eスポーツWatch
「モバイルeスポーツVainglory」世界大会で準優勝の快挙
~日本代表Divine Brothers選手インタビュー~
text by スイニャン
(2015/10/2 14:45)
「eスポーツWatch」ではモバイルゲームVainglory初の公式リーグである「International Premier League」の会場の様子と、大会に出場している3つの海外チームへのインタビューをお届けしてきた。その中で、しばしば触れられていたのが「日本チーム」についてである。
今年7月に韓国で開催された「Vainglory World Invitational」に日本代表チームとして出場したのがDivine Brothers。双子の兄弟SLASHmooN選手とDejiwo選手が結成したチームだが、そこへFPSプレイヤー出身で現在はゲームキャスターとして活躍しているStanSmith選手が加わった。そしてこの大会で見事準優勝の快挙を果たしたのである。
現在はすでにStanSmith選手はチームを脱退しているとのことだが、あえて世界2位の華々しい活躍を見せてくれたこの3名にインタビューを行ってきたので、以下からご覧いただきたい。
「最初は舐めてましたね、でもグラフィックはすごいしUIの配置とかもしっかりしてるしこれは人気が出るだろうと……」
――まず、日本でのVaingloryの知名度や人気度についてどう感じていますか。
[StanSmith選手]ローンチ前の今年初めぐらいに比べたらプレイ人口はだいぶ増えましたね。
最初はフォーラムやツイッターで一生懸命日本人を探さなければならない状況でしたが、ローンチ後に「ニコニコ超会議」で行われた1回目の「AppBank杯」を過ぎてから動画も上がり始めて、徐々に人気が出てきた感じです。マックスむらいさんをはじめとするAppBankで人気のある人のVaingloryに関するツイートのリツイートもどんどん増えていきましたね。
正直びっくりするほど、「ゲームを楽しむ」というよりは「上手くなるのを楽しむ」人が多いイメージはあります。だからこそ僕やDejiwo、SLASHmooNなどプレイヤーへの人気もゲームと並行して盛り上がっていると感じます。
今のところ、PCゲームの「League of Legends(以下LoL)」だとか、スマホゲームで言えば「パズル&ドラゴンズ(パズドラ)」といったタイトルに比べるとプレイ人口は多くないですが、プレイしている人はみんな楽しんでいますし、まだこれから伸びる可能性は秘めていると思います。
[Dejiwo選手]Vaingloryが始まってからまだ日が浅いわりにはけっこう人が増えていると感じますね。Vaingloryのプレイ人口の伸び方はすごく早いのでこれから盛り上がっていくと思います。
――皆さんがVaingloryを始めた経緯や大会に出るようになったきっかけは何だったんでしょうか。
[SLASHmooN選手]僕は以前LoLをプレイしていたんですが、その後しばらくPCゲームから離れて普通に働いていたんです。でもあるとき友達がスマホでVaingloryっていう面白いゲームがあるよって教えてくれて、そこからDejiwoと二人で同時に始めるようになりました。
でも、僕たちの追いぬき方が半端なくて、その友達とはもう一緒に遊べないくらい僕たちの腕がどんどん上がっちゃって(笑)もともとLoLという基盤があったからこそだとは思いますけどね。
そんな折、EAサーバーで韓国チームInvincible Armada主催のアジア大会があったんです。賞金としてゲーム内課金のマネーが入るというものでした。そのときはDejiwoともう一人韓国人と組んでやってたんですけど、そこにスカウトされて出たのが最初ですね。
[Dejiwo選手]最初は別に普通にゲームを楽しんでいただけなんですけど、自分たちがけっこう上手くなっていったので韓国のトップ勢から注目されるようになって、大会に誘われるようになったんです。もともとLoLをやっていたんですけど、Vaingloryを始めたらどっぷりハマってしまってもう戻れなくなりました。
[StanSmith選手]僕は海外の友達から「Vaingloryっていうゲームがあるよ」って紹介されたのが最初で、その後国内でも記事になっているのを見て気になっていたんです。そしたら今年の1月ぐらいに友達が実際にVaingloryをプレイしていたんですよね。
