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ファンレス&長寿命、ASUSのGeForce GT 730ビデオカードをテスト

~あなたの知らない(?)ローエンドビデオカードの世界~ text by 瀬文茶

 メインストリーム向けプラットフォームでは、「CPUにGPUコアを統合する」という設計が主流になって久しい。この結果、「単に画面を出力したいだけ」でビデオカードを用意する必要性は薄くなりつつある。

 そのあおりをまともに受けているのが、1万円未満のエントリー向けビデオカードだ。

 LGA2011-v3のように、GPUを統合していないCPUしか存在しないプラットフォームや、CPU統合GPUがメインメモリをビデオメモリとして占有することを嫌う用途、あるいは旧型PCのアップグレード用など、まだまだ細かい用途が残っているが、これらの製品が注目を集める機会は少なくなった。

 そんな折、NVIDIAのエントリー向けGPU「GeForce GT 730」を搭載した、ASUSこだわりのビデオカード「GT730-SL-2GD3-BRK」(メモリ2GB/発売中)と「GT730-SL-1GD3-BRK」(メモリ1GB/11月上旬発売予定)を借用する機会が得られた。

 ファンレス設計や、高品質な電源回路「Super Alloy Power」の採用で長寿命を実現したというこれら製品だが、今回はこの2製品を通して、ちゃんとしたレビューの少なくなったエントリー向けビデオカードの「今」を紹介していきたい。

DDR3メモリ版GeForce GT 730を搭載Keplerアーキテクチャを採用

 ASUSの「GT730-SL-2GD3-BRK」と「GT730-SL-1GD3-BRK」は、NVIDIA GeForce GT 730を搭載したエントリークラスのビデオカードだ。

 GeForce GT 730には、96基のCUDAコアと128bitのメモリインターフェースを備えたGPUコアと、384基のCUDAコアと64bitのメモリインターフェースを備えたGPUコアが存在し、384基のCUDAコアを持つGeForce GT 730には、DDR3メモリ版とGDDR5メモリ版が存在する。

 今回レビューするASUSの2製品は、384基のCUDAコアを備えたDDR3メモリ版のGeForce GT 730を採用している。

GeForce GT 730の仕様。今回使用しているのはKeplerコアのDDR3(64bit接続)モデル。

 「GT730-SL-2GD3-BRK」と「GT730-SL-1GD3-BRK」は基本的な設計を共有しており、ファンレス仕様のGPUクーラーを備え、ロープロファイルに対応している。両製品の違いはビデオメモリの仕様にあり、GT730-SL-2GD3-BRKは1.8GHz動作の2GB DDR3メモリ、GT730-SL-1GD3-BRKは1.6GHz動作の1GB DDR3メモリを備える。

 画面出力ポートはHDMI、D-Sub、DVI-Dを各1系統ずつ備え、補助電源コネクタからの電源供給無しで動作する。カードの接続バスはPCI Express 2.0 x8。

GT730-SL-2GD3-BRK(発売中)
2GBメモリ版のGT730-SL-2GD3-BRK。
GT730-SL-2GD3-BRK、GPUクーラー取り外し時。
GT730-SL-2GD3-BRKの搭載メモリ。
GT730-SL-1GD3-BRK(11月上旬発売予定)
1GBメモリ版のGT730-SL-1GD3-BRK。
GT730-SL-1GD3-BRK、GPUクーラー取り外し時。
GT730-SL-1GD3-BRKの搭載メモリ。
カードの接続バスはPCI Express x8。PCI Express 2.0に対応している。
ブラケット部の画面出力ポート。
ロープロファイル用ブラケット。ロープファイルブラケットを使用する場合、D-subを利用するには2スロットの拡張スロットが必要となる。

 GT730-SL-2GD3-BRK、GT730-SL-1GD3-BRKが備えるファンレスGPUクーラーは、2スロットを占有するアルミニウム製の大型ヒートシンクだ。表面はめっき処理によりガンメタルにカラーリングされている。

