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The Final Episode「改造バカは液没油地獄の夢を見るか?」【高橋敏也の改造バカ一台】

DOS/V POWER REPORT 2024年冬号の記事を丸ごと掲載!

The Final Episode 改造バカは液没油地獄の夢を見るか?

 先日、本誌公式YouTubeチャンネル「PAD(PC Watch & AKIBA PC Hotline! plus DVPR)」にて、『「改造バカ一台」最終回で作るマシンはみんなで決める!抱腹絶倒の歴代“バカPC”達から投票で決定』という配信を行ないました。内容はつまりタイトルそのもの、要するに本連載最後のネタを何にするか?

 過去の改造バカ作品を振り返りつつ、コメントなどで視聴者様の意見を仰ぎ、最終的にはネット投票を行ないました。その結果が冒頭の1位から3位というわけです。ご視聴いただいたみなさま、投票いただいたみなさま、本当にありがとうございました。

みんな、そんなに液が見たいのか!?油が見たいのかっ!?
PBのキャノーラ油(菜種油)、1,300g、1本498円なり。もちろん1本では足りない
3本……まだ足りぬ。足りぬ足りぬは油が足りぬ
7本! 計算上はこれで10リットルなはず。油谷さんを満足させるためには、これぐらいの油が必須!(注:本連載はいわゆるITにかかわるものです)

 さて、そんな前置きである。不肖・髙橋、投票結果を受けてほんの0.1秒ほどで天啓を受けた。最後のネタは「ヌルヌル、プルプルしてえらく臭いPCを自作すればいいのだな」と、そう確信したわけである。が、しかし。政治の世界でも改造バカの世界でも横やりというのは入るもので、「そこまではしなくていいでしょう(真意:臭いのに付き合わされるのはいや)」と、言われたのだ。

 しゃーなしである。ならば不肖・髙橋、改造バカ。初心(?)に戻って液没系PC、数ある液没系でも人気のあった「油」系を最後に作って華々しくフィナーレといこうじゃないか! そう決心したしだいである。もう何年ぶりだ液没、しかも油系は?

立つ鳥跡を濁さず、ただヌルヌルするのみ

 そうと決まればマシン構成である。なにせ今回で紙の連載としては最後、The Final Episodeなのだ。まさかあれですよ、あれ。「油漬けになったパーツは再利用できないから、ストックしている古いパーツを使うか」などと軟弱なことは言っていられないのである(心配しないでください、ちゃんと軟弱しますよ)。せめてコア部分だけでも最新のパーツにしなくては!

 でもね、日和るわけですよ、ええ。Coreシリーズの第14世代はエントリーがまだ出ていないので第13世代にしたのは許されるだろう。マザーボードにB760採用のMini-ITXを持ってきたのは賢明な判断である。シングルファンとはいえRGB対応の光る簡易水冷クーラーは、いいアクセントになってくれそうだ。

 が、しかし。ここで「もったいないお化け」がチラチラとその姿を見せ始めるのである。メモリ、もったいないから4GB×2でいこう(普段「そろそろ32GBがデフォとか言ってるのに)。SSD、「テストで使い倒した256GBでいいか」。電源、「サンプルで入手したSFXかなあ」。日和ってると言うか軟弱と言うか……。

 挙げ句、肝心要の本体ケース、いやいや油ケースは使い古して死蔵していたわが家のガラス水槽と来たもんだ。ああどこへ行ってしまったのか、The Final Episodeへの意気込みは……。

今回のPCケースはこれ。Mini-ITX対応(入るだけです)
今回の本体ケースは使い古して死蔵されていたわが家のガラス水槽。正確な容量は不明だが、水は20リットル以上入る。ということは10リットルの油だと圧倒的に不足!
そんなわけで用意したのが助っ人の水入りペットボトル。デッドスペースに入れて油を節約する予定

 などと悩んでいるヒマはない。ちまたは先生達が猛ダッシュで駆け抜ける師走、2023年の終わりも近い。とっととマシン部分を組んで、水槽に入れて、そこに油を注ぎ込まなくてはならないのだ!

 ではその油、どんな種類を使おうか?