正直、最初は舐めてましたね(笑)たぶんみんな思ってたと思うんですよ、スマホでMOBAって無理だろうみたいな(笑)でもインストールしたらグラフィックはすごいしUIの配置とかもしっかりしてるし、これは人気が出るだろうと思ってやり始めたらどっぷりって感じですね。
「観戦するときに見やすいんですよね」
――それほどハマってしまったVaingloryの魅力って何だと思いますか。
[StanSmith選手]これまでのMOBAと違ってVaingloryは3対3なので、観戦するときに見やすいんですよね。あとはクラーケンや金鉱山、ミニオン鉱山といったギミックがいくつかあるのも面白いです。アイテムは少ないながらもシンプルですし、日本語化されているのも嬉しいですよね。
グラフィックもそうですけど、ゲームの作りがしっかりしているんですよ。ちょうど今年の日本リリースのときに「7~8月を目途にどんどんゲーム完成させる」と言っていたので、まあちょっと遅れていると想定しても完成し始めていると思うので、さらにこれから魅力が上がっていくのではないかなと思ってます。
[Dejiwo選手]僕はゲーム時間が短いというのが一番大きいですね。今までMOBAをプレイすると1試合だけでとても疲れていたんですが、Vainglory だとガンガンやっても全然疲れなくて1日5時間とか平気でやっちゃうんですよね。
それから3人でできるっていうのも魅力だと思います。僕たちはいつも兄弟2人でやってるんですけど、一般的なMOBAだとあと3人必要ですがVaingloryならあと1人いればプレイできるわけです。プライベートマッチも6人でできるのですぐ人が集まって、ゲーム自体がやりやすいんです。
[SLASHmooN選手]ゲーム自体はレーンがあってジャングルがあってという感じで、わりと単純だと思うんですよね。だからみんな教えやすいし、入り込みやすいんじゃないでしょうか。
一般的なMOBAだと、アイテムも多いしレーンもたくさんあってヒーローの数も多いので、覚えることが多くて大変なんですよね。軽い気持ちでできるのがVaingloryの魅力だと思います。
[StanSmith選手]あと、指でできるっていうのもシンプルに自分の感覚で操作できるので良いですよね。海外に行ったときに、ある配信者のお子さんが幼稚園児ぐらいなんですけどお父さんのタブレットでVaingloryをやっていたのを見て、子供でもできるんだなと驚きました。その点は「Hearthstone」や「Minecraft」などと似ている部分があると思います。
――では、これからVaingloryを始めようという方にアドバイスをお願いできますか。
[Dejiwo選手]とりあえずスマホ持ってるならやってみろっていう感じですね(笑)やれば面白さが分かると思うので。
[SLASHmooN選手]初心者向けの動画もたくさん上がっているので、そういうのを見るのもいいんじゃないでしょうか。レーン、ジャングル、ロームに分かれて解説されているような分かりやすい動画もありますよ。
[StanSmith選手]動画は初心者向けから規模の大きな大会までさまざまなものがありますので、大会の動画を見て「なんでこんなに動きが違うんだろう」という差から感じて、すごい人もいるんだなあというところから始めるのもいいと思います。プレイできる端末を持っているならまずはチュートリアルなどで触ってみるのをお勧めしたいですね。
――ところで今年7月に韓国で行われた「Vainglory World Invitational」で見事準優勝を果たしましたが、出場した感想を聞かせてください。
[SLASHmooN選手]まず招待されたこと自体がびっくりでした。あと、違うゲームではああいう大きな会場でプレイしたこともあるんですけど、「World Invitational」では1キル取ったりエース取ったら歓声が上がっるんです。それでもうニヤニヤしちゃって(笑)本当に歓声がすごくてソロキル取ったときもニヤニヤが止まらないっていう(笑)すごい楽しかったです。
[Dejiwo選手]EAサーバーの開始が他の地域と比べて遅かったので、プレイ歴が浅いから日本や韓国は勝てないんじゃないかという見方をされていたようで、僕自身も正直決勝戦までいけるとは思っていなかったので、単純に嬉しかったですね。もちろん優勝できなかった悔しさもあります。もうちょっと頑張れば優勝できてたかもしれないと思うと悔いが残りますね。
[StanSmith選手]大会が終わったあとは3人とも負けて悔しいという気持ちでした。でも、大会が始まる前は僕たちも北米のGankStarsや欧州のUnknown-Oが強いだろう、逆に韓国のInvincible Armadaはどうなんだろうという感じでしたね。
