特集、その他

HPのモバイル向け小型ノートをSSD化、Elitebook 820 G3が2倍以上高速に

SSD換装大全、ノートPCの分解からデータ移行まで徹底解説 text by 白倉甲一

 今回SSD換装の事例として紹介するのは、HPのビジネス向けノートPC「Elitebook 820 G3」。

 HP Elitebook 800シリーズは米軍調達基準をクリアする耐久性と軽量小型な持ち運び性能を両立したものとなっており、今回のモデルは12.5インチの液晶ディスプレイに第6世代Intel Coreプロセッサーを組み合わせた、出先でガシガシ使えるような頑丈なノートPCとなっている。

 用意したモデルに搭載されていたストレージは500GB HDDで、容量や速度の面は最低限整っているものの現在の水準ではやや物足りないと言った印象だ。今回は速度面での向上を図りつつ容量の増加もできるようSSDへの換装を試みよう。

※ノートPCの分解行為やパーツの換装はメーカー保証外の行為となります。この記事を読んで行った行為によって、仮に損害が発生しても弊誌および、メーカー、販売ショップはその責を負いません。

Elitebook 820 G3をSSDに換装、物理的な耐久性の向上も期待できるか?

 今回使用したElitebook 820 G3は、型番「L4Q25AV」として販売されていたモデル。耐久性が高く、小型ながら有線LANや映像出力などの各種I/Fが充実しており使い勝手のよいビジネスノートとなっている。

 中古品として入手しているため新品時から若干の変更点はあるが、スペックとしては第6世代CPU intel Core i7-6600U(2コア/2.6 GHz/ブースト時3.4GHz)を搭載。メモリにSO-DIMM DDR4-2133 8GB、ストレージに2.5インチHDD 500GBを備える。ディスプレイは12.5インチ/1,366×768ドット。

 OSはWindows 10 Pro 64bit。外部コネクタとしてUSB Type-C、VGAやDisplayportと言った映像出力ポート、有線LAN、その他多数のI/Fを搭載。トラックポイント、指紋認証、無線LAN(IEEE802.11ac)、Bluetoothなど、小さな筐体に様々な機能を詰め込んでいる。

搭載されていたのは500GBのTOSHIBA MQ01ACF050

 搭載されていたのはSATA接続の2.5インチHDDで、TOSHIBA MQ01ACF050。容量500GB、7,200rpmと2.5インチHDDとしては一般的なモデルだ。

PCに搭載されていたTOSHIBA MQ01ACF050。
CrystalDiskInfoによるステータス。

換装に使うのは1TBのSamsung SSD 870 EVO

 今回換装に使用するSSDは、Samsung SSD 870 EVOの1TBモデル(MZ-77E1T0B/IT)。最大速度リード560MB/s、ライト530MB/s。SATA接続の2.5インチSSDだ。

Samsung SSD 870 EVO 1TB(MZ-77E1T0B/IT)。
CrystalDiskInfoによるステータス。

 Samsung SSD 870 EVOは250GB~4TBまでの5製品がラインナップされているので、SSD換装に使用する際は予算や使用する容量に合わせて選ぶと良いだろう。

古いHDDから新しいSSDに引っ越し、データの移行からPCの分解まで一式紹介

 ここからは実際にSSD換装を行う際の手順を紹介しよう。換装する際はSSD外付けケースとデータ移行ソフトを用意すると簡単だ。

 2.5インチSSD用の外付けケースは税込千円前後で入手可能、データ移行ソフトは大手メーカーのSSDであれば付属していることが多い。両方事前に準備しておこう。

換装するSSDをUSB外付けケースに搭載、データコピーの準備をしよう

 PCのデータを丸ごと引っ越し先のSSDにコピーするため、換装用SSDを外付けケースに搭載しよう。

 今回使用している外付けケースはORICOの2577U3-BK。2.5インチストレージに対応したUSB 3.0接続のケースで、ネジを回す必要が無くツールレスで容易にストレージを取り付ける事ができる。

●1 SSD外付けケース「2577U3-BK」と換装するSSDを準備。
●2 SSD外付けケースの蓋を外す。
●3 SSDを装着しスライドして基板に差し込む。
今回のSSD外付けケースはツールレスなのでネジ止めする必要は無い。
●4 基板にSSDを装着したらケースのふたを閉める。
●5 PCに接続すれば準備完了。
2.5インチドライブ用外付けケースの注意点

 2.5インチ用の外付ケースの場合、厚みに関わらず利用可能な物がほとんどだが、ごく稀に7mm厚のものしか入らなかったりするなど、物理的な相性が出る場合もある。使用するSSD/HDDが何mm厚なのか、ケース側の対応状況も念のため確認してから購入しよう。