キャノーラ油=菜種油って知ってました?

 キャノーラ油である。コレステロールゼロでクセがなく、素材の味を活かせるすっきりした食用油。うむ、これなら油没PCにもピッタリである。しかも行き付けのスーパーにプライベートブランドのキャノーラ油があって、コスパが大変よいのである。

 ちなみにこれまでの油没経験から、食用油なら「とりあえずは動く」というのは分かっている。キャノーラ油やオリーブオイルには導電性がなく「しばらく(後述)」はそれらの油に没した電気機器は動作するのだ。

 そんなこんなでキャノーラ油を調達したのだが、問題はその量である。以前は本体ケースと言うか容器をなるべく小さくして、使用する油の量を抑え込んだ。しかし今回は普通のガラス水槽、小型タイプだがその容量は半端ない。試しに水を入れてみたところ、10リットルでも水槽半分よりちょっと下という具合だ。

 今さら一斗缶(18リットル)を手配する時間もないので、いろいろ工夫することを前提に1,300gのキャノーラ油(1本498円)を7本用意した。油ってグラム表記なんだよね。でもって水とは比重が違うから、単純に「1,300× 7= 9,100」とはならない。そこで菜種油(キャノーラ油)の比重を調べてみたところJASの規格で「0.907 ~ 0.919」となっているらしい。ならばと「1,300×7÷ 0.91」と計算したらちょうど10,000になる。だいたい10,000ml、すなわち10リットルになるらしい。

 よし、役者は揃った!

 あとはもうひたすら組んで、水槽にセットして、油をヌルヌルっと注ぎ込むだけである。

過剰と妥協の狭間に生きる
マザボは気張りました! GIGA-BYTE TECHNOLOGYのB760I AORUS PRO DDR4。最後ぐらいLGA1700にしたかったのよ
CPUは第14世代で行きたかったが、大人の都合でCore i3-13100。GPU内蔵というところが重要
CPUは第14世代で行きたかったが、大人の都合でCore i3-13100。GPU内蔵というところが重要
以前サンプルとしてゲットしたSFX電源ユニット。たまたま手元にあったという悲劇の主人公は何と850W。オーバースペック極まれり
一番日和ったと言うか妥協したのがこれ、メモリとSSD。再利用不可能ということでメモリは何と4GB×2、SSDは256GBという最終回とは思えない日和りっぷり
実は無線が役立っていたり
コア部分、PC部分はパパッと組んで完成。これで終われればいいんだけど、それじゃあ改造バカじゃないし。いや、これで終わりたいのよ、本当は
水冷ヘッドの配管取り回し。これが吉と出るか凶と出るか
LANケーブルを油の海から配線したくなかった(よく引っかけるんだ、ケーブル)ので、ネットワークはWi-Fi頼み。マザボ選びの重要なポイント
キーボードとマウスをUSBケーブルで接続したくなかったので、タッチパッド付きのワイヤレスキーボードを使用
パネルピンは油に没するので、ドライバーでショートというわけにはいかない。そのため本連載としてはめずらしくスイッチとLED付きに

やっぱり動くよ油谷さん!

 作成過程は写真を参照してほしいが、なるべく少ない量の油でPCパーツ部分を浸す工夫がペットボトルである。水を入れてしっかりフタをした500mlのペットボトルをマザボの裏、そして水槽のコーナーに入れた。少なくともマザボ裏のペットボトルは有効なので、500mlは油を節約できた。

まずはケースに入れてみる
まずは動作確認。陸で動かないものが、油の海で動くものかっ!(当たり前)……普通に動いています
まずは水槽に入れてみる。ん~目測だと十分なスペースあったのだけど、こうやって実際に入れてみるとゴチャつくなあ
そこで当初は液没させようと思っていたラジエータ+ファン部分を、水槽の縁に固定することに。残るマザボと電源ユニットは、なるべく高さが低くなるように、そして配線にムリがないように配置する
エコな感じ?でいきましょう
登場したのは改造バカ伝家の宝刀、ホットボンド。これを使って簡易水冷クーラーのラジエータを固定する
何としても油の量を減らしたかったので、マザボ裏と電源後ろのデッドスペースに水入りのペットボトルを入れる。実際、これでかなり注入する油の量を減らすことができた

 そして緊張の愛、もとい油注入である。改造バカ的にはもう何度もやった作業だが、液体をPCパーツの上に注ぐ行為に慣れることはない。脳が作業を拒否するのである。

いざ投入!油投入!!

