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7年物の自作ゲーミングPCを新調。OS再インストールをせずに移行するとどうなる?
ハードはほぼ全部入れ替えつつ、SSDのデータをそのまま引っ越し
2022年12月7日 11:05
筆者が自作PCを始めたのは1997年のこと。当時からPCでオンラインゲームを遊んでおり、少しでも高性能なPCを求めて、毎年のように新しいPCを自作してきた。趣味は秋葉原の散策で、特に用がなくても毎週のようにPCパーツショップを巡っていた。
しかし6年前に子供が生まれてからは、完全に状況が変わった。時間的・経済的に余裕がなくなり、オンラインゲームを遊ぶ時間も、秋葉原に出向く暇もない。ジャーナリスト業で原稿を書くのには困らないのでそのまま使い続けた結果、最後に自分用のPCを自作したのは2015年。VR用途でビデオカードは新調したものの、7年間も同じPCを使い続けてしまった。
それで起こった困りごとが、Windows 11へのアップグレード。CPUがアップグレード対象外のため、Windows 10のままだった。IT系の記事を書きつつ、Windows 11にすらできないPCを使い続けるのはさすがにダメだ。ようやく踏ん切りをつけて、新たなPCを自作することにした。
ただ、仕事を止める時間は極力短くしたい。PCのハードウェアを組むのはすぐ終わるが、OSを入れて、必要なソフトを設定して……とソフトウェア環境を整えるのは1日ではとても足りない。大量にインストールされているゲームをインストールし直すのも(今はほどんど遊んでいないとはいえ)大変に手間だ。
7年ぶりにPCを自作するが、OS環境はそのまま移行したい!
そこで思いついたのが、今のOS環境をそのまま次のPCへ持っていくこと。最近のWindowsは新たな機器を接続した際にほぼ自動でドライバがインストールされるし、CPUなどの環境を変えてもそのまま動作すると聞き及んでいる。これなら1日で移行作業を終えられる。
過去にPCを新調した時、特にCPUが変わった時には、OSは必ず入れ直しており、筆者としても初めての取り組みになる。もし無事に動作するなら、大量のゲームの再インストールや設定ファイル等のバックアップが不要になるので、PCゲーマーには大きな恩恵になる。では筆者が実際にどのような移行作業を行い、結果どうなったのかを紹介したい。
新PCのパーツ選定基準
まずは新旧のPCのハードウェアをざっと比較しておく。ビデオカードとデータ保存用HDD以外は全て新調する形だ。
パーツ | 新PC | 旧PC |
---|---|---|
CPU | Core i5-13600K | Core i5-6600 |
CPUクーラー | DeepCool AK400 | CPU付属クーラー |
チップセット | Intel Z690 | Intel H170 |
GPU | GeForce GTX 1080 | ← |
メモリ | 32GB DDR5-4800(16GB×2) | 16GB DDR4-2133(8GB×2) |
SSD | 1TB(M.2 PCIe 4.0×4) | 256GB(M.2 PCIe 3.0×4) |
電源 | 850W(80PLUS PLATINUM) | 650W(80PLUS PLATINUM) |
PCを新調するにあたり、以下の項目を条件に製品を選んだ。
最新世代CPU
ちょうど新しい製品が出たタイミングだった。マザーボードは1世代前のものが使えるIntelの第13世代Coreを選んでコストを下げた。購入したマザーボードはGIGABYTE製「Z690 UD」。この話はPC Watchで執筆している。
自宅LANの2.5GBASE-T化
自宅のインターネット回線であるNURO光で、ONU内蔵ルーターが2.5GBASE-Tに対応したため。この話はInternet Watchで執筆している。今回購入したGIGABYTE製マザーボード「Z690 UD」は2.5GBASE-Tを搭載しており、合わせてPlanex製8ポートハブ「FX2G-08EM」も購入した。
メモリの大容量化・DDR5
DDR4でもパフォーマンスに大きな差は出ないようだが、従来の16GBを使いまわすのは容量に不安がある。どうせ32GBに倍増させるならとDDR5を選んだ。筆者は高確率で初期不良を引き当てるので、国内ライフタイム保証が付くCFD販売の「W5U4800CM-16GS」を購入。
最高速クラスのSSD
PCやゲームの起動を極力早くするため、M.2 PCIe 4.0×4対応の中でも最高速グループのSSDを選択。今回は日本製品を応援する気持ちも込めて、キオクシア製「EXCERIA PRO SSD-CK1.0N4P/N」を購入した。
CPUクーラーは空冷
最新世代のCPUは発熱が多く、簡易水冷を推奨する声も聞かれる。しかし現状最下位のCore i5-13600Kならそこまででもないだろうし、いざとなればエコ動作設定にして発熱を下げればいいと判断。12cmファン搭載のDeepCool製空冷クーラー「AK400」を購入した。
