特集、その他

あの老舗ブランドGainwardが日本再上陸!ハイコスパGeForce RTX 3080カード新顔の実力を検証

Palit傘下となった古参、GeForce RTX 3090製品もラインナップ text by 石川 ひさよし

 アッパーミドルレンジ以上のGPUを中心に、数年ぶりに、GeForceとRadeonのバトルが激しくなり、活況を呈しているビデオカード市場。各社から製品がリリースされているものの、上位のRTX 3080やRTX 3090を中心に、争奪戦が続いている。そんな最中、しばらく名前を聞かなかったGainwardから、GeForce RTX 3080カード「GeForce RTX 3080 Phoenix GS」が登場した。

Gainward「GeForce RTX 3080 Phoenix GS」

ヨーロッパで育ったGainwardが日本市場にも復活

 “Gainward”と聞いて、懐かしいと思う方も知らない方もいるだろう。まずはGainwardというメーカーを振り返ってみよう。

 Gainwardは1985年に台湾で創業したメーカーで、90年代後半には日本国内でも同社製品が「CARDEX」ブランドとして流通していた。2000年辺りからは、CARDEXではなく「Gainward」ブランドとして流通していたと記憶しているが、一貫してコストパフォーマンスに優れた製品を投入し、店頭でよく見かける定番ブランドだった。NVIDIAのGeForceの登場とともに存在感を増したGainwardだが、何度が流通から見かけなくなることがあり、直近の数年もそうした状況だった。

Gainwardが主戦場としている欧州向けホームページ(ドイツ語版)

 同社自体にもこの25年で変化があったそうで、2005年に、低価格ビデオカードで知られるPalit Microsystemsと経営統合。Gainwardの社名とブランドは残っているが、Palitグループの一員となっている。分かる人にはよく分かると思うが、ビデオカードのクーラーデザインがGainwardとPalitでよく似ている(同じ!?)のはこのためだ。

 そして日本市場ではあまり見かけなくなっていた時期も、ヨーロッパでは引き続き存在感を示していた。それと言うのも、Gainward本社は台湾にあるが、ドイツ・ミュンヘンにヨーロッパ本社を構えており、ヨーロッパ事業を主戦場として力を入れているのである。カードデザインが日本市場に流通しているほかの製品と比べるとテイストが異なる理由は、この辺りにあるかもしれない。これが“ヨーロピアンテイスト”か、と言われると筆者には判断しかねるところだが、カラーリングやLEDの使い方などはなかなかインパクトがある。

Gainward(とPalit)のビデオカードは、日本国内でよく見かける大手のカードとはデザインの方向性が少々異なるように感じる

Phoenix GSは“ちょうどよい”サイズ感のトリプルファン

 GainwardのGeForce RTX 3080搭載カードラインナップは、大きく分けて「Phantom」と「Phoenix」があり、クーラーデザインが異なる。PhantomはPhoenixよりもクーラーが大きく上位の位置付けだ。その上でPhantomとPhoenixそれぞれに「GS」と無印がラインナップされている。GSは無印よりも高クロック設定だ。整理すると、パフォーマンスはPhantom GSがもっとも高く、次いでPhantom>Phoenix GS>Phoenixの順になる。

 GeForce RTX 3080 Phoenix GSはカードサイズが112×294×55mm(高さ×カード長×厚さ)。超大型カードが多いGeForce RTX 3080搭載機だけに、本製品もカード長は30cm近く、厚みも2.7スロット相当もあるのだが、Phoenixクーラーは高さが低く抑えられているところが特徴で、補助電源ケーブルの取り回しや端子部分の負荷の軽減、幅が狭めケースでも使いやすいなど、PCケースへの組み込みがラクなデザインだ。

ブラケット高とほとんど同じカード高

 GeForce RTX 3080クラスのビデオカードは、カード自体が巨大で重いため、剛性やたわみ対策が気になるところ。GeForce RTX 3080 Phoenix GSは2枚のダイカスト製バックプレートを搭載することで、全体の強度を保っている。大型クーラーとの組み合わせにより、全体のガッチリ感はかなりのものだ。

