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3メーカーに聞く、Haswell時代の電源選び
【玄人志向編】技術者「謎のサングラス男」に聞く、Haswell対応の根本とポイント

Text by 石川ひさよし

 自作PCの隠れた重要パーツといえるのが電源。

 CPUやSSDなどの華々しいパーツに隠れがちだが、PCを長期間安定動作させるには電源選びが大切だ。新たに発売されたHaswell環境でも、その性能を活かしきるには「対応電源」が必要という。

 こうした重要さの反面、電源選びのポイントはわかりにくい。変換効率を示す「80PLUS」のグレードや機能面の違いはあるが、似たようなスペック表が並んでいることも多い。しかし、スペック表に現れにくい設計やコンセプトで違いが出るのも「電源」の特徴。単に「安いだけ」で選んでしまうと、安定性に影響が出たり、「相性問題」に泣かされることになりがちだ。

 では、電源をどのように選んだら良いか?。今回、そのヒントを3つのメーカーに聞いてみた。各メーカーのポリシーやこだわりもお聞きしたので、電源選びの参考にしてほしい。

 80PLUSの高効率電源を豊富にラインナップしながらリーズナブル、というのが玄人志向の電源製品。

 実はその電源製品の開発担当は「謎のサングラス男」だった、というのは以前のインタビューでお伺いした。インタビュー風景だけ見るとほとんど冗談にしか見えないが、実際にお話をお伺いすると実に真面目な技術者であるサングラス男氏。今回も「Haswell対応」に関する技術的問題や電源のトレンドについて語っていただいた。

各社マザーボードとの組み合わせを日本国内で検証

DC-DCコンバータ搭載タイプのKRPW-G2-850W/90+
ACアダプタタイプのKRPW-AC120W

--玄人志向の電源につきましては2回目のインタビューになりますが、よろしくお願いします。まずはHaswell対応についてご説明いただけますか。

[サングラス男]Haswell対応で課題となるC6/C7ステートのZero Load対応については、実は早くより情報をキャッチしていました。

 弊社の製品でも、KRPW-G2-850W/90+やKRPW-AC120Wなどは当初よりZero Load対応をうたっておりますので、その他の製品を対象にテストしたのですが、名古屋オフィス内に電子負荷装置やオシロスコープ等の開発設備を所有していますので、検証自体は比較的スムーズに実施、結果も速やかに公表できたと考えています。

 また、海外での検証と違い、日本の100V電圧でテストしていますので、よりいっそうご安心いただけると思います。また、第2弾として公開した対応表は、ASUSTeK、GIGABYTE、ASRockという3大マザーボードメーカーの製品にて動作検証をした結果を公表しています。

 結果についてですが、まずDC-DCコンバータを搭載するモデルは問題ありません。DC-DCコンバータを採用していない製品も問題なく使用できることを確認しておりますが、後述する極端な使用例では注意が必要です(現実にはこのような使われ方はほとんどないと思いますが…)

クロスレギュレーション特性が「Haswell問題」のひとつ

クロスレギュレーション特性についてホワイトボードで解説を始めたサングラス男氏
上からDC-DCコンバータ回路、非DC-DCコンバータのトランス式、そして最下段がクロスレギュレーション特性を示した図。縦軸が+5Vや+3.3V、横軸が+12Vの出力量を示し、例えば+12Vがカットされた状態で+5Vの要求が高いような場合に出力範囲を超えてしまうという説明
120WのACアダプタ「KRPW-AC120W」はDC-DCコンバータを採用しているためZero Loadに対応。低消費電力PCで有効だ

--DC-DCコンバータ非搭載モデルにおける制限という点を詳しく教えていただけますか。

[サングラス男]テクニカルな話になりますが、DC-DCコンバータ非搭載電源では「クロスレギュレーション特性」というものがあります。PC用電源では、+12V/+5V/+3.3Vという3系統を出力しています。

 これらがバランスよく出力されるなら良いのですが、Haswellで求められるZero Loadでは、+12Vが極低負荷な状態になり、その一方で+5Vや+3.3Vが通常通り(USBやSSDなどで)利用される状況になります。最近は(12Vを使う)HDDを利用しない場合もありますし、(+5Vを使う)USB充電の需要も増えていますので、これらのバランスは以前より崩れやすくなっています。クロスレギュレーション特性が問題となるのは、こうした「+12Vが極低負荷でありつつ同時に+5Vや+3.3Vに要求がある」といったような状況です。

 これまでの電源では+12Vが高出力志向だったため、そちらの出力範囲が広がった一方、+5Vや+3.3Vは置いてきぼりとなっていました。そのため、グラフにすると台形のような形になります。もちろん実際にはかなりギリギリのところまで動作するよう開発されているのですが、DC-DCコンバータを利用していない電力効率の劣る製品ではよりシビアになるのです。こうした点は、昔からあった話ですが、Haswellによって再度クローズアップされているのです。

 ただ、DC-DCコンバータを搭載していないモデルでも、回路設計の良いもの、例えばKRPW-P2-650W/85+では、低出力時でも安定して動作することを確認しています。

--なるほど。では、ビデオカードを搭載したPCのように、アイドル時でも+12Vをそこそこ利用する構成であれば、こうした問題は回避できるのですか?