データの移行はSSD付属ソフトが便利、Samsung Data Migration 4.0なら簡単

 今回データ移行ソフトには「Samsung Data Migration 4.0」を使用した。Samsung製SSDで利用できる専用のユーティリティで、操作もかなり簡単だ。

 Samsungのサポートページからダウンロード可能で、項目を選択していくだけで作業は簡単に終わる。

●1 Samsung公式サイトのSSDツールとソフトウェアのページから「Samsung Data Migration 4.0」をダウンロードする。
●2 Samsung Data Migration 4.0をセットアップし、起動させる。
●3 画面下側にあるターゲットドライブの項目を指定する。移行先のSSD(今回はSamsung SSD 870 EVO 1TB)を選択しよう。
●4 移行先のドライブのデータが全て消去される旨のダイアログが表示されるのでOKを選択。なお、安全にデータ移行時を行うため、他のアプリケーションを起動したり、ながら作業をするのはやめよう。
●5 進行状況はプログレスバーで表示される。実際にコピーされるデータ量は41GBほどで、実際に要した時間は約8分程度だった。
●6 データのコピーが完了すると自動的にPCはシャットダウンされる。

Elitebook 820 G3の分解難易度はかなり容易、精密ドライバーさえあればストレージは楽に換装可能

 ここからはElitebook 820 G3の分解になるが、工具は精密ドライバー(プラス)とヘラが必要なので準備しておこう。

 SSD換装時はPCを必ずシャットダウンした状態で行う必要があるので注意。機器の破損や故障を防ぐため、誤って休止などの状態で分解しないように気を付けてほしい。

●1 Elitebook 820 G3の背面パネル側。
●2 ネジは全て精密ドライバー一本で外せる、紛失しないように注意。ゴム足に隠されたネジなどは無い。
●3 ネジを外したらヒンジ側にヘラを入れれば簡単に隙間ができるのでそのまま持ち上げれば外れる仕様。
●4 Elitebook 820 G3の内部。まずはバッテリーパックを外そう。

 背面パネルのネジを精密ドライバーで全て外す。ツメは手前側のみなので、ヒンジ側からヘラを使って隙間を作れば容易に取り外せる。

 パネルを外すとすぐにバッテリーパックにアクセスできるので、余計な部分に触れてショートさせたりする前に手早く外してしまおう。内部パーツのネジの類いはバネで落ちないようになっているので紛失の心配はまずないだろう。

●5 バッテリーパックはネジ一本で固定されているので精密ドライバーで外し、コネクタ側から持ち上げる。
●6 バッテリーパックを外すと下敷きになっていた保護フィルムが出てくる。
●7 4角のネジを外す、画像の位置にツメがあるので戻す際はここにしっかりハマるよう気を付けよう。
●8 ネジが外れたら引き手を水平に引っ張る。少し左右に振りつつスライドさせると容易に外せるはずだ。

 バッテリーを外すとストレージ用保護フィルムの引き手が露出するので、固定しているネジを外した後水平に引き抜こう。少し左右に振りながら引っ張ればすんなり取り外せるはずだ。

 フィルムと一体化したフレームから、4角のストレージ固定用のネジを取り外せばHDDを取り外せる。後は手順を逆にSSDを装着し、バッテリーと背面パネルを元に戻せば作業は完了。起動確認を行おう。

●9 保護フィルムと一体化しているフレームからネジを外す。内部パーツではこのネジだけ脱落するタイプで、ネジそのものも小さいので机の何もないところなどで作業を行おう。
●10 新しいSSDを装着してネジ止め、逆手順で元の位置に収める。
●11 背面パネルを戻し、ネジを締めれば作業は完了。
●12 PCが正常に再起動すれば成功だ。換装したストレージが適用されるまで多少の間があるがそれほど待たずに再起動は完了する。

 冒頭にも記載しているが、基本的にノートPCの分解行為はメーカー保証外の行為となるため、これにより故障した場合は保証が受けられない。今から新品のノートPCを購入する場合は元々ストレージ容量の多いモデルを選択するのが無難だ。

 とはいえ、ストレージ以外の部分に不満が無いのであれば、PCを買換えるよりも、SSD換装はコストパフォーマンスが高いアップグレード方法になる。また、今回のようにメンテナンスが容易なモデルであれば換装そのものも容易なので試してみる価値はあるだろう。

容量も速度も大幅アップ、Elitebook 820 G3がより扱いやすいモバイルノートに

 実際にSSD換装を行い、前後でどのように変わったのかも紹介しよう。今回は各ストレージのベンチマークの他、外部ストレージからのデータ転送速度もそれぞれ比較してみた。

