【 2010年10月9日号 】 | |
[不定期連載]PCパーツ最前線: ASRockに聞く「“変態さ”の秘密と今後の展望」 〜フロントUSB 3.0や3D VisionなHTPCなど〜 |
- ASRockといえば「変態マザー」、「変態マザー」といえばASRock。
チップメーカーの縛りが強くなった現在、怪しげなPCパーツの絶対数は減ってきた印象だが、それでもなおチップセットの標準仕様を超えた下位互換性や機能追加にひとり気を吐くのがASRockだ。
だが、こうしたユニークなマザーが生まれるにはちゃんと理由があるという。そのポイントをユーザーイベントに合わせて来日した副社長のJames Lee氏、マーケティングマネージャーのChris Lee氏に伺った。
聞き手:石川ひさよし、鈴木 光太郎
協力:マスタードシード
実施日:2010年9月17日ASRockのRockは岩のように堅い信頼性を示す「ロック」だった
−−まずASRockとはどのような経緯で設立されたのでしょうか?ASUSTeKとの関係は現在もつづいているのでしょうか?
ASRock設立秘話を語るJames Lee氏。ASRockという名前は「As Solid as Rock」から命名したとのこと。硬い岩のように高信頼な製品を目指すという意味。ロックンロールの"ロック"精神を指していたわけではないようだ[James Lee氏(以下、James)]ASRockが設立されたのは2002年5月になりますが、ご存知の通り当時はASUSTeKの子会社という形でした。当時のASUSTeKの社長はマザーボード業界の獅子に立とうという志を持っていました。しかし、ASUSTeKはミドルレンジ〜ハイエンドに力を入れていたため、ミドルレンジ以下の製品に弱いという弱点があり、そのレンジへの製品投入の必要性からASRockが設立されたのです。
また、こうした経緯から、当時の我社のエンジニアチームはASUSTeKから移籍してきたメンバーでした。優れた技術力を持つ彼らによって、我々は設立の同年に既に黒字化を達成し、2005年には年間1,200万枚のマザーボードを出荷致しました。
その後、2007年に台湾の株式市場で言うところの一部上場を行いました。さらに、旧ASUSTeKがASUSTeKとOEM専業のPegatronの2つに分かれましたが、この際、ASRockはPegatron傘下になりました。そして、Pegatronが昨年上場を果たしたことで、ASRockとASUSTeKとの資本関係が解け、現在は独立した企業として活動できるようになったのです。ハイエンド製品に進出したのもこの頃です。
−−ASRockという名前の由来についてお聞きしてもよろしいでしょうか?
[James]ASRockという社名は、設立当時のエンジニアのリーダーによる「As Solid as Rock」な製品を市場に出したい、という発想が元になっています。和訳すれば「石のように固い製品」といったところでしょうか。ASRockといえば安さですが、安さだけでなく信頼性の高い製品を目指すという意気込みを込めています。
ユニークでなければ選ばれなかった。ASRock設立にあった"変態"マザー路線の原点
−−国内自作ユーザーの間では"変態"と呼ばれ注目されるASRockのユニークな製品ですが、これを生み出す製品理念というものがあるのでしょうか?
ASRockの掲げるポリシー「3C」は革新的、ユーザーフレンドリー、そして代名詞でもある低価格[James]我々は3つの使命というのを掲げています。頭文字をとって「3C」と呼んでいますが、「Creative」、「Considerate」、「Cost Effective」という3つの理念です。
Creativeは革新的であること、Considerateはユーザーフレンドリーであること、Cost Effectiveは低価格であることです。また、「製品自体が低価格であること」を追求するとともにユーザーの立場からもコスト削減を追求しています。
その例がコンボ製品です。例えばCPUやメモリ、ビデオカードスロットなど旧規格から新規格への移行時に、新旧の両規格が利用できる製品を提供してきましたし、それ以外にもIntel CPU向けマザーボードではコンボクーラーオプション(CCO:LGA775用クーラーもLGA1156用クーラーも利用できるホール)を採用しています。
−−コンボ製品についてもう少し詳しくお聞かせください。例えばASRockの製品ではチップセットの仕様として「え?そんなこと出来たの?」というような機能が実装されていたりするのですが…
[Chris Lee氏(以下、Chris)]我々は常に「いかにチップセットの性能を最大に生かすか」を考えており、そのうえでさらなる機能を付けることを目指しています。これはASRockの特徴を出せるか、という点でもあります。他社同様デザインの現場でいろいろな声を集約し、それに基づき設計、ミーティングを繰り返して開発という通常のプロセスのなかで自然と「特徴」が生まれるのです。
−−普段のプロセスのなかから自然とユニーク発想が生まれる、という社風なのでしょうか?
[James]先にも申しましたとおり、設立当初はASUSTeK傘下という関係上、ミドルレンジ以下の製品までで展開していました。しかしミドルレンジ以下のセグメントではユニークな商品を開発しなければ売りにくいのです。したがって、設立当初からユニークな機能を提供する路線が決定したわけです。
−−では次はLGA1155とLGA1156のコンボなどを狙っている?
