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ベンチマーク番長ではない!実測で50GB/sのファイル転送を目指すSamsungの高速ストレージへのこだわり
FastCopyの白水啓章氏にInter BEE 2025会場でインタビュー text by 日沼諭史
- 提供:
- Samsung
2025年12月5日 00:00
Inter BEE 2025のSamsung SSDブースでは、今年も世界最速級ストレージを搭載したワークステーションのデモが行われていた。
今年はベンチマークだけでなく、その速度が“実際に使い物になる”というところにこだわったデモが行われており、実測で40GB/s超えでのファイル転送や、8K RAW動画編集がコマ落ちなしで行えるデモなどを実施。
ファイルの転送は、Windowsのエクスプローラーではどれだけ高性能なストレージを使用しても数GB/sの転送速度で頭打ちになってしまうが、高速ファイルコピーツールの「FastCopy」を使用すれば、ストレージのフル性能に近いところまで性能を引き出して使用できる。特にハイエンド環境では50GB/sを超える読み書き速度を達成している、というのは以前本誌でお伝えしたとおりだ。
Samsungはベンチマークだけでなく、実際のストレージの速度が活用できる環境づくりにも注力しており、ハイエンド環境でのSSDの動作テストや、開発者への協力なども行っている。FastCopyに関しては、開発を行っている白水啓章(しろうず ひろあき)氏に、Samsungや代理店のITGマーケティング、アスクが協力し、ハードウェアの性能を引き出すための取り組みが以前から続けられている。
協業のきっかけは2024年11月、音・映像・通信の技術展示会である「Inter BEE 2024」でFastCopyがたまたまデモに使用されていたのがきっかけだった。それからちょうど1年、「Inter BEE 2025」が2025年11月19~21日の日程で開催され、そのSamsung SSDブースには白水氏の姿が。FastCopyによる高速ファイル転送のデモ環境を展示しており、現地での性能チューニングに協力するため訪問していたのだ。
そんな白水氏に、この1年でFastCopyにどんな進捗があったのか、今後リリースされる新バージョンではどんな変化が期待できそうなのか、Inter BEEの会場で話をうかがった。
FastCopyの新バージョンのリリースは来春が目標RAID環境だけでなく、単体のPCIe 5.0対応SSDの性能も大幅に引き出せるように
FastCopyのデモ環境は、96コアのAMD Ryzen Threadripper PRO 7995WX搭載マシンにHighPoint製RAIDカードを2基装着し、そこにPCIe 5.0のNVMe SSD「Samsung 9100 PRO 8TB」を4枚と「Samsung 990 PRO 4TB」を8枚、贅沢に載せたLenovo ThinkStation P8。
今回のデモ環境では直前にマシンの内部構成が一部変更になったこともあり、取材時のタイミングでは代理店アスクのスタッフがPCの最終的なチューニングを実行中。また、PCの構成が変更されたことによるソフト側の調整も行われている最中で、「FastCopyのパラメーター設定など、チューニング作業はこれから」という状況だった。
そうした調整中の状況にもかかわらず、データ転送速度は44GB/sとかなり高速な性能が引き出されており、この時点でエクスプローラーには到底達成できない速度に到達。最終的にチューニングが完了すれば「50GB/sは問題なく超えてくるはず」とのことだった。
これまでの1年間の協業について白水氏は、「Samsungさんと一緒に、SSD本来の性能を限界まで引き出そう、というシンプルな目的で、ある意味研究開発をしてきた」と振り返る。最初の頃はせいぜい27GB/s程度だったが、RAID環境ではまだ改善の余地があると気づき「1~3月は特に集中的に高速化に取り組んで、50GB/sを超えることができた」のだそう。
そこからは主にマイナーバージョンアップで処理の改善や不具合修正などを積み重ね、最新は「ver6.0.0Alpha15」。少なくとも15回の内部的なアップデートを繰り返してきたことになる。「早くベータ版にして、リリースまでもっていきたい」とも話すが、「ver6.0.0」正式版の公開スケジュールはまだ目処が立っておらず、「今年度中には間に合わせたい」とのことだった。
とはいえその正式版では、RAID環境のハイエンドマシンだけでなく、一般的な単体SSDのPCでも高速化の恩恵を受けられる改善が盛り込まれるようだ。「新バージョンでは、最初に管理者権限でFastCopyをインストールしてもらえれば、