僕らからするとTiger-Phobiaのほうが勝率も五分五分ぐらいでやりにくいかなと思っていました。Huntersはそんなに強くないという印象で、おそらくみんなそうだったと思うのでTiger-Phobiaも彼らに負けていたし、僕らもHunters が1戦目にあんなに攻めてくるとは思わななくて驚きましたね。
むしろInvincible Armadaがトーナメントの反対側の山で他チームを全部倒してて正直びっくりした半面、欧米に勝っているInvincible Armadaを見てやる気も出ましたね。同じサーバーのチームが勝ち上がっているのを見て、僕らも行けるんじゃないかと感じました。あとは、僕がその前の週あまり練習できなくて二人にも迷惑かけちゃったので、もう少し練習していれば全然行けたと思います。
――海外チームと対戦してみて印象はいかがでしたか。
[SLASHmooN選手]もともとVaingloryを始めたときに参考にしたのがTEAM FusionのFoojee選手の動画だったんです。参考にしていた選手と戦えるというのがまず夢のようで嬉しかったですし、そこに勝てたっていうのも嬉しかったですね。
今回の大会はもともとTiger-PhobiaとHuntersのトーナメントの位置だけ決まっていて、僕たちは対戦チームを選べるという形式だったんです。それでどうせならFoojee選手とやりたいと僕が言って1回戦で対戦しました。
[StanSmith選手]僕はそのとき東京にいたので「マジかよ」と思いましたね(笑)東南アジア代表のInfamousのほうが明らかに弱かったんですよ。その中でTEAM Fusionを選ぶのかと(笑)確かにやりたい気持ちはすごいあるけど1回戦で選ぶのはちょっとって感じでしたね。
[SLASHmooN選手]NAの大会でGankStarsが1位でTEAM Fusionが2位だったんですよ。TEAM Fusionと戦えばNAでどのぐらいの実力か分かるから戦ってみたかったんですよね。結果的に全試合の中で一番良い試合だったんじゃないかなと思います。
[Dejiwo選手]例えばLoLだと海外チームには一切相手にされないですし、手も足も出ないので正直勝てないかなと思っていたんですけど、Invincible Armadaも僕らも勝ち上がってEAサーバーの2トップみたいな感じだったんでEAサーバー強いなという印象でしたね。(EAサーバーが)始まったのが遅いわりにはレベルが高いなと感じました。と言っても上位プレイヤーだけなんですけどね。
[StanSmith選手]プレイヤーの分布図として、NAはたぶん綺麗なピラミッド型なんですよ。でもEAは下のほうは綺麗なピラミッドのようになっているんですけど、上に行くと一気に先のほうだけ針のようになっている感じなんですよね。僕らだけがそこにいる感じです。
EA以外だと大会の動画もけっこう上がっているんですが、海外チームの癖と言うか装備などもEAと全然違うんですよね。海外選手はけっこう防具を積まなかったりするんです。実際に大会で戦ったときもTEAM FusionのOldskool選手やGankStarsのIraqiZorro選手もそうだったので、そこは文化の違いかなと思いました。
あと、もともとInvincible ArmadaのWine選手やRuin選手はSEAサーバーでずっとプレイしていたそうで、EAができてからやっぱり彼らがもうずっと強かったんですよね。誰も勝てないくらい強くて、僕らは毎日毎日ボコボコにされながらやり続けてて何とか追いつこうと頑張っていたんです。
そこへ新しくSLASHmooNやDejiwoが入ってきて、おそらく二人も上手い人たちにボコボコにされながらどんどん強くなっていったと思うんです。今はピラミッドの頂点が避雷針のようになっていますけど、これから這い上がってくる人たちがどんどん出てくると思うので、そういう人たちに期待したいなと思っています。ってこれ海外チームと対戦した感想じゃないですよね(笑)。でも本当に韓国と日本が同じサーバーというのは相当大きいですよ。
――では、今後の予定や目標を聞かせてください。
[Dejiwo選手]10月4日に行われる「AppBank杯」の優勝が目標です。もしスポンサー契約があれば海外大会にも出たいんですけどね(苦笑)スポンサーは自分たちから募集中であることを積極的に言わないと、なかなかつかないと思うんですけど、あまり自分たちではやらないので…。誰かマネージャーとかやってくれる人がいればまた別なんでしょうけど、残念ながらそういったことが一切ないのが現状となっています。