[Chris]実はLGA1155とLGA1156ではソケットの信号の仕様が大きく異なります。そのため"現時点では"難しいと言わざるを得ません。
現在のイチオシは「フロントUSB 3.0」 [Chris]まずはフロントUSB3.0です。USB3.0をスムーズに普及させるには、それ自体がよりユーザーフレンドリーにならなければならないと考えています。
現在のマザーボードでは、まだUSB3.0端子はバックパネルにあり、使い勝手は良くありません。PCケースのフロントから利用できればユーザーフレンドリーなのですが、バックパネルの端子からケース内を引き回す方法ではスマートと呼べません。
そこで、我々はUSB3.0ガイドライン、まだドラフトですが…それを参考にマザーボード上にUSB3.0用のヘッダピンを用意しました。まだこれが規格として本採用されるかどうかは確定していませんが、標準規格になる可能性もあると考えています。フロントUSB3.0はハイエンドモデルを中心に採用を進めていきます。
次にHTPC用のリモコンがあります。このリモコンもASRockの独自の機能が盛り込まれています。
HTPC向けのリモコンといっても多くはマウス代わりになったりアプリケーションを呼び出せたりという機能は付いていますが、我々のリモコンではPCのオン・オフという基本的な事も出来るように設計されています。
HTPCを起動する際、手元にリモコンがあるのにわざわざPC本体の電源を押すなんてナンセンスでしょう?また、HTPC向けにはアクセスLEDやパワーLEDの輝度を下げる「お休みLED」も搭載しています。部屋を暗くして映像を楽しむような際にLEDだけがギラギラ光るといったことを抑えることができます。
そしてマザーボード用のユニーク機能としては「OC DNA」があります。BIOSのオーバークロックプロファイルをWindows上からファイルとしてセーブ、ロードでき、例えば同じ製品を使っている友達などにUSBメモリやメールで配れば、その設定が友達の環境でも利用できる機能です。まさにDNAのようにプロファイルを次々と伝えていけることになります。
−−USB 3.0といえばローエンドマザーにおいてFresco Logicのチップを採用されましたね? 下位互換性に関して問題が出ているという話も一部にあり、ユーザーの関心が集まっています。実際どうなのでしょうか?
[Chris]おそらく、「下位互換性に問題有り」とのレポートに用いられたのは、どこからか流出した“試作品”だろうと思っています。我社でも、試作品の段階ではそうした問題が確かに生じたからです。
しかし、出荷製品ではドライバもアップデートされ、そうした問題も解決されたものと考えています。代理店でも動作検証を進めており、実際問題なく動いておりますし、検証結果も逐次公表していく予定です。
Fresco LogicのUSB 3.0チップは1ポートのみで、利便性ではNEC(現ルネサス)に歩があります。しかしNECチップはコストも高いため、ハイエンドモデルでしか採用できません。フルレンジでUSB 3.0をサポートしようとすれば、必然的に低コストなチップが求められます。(低コストでの価値を追求する)我々がいち早くFresco Logic製チップの採用に踏み切ったわけはそこにあります。
イベントでもアピールしていた新製品「Vision 3D」とはどのような位置づけの製品なのでしょうか?3Dコンテンツがまだ少ない今こそ、プレーヤーとしての3D対応HTPCに参入 [Chris]我々は3つのHTPCラインアップを揃えています。最上位が「Vision 3D」、そして「Core 100 HT」、最後が「ION 3D」です。
まず、これらをざっと説明しますと、今回の新製品であるVision 3Dは日本向け仕様として海外向けのCore i3-370Mからより性能を重視したCore i5-560M*1に変更しております。また、GPUにはGeForce GT 425Mを採用しており、NVIDIA 3D Visionによる3Dが楽しめる高性能かつコンパクトなHTPCです。さらに高級感も追求しており、質感の高いアルミのケースを新規にデザインしています。
Core 100 HTは従来からの製品です。これはCore i3-330M/i3-350MにIntel HM55 Expressチップを組み合わせ、CPUに統合されたビデオ機能が利用できます。Vision 3Dよりは下ですが比較的CPU性能を重視するユーザー向けの製品となります。
ION 3DはAtom D525にICH8Mを組み合わせており、その上でNVIDIAのION NextGenを搭載しており、低コストながら3Dが楽しめるスペックに仕上げてあります。
*1 記事公開当初はCore i5-520Mとしておりましたが、記事掲載直後に「仕様変更があった」旨、連絡があったため、Core i5-560Mに修正しております。(10/9)
−−3Dにフォーカスされていますが、3DがHTPCのキーフィーチャになるとお考えでしょうか?
[Chris]現在、3D対応テレビが各社から登場しています。テレビにとって3D機能はこれからの製品には必要なキーフィーチャとなるでしょう。
しかし3Dはテレビだけでは物足りません。コンテンツが重要なのです。一方でPCにおける3Dコンテンツはゲームをはじめ既に十分な数が揃っています。3Dテレビを楽しもうという時、3DプレーヤーとしてのHTPCというニーズが高まると思います。
また、そうしたHTPCは3Dテレビのあるリビングに置くことになります。必然的に小さなミニPCの方が好まれるでしょう。
(注:パナソニックVIERAなど一部の3Dテレビでは3D Visionに対応したものも登場している)
−−なるほど、だからASRockのHTPCはミニPCなのですね。しかし日本のHTPCというとまだまだテレビ録画が主な用途で、しかもデジタルチューナーを搭載する用途においては拡張スロットタイプが好まれます。拡張スロットを搭載したひとまわり大きなHTPCは検討されているのでしょうか?