 ロープロファイル設計を採用したASUSオリジナル設計の基板は、ASUS独自の電源設計「Super Alloy Power」に準拠しており、GT 730のリファレンス仕様に対し、2.5倍の寿命を持つコンデンサ「Super Alloy Capacitor」と、対応電圧を30%向上させたMOSFET「Super Alloy MOS」を備える。

 動作音の発生源となるファンを排したファンレスクーラーの採用で静粛性を高めると同時に、耐久性に優れ高品位なパーツを用いることで、エントリー向け製品でありながら信頼性を確保している。

2スロットを占有する大型GPUクーラー。電源回路やメモリとは接触しておらず、GPUの冷却のみを行う。
Super Alloy Power準拠の電源回路。
APAQ製の固体コンデンサを採用。
基板裏面。GPUクーラー用のスプリングネジが3mm弱の高さがある。

小型ケースに装着して検証パフォーマンスとGPU温度は?

 エントリークラスのビデオカードが持つパフォーマンスをチェックするべく、Intel Pentium G3258ベースのシステムに搭載し、ベンチマークテストでGPU温度とパフォーマンス、消費電力の測定を行った。

 なお、今回の検証ではCooler Master製のスリムデスクトップ型PCケース「Mini 210(型番:MIN-210-KKR300-JP)」に収めて行っている。

テストは、Cooler Master Mini210(MIN-210-KKR300-JP)に収めて実行した。テストは筐体のカバーを閉じた状態で行っている。
3DMark - Sky Diver
FINALFANTASY XIV 新生エオルゼア ベンチマーク キャラクター編

 3DMark - Sky Diverでは、GT730-SL-2GD3-BRKが3,814、GT730-SL-1GD3-BRKが3,580をそれぞれ記録。ビデオメモリの動作クロックが高いこともあってか、2GBメモリ版がやや優位な傾向にあるようで、ファイナルファンタジーXIVベンチマークでも、GT730-SL-2GD3-BRKが1GBメモリ版のGT730-SL-1GD3-BRKにはっきりと差をつけている。

 Intel Pentium G3258が備えるGPUコア「Intel HD Graphics」に対しては、GeForce GT 730が1.7~2倍ほどの大差をつけており、エントリークラスのGPUとは言え、このクラスのCPU統合GPUコアとは別格と言える性能を持っていることが分かる。

GT730-SL-2GD3-BRKはファイナルファンタジーXIVベンチマークで、1280×720ドット@標準品質で「とても快適」、1920×1080ドット@標準品質で「やや快適」と評価されている。

 ちなみに、ファイナルファンタジーXIVベンチマークの1920×1080ドットでのテストにおいて、GT730-SL-2GD3-BRKが記録したスコアは「やや快適」との評価を得ている。描画品質と画面解像度を妥協すれば、MMO RPGをプレイできる程度の3D描画性能は持っていると考えてよいだろう。

消費電力の比較

 消費電力については、流石にCPU統合GPU利用時が最も低いが、負荷時の電力差も12~13W程度であり、ベンチマークテストでのパフォーマンスを考えれば、消費電力当りの性能は圧倒的にGeForce GT 730が優位であると言える。

FINALFANTASY XIV ベンチマーク実行時のGPU温度

 ファイナルファンタジーXIVベンチマーク実行中の最高GPU温度を測定した結果、GT730-SL-2GD3-BRKが68℃、GT730-SL-1GD3-BRKは63℃だった。NVIDIAによれば、GeForce GT 730の最大温度は98℃とされており、GT730-SL-2GD3-BRKとGT730-SL-1GD3-BRKが備えるファンレスGPUクーラーは、かなり余裕をもった温度でGeForce GT 730を動作させることができている。エアフローに優れているとは言い難いスリムデスクトップケースでこの結果なら、よほど熱が籠るケースで使うようなことがない限り、GPUの動作温度を心配する必要はなさそうだ。

