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強烈にヘビーな4K超のRAW動画編集にGen 4 SSD最高峰「Samsung SSD 980 PRO」×4本のハードウェアRAID+64コアCPU+メモリ256GBで挑む
text by 北川達也
2020年12月28日 00:00
ここ数年、CPU、GPU、ストレージと、PCの性能を決定付けるパーツの高性能化が急速に進んでいる。その一方で、PCで取り扱うデータも大型化。とりわけ動画分野においては、カメラの高性能化に伴って4Kや8K解像度のデータが身近になり、加えて撮影後に色調などを柔軟に調整できるRAW形式での収録に対応した機材が増えた結果、動画編集PCに求められる性能も急速にハードルが上がりつつある。
4K RAWといったリッチな映像コンテンツを20万円台の一眼カメラで撮影できるようになったが(RAWでない4K動画ならスマホでも撮影できる)、編集するPCの性能が足りなくては容易に作品に仕上げることはできない、というわけだ。
動画編集PCでは、まずCPU性能とメモリサイズに注目するユーザーが多いと思う。もちろんそれは間違っていないのだが、GPUとストレージ、つまりSSDの性能も大事だ。CPU、メモリ、GPU、SSDのどれか一つでも性能が不足すると、とたんに編集作業が重くなることが多い。しかしながら、とくにストレージ性能に関してはスムーズな編集作業を行なうための基準が、なかなか見えてこないのではないだろうか。
そこで今回は、M.2タイプのSSDでは現在最高クラスの性能を誇る「Samsung SSD 980 PRO」を使って、“ドライブ単体”と、“ドライブ4本を使ってのハードウェアRAID”という環境で、動画編集作業の快適さにどの程度の違いが出るかをテストしてみた。
最速クラスのNVMe対応SSD「Samsung SSD 980 PRO」×4本をRAID 0で駆動
はじめにテストで使用するハードウェアの特長を紹介しておく。今回のテストに使用するSamsung SSD 980 PROは、現在のコンシューマ向けSSDの中で最高クラスの性能を誇るPCI Express 4.0 x4接続のNVMe SSDである。同社のコンシューマ向けSSDにおけるフラグシップモデルだ。
Samsung SSD 980 PROは、最新のスマホで採用されているSoCとほぼ同じ8nmプロセスで製造された新設計の「Elpis」コントローラと自社製の第6世代3bit MLC(TLC) V-NANDを組み合わせて設計されている。
その最大性能は、公称最大読み出し速度7,000MB/s、書き込み速度5,000MB/sを実現。コントローラなどが一新されたこともあり、読み出し/書き込みなどの基本性能が従来のPCI Express 3.0の製品と比較して大幅に向上しただけでなく、実アプリの使用感などもアップしている。
検証に使用したPC環境は、ツクモのPCワークステーションWA9A-G200/WTをベースとしたカスタムモデルである。CPUは64コア/128スレッドのAMD Ryzen Threadripper 3990X、メモリはDDR4-3200 256GB(32GB×8枚)、ビデオカードはAMD Radeon RX 5700 XTを搭載している。4Kや8Kなどの高解像度の動画編集を快適に行なうのに適した基本性能を有している。
シングルCPUのPCとしては最高峰のスペックと言えるレベルだ。
今回のテストでは、このPC上にSamsung SSD 980 PROを4台利用したRAID 0アレイを構築する。使用するRAIDカードは、HighPoint Technologiesの「SSD7505」だ。SSD7505は、M.2スロットを4本備えたPCI Express 4.0 x16のRAIDカードである。同製品はツクモ WA9A-G200/WTのBTOオプションではなく、本企画用に別途用意したものだ。
NVMe SSDのRAIDアレイ構築をサポートするPCI Express 4.0対応スイッチチップを基板上に搭載し、RAID 0、1、1/0のアレイ構築に対応するほか、Windows/LinuxのOS起動にも対応する。Samsung SSD 980 PRO 4台でRAID 0アレイを構築した場合の理論上の最大速度は、読み出し28,000MB/s、書き込み20,000MB/sに達することになる。