[StanSmith選手]日本でも海外大会への出場を支援するような動きはちょっとずつあるようなので、良い方向に行けばいいなと思っています。スポンサー探しも含めて良いニュースを期待したいですね。
――StanSmithさんは今後Vaingloryとどのように関わっていこうとお考えですか。
[StanSmith選手]僕はもう流されるがままに、ですね(笑)こないだの「World Invitational」も選手として出ましたけどオファー自体は実況として来たんです。
僕、大会前日に仕事があって当日入りしかできない状況で、実況だと前日のリハーサルに出なければならないということで実況が無理ということになって、じゃあ選手として出てくださいって言われて(笑)選手を集めてくれと言われたのでこの二人に声をかけました。
なので、僕は今後は実況や動画みたいな形で、より初心者に向けてやりたいですね。上手くなるのが目的のゲームでありながらも、そもそもゲームを楽しまないとみんな飽きちゃうと思うし上手くならなきゃならないというプレッシャーもみんな辛いと思うんですよ。
みんなに楽しく遊んでもらえるように普及させたいし、プレイ人口を増やしたいというのもありますね。もちろん選手として出る可能性もありますけど、基本はeスポーツシーンを盛り上げたいです。
あとは今持っている知識をもっと共有していったほうが、全体的な日本のレベルアップにつながると思うんですよね。ピラミッドの上部が避雷針ではなくきれいな三角形になればDivine Brothersの練習相手も見つかるだろうし、全体的に良い効果が出ると思います。
――最後に日本のVaingloryファンにメッセージをお願いします。
[SLASHmooN選手]とりあえず「AppBank杯」の応援をよろしくお願いします!
[Dejiwo選手]もっとプレイ人口を増やしてほしいので、みなさんの周りの人にVaingloryをどんどん紹介していってほしいですね。あと、ロームに注目してほしいです。序盤をつくるのはロームなんですけど終盤はレーンとジャングルが決めるので正直注目されにくいんですよね(苦笑)
最終的には国内リーグができたらいいなと思います。ゲーム自体が面白いので絶対にプレイ人口は増えていくと思いますけど、日本のみなさんにVaingloryをもっと知ってほしいですね。
[StanSmith選手]とにかくゲームを楽しんでほしいというのが一番ですね。横のつながりを増やしてほしいです。もともとの友達を誘うのもいいんですけど、ゲーム内で仲良くなってオフライン会場で会うというのも良いですよね。それがないと、たぶん日本市場が広がらないと思うので、とにかくいろんな人とコミュニケーションを取って仲良くやってほしいなと思います。
SLASHmooNとDejiwoは世界大会にも出たいという方向性なので彼らのことをみなさんにも応援してもらいたいですし、逆にそういうところに自分も出たいという人は是非頑張ってほしいですね。
僕のほうは実況をやっていくと思うんですが、いま解説者がいないんですよ。それに僕の代わりの実況者もいないので、実況解説の枠は募集しています。選手が光るために必要なポジションであり、より競技シーンが盛り上がれば選手たちにもそういう舞台が提供されると思うのでそういう場で活動してくれる人も欲しいですね。研究が大好きで動画見るのが大好きでデータが大好きみたいな人を募集中です!
eスポーツ競技としてのVaingloryの今後
筆者は海外取材を通じて、「モバイルMOBA」であるVainglory がeスポーツとしてすでに成立している様子を目の当たりにしてきた。もちろん有名なPCゲームタイトルに比べればまだまだだが、このゲームが米国で正式ローンチされてからまだ1年未満であることを考慮すればその勢いはすさまじい。
しかしながら日本国内へ目を向けてみると、モバイルゲームとしての勢いは感じるものの、eスポーツとして成立するための環境や世界を目指すための条件がまだまだ整っていないことに気づかされる。
もちろん国内大会も開かれてはいるものの、この3人のライバルとなり得るトッププレイヤー層の未形成、実況解説者の不在、チームマネージャーなどのスタッフ不足、どこを見てもガラ空きであることが彼らのインタビューを通じて見えてきた。
今後が期待されるゲームタイトルであるだけに、日本のeスポーツ界においてVaingloryの未来をともに築いていこうという熱意ある人々の協力が不可欠だろう。我こそはという人は、これを機に手を挙げてみるのも良いのではないだろうか。