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今度のDeepCoolの簡易水冷は性能重視! 新世代CPUが冷やし切れるか試してみた。Ryzen 9 7950Xで実力チェック!

空冷でもの足りなくなってきた人のステップアップにも text by 石川 ひさよし

 最新CPU、とくにハイエンドやOCアンロックモデルの発熱は大きい。Intelの第13世代Coreシリーズ、AMDのRyzen 7000シリーズともに状況は同様で、とくに最上位製品では36cmクラス(かそれ以上)の簡易水冷CPUクーラーをオススメしたいほどだ。また、Intel、AMDともにCPUソケットがLGA1700やAM5に変更され、CPUクーラーの流用にオプション品が必要となったり、そもそも流用ができなかったりするケースも。

 となると、クーラーも最近登場した製品から選びたいと考えるのは自然な流れ。それならば、より冷えてより静かな製品を選びたい。そこで今回は、高性能&ハイコスパの空冷クーラーで市場を席巻しているDeepCoolから登場した、簡易水冷クーラーの新製品「LS720」を紹介する。

空冷覇者が作る高性能な36cmクラス簡易水冷「LS720」

 DeepCoolは、空冷CPUクーラー「AK400」、「ASSASSIN III」などさまざまなヒット製品をリリースしてきた。簡易水冷も数年前から投入しているが、これまではどちらかと言えば“価格”重視で人気を得てきたモデルが中心で、ラジエータサイズ36cmクラスでは、1万円台前半でRGB LEDモデルのGAMMAXXシリーズ、1万円半ばでアドレサブルLED対応のCASTLEシリーズがある。一方、今回のLS720は“性能”重視の製品で、実売価格は従来シリーズより上の2万円前後。もっとも、36cmクラスの製品は3、4万円台のものもめずらしくないので、市場全体で見れば、LS720はまだまだお手頃の価格設定で、多くのユーザーにとって狙い目となるかもしれない。

DeepCoolの簡易水冷クーラー「LS720」。同社クーラーの最上位モデルにあたる

 なお、LS720を含むLSシリーズには、ラジエータサイズ別に、12cmクラスの「LS320」、24cmクラスの「LS520」、そして36cmクラスの本製品がある。たとえばTDP 65WクラスのCPUと組み合わせるなら24cmクラスのLS520でよいだろうし、使用するケースとの組み合わせによっては12cmクラスのLS320も選択肢。TDP 100W超でブーストも強めなCPUを組み合わせるなら36cmクラスのLS720の出番となる。

 それではまずLS720のデザインから見ていこう。LS720のラジエータは長さ40.2cm、幅12cm。冷却性能を推し測ることができるラジエータの厚みは2.7cmで、これはごくスタンダードな仕様。ケースに組み込む際は、長さに若干気を付けたほうがよいが、幅と厚みは標準的なので問題なしだろう。

全体に精悍なイメージの製品だが、ラジエータにさりげなく入った“dc”ロゴがアクセントに

 ラジエータは、同社の空冷クーラー「AK400」などで採用されたフラットかつしっかりと角を立てたデザインを受け継いでいる。ほかの製品のラジエータでは角が丸みを帯びたものもあるので、ここはDeepCoolらしさと言える。チューブ側の角や、チューブをまとめるバンドにはさりげなくDeepCoolロゴもあしらわれている。

ファンは単体売りしている「FC120」のPWM範囲をLSシリーズ用に調整したもの

 ファンは12cm角サイズ×3で、アドレサブルLEDを搭載している。ファンのスペックとしては、500~2,250rpm(PWM)、85.85cfm、3.27mmAq、FDBモーターを採用し、ノイズレベル32.9dB以下。各ファンから伸びているケーブルには便利なギミックを採用しているが、これについては後述する。

水冷ヘッド。従来モデルでは円形/筒状のデザインの製品が続いていたが、LSシリーズでは四角形に

 水冷ヘッド部を上から見ると丸みを帯びた四角形で、角張っていたラジエータ部とは対照的だ。横から見ると上面を少し狭めた台形。中央は1段へこんだ部分にミラーカバーを置き、内部のアドレサブルLEDが照らし出すイルミネーションとなっている。このミラーカバーはDeepCoolロゴ付きで、360°向きを換えられるのでチューブの取り回しにも自由度がある。また、乳白色をした交換用カバーが付属するので、オリジナル柄をプリントしこれに貼り付けるといった楽しみ方もできる。