以降は一般権限での実行でも最大限の性能を出せるようになる」という。
この改善によって「今は5~6GB/s程度の環境でも、たとえばPCIe 5.0の高速SSDなら13~14GB/sなどデバイスの限界まで性能を出せる。単体SSDのPC環境でも如実に効果がある」とのこと。多くのユーザーがFastCopyを使ったバックアップなどで明らかな高速化を実感できそうだ。
一方でRAIDのようなハイエンド環境においては、現在のAlpha版で実現しているとおり「リード・ライト処理の積極的なマルチスレッド化で、50GB/sを超える転送速度を達成できる」のが大きいだろう。しかも、それと合わせてベリファイ機能使用時の高速化にも取り組んでいるとのことだ。
ベリファイ機能は信頼性の高いファイル転送を行うためのもので、「FastCopyユーザーの大多数が使用している」という。ただし、この機能を使うとハッシュ計算に負荷がかかるため、高速なストレージでも転送速度は10GB/sあまりにまで落ち込んでしまう。それに対し新バージョンでは、「ハッシュ計算をリード・ライト処理と同様に並列処理することで、50GB/s程度まで引き上げられる」という劇的な性能アップが見込めるようだ。
さまざまな処理の工夫によってSSDのハードウェア性能を100%発揮できるようにしているFastCopyだが、現状、ソフトウェア側では対処しようのない「メーカー側に頑張ってほしい点」もあるという。それは「熱による速度低下対策」だ。
「Samsung製SSDは他メーカーに比べてサーマルスロットリングが発生しにくく、ライト性能を安定して出しやすい」とのこと。白水氏によると、HDDの場合、記録する位置が円盤の外周か内周によって速度が大幅に低下したが、その速度差は概ね半分程度に収まっているという。しかし、SSDのサーマルスロットリングだと「ギャップはより大きく、製品によっては10分の1以下まで低下することもある」のだとか。
短時間で終わるベンチマークでは高い数値が出ていても、長時間にわたってファイル転送する実用シーンでそれを維持できないとなれば、「ベンチマーク番長」にもなりかねない。「チップの発熱抑制や冷却設計の工夫でもっとコンスタントに性能を発揮できるようになれば、全体的な実用パフォーマンスもさらに上がる。バックアップにかかる時間を予測しやすくなるというメリットもある」として、ハードウェア側のさらなる進化に期待している。
いずれにしても、新バージョンのFastCopyが公開されれば、ほとんどの環境で現在よりも高速なバックアップが可能になるはずだ。最大限にSSDを搭載したRAID環境では、現在確認できている50GB/sのさらに上、「80GB/s程度まではいけるのではないか」と白水氏は推測している。
ところで、昨今話題となっているAIによって進化速度が早まることもあるのだろうか。尋ねてみると、白水氏がAIコーディングを試した限りでは、特殊なノウハウやテクニックが必要な分野のためか「直近までは全然使い物にならなかった」とのこと。それでも「最近はかなりまともなコードを出すようになってきたので、1年後はわからない」とも話す。
新バージョンのFastCopyはもちろんのこと、ソフトウェアもハードウェアも今より進化しているだろう数年後、FastCopyやそれを取り巻くPC環境、ストレージのトレンドがどう変わっているのかも楽しみだ。
「8K RAW コマ落ちなし快適編集体験」のコーナーも動画用カメラやiPhoneでの外付けSSD活用例も紹介
FastCopyのデモ環境は「8K RAW コマ落ちなし快適編集体験」のコーナーも兼ねており、ファイル転送だけでなく、動画編集に超高速ストレージを使用しても快適であることが紹介されていた。
超高品質な8K/60p映像のスムーズかつストレスフリーな編集体験ができるというもので、プロキシファイルなどを使わず、8K解像度の動画素材をそのままリアルタイムにストレスなく編集可能だった。
FastCopyや8K動画編集などのデモ以外にも、Samsung SSDブースには多数の機器が展示されており、Thunderbolt 5やUSB4に対応する機器のほか、カメラやiPhoneでの外付けSSD活用法紹介、動画編集ソリューションの紹介など、映像分野に関わりのあるデモが多数行われていた。
Samsungや代理店のITGマーケティングは、展示会などの場で今回紹介したようなデモを頻繁に行なっている。こうした機器や技術に興味がある人は、ぜひイベント会場に足を運んで実際に体験・体感してもらいたい。






