 1本目、マザボの下部が浸るぐらい。次は2本まとめて注入、マザボも電源ユニットも半分ぐらいはキャノーラ油に浸った。ならばともう2本注入……ようやくマザボ、電源ユニットが油へ完全に没した。もちろんこの作業はPCパーツに通電したまま行なったが、OSが落ちるようなことはなかった。またベンチマークプログラムを走らせたり、再起動を何度か行なったり、はたまたスリープから復帰させてみたが、やはり問題は発生しなかった。

1本だとこれぐらいの水深、もとい油深。それより重要なのはPCが動作していることだ
さらに2本注入! マザボが半分ぐらいまで油につかったがしっかり動作している。この時点で勝利を確信したが「やったのか……(死亡フラグ)」とは絶対に言わない
計5本のキャノーラ油を注入! ゴジラの完全凍結を確認! じゃなかった、マザボも電源ユニットも水面下じゃなくて油面下だが、しっかり動作している。人類の勝利である!

 成功である。本連載最後の液没、油地獄、油谷PCは無事成功したのである。感無量と言うよりはホッとしたというのが正直なところ。キャノーラ油、油の中で光るLEDの何と美しいことか。これなら簡易水冷クーラーのラジエータ部分もファンと一緒に液没させ
てもよかった。

 しかしまあ、この油没PCもいずれは動作しなくなるはずである。理由はさまざまだが、たとえば不純物が油の中に溶け出してどこかがショートする。油はそこそこの溶剤でもあり、PCパーツ上のさまざまな部分が溶け出したり浸食されてしまう。その際に出た不純物がショートの原因となったりするわけだ。また油自体、空気に触れていると劣化して変質する。それが繊細なPCパーツにどう影響するか?

 単純に言ってしまえば「いつか動かなくなる」PCなのだ。

有終をヌルヌル飾る!液没PC油谷2024 ついに完成!

油地獄に光るLEDの何と美しいことか!つーかやっぱり液没は時空を超えたロマンだよね!
液没系PCは写真を撮るのが難しくて困る。プロならもうちょっと「液体に沈んでいる感」出せると思うんだけど……
簡易水冷クーラーもしっかり動作しております。やっぱりこれも沈めるべきだったかな……(ちなみに液没してもファンは回るが、回転数が液体の抵抗で遅くなります)

 完全に食用油に没したPCがちゃんと動いている(今のところは)。なにやってるんだかと自分でも思うが、考えてみれば本連載は
それを20年以上やってきたわけだ。そりゃ私も還暦を迎えるし、Ryzen Threadripperも96コアになるわな。

 あ、ちなみに改造バカはマシンをバラすまでがお仕事です。今回のネタはそこがやっかいで、バラシと言うか片付けの大部分を「油の処理」が占めているのだ。現時点、固めるなんとかとか油処理袋とか、そういった注文したものが到着するのを待っている。なのでしばらくはこの油没PCを維持するので、もし何かおもしろいことが起こったらSNSなどでご報告したい。

 最後になりましたが、本連載を長年に渡りご愛読いただいた読者のみなさま、そして本連載継続を支えていただいた編集諸氏、関係者のみなさま方に心よりお礼申し上げます。私一人では単なる頭のおかしいPCマニアでしたが、みなさんのおかげで「改造バカ一台」というコンテンツに仕上げることができました。ムームー、そしてニャーニャーも虹の橋でホッとしていることでしょう。

 ですがよく「あの改造バカが最後の一匹とは思えない」と言われるぐらいですから、またどこかで違った形でお目にかかれるかもしれません。2024年がみなさまにとってよい年となりますように。本当にありがとうございました。ではまたいつか。

[TEXT:高橋敏也]

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 今回は、2023年末に休刊したDOS/V POWER REPORT「2024年冬号」の記事をまるごと掲載しています。

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