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Rocket Lake対応のZ590搭載マザーをテスト、強化された電源回路が生み出す安定性は必見!

高い実用性の「MPG Z590 GAMING CARBON WIFI」で第11世代Coreの登場に備えよ! text by 芹澤 正芳

 2021年2月12日に発売がスタートしたIntelの最新チップセット「Inte Z590」を搭載するマザーボード。Z590は、未発売の第11世代と現行の第10世代Coreプロセッサに対応するチップセットで、第11世代Coreプロセッサと組み合わせればPCI Express 4.0を利用できるのが大きな特徴だ。そのため、Z590マザーでは次世代のハイパワーCPU、より高速なデータ転送に対応すべく、電源回路や熱対策に力を入れている製品が多い。

MSIのアッパーミドルZ590マザーボード「MPG Z590 GAMING CARBON WIFI」。実売価格は3万5,000円前後

 ここで紹介するMSIの「MPG Z590 GAMING CARBON WIFI」もその一つ。MSIのゲーマー向けマザーボードには、ハイエンドの「MEG」、アッパーミドルの「MPG」、エントリーの「MAG」シリーズに分けられている。本製品はMPGの中で最上位であり、インターフェース類の充実はもちろん、強力な電源回路、それを冷やす大型のヒートシンクと安定志向のユーザーにピッタリの1枚だ。

 今回は、現行CPUのCore i9-10900Kを使って、製品の特色や安定性、各部の温度などをチェックしていく。第11世代Coreプロセッサは現時点では未発売だが、MPG Z590 GAMING CARBON WIFIがそのパートナーにふさわしいものかの判断材料になるはずだ。また、コストパフォーマンスが上がった第10世代CoreプロセッサベースのPCを今すぐ入手したい方も、最新世代マザーと組み合わせた場合の効果を確認していただきたい。

16+1+1フェーズの強力な電源回路

 本機の特徴を挙げるなら、まず注目は16+1+1フェーズの電源回路だ。CPUのメニューコア化でマザーボードの電源回路はどんどん強化される方向にあるが、前モデルの「MPG Z490 GAMING CARBON WIFI」でも12+1+1フェーズ。このフェーズ数強化だけでも安定志向の設計であることが見て取れる。16フェーズをCPU専用に割り当てる設計は、本機よりさらに高価なハイエンドクラスと同レベルという力の入れようだ。MOSFETは75A SPS(Smart Power Stage)と十分な出力を持ち、PWMコントローラにはIntersilの「ISL69269」を搭載する。

16+1+1フェーズの電源回路。CPU専用が16フェーズ
MOSFETは75A SPSと高い出力を持つ

 電源回路の冷却には、ヒートパイプを備える大型のヒートシンクを採用。ファンこそ備えていないが、7W/mkという高い熱伝導率を持つサーマルパッドも備えており、高い冷却性能と安定動作を実現しているとのことだ。

CPUの補助電源は8ピンのEPS12Vを2系統搭載する
電源回路を冷却する大型のヒートシンクを採用

 実際に動作の安定性と冷却力をテストしてみよう。テストの使用したパーツは以下のとおり。OCCT 7.3.2のLinpackを10分動作させたときのCore i9-10900Kの動作クロック(Core #0)とVRMの温度をチェックした。VRMの温度は、ハードウェア情報を表示できるアプリ「HWiNFO64」で「MOS」という項目の温度を追った結果だ(PL1は4,096W、事実上の無制限に設定)。

【検証環境】
CPUIntel Core i9-10900K(10コア20スレッド)
メモリMicron Crucial Ballistix RGB BL2K8G36C16U4BL
(PC4-28800 DDR4 SDRAM 8GB×2)※PC4-23400で動作
SSDMicron Crucial P5 CT1000P5SSD8JP
[M.2(PCI Express 3.0 x4)、1TB]
ビデオカードMSI GeForce RTX 3070 VENTUS 2X OC
(NVIDIA GeForce RTX 3070)
CPUクーラーCorsair iCUE H115i RGB PRO XT
CW-9060044-WW(簡易水冷、28cmクラス)
電源ユニットSuper Flower LEADEX V G130X 1000W
(1,000W、80PLUS Gold)
OSWindows 10 Pro 64bit版