ダイカスト製バックパネルを装備。基板面のフレームと合わせて剛性を高めている

クーラーは。直径およそ9cmのファンを3基並べたデザイン。表面にはファンガードのようにシルバープレートが装着されている。ファン軸には長寿命の2ボールベアリングを採用。IP5X準拠の防塵設計でファンの振動が少ないとされる。また、一般作業やメディア再生時などGPU温度が60℃を下回る際にファンの回転を停止する準ファンレス機能「ZERO RPM FAN」も備えている。

ファンは9cm径が3連。ブレードにも溝を設ける加工が入っている
補助電源コネクタは8ピン×2。基板自体が比較的短い設計なので、カード端ではなく、中腹にコネクタがある

 アドレサブルRGB LEDは中央ファン周辺に搭載されている。そしてLEDの制御は同社「Expertool 2」で行なう。発光パターンは、GPU温度(四つの温度域で変化)、常時点灯、レインボー、ブレス(2色間)、サークル、ストローク。Expertool 2はプロファイル変更が可能なほか、そのプロファイルではOCやファン回転数制御が可能。ステータス監視やBIOS更新機能も統合されている。

中央のファンの周辺に配置されたアドレサブルRGB LED。独自ツールで調整が可能だ
Gainwardの統合ユーティリティ「Expertool2」。LEDのカラーやパターンの設定、カード各部の監視といった機能がまとめられている

 映像出力端子はDisplayPort×3、HDMI 2.1×1。排気も考慮し、ブラケットには穴あき加工が施されている。

 GPUの基本設定は、GPUコアクロックが1,440MHz、ブーストクロックは1,740MHz。GPUの定格ブーストクロックは1,710MHzなので、30MHzほどOCされた製品ということになる。控えめの設定にも見えるが、GPUのOC、それも空冷クーラーの製品レベルでは10~100MHz程度が一般的。高さを抑えたPhoenixクーラーの(高さ方向の)コンパクトさを考慮すれば、十分な設定と言えるだろう

GPU-Zの画面

WQHD~4Kも十分なフレームレートで静かなクーラーが快適プレイを実現

 GeForce RTX 3080 Phoenix GSのパフォーマンスをベンチマークで確かめてみたい。まずは3Dパフォーマンスの標準指標である3DMarkのスコアでチェックだ。

【検証環境】
CPUAMD Ryzen 7 5800X(8コア16スレッド)
マザーボードMSI MPG X570 GAMING PRO CARBON WIFI(AMD X570)
メモリPatriot Memory Viper RGB Series DDR4 16GB (2 x 8GB) 3200MHz Kit w/Black heatshield(PC4-25600 8GB×2枚)
SSDIntel Solid-State Drive 800p(PCI Express 3.0 x2、118GB)
OSWindows 10 Pro 64bit版

3DMarkでは、Fire Strikeが34,356、Time Spyが15,697といったスコアだ。ただしこれらのテストはフルHDをターゲットとしたもの。WQHDのFire Strike Extremeでは19,903、4KのFire Strike Ultraでは10,696、Time Spy Extremeでは7,842といったスコアだった。

3DMarkの計測結果

 これを見る限り、DirectX 11ゲームタイトルのWQHD解像度でのプレイにはかなり余裕があり、4Kでも十分快適にプレイできる基礎体力はあると言えそう。DirectX 12環境での4K向けテストに関しては10,000点を下回ったが、GeForce RTX 3080には、高解像度でのフレームレート向上に役立つDLSSがあり、これを利用できるタイトルであれば、同様に快適にプレイ可能なフレームレートが得られそうといった予測が立つ。なお、リアルタイムレイトレーシングのPort Royalも10,888という高いスコアに。さすがはGeForce RTX 30世代のハイエンドといった印象だ。

「アサシンクリード ヴァルハラ」
(C)Ubisoft Entertainment. All Rights Reserved.

