NAS EXPO 2015 秋

データ復旧のプロが語った
「HDDの構造から最新技術、データ復旧技術の最新事情」

〜HDDサプライヤー興亡の歴史から最新技術まで〜text by 石井英男

 2015年10月10日(土)、11:00〜18:00にベルサール秋葉原において、NASに関する総合イベント「NAS EXPO 2015 秋」が開催された。

 ここでは、ステージで行なわれたセッションの中でも特に興味深かった、くまなんピーシーネット代表の浦口康也氏のセッションの内容を紹介しよう。

 なお、イベント全体のレポートについてはこちらに掲載中だ。

「HDDは消耗品である」くまなんピーシーネット代表の浦口氏

くまなんピーシーネットのブースで展示されていた、プロ用のデータ復旧ツール「PC-3000 Portable System」

 くまなんピーシーネットは、2002年に設立された熊本のベンチャー企業で、データ復旧サービスやデータ復旧ソリューションの開発・販売を行なっている。

 今回のイベントでは、同社のデータ復旧サービス「WinDiskRescue」や暗号化ソフト「SecureAge」、データ復旧ツール「PC-3000 Portable System」などが展示されていた。同社のデータ復旧や暗号化に関する技術は世界トップクラスであり、Westren Digltalの公認データリカバリー・パートナーとして認定されているほどだ。

セッションで講演を行なったくまなんピーシーネット代表の浦口康也氏

 くまなんピーシーネットのセッションは、「HDDの構造とデータ復旧技術の最新情報について」というものである。登壇した同社代表の浦口康也氏は「HDDは修理不可の消耗品である」と言い切り、普段からそのつもりでPCを運用することが大事だと語った。

浦口氏のプロフィール
セッションのタイトルは「HDDの構造とデータ復旧技術の最新情報について」
HDDは基本的に修理不可の「消耗品」であり、PCを修理に出して、PCの問題は解決してもHDDの障害により、大事なデータが全て消えてしまうことがある

HDDサプライヤー興亡の歴史

 浦口氏は初めにHDDの歴史を振り返った。1986年頃には、実に76社ものHDDサプライヤー(HDDメーカー)が存在したが、年々廃業や統合によって減っていき、7年後の1993年には36社と半分以下になった。2015年の現在に至ってはSeagate、Western Digital、TOSHIBAの3社しか残っていない。

 かつて存在したHDDサプライヤーが、どのHDDサプライヤーに買収されかというチャートも示されたが、古くからのPC自作派にはその名前を懐かしく思う人も多いことだろう。

年別HDDサプライヤー数のグラフ。2000年までに急激に数を減らしていることが分かる
HDDサプライヤーの統合の歴史。昔人気を集めていたMaxtorやQuantumもなくなり、日立もIBMを買収、その日立もWestren Digitalに買収された

垂直記録方式や瓦記録方式、研究中の技術などHDDの最新技術を解説

 続いて浦口氏は、HDDの構造についての解説を行なった。

 HDDの基本的な構造についてはご存じの方も多いだろうが、HDDはプラッタと呼ばれる円盤に磁気ヘッドで情報を記録・再生する装置である。HDDの進化の歴史は、記録密度向上の歴史でもあり、ある記録方式やヘッド技術が限界に近づくと、新たな記録方式が考案され、その限界を乗り越えてきたのだ。

HDDの構造。プラッタと呼ばれる円盤に磁気ヘッドで情報を記録・再生を行なう
HDDの構造の詳細。プラッタは、トラックに分かれ、さらにトラックはデータセクタに分割されている。ヘッドはボイスコイルによって動く

 HDDの記録密度を上げるための技術として同氏が解説したのが、垂直記録方式、瓦記録方式、熱アシスト記録方式、マイクロ波アシスト記録方式である。

垂直記録方式

現在主流の垂直記録方式の説明

 垂直記録方式は、すでに数年前から主流となっている技術で、それまでのHDDでは、記録層に対して磁化の方向が水平であったが(長手記録方式などとも呼ばれる)、垂直記録方式では磁化の方向が垂直であり、記録密度を高めやすいという利点がある。

瓦記憶方式

最新のHDDに採用されている瓦記録方式。瓦を重ねるように、トラックの一部を重ね合わせて記録していくことが特徴だ
瓦記録方式では、書き込み時に上書きするのではなく、追記していくことになるため、不要データをまとめる処理も必要になる

