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“MSI製”で統一して安定性を向上、BTO PCブランドStormが販売する「POWERED BY MSI」PCのこだわり

MSIが全面バックアップ、工場も見学してきた text by 平澤寿康

 アイティーシーが展開するBTO PCブランド「Storm(ストーム)」から、主要PCパーツをMSI製で固めた「POWERED BY MSI」を冠するPCが登場する。

 ビデオカードやマザーボード、CPUクーラーをMSI製品で固めるとともに、MSIのゲーミングの象徴とも言えるドラゴンのマークがあしらわれたケースを採用した特別モデルだ。

 一見するとMSI純正PCといった感もあるモデルだが、MSI自身が完成品のPCとして販売するのではなく、StormブランドのBTO PC製品として扱われる点が大きな特徴となっている。

 なぜアイティーシーがこうした製品を扱うことになったのか。そのきっかけや、製品へのこだわり、「POWERED BY MSI」とはそもそもどのような取り組みなのか、アイティーシーの代表取締役社長である池田正氏と、エムエスアイコンピュータージャパン社長のリッキー・チャン氏に話をうかがってきた。

統一されたデザインと高い安定性を提供できる「POWERED BY MSI」

エムエスアイコンピュータージャパン社長のリッキー・チャン氏
アイティーシー代表取締役社長の池田正氏

――:POWERED BY MSIとはどのような取り組みなのか、教えてください。

[リッキー氏]:MSIは、以前からゲーマー向けのPCを販売していまして、高い人気を得ています。そういった中で、エンドユーザー様に最大限ゲームを楽しんでいただくために、2年前に「POWERED BY MSI」コンセプトを開始しました。

 当初はビデオカードとマザーボードのみで展開していましたが、最近はケースや各種デバイス、モニターなどを組み合わせて展開しています。

 ここ数年、日本でもeスポーツが盛り上がっていますが、POWERED BY MSIによって、より良いゲーム体験を提供したいと考えて取り組んでいます。

――:POWERED BY MSIはどこから始まったんでしょうか。

[リッキー氏]:最初は台湾のパートナーさんと協力して台湾からスタートしました。その後、その他の地域でも展開を始めて、現在では日本以外にもアメリカや中国、東南アジアなどで展開しています。それら地域では高い評価を得ています。

――:日本での展開は、今回のアイティーシーさんが初めてとのことですが、どういった経緯で取り扱うことになったのでしょうか。

[池田氏]:MSIさんはワールドワイドの大手PCメーカーで、品質に優れていてブランド価値も高いということがあります。近年、我々のStormブランドで展開している製品でも、MSIさんのパーツを利用する比率がかなり高くなっています。

 そういった中で、もっと製品デザインの統一感を高めるという意味からも、MSIさんのパーツで統一したPOWERED BY MSIを始めようということになりました。


MSI製パーツでかためることで、BTO PCでも統一感のあるデザインの製品を提供することができる。安定性だけ無く、こうした部分もBTO PCメーカーにはメリットになるとのこと。
MSI製PCパーツだけで組み上げるため、相性問題などを気にしなくても良い点はメーカー・ユーザーともにメリットになる。

――:日本でPOWERED BY MSIを展開する、MSIにとってのメリットを教えてください。

[リッキー氏]:我々は日本国内に生産工場を持っていません。我々の製品はもともと品質は高く評価も得ていますが、日本に生産工場がないため、短期でのPC製品の納入が難しいという問題がありました。

 しかし、アイティーシーさんは自社工場をお持ちですし、例えば法人案件の大口案件にも短期間で対応していただけますので、協業することでMSIの製品をより広く展開することが可能になります。そこが大きなメリットとなります。

 また、我々の台湾の技術者が定期的に来日して、ミーティングを行ったり、各種フィードバックをいただくことにより、日本で求められるレベルの高い品質改善が行えるという点も大きな利点と考えています。

――:では、アイティーシーにとってのメリットはどういったことがありますか。

[池田氏]:それは品質と安定性が担保される点です。BTO PCの構成を決める際、異なるメーカーのPCパーツが組み合わされる場合が多いかと思いますが、そもそも組み合わせることが可能なのか、相性問題が起きないかといったような点を事前に検証する必要があり、そこがクリアになって初めて使用するPCパーツの候補とすることができます。

 その点、POWERED BY MSIはMSIさんのパーツだけで組み上げますので、搭載パーツの候補を決める際、動作する前提で検討をスタートすることができます。当然、動作検証自体は行いますが、そのPCパーツを採用しても良いのかといった部分の検証が最小で済ませられる点はメリットになります。

