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SSDが効率的に冷えるセパレートヒートシンク、PCIe 4.0 SSDの温度が20℃も低下!

分離型だから可能な薄型/小型モデル text by 坂本はじめ

 高性能なM.2 SSDは発熱も大きいため、動作には放熱用のヒートシンクを必要とするものが多いのだが、SamsungのPCIe 4.0 SSDである「980 PRO」は、先進的な半導体プロセスで製造されたチップを採用することで、ヒートシンクの無い環境でも7GB/s超の転送速度を実現している。

 現在のSSDは、動作温度が一定以上にあがると保護機能(サーマルスロットリング)が働き、速度を抑えて温度上昇による故障を防いでいるモデルが多い。980 PROも長時間負荷をかけた際の温度上昇で故障しないため、保護機能の「Dynamic Thermal Throttling」を備えている。

 適切なエアフローがあればヒートシンクレスで使用可能な980 PROだが、ヒートシンクを装着して冷やせば、さらに性能を引き出せたり、長時間の負荷がかかっても「Dynamic Thermal Throttling」が動作するような状況を避けられるのではないだろうか。

 この疑問を確かめるべく、SSDコントローラとNANDフラッシュメモリを分離して冷却できるセパレート型ヒートシンク「SMOP-SHS」を980 PROに搭載し、SSDの温度やパフォーマンスがどのように変化するのか確かめてみた。

7GB/sクラスのPCIe 4.0 SSD「980 PRO」をセパレート型ヒートシンクで冷却

 まず、今回のテストで使用する機材を確認しよう。

 今回の主役であるPCIe 4.0 SSD「Samsung SSD 980 PRO」は、8nmプロセスで製造されたSSDコントローラ「Elpis」と、TLCタイプのSamsung V-NANDフラッシュメモリを組み合わせることで、リード最大7GB/s、ライト最大5.1GB/sを実現した最新世代のNVMe SSDだ。

 今回のテストで利用するのは、1TBモデルの「MZ-V8P1T0B/IT」。M.2 2280サイズの基板上には、SSDコントローラとLPDDR4メモリの他、NANDフラッシュメモリが2枚搭載されている。なお、980 PROが搭載するチップの枚数と配置については全ての容量で同一なので、1TBモデル以外でも参考画像のようなレイアウトになっている。

Samsung SSD 980 PROの1TBモデル。表面側にコントローラ、キャッシュ、NANDフラッシュ(2枚)が実装されている。
基板裏面に部品は実装されておらず、放熱性を高める効果のあるヒートスプレッダ・ラベルが貼り付けられている。
980 PROの搭載チップと配置。このレイアウトは全容量(250GB~2TB)で同じなので、ヒートシンク選びのさいに容量の違いを考慮する必要はない。

 今回、980 PROの冷却に用いるヒートシンクは、Samsungの代理店を務めるITGマーケティングと長尾製作所のコラボレーションモデルによって製作された「SMOP-SHS」だ。

 SMOP-SHSは、SSDコントローラとNANDフラッシュメモリを分離冷却するというコンセプトで設計されたセパレート型ヒートシンクで、対応モデルはSamsung SSD 980 PRO/970 EVO Plus/970 EVOとされている。もともとはPCIe 3.0 SSDの970 EVO Plus/970 EVO向けのモデルだが、PCIe 4.0 SSDの980 PROへも正式に対応がうたわれている。

セパレート型ヒートシンク「SMOP-SHS」。発売当初は970 EVO Plus/970 EVO専用製品だったが、レイアウトがほぼ同じである980 PROにも搭載できる。
セパレート設計を採用しており、SSDコントローラ用の小型ヒートシンクとNANDフラッシュメモリ冷却用の大型ヒートシンクに分かれている。

 SMOP-SHSが、セパレート型という珍しい設計を採用した理由は、特性の異なるSSDコントローラとNANDフラッシュメモリを効率的に冷却するためだ。

 プロセッサであるSSDコントローラは発熱が大きいが、動作可能な温度の上限値は高い。一方、NANDフラッシュメモリ自体の発熱はSSDコントローラより小さいが、動作可能な温度の上限値は低い。これらを一枚のヒートシンクでまとめて冷却しようとすると、SSDコントローラの熱がNANDフラッシュメモリにも伝わってしまうため、十分な冷却を得るにはヒートシンクの大型化が避けられない。

 これに対して、セパレート型ヒートシンクであるSMOP-SHSは、特性の異なるチップを分離して冷却することで、それぞれが必要とする放熱能力を確保。安定して性能を発揮できる放熱性能を実現しながら、ヒートシンクの薄型化に成功している。

980 PROのレイアウト図にヒートシンク(水色)を重ねたもの。SSDコントローラとNANDフラッシュメモリを分離することで、それぞれに必要十分な放熱を提供する。
SMOP-SHSを搭載した980 PRO。SMOP-SHSが薄型のヒートシンクであることが分かる。
SSDとSMOP-SHSを側面からみたところ。ちなみに、キャッシュメモリはヒートシンクと接触していないため、大型のヒートシンクはNANDフラッシュメモリの放熱のみを担っている。

 今回、980 PROとSMOP-SHSのテストに用いるのは、Ryzen 7 5800Xを搭載したAMD B550環境だ。CPUと直結することでPCIe 4.0 x4接続を実現するM.2スロットに980 PROを搭載し、ヒートシンクの有無による温度と性能の変化を確認する。

 その他の機材については以下の表のとおり。

CrystalDiskMarkでヒートシンクの影響をテストおおむね変わらないが、ランダムライトの一部で速度向上も

 それではまず、ストレージ性能を計測する定番ベンチマークソフト「CrystalDiskMark 8.0.4」を実行して、ヒートシンクの有無による性能への影響を確認してみよう。

