特集、その他

転送速度2.5倍で待ち時間が約半分に! 2.5G LAN環境でNASをもっと快適に使おう

 マザーボードやゲーミングPCなどを中心に、ネットワーク機能の高速化が進んでいる。中でも注目度が高いのが、2.5Gbps対応の有線LANの活用だ。

 高速なインターネット接続環境に利用するだけでなく、NASなどの家庭内に設置する機器を合わせて2.5Gbps化することで、ファイル共有の快適化やバックアップの時間短縮などの効果が期待できる。2.5Gbpsに対応したNASを利用することで、実際にどれくらい高速なストレージ環境を構築できるのかを検証してみた。

2.5Gbpsに対応した2ベイNAS QNAP「TS-253D」

マザーオンボード、PCIe LANカード、USB LANアダプター……さまざまな機器で2.5Gbps化が標準に

 1GbpsオーバーのLANは、今や珍しい存在ではなくなりつつある。

 例えば、自作PCに欠かせないマザーボードの場合、2021年3月4日現在、ASUSの製品情報ページに掲載されているAMD(AM4)向けマザーボードは29モデル表示されるが、このうち2.5Gbps対応LANを搭載した製品は10モデルある。

 このようにマザーボードや、またノートPCでもゲーミング対応モデルを中心として、2.5Gbpsに対応したLANを搭載した製品は増えている。従来はハイエンドモデル向けの装備だった2.5GBASE-T LANがミドルレンジクラスでも標準搭載されるようになり、すっかり身近な存在になった印象だ。

2.5GBASE-T LANをオンボード搭載したASUSのマザーボード「ROG Strix X570-E Gaming」

 もちろん、PCが2.5Gbpsに対応するだけでは意味はないが、「auひかり ホーム10ギガ/5ギガ」や「フレッツ 光クロス」など、光回線を用いた1Gbpsを超えるインターネット接続サービスが利用できるようになってきた上、ネットワークに欠かせないスイッチについても、2.5Gbpsに対応した製品が実売1万円台でQNAPやバッファローなどから発売され、安価に入手できるようになった。

 加えて、現在使っているノートPCやデスクトップPCなどを2.5Gbpsに対応させるためのUSB接続アダプターや、PCIe接続LANカードもリーズナブルに購入可能となった。今や家中を2.5Gbpsのネットワークでつなぐことは、決して難しいものではなくなっているわけだ。

快適さに直結する2.5Gbps対応NASが、個人でも購入しやすく

 このようにネットワークの2.5Gbps化が進む製品の中で特に注目したいのが、ファイル共有やバックアップに欠かせないNASだ。大容量のファイルをネットワーク経由で転送するNASでは、ネットワーク速度が快適さに直結する。

 例えば、ファイルのコピーやバックアップを行う際には、開始から完了までに待ち時間が発生する。2.5Gbps LANを活用すれば、例えばネットワークの速度が2倍になれば、単純に行ってこの待ち時間は半分となるわけだ。

 「ちょっと待つ」という時間がほとんど待たずに済むように、「しばらく待つ」がちょっと待つに、「だいぶ待つ」がしばらく待つで済むようになる――。シンプルに日々の待ち時間が短くなり、ネットワークを経由したファイル共有などのタイムラグが気にならなくなっていくわけだ。

 NASの場合、現状、エンタープライズ向け製品に関してはより高速な10Gbps化が進んでいるが、個人向けの製品やミドルレンジモデルに関しては2.5Gbpsの採用が一般的だ。

 既存のCAT 5e以上のネットワークケーブル(10GbpsではCAT 6以上が必要)をそのまま利用できるため、あまりコストを上げずにネットワークの高速化ができる上、前述したようにマザーボードやノートPC側の対応も進んできたことで、ゲーミングモデルやミドルレンジ以上のPCとの相性がいいためだ。

Wi-Fi 6対応ルーターなら有線LANも1Gbps以上に

 ノートPCなどで一般的なWi-Fiも高速化が進み、Wi-Fi 6(IEEE 802.11ax)対応の製品では最大で1201Mbpsまたは2402Mbps(160MHz幅対応が必要)での通信が可能になっている。

 こうした1Gbps以上の通信が可能になったWi-Fi 6の性能を生かすには、有線LANの速度が重要だ。2.5Gbpsや10GbpsのLANポートを搭載したWi-Fi 6対応ルーターが一般的になりつつあるので、こうしたWi-Fiルーターに有線で接続するPCやNASも同じく2.5Gbpsなどの高速な有線LANで接続する必要がある。

 実際、国内外の各メーカーから2.5Gbps対応のNASが多く発売されており、秋葉原のショップなどでも取り扱いが増えてきている。

 今やNASは、ストレージとしてだけでなく、データベースの実行やWordPressなどのアプリの稼働、さらには仮想マシンの稼働やDockerの活用など、さまざまな用途にも対応できる。こうしたサーバーとしての利用時にも、2.5Gbpsの高速なLANが生きてくるわけだ。

QNAP「TS-253D」で2.5Gbps LANの実力を検証

 それでは、実際に2.5Gbps LANでどれくらいNASを高速化できるのかを検証してみよう。

 今回、用意したNASはQNAPの「TS-253D」だ。2ベイの小型なNASでありながら、クアッドコアのCeleron J4125(2GHz、バースト時2.7GHz)を搭載した高性能なNASで、背面に2基の2.5GBASE-Tポートを搭載している。