前方にUSB Type-C端子があり、側面がシースルーでないケース
USB Type-Cの機器が増えてきており、将来性を考えて前方にも端子が欲しい。また仕事用のPCでもあるので、装飾より実用性や静音性を重視する。価格と品質、さらにホワイトの本体色を選べる点から、Fractal Design製「Define 7 Compact White Solid」を購入。ただしこのケースは電源の奥行きが長いものを使う場合、内部の3.5インチベイを外す必要がある。
最新ビデオカードに耐えうる電源
ビデオカードはいったん流用するが、近いうちに更新する前提で、電源はより高出力のものを選択。今回はケースに起因する奥行きも考慮し、Antec製「NE850 Platinum」を購入した。
全体としてコストパフォーマンスを追求しつつ、メインストレージになるSSDは妥協しない。また安定性に直結するメモリと電源は品質にも配慮している。あとはビデオカードを適切に選べば、なかなかのゲーミングマシンに仕上がると思う。
USBブータブルメディアを作り、旧PCのSSDをバックアップ
ここからが今回の本題。新しいPCを組み上げたら、次は旧PCのデータをそのまま移行する。
最も簡単なやり方は、旧PCでOSを入れているM.2のSSDをそのまま移植することだ。ただその場合、新PCで動作に問題があった時、SSDを再び旧PCに戻しても問題を引きずる可能性がある。そこで、問題があった際にすぐさま旧PCの環境に戻れるよう、旧PCのSSDのデータをバックアップし、新PCのSSDにリストアするという手順を取ることにした。
バックアップに使用したのは、「Acronis TrueImage for Western Digital」。バックアップソフトとして有名な「Acronis TrueImage」のWestern Digital提供版(以下、「TrueImage」)で、同社製のHDDやSSDを持っていれば無料で使える。筆者はHDDを所有しており問題なく使用できた。他のストレージメーカーでも同様のソフトを無料配布していることがあるので、使用しているストレージに合わせて探して欲しい。
システムストレージの移行となるため、OS起動状態でのバックアップは避けたい。今回は「TrueImage」のUSBブータブルメディア作成機能を使い、USBメモリで「TrueImage」を起動してからバックアップを実行することにした。作業には2GB以上のUSBメモリが必要。
USBメモリを接続した状態で、Windowsから「TrueImage」を起動。左のメニューにある「ツール」から、「ブータブルメディアビルダー」を選択する。作成の方式を選択、と出るので、「シンプル」を選択。メディアの宛先は接続してあるUSBメモリを選択する。筆者の環境だと、必要な空き容量は942MBと出たが、1GBのUSBメモリでは容量不足で作業が失敗した。しばらく待つと「TrueImage」が入ったブータブルUSBメモリが作成される。
次にWindowsを終了し、さきほど作成したブータブルUSBメモリを挿入して再び起動。BIOSでUSBメモリからブートできる設定になっていれば、ブータブルメディア版の「TrueImage」が起動する。
ここでの手順は、旧PCのSSDのデータをバックアップした後、新PCのSSDにバックアップデータをリストアする。今回はUSB接続のHDDを用意してSSDのデータをバックアップした。もしM.2スロットが2基以上あったり、M.2 SSDのUSBアダプタがあるなら、バックアップではなくクローン(複製)を選んで、旧SSDから新SSDに直接コピーしてもいいだろう。
具体的な作業の流れは、まず旧PCでブータブルメディア版の「TrueImage」を起動する。「バックアップ」からEFIシステムパーティション等を含め、SSD全体を一括で選択する。続いてバックアップ先を「新規バックアップアーカイブを作成する」として、USB HDDなどバックアップ先を選ぶ。
バックアップが済んだら、USBブータブルメディアとバックアップしたUSB HDDなどを新PCに接続し、こちらでもブータブルメディア版「TrueImage」を起動。今度は「復元する」を選んで、バックアップアーカイブファイルからSSDにリストアする。バックアップ元と先が間違いないか確認しさえすれば、あとは指示されるとおりの手順で簡単に進む。
以上の作業で「TrueImage」によるデータ移行は完了だ。
Windowsのライセンスは無効状態になる
次はいよいよ新PCを起動する。電源を入れると、OSの起動画面が表示されたが、いつもよりかなり長時間待たされた。おそらく必要なドライバなどを入れているのだろう。
その後、無事にWindows 10が起動した。デスクトップのアイコンの配置まで旧PCのままで、環境は完全に移行されている。CPUが第6世代Coreから第13世代Coreへ7世代も進んだにも関わらず、当たり前に起動するのが確認できた。どんな環境でも絶対に移行できると保証するものではないが、OSの再インストールが手間と感じるなら試す価値はあると言える。