 以前に比べると減ってはいますが、PCパーツは相性による問題が発生することが多々あります。メーカーが違えば、BIOS設定などが変わると不安定になってしまう組み合わせなどもあるので、やはり同一メーカーで搭載パーツをまとめられるという安心感は大きいです。

 現在我々の工場では、5名のスタッフが組み立てを担当していますが、MSI製のパーツが最も扱いやすいという声も届いています。そういう意味でも、MSIさんのパーツのみで組み上げるという点に大きなメリットがあると考えています。

「POWERED BY MSI」の認証条件とはマザー、ビデオカード、CPUクーラー、ケースなど主要パーツをMSIで固めること

――:POWERED BY MSIの認証を受けるためには、どういった制約があるんでしょうか。

[リッキー氏]:マザーボード、ビデオカード、CPUクーラーなどのキーパーツを全てMSI製のものを利用する、というのがひとつです。

 合わせて、POWERED BY MSIのコンセプトを表現するケースの利用も必要となります。そのうえで、MSIのパーツを組み合わせてお客様が満足できる製品を提供する、というのが最大のコンセプトとなります。


マザーボードやビデオカード、CPUクーラーやケースなど、主要パーツをMSI製のモデルでのみ構成することが「POWERED BY MSI」の認証条件になっている。


Stormブランドで販売される「POWERED BY MSI」モデルの試作機。
POWERED BY MSIの公式サイトでは、価格面での優位性も特長としてあげられている。

――:POWERED BY MSIのPCを購入すると、ユーザーはどのようなメリットが得られるのでしょうか。

[リッキー氏]:現在、若い世代を中心にPCを自作する人が減っています。また、頑張って自作しようとしても、パーツによって保証期間が違っていたり、サポートの連絡先が違っていたりして大変な部分があります。

 しかし、POWERED BY MSIなら完成品として届くので、PCが組めなくてもこだわった構成のPCが手に入りますし、保証やサポートも一括で受けられます。ユーザー様にはこうした高い利便性が得られるという点が大きなメリットとなります。

[池田氏]:実はStormブランドの他の製品でも、パーツ類を同一メーカーのもので揃えたいという声が近年は増えています。

 先ほどもお話ししたように、以前より減ってはいますが、相性問題を気にする人は多いのです。ですので、同一メーカーで揃っているPOWERED BY MSIは、そういったユーザー様にとって魅力的な存在となるでしょう。

 また、完成品が納入されますので、細かな設定が不要という点もメリットです。製品を構成するパーツはいずれも個別に購入できますが、購入後に取り付けたり、BIOSの細かな設定を行うといった手間がかかります。

 しかし、POWERED BY MSI製品ならそういった設定も終わった状態で届きます。もちろん、製品は全て国内の自社工場で生産しています。

 加えて、価格的なメリットもあります。MSIさんの協力で調達コストをおさえられるのです。製品が安価になるという点もユーザー様の大きなメリットになるでしょう。


StormブランドのBTO PCの特長として、内部構成の品質が上げられるという。ケーブル類を綺麗にまとめるだけでなく、エアフローもしっかり確保するのがこだわりの一つとのことだ。
アイティーシーはCrucial(Micron)の正規代理店も務めており、StormブランドのPCにはメモリやストレージに関しても安定性の高いパーツが採用されている点が特徴になっている。

――:Storm製BTO PCのこだわりについて教えてください。

[池田氏]:こだわっているのは品質です。元々アイティーシーでは業務用PCの製造販売を行っています。業務用では品質が最優先され、その要求に応えるため安定性や耐久性に関するノウハウの蓄積がありました。

 そうした部分をフィードバックしてコンシューマー向けに販売しているのがStormブランドのPCになります。このため、採用するPCパーツにはこだわりがあります。実際にPCを開けて採用しているパーツを見てもらえれば、我々の品質へのこだわりがわかってもらえるのではないでしょうか。

 POWERED BY MSIを扱っているからというわけではないですが、今はMSI製のパーツを使う割合が非常に高くなっています。

 メモリーやストレージには、MicronまたはCrucial製のものを使っています。MicronやCrucialの製品はサードパーティベンダーの製品と比べると品質が大きく異なります。

 また、ゲーミング向けの製品では、電源ユニットにゆとりを持たせることも特徴になっています。例えば、ミドルクラスであれば750Wといったように、高負荷時でも安定性とマージンが確保できる構成になっています。PCの構成に対して電源容量がピッタリというBTO PCも散見されますが、安定稼働を見越したマージンを確保するのもはStormブランドのこだわりです。