[サングラス男]そのとおりです。iGPUを利用する低消費電力なPCで、かつUSB充電機能を利用したり、SSD(+5V)をたくさん搭載するといった用途で問題となるわけです。

--ACアダプタのKRPW-AC120Wが大丈夫な理由はなぜでしょう。

[サングラス男]ACアダプタはそもそもDC-DCコンバータで構成されているため、全く問題ありません。

80PLUSはGoldとBronzeの2極化が進む?

玄人志向の電源ラインナップも、80PLUS PlatinumとGold、そしてBronzeに2極化が進んでいる

--現在の電源のトレンドについて、玄人志向ではどのように見ていますか。

[サングラス男]ここ数年競われてきた80PLUSですが、ちょうど2年前、80PLUS Gold製品が登場してからは、あまり進展は少なく、80PLUS Platinamも、主に部品の性能向上が中心で、技術的に大きくは変わらないものとなってきています。

そのようななかでトレンドとなるのは、低消費電力技術ですし、、Haswell以前から着実に進化してきています。これからはZero Load対応などスタンバイ電源の効率アップも注目されると思います。

--全体的に見ても80PLUS Silverという製品が減って来ました。80PLUSの構成比率はどのようになるとお考えでしょうか。

[サングラス男]製品構成は80PLUS GoldとBronzeの2本が中心になると思います。80PLUS Silverは現在1モデルのみですが、これは、80PLUS Silverの変換効率が、「DC-DCコンバータを搭載するかどうか」の境目になっているためです。Silverの製品を作ろうとすると、DC-DCコンバータを搭載しない80PLUS Bronzeモデルの効率を上げるか、DC-DCコンバータを搭載する80PLUS Goldの製品を廉価にするか、ということになりますが、それだったらGoldとBronzeで、ということです。

 実際、80PLUSの競争のなかで電源メーカー各社の経験値も上がってきており、80PLUS Goldレベルなら確実に出せるようになってきています。

--80PLUS以外に現在注目しているスペックというのはありますか。

例えばErP Lot 6 2013でしょうか。ErP Lot 6 2010と比べ、電源OFF時の待機電力をさらに半分に抑えるという規格になります。

600Wの大容量ファンレス電源が登場予定

【開発中の600Wファンレス電源】
ヒートシンクはとくに裏面が面積拡大のために部品の形状に合わせて作りこまれている。なお、実際の製品では外観が変わり、セミプラグインタイプになるとのこと。

--現在、売れている電源とはどのような製品でしょうか。また、玄人志向の製品戦略について教えてください。

[サングラス男]最近は350Wクラスの低容量かつ高効率な製品が省電力PC向けに人気です。

 80PLUS Gold/Platinum市場も急成長していますので、現在550W/850Wで展開しているKRPW-G2シリーズをリニューアルし、550W/650Wモデルを投入する予定です。

 また、80PLUS Platinumでは、現在600Wのファンレスモデルを開発しています。80PLUS Platinumという高効率によって発熱を抑えることができ、合わせて巨大なヒートシンクや温度耐性の高い部品を組み合わせることで、ファンレスであっても耐久性、信頼性の高い電源を作ることができました。電源自身の冷却性能は極めて高く設計されています。

 ファンレス電源は温度によって出力を制限するものもありますが、本製品ではそうした制限を設けていません。「ファンレスでも容量に妥協しない」という方にご利用いただきたい製品ですね。

 ケースによっては電源ファンを利用する前提で設計されているものもありますので、完全ファンレスを構成するには他のパーツも合わせて検討いただきたいですね。ただし、マザーボードと電源でエリアを分けているようなケースなどでは有効だと思います。

省電力化は今後も進む10%前後でも高効率に?

--電源の今後について、注目している点はありますか。

[サングラス男]今後は10%前後の低負荷状態での変換効率が高い製品がフォーカスされると思います。

低負荷時に高効率を実現するというのは非常に難しいものです。そもそも電源自体の動作にも5W程度の電力が必要ですから、これをさらに抑えるような電源自体の低消費電力化が必要だと考えられます。電源は「変換機」ですから効率が100%になることはあり得ません。ただ、効率を高める努力は今後も続くものと考えています。

--電源の買い替えの目安という点で、玄人志向ではどのようにお考えでしょうか。

 買い替えの目安は、やはりHaswellで自作したいというのがポイントになると思います。とくに80PLUSスタンダードの頃から比べると、技術的な進歩も多いです。こうした点からすると、およそ2~3年使用されたあたりでご検討いただけるとよいかと思います。

石川 ひさよし

玄人志向 電源