 QNAPのNASは、GUIでの設定が簡単にできるだけでなく、豊富なアプリを活用できるのが特徴だ。バックアップやVPN接続などのアプリを手軽に利用できるし、仮想マシンやコンテナを動作させることもできる。

背面のLANポートが2基とも2.5Gbpsに対応している
QNAP製NASが採用する専用OS「QTS」。GUIで設定可能で、アプリも豊富。仮想マシンやコンテナを動かすためのプラットフォームとしても活用できる

 拡張用のPCIeスロットも搭載しており、別売の10Gbps LANカードや、キャッシュ用途にM.2 NVMe/SATA SSD増設用カードを装着することも可能だ。

 もし、ネットワークが10Gbpsの環境で使うなら、SSDを利用しないとフルにパフォーマンスを発揮させることができないが、2.5GbpsならHDD構成でも、その効果を享受できる。

 HDDに関しては、今回はSeagate「IronWolf Pro」の4TBモデル「ST4000NE001」を利用した。NAS向けに最適化されたHDDで、IHM(IronWolf Health Management)による健全性の監視が可能なほか、3年間のRescureデータ・リカバリープランを利用できる。

 NASは、基本的に24時間365日連続稼働するため、こうした高い信頼性を誇るNAS向けのHDDを利用することをお勧めしたいところだ。

 3/17更新 当初、Rescureデータ・リカバリープランの対象期間を「2年」と記載しておりましたが、正しくは「3年」になります。訂正してお詫びいたします。

NAS向けHDDのSeagate「IronWolf Pro」を使用。データ・リカバリープランも利用できる

シーケンシャルリードは2360Mbpsを記録ファイルコピー時間はおよそ半分に

 「CrystalDiskMark 8.0.1」を利用して計測したアクセス速度は次の通りだ。PC(ASUS TUF-GAMING B550 Plus内蔵Realtek 2.5Gbps LAN)をスイッチ(QNAP QSW-M408-2C)を介してTS-253Dに接続し、計測している。HDDはRAID 1構成だ。

1Gbps接続時のテスト結果
2.5Gbps接続時のテスト結果

 1Gbps接続時はシーケンシャルリードで118MB/s(944Mbps)と有線LANの上限となる速度で頭打ちとなってしまうが、2.5Gbpsに接続を変更することで、シーケンシャルリードで295MB/s(2360Mbps)と、2.5Gbps LANの性能をフルに発揮できている。

 一方のシーケンシャルライトは、254MB/s(2032Mbps)なので、HDD2台のRAID 1構成の場合、ストレージ側の性能上限と2.5Gbps LANの速度のバランスが取れている印象だ。

 10Gbps LANを使うなら、SSDを利用するか、HDD+SSDキャッシュの組み合わせでストレージ側をさらに高速化する必要がありそうだが、2.5Gbps LANで使うなら、やはり本製品のような2ベイNASがベストマッチと言えそうだ。

 続いて、実際のファイルコピーの速度もチェックしてみよう。10GBのファイルを作成し、ネットワーク経由でNASとPCの間でコピー(robocopy使用)した際の待ち時間を計測した。

ファイルコピー時間(単位:秒)
1Gbps2.5Gbps
PC→NAS(10GB 1ファイル)9246
NAS→PC(10GB 1ファイル)9046
PC→NAS(2GB 6000ファイル)5350
NAS→PC(2GB 6000ファイル)2018

 1Gbpsではリード、ライトともに90秒前後だった待ち時間が、2.5Gbps接続では46秒と約半分になった。大容量のファイルを転送する必要がある場合は待ち時間が半分になるので、大きなメリットがあると言えそうだ。

 一方、複数ファイルのコピー(ファイル数6254、2.2GB)は、あまり大きな差が現れなかった。

 前述したCrystalDiskMarkの結果もランダムライトは1Gbpsと2.5Gbpsでほとんど差がない。バックアップなどで複数ファイルを多くコピーする場合は、NASのストレージ構成が大きく影響するので、拡張カードでSSDキャッシュを追加するか、RAID 5などが利用可能な4ベイNASの利用を検討するといいだろう。

2.5Gbpsならネットワークがボトルネックではなくなり、NASが性能をフルに発揮

 以上、2.5Gbpsを活用してNASをどこまで高速化できるかを検証してみた。NASのストレージ構成に依存する部分はあるが、2ベイNASであれば2.5Gbpsがちょうどいいと言える。1Gbpsでは生かし切れていなかったNASの性能を2.5Gbpsならフルに発揮させることができる。

 むしろ、現代の高速なNASやPCを1Gbpsのまま使い続けることは、性能を眠らせておくだけなので非常にもったいないと言える。本稿で述べたように、マザーボードにしろ、PCにしろ、ルーターにしろ、スイッチにしろ、2.5Gbps環境の敷居は確実に下がっているので、もはや導入しない手はない。この機会に家庭内ネットワーク環境を見直し、フル2.5Gbps化を検討することをお勧めする。

(制作協力:TSUKUMO