 これらのほか、内部レイアウトのクオリティにもこだわっています。ケーブル類はマザーボードの裏に通したり、バンドでしっかり固定するなどして、綺麗にまとめるようにしています。これによって、ケース内部のエアフローもしっかり確保できるようになっています。

――:POWERED BY MSIモデルは今後も発展させていく予定ですか。

[池田氏]:今回の製品はPOWERED BY MSIの第1弾ではありますが、今後もMSIさんと協業して展開していきたいと考えています。今回はタワータイプのものとなりますが、できればよりコンパクトな製品なども展開できればと考えています。

――:MSIとしては、POWERED BY MSIを今後さらに広げていく予定でしょうか。

[リッキー氏]:ゲーミング向けはもちろんですが、現在我々はデザイナーなどのクリエイティブ分野にも展開を始めています。それらの分野ではデスクトップやノートPCなどを展開しますが、ゲーミング向けとはちょっと違って、落ち着いた外観を採用したいと思っています。

 POWERED BY MSIは、ハイエンドをターゲットとしたコンセプトで、これまでもハイエンド製品で展開してきました。しかし今後は、クリエイティブ分野ではミドルハイレンジなども展開したいと考えています。合わせて、将来は一般コンシューマ向けの製品にも広げて行ければと思います。

――:ありがとうございました。

インタビューは非常になごやかに行われた。

StormのPCはここで作られる 工場の様子を見学してきた

 今回は、実際にアイティーシーがStormブランドのBTO PCを製造している工場も見学してきたので、そちらも紹介する。

 アイティーシーの工場は、茨城県竜ケ崎市に位置している。畑に囲まれたのどかな雰囲気にある工場では、5~6名のスタッフが受注した製品を日々組み上げて出荷しているという。

アイティーシーの工場は畑に囲まれたのどかな場所にある。
二棟あるうちの奥側がStormのBTO PCが製造されている建物。
取材日も入庫待ちの部材や出荷中のPCなど、段ボール箱が積み上げられていた。
工場の入り口。
入り口付近は資材の一時置き場になっていた。
こちらに置いてあるのはSSD、ほとんどがCrucial MX500。
MSIのケースも大量にストックされている。
こちらは電源。

 工場には、製品で利用するPCパーツが整然と並んでいる。中でも特に目立つのがケースで、やはり最も場所を取るという。

 工場の内部に入ると、CPUやメモリー、マザーボード、ビデオカード、SSDやHDDなどのストレージデバイス、電源ユニットなどのパーツ類が棚に並んでいる。

 それらを見ると、インタビューで話をうかがったとおり、ビデオカードやマザーボードはMSI製のパーツが大多数を占めており、メモリーやSSDにはMicronおよびCrucialの製品が使われていることが見て取れる。

ずらっと並べられたMSI製のPCパーツ。
マザーボードはMSI MPG Z390 GAMING EDGE ACが多く使われているとのこと。
ビジネス用モデルなどに使われるMSIのmicroATXマザーボード。
MSIのGAMINGシリーズビデオカードも多数置かれていた。
Crucial MX500がぎっしり、この箱が倉庫には多数積まれている。
こちらはCrucialのメモリ、組み込み向けのパッケージ。
Core i9-9900KなどリテールパッケージのCPUもあった。
BTO PCメーカーにはこうしたトレイでCPUは納品されることが多い。

 そして、工場の奥では、組立スタッフが実際の製品の組み立てを行っている。

 そちらでは、BTO PCで指定されたパーツをマザーボードに取り付けてケースに装着し、OSインストールや各種設定などを行っている。当然スタッフは組み立てに熟練している様子で、スムーズに製品を組み上げていた。

 また、検証や開発なども行われており、負荷テストなどをかけて不具合が発生しないかチェックが行われ、問題が判明した場合はパーツメーカーへフィードバックを行い、対策が取られることになる。BIOS設定のチューニングなども取材時には行われていた。

組み立てスペースの様子。
スタッフは全員熟練者ということもありテキパキと組み立ては進んでいた。
右側が組み立てエリアの裏では、出荷前のテストなどが行われている。
BIOSのセッティングやチューニングも。
チェック中のPC。
負荷テストにはPrime95が使われていた。
POWERED BY MSIモデルもここでチェックが行われている。
写真は試作機だが、ほぼ販売モデルと同じ構成とのこと。

 なお、Stormブランドでは、年間1万台ほどの製品を出荷しているそうだ。大手と比べると規模は小さいとのことだが、利用しているパーツのラインナップや、組み立てスタッフの作業を見る限り、品質に関して安心感を強く感じた。

 品質重視のBTO PCとして、Stormブランドの製品はかなり魅力が高いと言っていいだろう。

[製作協力:アイティーシー/MSI]