[James]マイクロATXやATXサイズであれば、いろいろなメーカーからパーツが登場しており、それらで簡単に組むことができます。
ASRockとしてのユニークさを盛り込む余地は少ないと考えています。ASRockがユーザーに貢献出来ない分野にはあまり参入したいとは思っていません。一方でミニPCであれば、冷却技術や小型化技術でASRockがユーザーに貢献できると考えています。
−−ミニPCサイズのHTPCラインアップにはMini-ITXマザーが利用されているのでしょうか?
[Chris]違います。3シリーズとも厳密にはMini-ITXよりもひとまわり小さなオリジナル基板を採用しています。アップグレード可能なのはCPU、メモリ、HDDといった基幹パーツのみになります。
−−そうした小さなマザーボード設計には、ノートブック開発からのフィードバックなどが生かされているのでしょうか?
[Chris]それも違います。デスクトップマザーボードからの派生になります。現在ミニPCの設計はPegatronとの共同開発という形をとっています。Pegatronは組み込み分野向けにMini-ITXマザーボードも製造していますので、小型化に関する十分な技術ノウハウがあります。
−−設計段階で難しかった点などはあるのでしょうか?
[Chris]Vision 3Dのデザインコンセプトとしては小さく、省エネ、静か、という3点です。モバイル向けプラットフォームを用いることで省エネはクリアし、90Wアダプタ駆動が可能ですが、小型化に関しては苦労しました。しかしこれも優れたエンジニアによって解決しています。
−−ビデオカードとしてはMXM形式のカードを採用していますね。交換、アップグレードは可能なのでしょうか?
[Chris]理論上は可能ですが、サポートはできかねます。もちろんMXMカードの入手というのも難しいでしょう。熱設計でも問題が生じる可能性があります。でも、MXMカードが簡単に入手できるような環境になってくると楽しいですね。
−−そのほかVision 3Dにはどのような特徴がありますか?
[Chris]先にユニーク機能として紹介したおやすみLEDとUSB 3.0が導入されています。
我々は2〜3年先を考え開発しています。USB 3.0はAMDのチップセットもIntelのチップセットも次世代で取り込む(実装するとは言っていない)というニュースが出ましたから間違いなく普及する技術です。ミニPCでもこれをフロントパネルから利用できる機能を盛り込むことで、将来にわたって安心して利用できます。
イベント開催や積極的な情報発信でASRockの魅力を伝えたい
−−最後は日本市場での展開や今後のASRockについて教えてください。まずASRockは最近、国内代理店としてマスタードシードと提携しましたね?
同社はハードウェアだけでなく、今後はソフトウェアによるユニーク機能にも注力していくとのこと
iPhoneをゲームコントローラのように使えるAIWIなど、既にユニークソフトウェア第一弾が登場済みなのでASRockマニアは必見[Chris]日本はハイエンド志向が強い市場です。だから我々もハイエンドモデルを中心に展開したいと思っています。そこで従来の代理店体制に加え、8月よりマスタードシードをメインの代理店というポジションに選択しました。
マスタードシードにはこれまでのASRockに足りなかった部分、例えば販売チャネルやマーケティングといったノウハウを持っています。日本全国でASRock製品を購入できる体制を構築してもらえると期待しています。
マーケティングでは、先日のイベント開催のように「我々の製品の魅力を知ってもらう」という情報発信という点に特に期待しています。
−−最後に今後のASRockの製品展開についてお聞かせください
[James]3C(Creative / Considerate / Cost Effective)というコンセプトは将来にわたって変わりません。コストパフォーマンスを追求し、その上で品質の高い製品を提供していきたいです。
製品ジャンルとしては、マザーボードとシステム(HTPCなど)というメイン商品は間違いなくこれからも続けます。
システム製品に関しては、品質の高い製品を目指しつつ、完成システムではなくDIYコンセプトを残した製品を提供していこうと思います。
ハイエンド製品でのコンセプトは「技術」です。
ASRockはエンジニアに自信を持っております。他社ではマネの出来ない機能を盛りこんでいきたいです。もちろん、見た目もハイエンドユーザー向けに目が行くように注力してまいります。また、ハードはもちろんですがソフトウェアにも注力していきますので日本の皆様、ご期待下さい。
−−ありがとうございました
□ASRock
http://www.asrock.com/index.jp.asp□関連記事
【2010年9月18日】ASRockがイベント実施、変態さをアピール?3D Vision対応の小型PCやフロントUSB 3.0も解説
http://akiba-pc.watch.impress.co.jp/hotline/20100918/etc_asrockev0.htmlASRock製品 [取材協力:マスタードシード]