空き容量は2倍に増加、データの持ち運びも快適

 まずは容量の面だが、空き容量は約423GBから約890GBとなっており、2倍の容量に増えている。

 各種ソフトウェアや持ち運びたいデータなどを内蔵ストレージへ入れておいてもすぐにパンパンになると言うことも無いはずだ。何よりソフトウェアなどはSSDへ入れることで起動速度や動作に大きく影響があるので、容量を気にせずインストールできるのはストレスが少なくて良いだろう。

換装前の500GB HDD「TOSHIBA MQ01ACF050」。
空き容量は約423GB。多少ゆとりはあるが、大容データなどを入れたままにしていると埋まってしまう容量だ。
換装後の1TB SSD「Samsung SSD 870 EVO 1TB(MZ-77E1T0B/IT)」
空き容量は約890GBとだいぶゆとりのあるものになり、多少のデータであれば気にせず保存できるようになった。

HDDからSSDへの換装で速度向上はかなり大きく、起動速度を含めて体感的にも快適さUP

 Elitebook 820 G3に元々搭載されていた2.5インチHDD「TOSHIBA MQ01ACF050」は7,200rpmの高回転モデル。2.5インチHDDとしては十分な転送速度が出ているが、近年のSSDと比較するとどうしても遅く感じてしまう。

 換装後のSamsung SSD 870 EVOは、換装前に比べてシーケンシャルアクセスは4倍ほどの500MB/s以上出ており、外部ストレージなどからの大容量ファイルの読み書きで大きく差が出るはずだ。ランダムアクセスもかなりの向上が見られ、PC全体のレスポンスの改善に繋がるだろう。

 OSの起動時間もみてみたが、HDDの際は50秒前後かかったのに対し、SSD換装後は約12秒での起動となり大幅な速度向上が体感出来た。

換装前の500GB HDD「TOSHIBA MQ01ACF050」。
リード/ライトともに120MB/sを超えており、HDDとしては十分な性能が出ている。
換装後の1TB SSD「Samsung SSD 870 EVO 1TB(MZ-77E1T0B/IT)」
リード/ライトともに500MB/s前後の数値が出る、良いパフォーマンスが期待できるだろう。

外部ストレージからのデータ転送も快適に

USB 3.2 Gen 2接続時は最高1,050MB/sをうたう「Samsung Portable SSD T7 Touch」。

 SSDへ換装したことにより、外部ストレージから内蔵ストレージへ大容量のデータを移す際の書き込み速度も大幅に改善されたはずだ。ベンチマーク上でも、元々のTOSHIBA MQ01ACF050が書き込み約124MB/sに対し、換装後のSamsung SSD 870 EVO 1TBは約502MB/sと大きな差がある。

 今回は、ポータブルSSD「Samsung Portable SSD T7 Touch(1TBモデル)」に50GBのデータファイル(Windows 10のfsutilコマンドで作成/実体化)を用意し、これを内蔵ストレージへ書き込みする際の速度や時間を計測してみた。

換装前の500GB HDD「TOSHIBA MQ01ACF050」。
100MB/s前後の書き込み速度、50GBのデータ転送完了までに8~9分ほどかかる。
換装後の1TB SSD「Samsung SSD 870 EVO 1TB(MZ-77E1T0B/IT)」
350~450MB/sほどの書き込み速度、50GBのデータはわずか2分半で書き込み完了。

 内蔵ストレージがHDDの場合、書き込み速度は100MB/s前後が限界だが、SSDへの換装後は350~450MB/sほど出る結果となった。

 データ転送が完了するまでにかかった時間もHDD時は8分強、SDD換装後は約2分半と大幅に短縮、データをPCに取り込む際の相当快適になるはずだ。外部ストレージの速度次第ではあるが、今回テストしたのとは逆となる外部ストレージにデータをコピーする際などにも相当高速化されるはずだ。

 ノートPCのSSD換装はメーカー保証外の行為となることが多くリスクはあるものの、換装によって延命などを図れるメリットは大きい。

 今回とりあげたElitebook 820 G3は、耐久性の高い小型のノートPCと言うことで持ち運びに最適で、取り回しの際衝撃により故障する不安のあるHDDよりも物理的な衝撃に強いSSDに換装するのはメリットとしても大きいはずだ。

 もちろんSSD自体の性能向上も目まぐるしく、今回のように大幅に速度向上すればより快適にノートPCを運用できるので、乗り換え先を悩んでるような場合には一度SSD換装を試してみるのも良いだろう。

[制作協力:Samsung]