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今、空冷CPUクーラーってどうなのよ?実はいいのが出てます! DeepCool「AK620」は12コアでもガッツリ冷やす
扱いやすい高さ16cmにTDP 260W対応の冷却力で多コアCPUにも!! text by 石川 ひさよし
2021年10月18日 00:00
DeepCool Industries(以下DeepCool)から「AK620」が登場した。ツインタワー型ヒートシンクを採用するハイエンドクラスの空冷モデルだ。同社の空冷ハイエンドモデルと言えば“GAMER STOME”ブランドの「ASSASSIN III」がトップにいるが、冷却性能と追求した同モデルはやや大きく、ケースとの相性を考える必要があった。新製品のAK620は12cm角ファンサイズに収め、ハイエンドCPUを冷やしきりたいけれどケースも選びたいといったニーズをカバーする。
※10/18 21:29更新 初掲載時、本文中の製品名に一部誤りがございました。訂正してお詫びいたします。
価格性能比の新たなパイオニア、DeepCoolが放つ新作ハイエンドモデル
DeepCoolは、PCパーツメーカーとしては比較的めずらしい中国の北京に本社を置く。国内市場で見かけるようになってきたのは2009年前後と記憶しているが、設立は1999年で20年以上の歴史がある。日本でのイメージは「手ごろな価格の製品展開が魅力」というものだったが、前述のASSASSIN IIIが空冷CPUクーラーとしてはトップクラスの冷却性能を持つ1万円前後の製品として話題となり、「価格は手ごろで性能も高い製品を持つメーカー」という認識されるに至った。そんな同社が今回投入するAK620も期待が高い。
AK620はまずそのデザインに注目したい。ヒートシンクのトップにはブラックのカバーを設けているがフラット。これに組み合わせるファンも通常ある肉抜き部分を埋めたフラットなもデザイン。ケースに入れた際に見えるCPUクーラーのトップはキレイにキューブ型になる。LEDのイルミネーションも搭載していない。これは最近トレンドになっているフラットなフロントパネルのシンプルな外観のPCケースにマッチしそうだ。
カラーリングにもこだわりが感じられる。たとえばヒートシンクのトップはブラックに格子をプリントしたもので、控えめにDeepCoolロゴを添えている。そしてそれを固定する側面部分はメタリックシルバーに塗装されており、ヒートシンクとの一体感が感じられる。ファンはブラックなので全体的にブラック×シルバーのオーソドックスだが落ち着いた配色だ。
構造を見ていこう。CPU接触面の内部素材は銅で、表面には平滑処理およびコーティングが施されている。ハイエンドの空冷クーラーでは定番と言えるツインタワーで、左右に伸びるヒートパイプは6mm径で計6本、二つのヒートシンクは同様のものを対称に配置している。
高い冷却性能を発揮するにはファンの性能の高さも重要だ。AK620の12cm角ファンは9枚のブレードが渦のように中心へと向かうデザインで、ファンの回転数は500~1,850rpm。最大回転数が2,000rpmを超えないやや控えめな設定だが、最大風量は68.99cfm、静圧も最大2.19mmAqに達しており、回転数の割にはいずれも大きい。ファン軸受けにはFDBを採用し、動作音は28dB以下、全体でも31dB以下、寿命は50,000時間といった充実した仕様に仕上がっている。
干渉の恐れを抑えつつASSASSIN IIIに迫る性能を実現
ここで仕様をASSASSIN IIIと比較していくつかポイントを挙げていこう。
AK620 | ASSASSIN III | |
サイズ (D)×(W)×(H) | 129×138×160mm | 161×140×165mm |
ファン | 12cm角×2 | 14cm径×2 |
回転数 | 500~1,850rpm | 400~1,400rpm (付属LSP使用時400~1,000rpm) |
風量 | 68.99cfm | 90.37cfm (付属LSP使用時64.33cfm) |
静圧 | 2.19mmAq | 1.79mmAq (付属LSP使用時0.81mmAq) |