ただし唯一必要になる作業が、Windowsのライセンス認証だ。ライセンスの状態を確認すると、やはり無効の状態になっていた。ハードウェアの大幅な変更があったためだろう。
Windows 10では、ライセンスはMicrosoftアカウントに紐づいたデジタルライセンスとして管理されている。ハードウェアの変更でライセンスが無効の状態になった場合、ライセンス認証のトラブルシューティングから進めていくとデジタルライセンスの対応ができる。
ただ今回はインターネット接続に問題があり、デジタルライセンスの状態確認ができなかった(固定のプライベートIPアドレスを使っていたところ、移行作業でLANデバイスが変わって再設定が必要だったのが原因と思われるが、その時は気づかなかった)。これはマイクロソフトに電話のパターンかと思ったが、代わりにプロダクトキーを入力したところ、無事にライセンスが認証された。
旧PCにインストールされていたWindows 10は、もともとWindows 8だったものをアップグレードしたもの。このWindows 8は、Windows 8 Proアップグレード版の発売記念優待販売で購入したもので、DSP版ではなく製品版とされている。ライセンス規約的には今回の作業で問題はないと認識しており、実際にライセンス認証も通っている。ただしこれも各々のライセンスの状態次第で、場合によっては再購入の必要があることは留意したい。
新PCのSSDのサイズに合わせてパーティションを結合
これで全ての作業が完了したかと思いきや、もう1つ直さねばならないところが見つかった。SSDの容量を見ると、約250GBしかない。「TrueImage」でリストアした際に元のSSDの容量のままで、1TBあるうち7割以上の領域が使われない状態になっていた。「TrueImage」側の設定でリストア時に領域を広げる方法があったかもしれないが、再びリストアするのは面倒なので、別の手で対応する。
未使用領域を連結するために、今回は「AOMEI Partition Assistant」を使用した。本ソフトには無料のStandard版と有料のPro版があるが、今回の作業はStandard版で対応できる。
ソフトが起動したら、ドライブのリストの中から、未使用領域を連結させたいドライブ(今回であればCドライブ)を選択。次に左のメニューにある「パーティションを結合」を選択する。パーティション結合作業のウインドウが出るので、未使用領域を選ぶ。あとは自動で作業が進む。
Windowsの標準機能である「コンピューターの管理」からも未使用領域の連結は可能なのだが、メインとなる領域のほかにシステム領域や回復パーティションがあり、それらが未使用領域との間に挟まると、連結作業が行えない。「AOMEI Partition Assistant」ならそういった場合にも対応できる。
セキュアブートなどの機能に注意
同様の作業を行う際の注意点として、旧PCのBIOSでセキュアブートを無効化しておく必要がある。セキュアブートが有効なままだと、バックアップやクローンがうまく実行できない場合がある。
さらに注意すべきは、暗号化機能のBitLockerが有効になっている場合。筆者は以前、BitLockerが有効になっていることを知らないままセキュアブートを無効化したところ、Windowsが起動しなくなった。この時は別の作業を並行していたせいか、再度セキュアブートを有効化しても起動せず、回復キーを要求された。別のPCでMicrosoftアカウントを確認して回復キーを取得できたが、大変に手間がかかるので、あらかじめ確認しておく方がいい。
ともあれ筆者の新PCは無事に動作している。ベンチマークテストなども実行してみたところ、不安定なことはなく、スコアも想定範囲内。ただ古いスキャナの動作がやや不安定になるなど、怪しい部分もところどころ見受けられる。
また問題なく動作しているように見えても、新PCに合わせたドライバやツールのインストールが必要なものもある。マザーボードメーカーのホームページからダウンロードできるので、1度は確認しておく方がいい。
もし移行作業に十分な時間をかけられたり、移行前のPCで何かしら不都合を感じていたなら、PCを新調するのに合わせてOSをクリーンインストールした方がいいとは思う。ただクリーンインストール自体はいつでもできることではあるので、暇ができた時にでも改めてやればいい。昔に比べて柔軟かつ堅牢になったWindowsなら、こういう手もあると覚えておくのは有意義だろう。
ちなみに当初の目的であったWindows 11へのアップグレードは、ハードウェアの要件は満たしたものの、セーフガードホールドにより未だアップデートさせてもらえない。一部のゲームのパフォーマンスが低下する問題によるそうで、対応が済むのを気長に待つことにする。その間に無償アップグレードが終了しないといいのだが……