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DRAMレスSSDをPS5/PS5 Proの増設に使っても問題ない?DRAMキャッシュあり/なしモデルで検証してみた

Samsung 990 EVO Plusと990 PROで徹底比較 text by 坂本はじめ

Samsungの990 EVO Plus(左)と990 PRO(右)

 Samsungの最新SSD「990 EVO Plus」は、DRAMキャッシュ非搭載のHMB(Host Memory Buffer)対応SSDでありながら、最大でリード7,250MB/s、ライト6,300MB/sという高速性を備えたM.2型NVMe SSDだ。

 HMBの利用により、Windows PCでは高いパフォーマンスが得られる990 EVO Plusだが、HMB非対応のゲーム機であるPS5/PS5 Proで使うとどうなるだろうか。DRAMキャッシュを搭載するSamsung製SSDのフラグシップモデル「990 PRO」との比較を通して、ゲーム機に搭載した990 EVO Plusの性能を確かめてみよう。

DRAMキャッシュレスでも高性能な990 EVO Plus

 ゲーム機での検証を行う前に、まずはSamsung 990 EVO Plusのスペックを確認しておこう。

 990 EVO Plusは、Samsungが自社で開発・製造したNANDフラッシュメモリ(V-NAND TLC)とSSDコントローラを搭載したM.2型NVMe SSD。対応バスインターフェイスはPCIe 5.0 x2またはPCIe 4.0 x4で、最大速度はリード7,250MB/s、ライト6,300MB/sに達する。

 容量ラインナップは1TB、2TB、4TBの3モデルで、いずれもDRAMキャッシュ非搭載でHMBに対応している。なお、今回のテストに用いるのは最大容量である4TBモデル(MZ-V9S4T0B-IT)だ。

Samsung 990 EVO Plus。DRAMキャッシュ非搭載のHMB対応SSDで、フォームファクターはM.2 2280
片面実装であるため裏面に部品は実装されておらず、熱を拡散するヒートスプレッダラベルが貼り付けられている
CrystalDiskMarkの実行結果。DRAMキャッシュレスながらシーケンシャル/ランダムともに高速だ

 990 EVO Plusと比較するために用意した「990 PRO」は、DRAMキャッシュを搭載するSamsung製SSDのフラグシップモデルで、Samsung自社製のNANDフラッシュメモリとSSDコントローラを搭載し、バスインターフェイスにはPCIe 4.0 x4を採用する。

 今回テストに用いるのは最大容量の4TBモデル(MZ-V9P4T0B-IT)で、スペック上の最大速度はリード7,450MB/s、ライト6,900MB/sに達しており、990 EVO Plusを上回る速度を実現している。

Samsung 990 PRO。DRAMキャッシュを搭載するPCIe 4.0 x4対応のハイエンドSSDだ
990 EVO Plus同様の片面実装を採用しており、裏面にはヒートスプレッダラベルが貼り付けられている
CrystalDiskMarkの実行結果。4TBモデル同士の実測値でも、990 EVO Plusを上回る速度を発揮した

PS5とPS5 Proの2機種を用意して増設SSDの性能をテストSSD用ヒートシンクには大型のカバー兼用タイプを用意

 今回、990 EVO Plusと990 PROを搭載してテストするPlayStation 5(PS5)は、本体サイズを小型化したリニューアル版PS5(CFI-2000A01)と、上位機種として先日発売されたPS5 Pro(CFI-7000B01)の2機種。

 いずれも、縦置き時に本体右側面上部に位置するカバーを取り外すことで、M.2スロットにアクセスできる仕様となっている。

上位機種のPS5 Pro(CFI-7000B01)とリニューアル版PS5(CFI-2000A01)
縦置き時に本体右側面上部に位置するカバーを取り外すと、M.2スロットにアクセスできる

 M.2スロットに増設可能なSSDのスペックは初期型PS5と同様で、増設に用いるSSDの性能はシーケンシャルリード=5,500MB/s以上であることが推奨されている。

 PS5およびPS5 ProはシステムメモリをSSD用キャッシュとして活用するHMBに非対応。そのためソニーは、HMB対応SSDでは期待される性能より処理速度が低下する場合があるとしている(サポートページの最下部参照のこと)。

 この部分が、HMB対応SSDとして販売されている990 EVO PlusをPS5/PS5 Proで使う際の懸念になる。SSDの基本性能が高ければ問題なく使えてしまうのか、HMB利用前提のSSDは使用しない方がよいのか、どのような挙動になるのかを確認するのが今回のレビューの主旨だ。

 また、ソニーはPS5/PS5 Proの増設用NVMe SSDには放熱構造が必要とされている。990 EVO Plusと990 PROは放熱用ヒートスプレッダラベルを装備しているが、ヒートシンクレス構造のSSDなので、今回はM.2スロットカバー兼用のヒートシンクを用意した。

