいな、とも考えていますので、今後にご期待いただければと思います。

その他、注文の際の不安な点や、このようにして欲しいといったご要望にもスタッフが相談に乗りますので、お気軽にお声がけいただければと思います。

STORMのBTO PCが組みあがるまで製品のピッキングから組み立てまでチェックしてきた

こちらが工場内の組み立てスペース。常時4~5名のスタッフが商品を組み立てている

 今回は、せっかく工場に足を運んできたので、STORMブランドのBTO PCが組み立てられる様子もチェックしてきた。

 ちなみに、取材時に組んでいたモデルは、GeForce RTX 30シリーズの売れ筋モデルとなっているGeForce RTX 3070を搭載したPC。出来上がるまでの流れを見てみよう。

棚には、製品で利用する各種パーツが整然と並べられている。
各パーツは、ピックアップしやすいように、種類ごとにわかりやすく配置されている。
こちらはSSD。よく使われるモデルが置かれており、取材時も何回か補充されていた。
マザーボードもかなりの数が並べられていた。採用モデルはMSIの製品が多いようだ。

 まずはじめに、オーダー表を受け取った組立スタッフが、パーツを保管している棚からオーダー表に従ってパーツをピックアップしていく。

 棚には、CPU、メモリ、SSD、ビデオカード、マザーボード、電源ユニットなどのパーツが整然と並べられており、その中から目的のパーツを見つけてピックアップする。パーツは目視でピックアップしていくという、どちらかというとアナログな作業となっているが、スタッフは慣れたもので瞬時に必要なパーツを選別し、あっという間にピックアップが完了していた。

オーダー表を手に、構成をチェックする、まずはじめにOSのパッケージをピックアップする
続いて、CPUやマザーボード、メモリ、ストレージ、ビデオカードなど、オーダー表を確認しながら正しいものを順にピックアップしていく
CPUの次はマザーボードを選択。
SSDは定番のCrucial。
ビデオカードは今人気のGeForce RTX 3070。
Crucialの定番メモリ。棚に置いてあるメモリは事前にエラーチェック済み。
電源も仕様に合わせてまとめられているところからピックアップ。
ピックアップしたパーツは、このようにケースにまとめて入れていく。

 続いて、ピックアップしたパーツをケースに取り付けていく。こちらも非常に手慣れたもので、ケースへのマザーボードの装着やパーツ類の取り付けなどもとてもスムーズに行われていた。

 こだわりのケーブル配線は、通常試行錯誤で行われる裏面配線も含め、事前にどこにどのケーブルを通せばいいのか検証が終わっていることもあってか、よどみなく進められる様は圧巻だった。

マザーボードをはじめ、パーツ類をケースから取り出し組み立てに備える。
手際よくマザーボードなどのパーツ類がケースに取り付けられていく。
電源ユニットからのケーブルなどの配線もスピーディに進められていく。
通常は試行錯誤の裏面配線も一発で決まっている。迷いが無いので作業はかなり早い。

 組み立てが完成したら、動作試験が行われる。基本的に全ての製品で、1日ほどの時間をかけて実環境での検証を行うことになる。

 動作試験で問題が無ければはれて出荷。製品は専用の箱に詰められたうえ、さらにクッション材を敷き詰めた外箱に収められる。このクッション材は輸送中の衝撃を和らげるためのもので、その場で必要な量のクッション材を用意できるように、クッション材の製作機器も工場には備え付けられていた。どのようなクッションを使うと輸送中の事故が起きにくいのかも検証し、今の形式になったそうだ。

Windows 10上で負荷テストを実施するなどの動作試験を行う。全ての製品で1日ほどの時間をかけてテストを行うそうだ。
完成した製品は段ボール箱に入れられ、さらに輸送用の外箱に収められる。
製品の箱と外箱の間には、ビニール材に空気を閉じ込めた、エアキャップ型の緩衝材が詰められ、輸送時の振動が製品に及ぼす影響を軽減。
緩衝材をその場で製作する機械も用意されている。

スタッフのこだわりがSTORMブランドBTO PCの高品質の証

次回はSTORMの最新BTO PCのレビューを行う予定だ。

 このようにSTORMブランドのBTO PCは、PCケースも含めて品質や完成度にこだわって作られていることがわかってもらえたと思う。

 実際に組み立てているスタッフが自作PC好きというのもポイントになるだろう。ユーザー視点で不満が無いものをというこだわりがあるからこそ、STORMブランドのBTO PCが購入者から高い評価を得ているということが、今回の取材を通して見ることができた。

 次回は、BTO PCの新モデルのレビューを行うが、今回組み立て作業をチェックして見てきた製品の出来映えと性能をじっくりチェックしたいと思う。

[制作協力:アイティーシー]