製品同梱の取り付け部品やケーブル類。最新のLGA1700やAM5にももちろん対応

 対応ソケットは、IntelがLGA1150/1151/1155/1200/1700/2011/2011-V3/2066、AMDがAM4/AM5/TR4/sTRx4。最新のLGA1700、AM5に対応していることはもちろん、ハイエンドデスクトップ向けソケットにも対応しているところがポイントだ。水冷ヘッドの接触面は四角に近い形状で、メインストリーム向けCPUのヒートスプレッダは余裕でカバー。超ハイエンドデスクトップ向けCPUでもヒートスプレッダ上の発熱部をカバーできそうだ。接触面のプレートは銅製。

 Intelソケットは、LGA2011/2011-V3/2066用がCPUソケット標準バックプレートのネジ穴とスタッドボルトを使い、LGA115x~LGA1200までは専用バックプレートと専用スペーサを使い、LGA1700はまた別にバックプレートとスペーサが付属する。水冷ヘッド部に装着するプレートとナットはIntel系は共通だ。AMD系はAM4/5、TR4/sTRX4ともにCPUソケット標準のバックプレートを用いるが、スタッドとヘッド側に装着するプレートはそれぞれ別のものを使用する。

水冷ヘッドの固定金具を交換することでAMD系とIntel系に対応。CPUとの接触面は銅製で、サイズにも余裕がある

ユーザーフレンドリーで組みやすく、簡単に見た目もキレイにできる

 LSシリーズのLEDやファン回転数の制御だが、DeepCoolでは専用ユーティリティを用意していない、という思い切った割り切りをしている。専用ユーティリティを用いる製品では、メーカーのノウハウをもとに細かなチューニングやステータス監視ができる一方、専用ユーティリティのアプリが相性問題を引き起こしたり、マザーボードやビデオカードそのほかのLEDユーティリティとLEDの同期がうまくいかなかったりといった問題が生じることも少なくない。LSシリーズのようにマザーボード一任というのも、シンプルで問題が生じにくいという点で歓迎できる。

ファンはデイジーチェーン接続が可能。分岐ケーブルで三つのファンを接続するタイプに比べると配線を美しく仕上げる手間は大幅にラクになる

 また、配線も特記すべき点だ。LSシリーズの付属ファンは、ファン同士をケーブルで数珠つなぎに接続する“デイジーチェーン接続”が可能だ。LS720の場合、ファン3基を直付けの専用ケーブル&コネクタで接続した上で、水冷ヘッドやSerial ATA電源コネクタと接続する。ファン直付けの専用ケーブルは、ファンの電源とLED制御がひとまとめになっているので、三つのファンからばらばらと複数のファンが伸びていて始末に負えない、という状態になりにくく、ケーブルマネジメントは非常にラクだ。

 自作PCでは、PC内部をカッコよくあるいは美しく見せるのも腕の見せどころでもある。ケーブルをいかにきれいにまとめるかは悩みの種でもあるので、きれいにまとめられる仕組が採用されているのはうれしいポイントと言える。

後述するテスト機材で一式組み上げた姿がこちら。PCケースはDeepCoolのCH510を使用した

Ryzen 9 7950Xでテスト。最新100W級CPUでも好成績&静か

 それでは、LS720の性能検証を進めていこう。今回はバラック組みではなく、しっかりとケースに収めて行なった。より実運用に近い結果となるので、ご検討されている方は参考にしていただきたい。テストはAMD AM5環境で組み立てを行なった。

【検証環境】
CPUAMD Ryzen 9 7950X
(16コア32スレッド)
CPUクーラーDeepCool LS720
(簡易水冷、36cmクラス)
マザーボードMSI PRO X670-P WIFI(AMD X670)
※設定はデフォルト準拠、CPU Lite Loadは不使用
メモリG.skill F5-5600J3036D16GX2-TZ5NR
(PC5-44800 DDR5 SDRAM、16GB×2)
※AMD EXPOによるDDR5-5600設定で使用
ビデオカードMSI Radeon RX 6800 XT GAMING Z TRIO 16G
(AMD Radeon RX 6800)
ストレージSolid State Storage Technology
Plextor M10P(GN) PX-1TM10PGN
[M.2(PCI Express 4.0 x4)、1TB]
ケースDeepCool CH510(ATXミドルタワー)
※後部ファン12cm角×1を標準搭載
電源DeepCool PQ850M(80PLUS Gold、850W)
室温27℃
AMD Ryzen 9 7950X
MSI PRO X670-P WIFI
MSI Radeon RX 6800 XT GAMING Z TRIO 16G
DeepCool PQ850M