【テスト環境】
 CPU IntelPentium G3258
 マザーボード ASUSH97M-PLUS
 メモリ DDR3-1333 8GB×2
 ケース Cooler MasterMini210(MIN-210-KKR300-JP)
 電源 ケース付属300W電源
 OS 日本マイクロソフトWindows 8.1 Pro Update(64bit)
 ドライバ NVIDIAGeForce 344.11 driver
 GPU温度測定 GPU-Z 0.7.9(室温27℃)
 消費電力測定 サンワサプライワットチェッカー(TAP-TST5)


フルHD以上の高解像度もOKCPU内蔵GPUの併用で4画面以上にも対応

デジタル出力(DVI-D/HDMI)を2560×1440ドットのディスプレイ、アナログ出力(D-Sub)で1920×1080ドットのディスプレイにそれぞれ接続。この構成で、トリプルディスプレイを構築できた。
HDMIポートで4Kディスプレイに接続した場合。30Hzでの出力となってしまうが、3840×2160ドットで出力できている。

 単体GPUらしく、Pentium G3258が備えるGPUコアを圧倒して見せたGeForce GT 730だが、優位なの3D描画性能に留まらない。動画再生支援機能「PureVideo HD」や、ティアリングの発生を抑制する「Adaptive V-Sync」など、Keplerアーキテクチャ採用GPUならではの特徴もGeForce GT 730の魅力だが、筆者がポイントとして挙げたいのは、高解像度ディスプレイに対応可能な点だ。

 今回、ベンチマークテストで比較したIntel Pentium G3258の場合、マザーボード側が備えるDVI-D、D-Sub、HDMIのいずれのポートでも、1,920×1,200ドット以上の画面出力はできなかった。

 これに対し、ASUSが公開しているGT730-SL-2GD3-BRKとGT730-SL-1GD3-BRKのスペックによると、デジタル出力(DVI-D/HDMI)で最大2,560×1,600ドット、アナログ出力(D-Sub)で2,048×1536ドットが可能とされており、3系統すべての出力ポートを同時に利用できる。また、筆者が行ったテストでは、HDMIポートは3,840×2,160ドット@30Hzの4k解像度にも対応していた。

 1,920×1,080ドットを超える解像度となると、GeForce GT 730にゲームを快適にプレイできる程のパフォーマンスを期待することは出来ないが、画面を表示出来ることと出来ないことの差は大きい。3D描画性能を期待しない用途であれば、高解像度ディスプレイとの組み合わせでも活用できるだろう。

 また、CPU統合GPUコアが利用可能な環境では、CPU側のGPUとGeForce GT 730を併用することで、4画面以上の同時出力を行うこともできる。3D性能はともかく、複数のディスプレイを接続したいというのであれば、この方法でマルチディスプレイを構築するのが安上がりだ。

CPU側のGPUコアとビデオカードを併用するには、まずはUEFI上でGPUコアを有効にする必要がある。
ASUS H97M-PLUSでは、GPUコア有効後に表示されたメニューで、CPU Graphics Multi-MonitorをEnabledに設定すると、ビデオカードとの併用が可能となる。
UEFIでCPU側のGPUコアを利用できるよう設定すると、Windows上でCPU統合GPUコアが認識されるようになる。


ファンレスでも安心して使えるクオリティのエントリー向けビデオカード

 エントリー向けビデオカードは、コストを抑えるために搭載部品のクオリティを落としている製品も少なくないが、今回試用したASUS製のGeForce GT 730搭載ビデオカードは、GPUを十分に冷やしきれるファンレスヒートシンク
と、独自設計「Super Alloy Power」の採用により、耐久性と静粛性の両面で信頼できる製品に仕上がっている。

 GPUクーラーが大きいため、利用するには拡張スロット2本分のスペースが必要な点に注意が必要だが、ストレス無く使えるエントリー向けビデオカードを求めるなら、今回の2製品は、安心して選べる製品と言える。それぞれの実売価格は税込8,000円前後と、エントリー向けでは少々高めだが、耐久性を含む品質を考慮するなら初期投資が無駄になることは無いだろう。

瀬文茶