 OCCTの結果を見ると、安定して4.9GHz動作しているのが分かる。検証中のクロック変動を細かく見ても、上下に1MHz程度しかブレが起きなかった。28cmクラスの簡易水冷を使っていることもあり、CPU温度も最大75℃でHWiNFO64を見る限り、高温で動作クロックが落ちるサーマルスロットリングのフラグも立たなかった。

OCCT 7.3.2 Linpackを10分間動作させたときのCPU動作クロック

 VRMの温度も非常に低い。緩やかに温度が上がっていくが、最大で45.5℃とまったく問題のない温度。実際にテスト中のヒートシンクの表面を非接触の赤外線温度計で測定しても38℃から42℃程度だった。テストはバラック組みかつ簡易水冷なのでVRMが冷やされる要素は少ない。冬なので室温が19度と低めなのを考慮しても、16フェーズによる負荷分散、大型ヒートシンクとサーマルパッドによる放熱は実にうまくいっていると言ってよいだろう。

OCCT 7.3.2 Linpack実行時のVRM温度推移

 ちなみに、CPUに関するUEFI設定でユニークなのが「CPU Cooler Tuning」だ。CPU付属クーラーを示す「Boxed Cooler(PL1:125W)」、大型空冷クーラーを示す「Tower Air Cooler(PL1:288W)」。水冷クーラーを示す「Water Cooler(PL1:4096W)」の3種類が用意されている。PL1とはLong Duration Power Limit(長期間電力制限)のことで、長時間高負荷が続いた場合にかかる電力制限だ。Core i9-10900KのPL1の定格は125W。CPUクーラーが高性能なら、この制限を引き上げても大丈夫ということだろう。

 もちろん、PL1を引き上げれば消費電力も発熱もアップする。簡易水冷クーラーを使っている場合でも、あえてBoxed Cooler(PL1:125W)で運用するのもアリ。何にしても、簡単に設定を変えられるのは便利だ。

UEFIのインターフェースは従来と大きく変わらない
UEFIにはCPUクーラーの性能に合わせたPL1設定が用意されている

2.5G LANにWi-Fi 6と充実のインターフェース

 インターフェース類をチェックしよう。バックパネルのUSBは、USB 3.2 Gen 2x2(Type-C)が1ポート、USB 3.2 Gen 2が3ポート、USB 3.2 Gen 1が2ポート、USB 2.0が4ポートだ。映像出力はDisplayPortとHDMIが備わっている。また、マザーボード上のUSBピンヘッダで、USB 3.2 Gen2 Type-Cが1ポート分、USB 3.2 Gen 1が2ポート分、USB 2.0が4ポート分を用意。なお、バックパネルカバーは組み込み済みのタイプだ。唯一残念なのはThunderbolt 4がないこと。Thunderbolt 4が必要なら上位のMEG Z590 ACEがオススメだ。

 ネットワーク機能は、有線LANがIntel I225Vによる2.5G LAN、無線LANはIntel AX210によるWi-Fi 6(IEEE802.11ax)にそれぞれ対応。無線LANは5GHz(160MHz)で最大2.4Gbpsの通信が可能となっている。Bluetooth 5.2もサポート。

バックパネルカバーは一体型のタイプ
USB 3.2 Gen 2 Type-C用のピンヘッダも用意されている

 ストレージについては、Serial ATA 3.0が6ポート、M.2が3スロット用意されている。CPUに一番近い1番目のM.2スロットはPCI Express 4.0接続専用で、第11世代Coreプロセッサ搭載時にはじめて使えるようになるというもの。第10世代Coreプロセッサ利用時には、SSDを搭載しても認識しないので注意が必要だ。また、2番目と3番目のM.2スロットは搭載CPUに関係なくPCI Express 3.0とSerial ATA 3.0の両対応だ。

 また、M.2スロットにはすべて同社独自の「M.2 Shield Frozr」と呼ばれるヒートシンクを搭載。厚めのサーマルパッドも備えており、高い冷却力を持っていると言う。