 実タイトルからは人気タイトルの最新版二つを選んでみた。一つはUbisoftの「アサシンクリード ヴァルハラ」。AnvilNext 2.0エンジンを採用し、リアルタイムレイトレーシングやDLSSはサポートしていないもののハードウェア要求が高い重量級タイトルだ。ゲームに組み込まれているベンチマークモードを用い、画質プリセットと解像度を切り換えて計測している。

アサシンクリード ヴァルハラの計測結果

 画質プリセットの「最高」は、WQHDならば60fpsを超える。平均78fps、最小が59fpsなのでおおむね60fps超を維持できていると言ってよい。4Kに関してはそのまま最高設定とはいかないが、高~高+ならおおむね快適、中設定以下ならほぼ60fpsでのプレイが楽しめる。

「ウォッチドッグス レギオン」
(C)Ubisoft Entertainment. All Rights Reserved.

続いて同じくUbisoftの「ウォッチドッグス レギオン」。ゲームエンジンはDisrupt。リアルタイムレイトレーシングとDLSSをサポートしているため、GeForce RTX 30シリーズユーザーがそのビデオカードの最高画質を体感してみるのにもちょうどよいタイトルだ。これもゲーム内ベンチマークモードを用いているが、画質プリセットは最大に固定し、リアルタイムレイトレーシング(RT)とDLSSのパラメータを変更しつつ計測してみた。なお、4KとWQHDでDLSSの設定が(名称も数も)異なるのはおそらくDLSSが解像度に合わせてプリセットを持っているためと思われる。

ウォッチドッグス レギオンの計測結果

 まず4K側から見ていただきたいが、そのまま最大画質では60fpsを下回ってしまい、さらにRTとDLSS双方最高の設定とすると50fpsもおぼつかない。ところがRTとDLSSの設定を少し下げれば60fpsプレイが見えてくる。そしてリアルタイムレイトレーシングを有効化しつつもっとも軽量な、RT=中、DLSS=ウルトラパフォーマンスという設定では平均81fps、最小も67fpsと、常時60fpsプレイの道が開けてくる。なお、解像度をWQHDとすればプリセット最大にRT:最高、DLSS:品質という高画質設定が平均72fps、最小60fpsという結果だった。

 最後に、動作音について言及しておこう。実際に電源を入れてみた際のクーラーだが、まず電源ONからWindows起動の途中まではファンが回転するが静かで、GPU温度が低ければ準ファンレス機能によりファンの回転は止まる。ブラウジングや文章作成といった作業ではファンが回転しはじめることはなく、カードから動作音は発生しない。

 検証でファンが回転を始めたのはベンチマークやゲームの起動など3D描画が始まるタイミングだった。ファンの動作音は静かな部類と言える。OCモデルではあるが極度に引き上げているわけではなく、対してヒートシンクのサイズが大きくファンも3基なのでまだ冷却に余裕があるように見える。製品定格で運用する限り、おそらくはCPUクーラーよりも静かに感じるのではないだろうか。

日本に帰ってきたGainward。老舗の確かな技術と、伝統のコスパで存在感を示す

 GeForce RTX 3080 Phoenix GSはOCも相まってこのようにWQHD~4Kで最新タイトルが存分に楽しめるパフォーマンスを示している。Gainwardは台湾発の古参メーカーであり、技術と実績は十分。ファミリーであるPalitと同様にコストパフォーマンスのよさも上々だ。

 GeForce RTX 30シリーズに対して、フルHDを超える次世代の解像度で快適さを求める方にとって、(超ハイエンドのRTX 3090に比べればまだ)手が届く価格設定のGeForce RTX 3080は非常に高い人気になっている。品薄ということもありなかなか好みのものを選べる状況にないが、GeForce RTX 3080 Phoenix GSは手に取って検討してみる価値のある製品だ。

 なお、今回の再参入のタイミングで、本機のほかに超ハイエンドのRTX 3090搭載製品である「GeForce RTX 3090 Phoenix GS」も発売されている。デザインテイストは本機と同様で、価格は実売21万円前後とRTX 3090カードとしては比較的抑えめの価格だ。最上位モデルを検討しているなら、併せてチェックしていただきたい。

[制作協力:アスク]