 なお、M.2スロット周辺の形状は、初期型PS5、リニューアル版PS5、PS5 Proのいずれも異なるため、カバー兼用ヒートシンクは対応機種が限定されている場合がある。今回用意したヒートシンクもリニューアル版PS5とPS5 Proで使用可能だが、初期型PS5とは互換性がなく、PS5 Pro利用時はヒートシンクの一部を切除する必要があった。カバー兼用ヒートシンクを利用する場合は、対応機種の確認を忘れないようにしよう。

M.2スロットカバーを兼ねるSSD用ヒートシンクを使用する
PS5 Proに取り付けた状態。カバー兼用ヒートシンクはSSDの熱をスロット外へ直接放熱できる
M.2スロット周辺の構造はPS5の機種ごとに異なるため、選ぶ際は対応機種を確認しよう
今回使用したヒートシンクは新型PS5とPS5 Proに両対応とされているモデルだが、PS5 Pro取り付け時はヒートシンクの一部を切除する必要があった

●カバー兼用ヒートシンクの取り付け方

 今回使用したカバー兼用ヒートシンクの取り付け手順は以下の通りだ。一部の作業についてメーカー標準の手順を作業性重視でアレンジしているので、実際に取り付けを行う際にはヒートシンクの取り扱い説明書を確認してほしい。

 なお、サーマルグリスの塗布については、ヒートシンクの取り扱い説明書ではオプション対応とされている。サーマルグリスの塗布によってヒートシンクの性能をより引き出せる一方で、塗りすぎると周囲にあふれてしまう。加減がわからなければ省略しても良いだろう。

1 本体上部の外装カバーを外すとM.2スロットにアクセスできる
2 M.2スロットのカバーを取り外し、スロット内部のSSD固定ネジとスペーサー、冷却ファンのネジ(2ヵ所)を外す
3 M.2スロットのネジ穴に合わせて熱伝導プレートを設置する
4 熱伝導プレートにサーマルグリスを塗布する
5 裏面用ヒートシンクを設置してネジ止めし、ヒートシンク付属のSSD固定用スペーサーを設置する
6 裏面用ヒートシンクに熱伝導シート(1.6mm厚)を貼り付ける
7 SSDをM.2スロットに取り付け、ヒートシンク付属のSSD固定用ネジでスロットに固定する
8 SSDに熱伝導シート(1.0mm厚)を貼り付ける
9 メインのヒートシンクにピンク色の熱伝導シートを貼り付ける
10 メインヒートシンクをSSDに載せ、付属のワッシャーを取り付けたネジで固定する
11 熱伝導プレートにサーマルグリスを塗布する
12 サブヒートシンクを熱伝導プレートに載せ、冷却ファンのネジで固定する

PS5/PS5 Proに搭載した990 EVO PlusのパフォーマンスをチェックDRAMレスSSDでも高い性能を発揮、ゲーム性能は上位SSDに近い結果に

 それでは、実際にPS5/PS5 Proに搭載した990 EVO Plusのパフォーマンスを確認していこう。今回はSSD増設時に行われるPS5本体側のベンチマークと、サイバーパンク2077とホグワーツ・レガシーの2本のゲームを用意してテストを行った。

PS5の自動実行ベンチマークで速度を確認

 まずは、PS5に取り付けたM.2 SSDのフォーマット実行後に自動で実行される「読み込み速度」の計測結果だ。

 990 EVO Plusは、PS5 Proで「6,024MB/s」、PS5で「6,389MB/s」を記録。それぞれ6,756MB/sと6,668MB/sを記録した990 PROの方が高速ではあるが、PS5の推奨性能である5,500MB/sをしっかり上回っており、PS5用増設SSDとして十分な性能を発揮することが期待できる結果が得られた。

PS5ではM.2 SSDのフォーマット完了後、自動で読み込み速度の計測が実行される
M.2 SSDフォーマット後の「読み込み速度」計測結果

サイバーパンク2077とホグワーツ・レガシーでゲーム中のロード時間を計測

 実際のゲームで990 EVO Plusが期待通りの性能を発揮できるのかを確かめるべく、インストールしたゲームのロード時間を測定し、990 PROおよびPS5/PS5 Proが標準搭載する本体SSDと比較する。

 テストでは、PS5タイトルの中でもインストール容量が大きく、ある程度ロード時間が生じるゲームである「サイバーパンク2077」と「ホグワーツ・レガシー」を使用し、セーブデータ選択からゲーム再開までのロード時間を測定した。