SSD7505は、基板全体をアルマイト加工された堅牢なヒートシンクで覆っており、ヒートシンク上にはファンも備えている。これによって高い冷却性能を実現しており、発熱が比較的大きいPCI Express 4.0対応NVMe SSDでRAIDを構築してもサーマルスロットリングが発動することなく使用できるようにしている。
RAID 0で最大読み出し速度27,000MB/sオーバーを達成
ここからは、ベンチマーク結果から4台のSamsung SSD 980 PROでRAID 0アレイを構築した場合の性能を見ていく。
ベンチマークソフトには、最大速度を計測できる定番の「CrystalDiskMark 8.0.0」とアプリケーションの起動や操作などをシミュレートすることによってストレージの体感性能を計測する「PCMark 10 Full System Drive Benchmark」を使用した。また、Iometer 1.1.0を使用し、読み出し開始位置が40GB単位で異なる複数タスクによる同時読み出し時の速度計測も行なっている。
最大速度を計測するCrystalDiskMarkの結果は、RAID 0構築時が最大速度読み出し速度(SEQ1M Q8T1)が21,719.2MB/s、書き込み速度が18,745.7MB/sであった。この速度は、Samsung SSD 980 PROを1台で使用したときの読み出し速度の約3倍、書き込み速度の4倍弱である。
理論値から考えるともう少し読み出し速度が出てもよさそうだが、Blocksizeを初期値の512KBから変更するなどしてテストを繰り返してもこれ以上は伸びなかった。そこで、Iometerを使用して256KB QD32 2タスクのシーケンシャル読み出しを行なってみたところ、ほぼ理論値の「27,804.3MB/s」を計測した。
SEQ1M Q1T1の速度が読み出し/書き込みともに1.5倍程度しか伸びていないのは、1スレッドで実行する場合の性能のほぼ限界に達しているからだ。NVMeはマルチスレッドに対応しているので、複数スレッドでテストを行なうとさらに性能が伸びるはずだ。そのほか、ランダム4KB Q32T1やランダム4KB Q1T1の速度がまったく伸びていないのは、読み出し/書き込みサイズが4KBと小さく、RAID 0による並列書き込みの効果が活きないからである。
次にPCMark 10 Full System Drive Benchmarkの結果だが、総合スコアは1台で使用した場合が2,625、RAID 0アレイ構築時が2,620とほぼ同じスコアだった。これは、PCMark 10のテスト内容が、小さなファイルの読み書きが多く、読み出し/書き込みにおける最大性能が反映されやすいテストが少ないからだろう
一方で、PCMark 10 Full System Drive Benchmarkの詳細な計測結果を見ると興味深い部分もある。それは、アプリの中でも比較的大きなファイルを扱うAdobe系のクリエイティブアプリにRAID 0による効果が見られることだ。とくにAfter EffectsやIndesignなどの大きなファイルを扱うケースが多いアプリで高めの効果が見られている点は注目だ。
また、Iometerの複数タスクによる同時読み出し時の結果も、動画編集に効果が大きいことを示している。このテストでは、RAIDアレイに対して24タスク同時に読み出しを行なった場合のタスクごとの速度と最大レイテンシを測っている。読み出し条件は、転送長が512KBで100%シーケンシャル読み出しと50%のシーケンシャル読み出し50%のランダム読み出し、30%シーケンシャル読み出し70%ランダム読み出しの3パターンである。
結果は、すべてのパターンで(掲載スペースの都合でデータは掲載していない)常に900MB/s以上の速度で読み出しが行なえている。ランダムアクセス比率があがるとレイテンシが増えるが、それでもわずか50ms弱のレイテンシにとどまっており、連続読み出しにおいてデータが途切れるほど大きなレイテンシは発生していない。これだけの速度があれば、理論上は8K動画の24ストリーム同時再生ぐらいなら余裕でこなすことができるストレージ能力がある。