 水冷CPUクーラーを利用する際、ラジエータを前面(ファンの向きは吸気が一般的)と天板(ファンの向きは排気が一般的)のどちらに配置するのかの見きわめも重要だ。LS720の基本的な性能を見る意味も含めて、まずはこの差を検証してみた。

ラジエータの設置場所は水冷クーラー使用時の悩みどころの一つ。今回は前面(左)と天板(右)の2カ所で試してみた。ファンの向きは前者が吸気、後者が排気としている

 前面はフレッシュなエアでラジエータを冷やせるが、ラジエータの放熱で温まった空気がケース内を抜けることになる。天板に設置した場合は、ケース内の空気をラジエータに送り込むためラジエータの冷却には不利だが、ケース内およびラジエータで温められた空気を積極的に排気できる。“前面配置で吸気”の設置が有利に働くことが多いのだが、実際には使用するPCケースしだいのところもある。今回の組み合わせではどうだろうか?

CINEBENCH R23-CPU(Multi Core)テスト実行中の温度推移

 上のグラフはCINEBENCH R23のCPU(Multi Core)テストを10分間実行した際のCPU温度(Tdie)推移のうち、計測ツールのサンプリング回数で180カウント分をグラフ化したもの(サンプリング間隔の設定は2000ミリ秒だが、誤差が生じやすく180カウント=360秒ではない)。青いラインの前面配置/吸気時は最大95.4℃、一方、オレンジラインの天板配置は93.6℃だった。1.8℃だが天板配置/排気時のほうが冷えていた。各部の最大温度を比較すると以下のようになった。

前面配置天板配置
CPU95.4℃93.6℃
VRM53.5℃44℃
GPU41℃31℃
チップセット45.5℃40.5℃
M.2 SSD39℃32℃

 上記のように、天板配置のほうがCPUだけでなく全体的に温度が低い。近年の冷却重視型PCケースの場合、前面パネルがメッシュになっているものも多いが、今回組み合わせたPCケース、DeepCoolのCH510は、前面がフラットデザインで、吸気は前面パネルの側面に用意されたスリットから行なう構造だ。また、ラジエータとケースのフレームでファンを挟むように設置してラジエータに取り込んだ空気を直接当てる配置にしたかったのだが、LS720付属のネジの長さが若干足りず、このサンドイッチ配置ができなかったのも不利に働いた可能性が高い。各部の温度が高かったのも含めて、全体に吸気不足だったのではないかと推測される。

 温度の推移は以上のような結果になったが、CINEBENCH、PCMark、3DMarkのテストスコアには誤差程度の違いしか見られなかった。今回のシステム構成においては、温度が高めだった前面設置の場合でも、性能に影響が出るほどのことではなかったと考えてよいだろう。

 ひとまず、今回は“天板配置で排気”が効率的という結論が得られたので、以降テストはいずれも、天板配置/排気のレイアウトで行なう。それでは順に見ていこう。

CINEBENCH R23実行時の各部温度の推移

 このグラフは、前述のCPU温度推移に各部温度を加えたもの(300カウント分をグラフ化)。再びCPU温度推移に注目すると、CPU(Multi Core)が1セット終了した際、きっちり温度が低下していることが分かる。さらに、左は低め右が高め、少し斜めのグラフになっていることにも気付くだろう。10分間の実行で、CPUのサーマルリミットは生じておらず、リミットまで98.3%で踏みとどまっていた。この結果からも、LS720はRyzen 9 7950Xを安心して利用できる36cmクラス簡易水冷CPUクーラーであると言えるだろう。

3DMarkーTime Spy Extreme実行時の各部温度の推移

 次は3DMarkのTime Spy Extreme実行中(デモなし)の温度推移。CPU温度の序盤二つのピークはベンチマークのロード中のものだが、全体を通じてこの部分が一番高温だった。CPU温度はここで87.8℃に達するが、これ自体はCPUに大きな負荷がかかったときの一般的な温度上昇の範疇。注目はすべきはここからの温度の下がり方で、かなりの急下降になっていた。そして、GPU温度推移と合わせて見ると分かりやすいが、初めの二つのテストの最中のCPU温度は50℃台とマイルドに推移。途中のロードで再び上昇して60℃台になり、GPUの負荷がほとんどないCPUテストが始まると80℃を超えた。それでも序盤のピークほどには上昇せず、ベンチマーク終了とともに下降した。そこからはアイドル時で40℃台少々で推移している。