ファンノイズ | 28dB以下 | 29.5dB以下 (付属LSP使用時26.8dB以下) |
ヒートパイプ | 6mm×6本 | 6mm×7本 |
冷却性能 | 260W | 280W |
製品重量 | 1.456g | 1.464kg |
実売価格 | 1万円前後 | 1万円前後 |
まずサイズだが、ASSASSIN IIIの16.5cmに対しAK620は16cm。スタンダードなミドルタワーケースでは“対応CPUクーラー高16cm”が基準の一つとなっていることが多いので、この点はクリアだ。そして実際に搭載する場合、メモリとの干渉も考慮しなければならない。本機のファンはクリップ式を採用しており、位置を調整(オフセット)することができるので、メモリとの干渉に対しても対応可能な構造となっている(ただし、オフセットした分高さが増える点には注意が必要)。
ファンに目を移すと、風量や静音性ではASSASSIN IIIのほうが上。ファンの径が1本多く、ヒートシンクも一回り大きい点でもASSASSIN IIIが性能面では有利で、冷却性能はAK620の260Wに対して280Wと、20Wの差がある。
冷却性能を第一とするならばこの20W差は無視できないが、この“260W”という数値はハイエンドCPUを冷やすという目的には十分と言えるだろう。また、冷却性能以外にも、手持ちのPCケースやメモリとの物理的な相性も重要なポイントだ。昨今、ATX規格のPCケースはコンパクト化傾向にあり、「たった5mmの違いでPCケースにCPUクーラーが入らない!」ということも少なくない。トップクラスの空冷クーラーに迫る冷却能力が、高さ16cmの製品で手に入る、というのは大きな魅力と言えるだろう。
バックプレート方式の中でも抜群の組み立てやすさ
それでは、マザーボードへの取り付けについて見てみよう。対応ソケットはIntelがLGA115x/1200/2011/2066、AMDがSocket AM4/3+/3/2/FM2/1。そして今このタイミングでは、次世代CPUへの対応も気になるところだが、Intelの次期CPU、第12世代Core「Alder Lake-S」が採用するLGA1700への対応については、「後日オプションパーツで対応予定」とのことだ。
Socket AM4マザーボードへの取り付けの場合、Socket AM4デフォルトのバックプレートを流用し、オスーオスのスペーサを取り付けてそこに本体固定用のプレートを渡す。Socket AM4のバックプレートのネジ穴は基板を貫通し少し飛び出るのだが、このスペーサはその部分にミゾがあり、外周によってしっかりと固定できる。また、スペーサに対して貫通ネジを用いるものと比べても、各ステップで固定できるため位置がズレたり脱落したりといったこともない。非常に組み立てやすいと感じた。
LGA1200/115x用にはバックプレートが付属しており、これを使用する。バックプレート側ネジがオスで、そこにメス-オスのスペーサを介し本体固定用プレートを渡す。LGA20xxでは標準リテンション金具のネジ穴を利用し、オス-オスのスペーサを介し本体固定用プレートを渡す方法だ。ソケットごとにスペーサの形状がはっきりと区別できるほど異なるので見分けやすく、工数も少ない。
前述のとおり、AK620のファンはクリップで固定するため、仮にメモリと干渉するようならファンを上方向にオフセットすることができる。とはいえ、通常のメモリ基板に対しプラス1cm程度の高さのヒートスプレッダが付いたよくあるOCメモリとの組み合わせならオフセットなしで装着できた。ここが12cm角サイズを採用したAK620の大きなメリットだろう。全高16cmをキープ、製品の理想的な外観を維持したまま一般的なサイズのヒートスプレッダ付きメモリを組み合わせられる。一方、メモリスロット直上に外側ファンがかぶるため、LED付きメモリを組み合わせても隠れてしまう。LEDイルミネーションを検討している方は、この点を考慮しつつ光らせ方を工夫したい。
大型空冷CPUクーラーのダークホースか。OC時の冷却性能の高さは要注目
それではAK620の性能を検証してみよう。