 980 PROは、もともとヒートシンクなしでもしっかり性能を発揮できるSSDなので、ここでは差がつかないものと考えていたのだが、NVMe SSDモードでCrystalDiskMarkを実行した結果、テスト後半に実行されるランダムライトテスト「RND4K Q32T16」にて、ヒートシンクを搭載することで1割以上(+438MB/s)もの速度向上がみられた。これは計測誤差というには大きなものであり、ヒートシンクによる冷却で性能が向上したものと考えてよいだろう。

「ヒートシンクなし」での実行結果。RND4K Q32T16のライト速度は約3,933MB/s。
「ヒートシンクあり」での実行結果。RND4K Q32T16のライト速度は約4,371MB/sで、1割以上も速度が向上している。

SSD温度をモニタリングデータでチェック、コンパクトなヒートシンクでも最大20℃動作温度は低下

 ヒートシンクの有無で転送速度に差が生じたCrystalDiskMarkの実行中、SSDがどのような温度で動作していたのかを、モニタリングソフト「HWiNFO64 Pro v7.06」で取得したログデータでチェックしてみよう。

 まず、ヒートシンクの有無によるピーク温度の変化をまとめたものが以下の表だ。980 PROは、SSDコントローラとNANDフラッシュメモリの温度を計測できるので、それぞれのピーク温度を表記している。今回はCPUに水冷クーラーを使用しているので、SSD周辺にはエアフローがほぼない厳しい条件下でのテスト結果として見てもらいたい。

 ヒートシンクなしの状態では、SSDコントローラが106℃、NANDフラッシュメモリが82℃に達しているのに対し、ヒートシンクを搭載した場合のピーク温度は、SSDコントローラが86℃(-20℃)、NANDフラッシュメモリが64℃(-18℃)となっており、ヒートシンクの放熱によってSSDの動作温度が大幅に低下していることが確認できる。

 ヒートシンクによる冷却がSSDに及ぼす影響をより詳細に確認すべく、転送速度と温度の変化を推移グラフ化してみた。ヒートシンクの有無で個別にグラフ化している。

ヒートシンクなし。
ヒートシンクあり。

 温度の推移に注目してみると、ヒートシンクを搭載することで温度の上昇は全体的に緩やかになっているのだが、RND4K Q32T16のライトテスト(左から3番目の緑線の山)を実行しているあたりで、ヒートシンクありでは温度の上昇がみられるのに対し、ヒートシンクなしのNANDフラッシュメモリ温度が82℃付近で頭打ちになっていることが分かる。

 これは、ヒートシンクなしでサーマルスロットリングが発生したことを示すものだ。実際、ヒートシンクありでは4400MB/s近く出ているライト速度が、ヒートシンクなしでは4000MB/s未満にまで低下している。これは、CrystalDiskMarkの測定結果と合致するものだ。

 CrystalDiskMarkのように、長時間にわたってSSDがピーク性能を発揮し続けるというシチュエーションは多く発生するものではないが、ヒートシンクを搭載すれば長時間の高負荷動作でもサーマルスロットリングの発生を防ぐ効果が期待できる。サーマルスロットリングが作動する温度までのマージンは、周辺温度の上昇に対するマージンとしても機能するので、高発熱なパーツを組み込んだ高性能PCでも安定して980 PROの性能を引き出せるようになるだろう。

コントローラの熱がNANDに伝わらないセパレート型ヒートシンクサーモグラフィで効果を確認

 980 PROの冷却用ヒートシンクとして確かな効果が確認できたSMOP-SHSだが、SSDコントローラとNANDフラッシュメモリを分離冷却するというセパレート設計が、理論通りの効果を発揮しているのかをサーモグラフィで確認してみよう。

 ヒートシンクなしでは、発熱源であるSSDコントローラやNANDフラッシュ付近の温度が高くなっている一方、ヒートシンク搭載時は、個々のヒートシンク表面温度は熱伝導によっておおむね均一になっている。ヒートシンクの搭載により温度自体も低下しており、SSDコントローラ付近は101.6℃から73.9℃、NANDフラッシュメモリ付近は84.2℃から58.4℃になっている。

 また、ヒートシンク搭載時の温度分布からは、SSDコントローラ側の温度はNANDフラッシュメモリ側に伝わっていないことも確認できる。これがセパレート設計のメリットであり、薄型ヒートシンクであるSMOP-SHSが980 PROをしっかり冷却できる理由だ。

ヒートシンクなし。
ヒートシンクあり。

セパレート型だから薄型/小型化が可能なSSD用ヒートシンクヒートシンクレス前提の980 PROでも、装着すれば温度マージンを効率的に拡大可能

 ヒートシンクなしでも7GB/s級の速度を実現できる980 PROだが、ヒートシンクを搭載すればサーマルスロットリングが作動するまでの温度マージンを拡大することができ、長時間の動作や周辺温度が高い環境でも本来のパフォーマンスを維持できるようになる。

 片面実装のシンプルな基板設計を採用する980 PROなら、多くのM.2 SSD用ヒートシンクが利用可能だ。大型ヒートシンクの力押しで冷却するという手段もあるが、今回使用したセパレート型ヒートシンク「SMOP-SHS」なら、ヒートシンクと周辺パーツとの干渉を回避しつつ、980 PROの温度マージンを効率的に拡大できる。セパレート型のヒートシンクは、発熱元ごとに分けて冷却する構造なので、薄型/小型なタイプでも効果を発揮=薄型/小型化が可能という点はメリットとして知っておいてもらいたい。

 980 PROを購入する予定があるのであれば、あわせてSMOP-SHSの導入も検討してみることをおすすめする。

[制作協力:Samsung]