 サイバーパンク2077での990 EVO Plusは、PS5 Proで「8.73秒」、PS5で「9.20秒」を記録。いずれも990 PROやPS5/PS5 Pro本体SSDと同程度と言えるロード時間であり、990 EVO Plusは増設用SSDとして問題のないパフォーマンスを発揮している。

サイバーパンク2077のテスト結果

 ホグワーツ・レガシーでの990 EVO Plusは、PS5 Proで「5.77秒」、PS5で「6.10秒」を記録した。

 990 EVO Plusは、数字としては比較したSSDの中では時間を要したが、実際には990 PROやPS5/PS5 Pro本体SSDと体感できるレベルの差はなく、サイバーパンク2077同様に同程度のパフォーマンスを発揮していると言って差し支えないだろう。

ホグワーツ・レガシーのテスト結果

本体SSD - 増設SSD間のゲームデータ転送時間を確認

 PS5/PS5 Proに増設したM.2 SSDは、もともと搭載されている本体SSDとの間でインストール済みのゲームデータを自由に移動することができる。

 そこで今回は、M.2 SSDと本体SSDの間でゲームデータを移動した際の転送時間やデータ転送速度を計測し、990 EVO Plusと990 PROの性能差を比較してみた。なお、移動するゲームはロード時間の比較に用いたサイバーパンク2077とホグワーツ・レガシーで、両ゲーム合計のデータサイズは「144.3GB」だ。

M.2 SSDとPS5/PS5 Pro本体SSDの間でゲームを移動させ、転送時間とデータ転送速度を計測する
転送時間
データ転送速度

 本体SSDからM.2 SSDにゲームを移動する場合の990 EVO Plusは、PS5 Proで約57秒(2,539MB/s)、PS5では約55秒(2,617MB/s)という短時間で、144.3GBのゲームを移動することができた。これは990 PROより1~2秒ほど遅いものの大差はなく、十分に速度が出ていると言えるものだ。

 一方、M.2 SSDから本体SSDにゲームを移動する場合、990 EVO Plusと990 PROの転送時間はPS5 Proで6分43秒(358MB/s)、PS5でも6分45秒(356MB/s)で完全な横並びとなっている。これは、PS5/PS5 Pro本体SSDの書き込み性能がボトルネックとなったことによる結果だ。

サーモグラフィでヒートシンクの表面温度を確認してみた

 最後に、990 EVO Plusと990 PROを搭載した際のカバー兼用ヒートシンクの表面温度をサーモグラフィで観察してみた。

 撮影時の室温は約24℃で、電源投入後10分間放置して撮影したものを「アイドル時」、本体カバーを取り付け、本体SSDからM.2 SSDへのゲーム移動、各ゲームのロード時間計測、M.2 SSDから本体SSDへのゲーム移動の順で作業を行い、最後のゲーム移動完了直前に本体カバーを外して撮影したものを「テスト実行後」としている。

990 EVO Plus + PS5 Pro
アイドル時 (990 EVO Plus + PS5 Pro)
テスト実行後 (990 EVO Plus + PS5 Pro)
990 PRO + PS5 Pro
アイドル時 (990 PRO + PS5 Pro)
テスト実行後 (990 PRO + PS5 Pro)
990 EVO Plus + PS5
アイドル時 (990 EVO Plus + PS5)
テスト実行後 (990 EVO Plus + PS5)
990 PRO + PS5
アイドル時 (990 PRO + PS5)
テスト実行後 (990 PRO + PS5)

 テスト実行後のヒートシンク表面温度は、990 EVO Plusが40℃前後、990 PROが45℃弱となっており、990 EVO Plusの方がやや低発熱である様子がうかがえるとともに、いずれのSSDも動作に問題が生じるような高温にはなっていないことが分かる。

 また、PS5/PS5 Pro向けのカバー兼用ヒートシンクは、表面積や体積を大きく取れる分だけ冷却性能も高いようだ。990 EVO Plusや990 PROにはやや過剰装備な感もあるが、PS5/PS5 Proに搭載したM.2 SSDを確実に冷やしたいのであれば検討する価値はありそうだ。

DRAMキャッシュレスでもPS5/PS5 Proで性能をしっかり発揮する990 EVO Plus

 Samsungの990 EVO PlusはDRAMキャッシュ非搭載のHMB対応NVMe SSDだが、HMBが使えないPS5やPS5 Proに搭載した場合でも高い性能を発揮することが可能で、DRAMキャッシュを搭載する990 PROや、PS5/PS5 Pro本体SSDと同程度のパフォーマンスを得ることができた。

 990 EVO Plusの性能を最大限に引き出すには、HMBに対応したシステムで運用する必要があることは確かだが、PS5増設用SSDとしても十分な性能を発揮しているのは魅力。用途を選ばず使えるSSDを求めているなら、990 EVO Plusは候補に加えておきたいSSDのひとつだ。