検証環境は12コアのRyzen 9 5900XとX570マザーボード。比較対象として、比較対象には12cm角ファンを2基搭載するツインタワータイプとしてはメジャーなサイズの風魔 弐(SCFM-2000)を用意した。2製品の大きな違いはファンの回転数で、比較対象のほうが最低回転数、最大回転数、風量がいずれも低く、その分ファンノイズも2割程度小さい。また、比較対象のファンは2基のうち1基が薄型タイプとなっている。
アイドル時の温度はAK620が38.3℃、比較対象が39℃、動作音はAK620が34.3dB、比較対象は33.7dBとなった。これは、最低回転数のカタログ値から予測できる結果で、最低回転数が200rpm高いファンを搭載したAK620のほうが、少し動作音が大きい分よく冷えていた。実際に聞き比べると音量にそこまで大きな差は感じられなかった。
CINEBENCH R23のMulti CPUテストを10分間実行しCPU負荷をかけてみた“高負荷時”のCPU温度ではAK620が71.6℃、比較対象が75.1℃でAK620のほうが3.5℃冷えた。一方、動作音は46.7dB対41.1dBで、AK620は動作音よりも冷却力の高さを重視した設計を目指したもののようだ。
そして全コア4.2GHzにオーバークロックした“OC高負荷時”では、AK620の冷却性能でのリードが拡大。比較対象の87.3℃に対しAK620は79.3℃であり、その差は8℃となった。同社はTDP 260W対応という指標を出しているが、OCのようによりCPUの発熱が増大する状況でもきちんと冷えるというのは、冷却性能が十分に高いことを示していると言える。その分動作音は大きく、50dBを超えてくる。明確にうるさいと感じる音量だが、数あるツインタワー型CPUクーラーの中で比べればうるさ過ぎると言うほどではない。
一般的な用途での冷却性能を、テストアプリ実行中のCPU温度推移で見ておこう。まずは「3DMark」のTime Spy。グラフには山が三つあるが、先頭からGT1、GT2、CPUテストの順。GT1実行中に70℃を超える瞬間があるが、CPU負荷の高い3番目のテストでもCPU温度は60℃台。山と山の間のインターバルは40℃台前半まで一気に低下する。
続いてアプリケーション中心のベンチマークであるPCMark 10 Standardテスト。長時間のテストなのでグラフが複雑だが、70℃のラインを超えるのは序盤と終盤のそれぞれ2回ずつ。ピーク温度は75.6℃に達するが、全体的には50℃前後から60℃台を中心の抑えられた温度で推移していた。
そしてゲームベンチマークのFINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク(フルHD、標準品質)を試した。序盤に60℃台後半の時間帯が続くが、45秒を過ぎたあたりからは50~60℃前後をキープして安定。動作音とのトレードオフではあるが、負荷の高い状況で安定的に冷却できているようだ。
シンプルなデザインで期待通りの性能。ハイエンド空冷の新定番になるだろう
DeepCoolの新作、AK620でまず印象的だったのがデザインだ。好みは人それぞれだが、本製品はシンプルなデザイン、フラットなデザインという最近のPCケーストレンドに調和する外観だ。そして光らない。メモリスロットの上をふさぐ設計なので、すべてのパーツを光らせたいというPCではなく、光らせたくないか光らせるにしてもほかのパーツで照らし出すような演出を望む方のほうがAK620に適しているだろう。
そして冷却性能を求める方にも適している。もちろん冷却性能と静音性はトレードオフであるものだが、定格ではTDP 105WのCPUに対し、許容できる音量でしっかりと冷却できている。OCのように定格を超える発熱状態での性能もよかった。つまり、CPUにおいてはブースト時間をより長く持続させられるといった性能面でのメリットもあるだろう。
そして価格。CPUクーラーとして、1万円という価格は確かに高価格帯ではあるがハイエンドモデルとして見ればそこまで高価過ぎるわけではない。性能を求める方にとってのコストパフォーマンスはよいと判断できる。AK620はデザイン、冷却性能を求め、なおかつコストパフォーマンスもというよくばりな方でも満足させられる空冷CPUクーラーと言えるだろう。
[制作協力:DeepCool]