M.2は3スロット搭載。すべてにヒートシンクを用意している

 実際にMicronのNVMe SSD「Crucial P5」の1TB版で、M.2 Shield Frozrの有無によりどのくらい温度が変わるのか比較してみた。Crucial P5はシーケンシャルリードで最大3,400MB/sとPCI Express 3.0 x4対応のSSDとしては最速クラスでコントローラの発熱も大きめ。テストはTxBENCHでシーケンシャルライト(QD32)を5分間実行した際の温度をHWiNFO64で測定している。

5分間連続でシーケンシャル書き込みしたときのSSDの温度推移

 M.2 Shield Frozrがない状態ではSSDの温度はグングン上がり、1分半辺りで75℃に到達してサーマルスロットリングが発生して書き込み速度が低下。それで温度は少し落ちたが70℃近くのままだ。一方でM.2 Shield Frozrを装着した状態では、温度の上昇は穏やかで最大でも62℃としっかりと冷えていた。これなら長時間の運用でもパフォーマンス低下の心配は不要だろう。

ゲーミングマザーらしい作り込みも

 3基あるPCI Express x16スロットのうち、上から2基が高耐久の「PCI-E Steel Armor」仕様で、大型で重量のあるビデオカードも安心して取り付けられる。なお、11世代Coreプロセッサー使用時は、この2スロットはPCI Express 4.0に対応する。

 またサウンド機能としては、Realtekの最新モデルと見られる「ALC4080 Codec」を搭載。Z590マザーの多くで採用されているものだ。オーディオ回路には基板から分離し、ノイズを抑える「Audio Boost 5」を採用している。

サウンドにはRealtekの「ALC4080 Codec」を搭載
2基のPCI Express x16スロットは高耐久の「PCI-E Steel Armor」仕様

 バックパネル上部とチップセットのヒートシンクにRGB LEDを備えているほか、RGB LED、アドレサブルRGB LED両方のLED端子も備えており、ハデなライティングを追求もできる。その一方で、サイドクリアタイプではないPCケースに組み込むことも意識し、LEDをOFFにできるスイッチが備わっているのも便利だ。

2カ所にRGB LEDを内蔵している。UNIFYシリーズのように完全に光らない仕様ではないが、ほどよく控えめな発光具合なところは今っぽい
RGB LEDやアドレサブルRGB LEDコネクタのほかLEDをOFFにできるスイッチも用意
CorsairのファンコントローラやLEDテープと連係できるコネクタも搭載されている
ボード上にはPCI Expressスロット向けの6ピン補助電源コネクタもある
Wi-Fi用のアンテナやLED接続用のケーブルなども付属する
Resizable BARへの対応も確認できた
各種ヒートシンクを取り外した状態の全景。黒基調の基板は2オンス厚銅箔入りの6層構造。LEDはヒートシンクとバックパネルカバーに組み込まれている

ユーティリティは「MSI Center」に統合。あとはCPUの登場を待つのみ!

 MSIのマザーボードでは統合ユーティリティとして「Dragon Center」が用意されていたが、Z590マザーからは「MSI Center」へと一新された。シンプルなインターフェースで、初期状態ではCPUのクロックや温度、ファンの回転数が確かめられるモニタ機能だけが搭載されている。それ以外の機能はユーザーが選んでインストールする方式だ。原稿執筆時点では、OCにも挑戦できる「User Scenario」など8種類の機能が用意されていた。

統合ユーティリティは「MSI Center」に一新された
ユーザーの必要に応じて機能を個別にインストール可能

 強力な電源回路と大型のヒートシンクによって高負荷時でも温度が上がらず、作りも堅牢。きわめて安定した動作でハイエンドパーツを安心して使えるのが一番の強みだ。USBもネットワーク機能も充実し、日常的な利用にもちろん不足感はない。

 現状、一部の機能/仕様がロックされた状態ではあるが、現状チェックできるところをテストしただけでもその実力は間違いなし。そのポテンシャルがすべて解き放たれる新CPUの登場が楽しみだ。足回りはワンランク上のクオリティ、それでいて価格は3万円台に抑えられており、“アッパーミドルグレード”と位置付けられるマザーボードとしては非常に手堅く、実用的な1枚と言えるだろう。

[制作協力:MSI]