ちなみにSamsung SSD 980 PRO 1台のみで、複数タスクの同時読み出しを行なうと、16タスク同時読み出し、100%シーケンシャル読み出しの場合でタスクあたりの速度が370MB/s、レイテンシは90ms前後だった。これでも十分な速度と言えるが、RAID 0の性能と比較すると、大幅に見劣りするのは確かだ。
そのほか、Samsung SSD 980 PROを4台使ってRAID 0を構築した場合、SLCキャッシュの容量は、1台で使用した場合の4倍となる。今回のケースでは1TBモデルを4台使用しているので、未使用時に約460GBの容量がSLCキャッシュとして利用できた。
また、SLCキャッシュが切れた後の速度もRAID 0の効果によって、平均速度7,172.8MB/sと非常に速い。この速度は、動画編集に使用する素材など大きなファイルをコピーしたり、移動したりするときに威力を発揮するだろう。
動画編集ソフト上で超高速RAIDの効果が6K、4K RAW映像を複数ストリーム動画環境でテスト
続いて、HighPoint RAIDカードによるSamsung SSD 980 PRO×4本の最強ストレージで、実作業での効果が期待できるシチュエーションとして動画編集環境でのテストを行なう。
テストには、インプレスの動画編集スタッフに協力してもらった。テスト内容はシンプルに、「動画編集ソフト上で、6K解像度のRAW動画データを何本まで同時になめらかにプレビューできるか」を比較した。動画編集ソフトはAdobeのPremiere ProとBlackmagic DesignのDavinci Resolveだ。用意した映像データと収録した機材は以下のとおり。
ちなみに、Samsung SSD 980 PROは単体でも、4K RAWクラスの映像データであっても、少ない本数であればスムーズに処理できる。今回のテストで想定しているのは4K RAWを多数同時に扱いたい場面や、6K、8Kといったより大きなデータを扱う場面だ。
動画スタッフも普段から4K映像の編集をしているが、このクラスのマシンで作業をするのは初めて。「普段使っているカメラでは4Kや6K RAWの撮影ができるのに、編集するPCの性能がネックとなってコンテンツ作りに活かし切れていません。こういう歯がゆい思いをされている方はプロにもアマチュアにもいらっしゃると思います。昨今のパーツの高性能化をうけ乗り換えを検討していたところなので、個人的にも今回のテスト結果は気になります」
【Premiere Pro CC2020での検証内容】
以下の機材で収録した映像データをPremiereの複数タイムラインに配置し、何本までスムーズなプレビューができるかを確認
【映像収録機材】 | |
---|---|
カメラ | パナソニック LUMIX S1H |
映像モニタ/外部ストレージ | ATOMOS NINJA V + 1TB Serial ATA SSD |
記録データ | S1HのHDMI出力経由でATOMOS NINJA Vに記録したApple ProRes RAW 6K(5.9K)データ(5,888×3,312ピクセル)/29.97fps、ビットレート約2Gbps |
※備考
- コマ落ちインジケータを表示させているが、1フレームでもコマ落ちが発生すると緑→黄色と変化するだけのものであるため、コマ落ち発生の確認用としてのみ利用
- CPU負荷を下げるため(CPUがボトルネックになることの回避)プレビュー画質は「1/8」に設定
では、Premiereでの検証結果を見てみよう。スムーズさに関しては、インプレスの動画スタッフの感想だ
Samsung SSD 980 PRO単体
- 4ストリーム
コマ落ちなし - 6ストリーム
コマ落ちは確認できるが、実用上問題はないスムーズさ - 8ストリーム
最初の数秒でコマ落ちが激しくなるが、その後は6ストリーム時と同程度のコマ落ちになる。実用可能 - 10ストリーム
最初の数秒のコマ落ちに続き、その後もコマ落ちがかなり目立つ。ギリギリ実用可能 - 12ストリーム
最初から最後までコマ落ちが続く。実用には厳しい
HighPoint RAIDカード+Samsung SSD 980 PRO×4本
- 4ストリーム
コマ落ちなし - 8ストリーム
コマ落ちの警告は出るが、ほぼ気にならない - 12ストリーム
コマ落ちが少し目立つようになるが、実用上問題はないスムーズさ - 16ストリーム