PCMark 10-Standard実行時の各部温度の推移

 最後に、一般的な事務作業や家庭におけるWebブラウザ中心の利用スタイルでの性能を探るべく、PCMark 10 Standard実行時の温度推移を見てみよう。3DMarkよりはCPU寄りになるが負荷自体はそこまで高くなく、その負荷も長時間続くものではない。CPUの最大温度は92.8℃だが、実のところこれはテスト中のものではなく、テスト終了後の結果画面表示時のようだ。計測の序盤も87.5℃が出ているがこれもロード時なので、日常使用では、アプリケーションのロード/終了時にこのような一時的なCPU温度の急上昇があるのだ。

 実際のベンチマークテスト中の値を追ってみると、温度は上がっても60℃台がほとんどで、時折せいぜい70℃台になる程度、といったところ。負荷が抜ければ40℃、50℃台に落ちる。全体的に見てよく冷えており、安心して使えるデータを言えるだろう。

 最後に動作音について触れておこう。今回はファン回転数制御にマザーボードの専用ユーティリティ「MSI Center」のツールの一つ、「User Scenario」で行なった。手順としては、User Scenarioのメニューから「Customize」を選び、そこで各ファンの設定メニュー内で「Fan Tune」を実行して自動チューニングした。Fan TuneはいわゆるPWMのキャリブレーションだ。ファンの性能を引き出すためにも静音性を向上させるためにも実行しておいたほうがよいと思われる。なお、ポンプはマニュアル設定で100%に固定している(LS720はポンプ音が非常に静かで、100%でも体感上はほとんど影響を感じないレベル)。

ファンやポンプを自前のユーティリティで制御する製品も多いが、LS720はマザーボードの機能で制御する。マザーボードのファン制御機能は、各社が差別化ポイントとして改良を重ねており、非常に優秀。ぜひ有効活用したい

 ケースの上部前方20cmで動作音を計測したところ、アイドル時は31.9dB、高負荷時は48.8dBという結果となった。暗騒音30dB以下の環境で計測したので、アイドル時は非常に静かで、夜間に計測したものの動作音はほとんど気にならないレベル。高負荷時は48.8dBなのでそれなりの動作音だが、50dB以下なので普通~やや静かという水準で、耳障りというほどではない印象だった。

 なお、3DMarkやPCMark 10のように負荷変動があるテストを実行している際は、動作音は静かになったり大きくなったりするので、MSI Centerによるファンの回転数制御がきちんと効いていることが分かる。

 今回組み込み検証なので、実際にはご使用のPCケース、ケースファン、ビデオカードや電源などほかのファンのノイズによっても印象は違ってくるが、LS720自体は36cmクラスの簡易水冷CPUクーラーとしては静かな製品と言える。実際に本機を使う際には、パーツの組み合わせなどを考慮し、自動チューニングや手動での微調整などでカスタマイズしてみていただきたい。冷却性能も静音性も、追い込むだけの価値はあるだろう。

納得の完成度で2万円、今ハイエンドCPUに組み合わせたい簡易水冷の有力候補

 2万円という価格ながら高い水準の冷却性能、デイジーチェーン接続に代表されるユーザーフレンドリーな設計、そしてデザイン性の高さが魅力のLS720。性能面においては、これまで検証してきた36cmクラスの製品と比べて、冷却性能も十分、静音性もなかなかよいと判断できる。素の状態のRyzen 9 7950Xをしっかり冷やし切れる高い能力を持っており、サーマルスロットリングなしで高い負荷をかけられる余裕もあった。この結果からすると、Ryzen 9 7950Xよりも発熱が大きいIntel Core i9-13900Kとの組み合わせるでも善戦するだろう。

 空冷CPUクーラーで好成績を残してきたDeepCool。今回簡易水冷CPUクーラーでもしっかりよい製品をリリースしてきた。PCを組むとき、CPUクーラーにかけられる予算が決まっているという方も多いと思われるが、LS720は、空冷CPUクーラーよりも価格レンジは上だがその分性能も確実に上。空冷よりワンランク上の冷却性能が欲しい人には、価格レンジ的にも手を出しやすいだろう。

 DeepCoolらしい、コストとパフォーマンスのバランスが高い次元でまとまった製品。さらに、CPUクーラーと同様にコストパフォーマンスに優れる同社製のPCケースや電源で統一すると、デザインコンセプトもまとまってその魅力も高まるだろう。

[制作協力:DeepCool]