最初の数秒で大きくコマ落ちが発生。その後もところどころで引っかかるようなコマ落ちが出る。まだ実用可能 - 20ストリーム
全体的にコマ落ちが多くなる。この辺りが実用ギリギリ
まず、Samsung SSD 980 PRO単体の結果について。シングルドライブで6K RAWデータを10ストリームも同時に扱える点に素直に驚かされる。これくらい扱えれば、それなりに柔軟なコンテンツ制作が可能になるだろう。とはいえ、これはあくまで単純にストリームをタイムラインに配してプレビューしただけの場合。エフェクトなどのほかの処理をかけた場合に同じようにスムーズになるとは限らない。
そして、HighPoint RAIDカード+Samsung SSD 980 PRO×4本では、20ストリームまで実用的なパフォーマンスを維持できた。ハードウェアによるRAID 0とはいえ、SSDの本数に対してリニアに性能が伸びることはなかったが、ドライブ単体時の2倍の6K RAWストリームを同時に扱えるパフォーマンスは驚異的だ。
インプレスの動画スタッフいわく「20ストリームも扱えると、そうとう柔軟なコンテンツの編集が可能になりますね。10ストリーム程度を扱う場合でも、まだまだ余力を残しているという安心感があるのがいいです。これならもっと重いデータを扱うことになっても対応できるということですから」とのことだった。
同じ検証を、Davinci Resolve 16でも行なった。このソフトではApple ProRes RAWを直接読み込めないため、以下の環境で撮影した素材を利用した。
【映像収録機材】 | |
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カメラ | SIGMA Fp |
外部ストレージ | Samsung Portable SSD T5 |
記録データ | DNG形式の4K RAWデータ(12bit/24fps)、長さ約3分、容量約75GB、ビットレート2.4Gbps |
結果、ドライブ単体でも、9ストリーム同時にプレビューしてもコマ落ちはなかった。Davince Resolveはプロジェクト読み出し時にファイルをビデオメモリ上に展開する関係からか、Premiereよりもストレージ使用の効率が高いためと思われる。
しかし、ドライブの1TBという容量の限界により、SSD単体では10ストリーム以上の検証は行なえなかった。尺を短くしてファイルサイズを抑えて本数を増やすと、オンメモリになってストレージの負荷が軽減される可能性があるのでできない。
一方で、HighPoint RAIDカード+Samsung SSD 980 PRO×4本環境では、4TBという容量を活かし、15本同時に扱うことができた。性能的にこれは上限ではなく、まだ本数を増やせる可能性があることを付け加えておく。
ドライブ単体で容量が不足する場合には、RAID 0によって1ドライブの容量を増やすのも一つの選択肢だ。もちろん、RAID 0の性格上、そのRAIDアレイは作業用のみに使うべきで、データ保存に利用すべきものではないことは理解しておきたい。
リッチな映像コンテンツを快適に作るにはストレージ環境の強化も必要
まず、Premiereでは、4K超のRAW映像のストリーム数を増やしていくとストレージ性能がネックになってくることが確認できた。これはSamsung SSD 980 PROのような最新の高速SSDを持ってしても避けられない。そうした場合には、高速SSDをRAIDで使用することによって改善できる場合があることも確認できた。
Davinci Resolveにおいては、ドライブ単体での性能の限界に到達する前に、容量の限界を迎えてしまった。映像データの大型化に対して、SSDの大容量化が追い付いていない形だ。この状況を改善するためにもRAIDは活用できる。
4K表示環境はすでにかなり普及し、ハイエンドテレビでは8Kモデルが登場している。今後も映像コンテンツの高解像度化は避けて通れない流れだ。これに合わせて編集環境の負荷も増大してゆく。その中で多数の映像素材を組み合わせたリッチなコンテンツを効率的に作ろうとすると、CPUやメモリだけでなくストレージの強化も必須となる。そうした環境を構築する際には、今回テストしたHighPoint RAIDカード+Samsung SSD 980 PROのRAID環境を思い出してほしい。