 瓦記録方式(SMR)は、昨年実用化された新しい記録方式であり、瓦を重ねるように、トラックの一部を重ね合わせて記録していくことが特徴だ。書き込み時は上書きするのではなく、追記していくことになるため、古いデータは不要データとして残るが、バンド単位でクリーニングされる。

 クリーニング処理自体はバックグラウンドで行われるが、その際にパフォーマンスに影響が出るという。

研究中の記録方式

今後実用化が期待される熱アシスト記録方式とマイクロ波アシスト記録方式の説明。

 熱アシスト記録方式やマイクロ波アシスト記録方式は、さらに記録密度を高めるための技術である。熱アシスト記録方式はレーザー光を当てて一時的に温度を上げることで、マイクロ波アシスト記録方式はマイクロ波磁界を利用することで、書き込みをしやすくする技術だ。

 どちらも研究中だが、熱アシスト記録方式は実用化直前まで来ている。

製品化されたばかりのヘリウム充填HDD

最近実用化されたヘリウムHDDについての説明

 次に、最近実用化されたヘリウムHDDについての解説が行われた。

 ヘリウムHDDは、従来のHDDでプラッタ間を満たしていた空気の代わりにヘリウムガスを充填する技術。空気の場合、その中に含まれる窒素や酸素などの分子が抵抗となって、ヘッドがぶれるという問題があった。そこで空気より分子が小さく抵抗の少ないヘリウムガスを使用することで、ヘッドのぶれが小さくなり、プラッタの厚みや間隔を削減することが可能となったという。また、抵抗が少ないため、動作温度も約4〜5℃低減され、1TBあたりの消費電力も約半分となる。

さらなる大容量を目指す新技術

 さらに、研究中の技術として、あらかじめメディアにビットパターンを作成しておく「ビットパターンメディア」や、より微細なアクチュエーター制御を行えるようにするDSAアームなどが紹介された。浦口氏によると、2014年の3.5インチHDDのプラッタ1枚あたりの容量は1.5TBだが、熱アシスト記録方式やビットパターンメディアの実用化により、2020年には4TBを超えると予測されているという。

さらに次世代の技術としては、あらかじめメディアにビットパターンを作成しておく、ビットパターンメディアが研究されている
アクチュエータの進化についての解説。従来のアームは、1つの支点で制御しているが、DSA(デュアルステージアクチュエータ)アームでは支点が2つあり、微細な制御がしやすい
プラッタ1枚あたりの容量ロードマップ。2014年の3.5インチHDDのプラッタ1枚あたりの容量は1.5TBだが、熱アシスト記録方式やビットパターンメディアの実用化により、2020年には4TBを超えると予測されている

不調を訴えるHDDと対話することで、データを復旧させる

 浦口氏は、記録密度とアクセス速度、消耗という観点からHDDを見ると、10年前も現在もHDDのサイズ自体は変わらないのに、容量やアクセス速度は大きく向上しているため、メディアに物理的なトラブルがあった際に、それが致命的な障害となる可能性は格段に高くなっていると指摘した。

記録密度とアクセス速度、消耗という観点からHDDを見ると、10年前も現在もHDDのサイズは同じだが、容量やアクセス速度は大きく向上している
以前のHDDは記録密度が低かったので、メディアに物理的なトラブルがあっても、問題を起こさないこともあったが、現在のHDDは記録密度が向上しているため、同じサイズの不良でも致命的な障害に陥る可能性が高い

 同社のデータ復旧サービスであるWinDiskRescueの真髄は「不調を訴えるHDDと対話する」ことにあり、例えば、あるヘッドが損傷して読み出せなくなっても、HDDに通常のPCからは送ることができない、ネイティブ命令を送ることにより、そのヘッドをなかったことにして、ブートシーケンスを通過させるということができるという

WinDiskRescueの真髄は「不調を訴えるHDDと対話する」ことにある
HDDの記録構造。データは複数のプラッタにわたって、順次記録されている
例えば、3枚プラッタでヘッドが6個あり、ヘッド2が損傷して読み出せなくなったとしても、そのヘッドが記録していたプラッタのデータが未使用領域の情報なら、そのヘッドを除外してもデータには問題はない

SSDはHDDよりもデータ復旧が難しい

最近増えているSSDは、HDDよりもデータ復旧が難しい
NANDフラッシュメモリの構造。フラッシュメモリはページやブロックというかたまりで管理されている

 WinDiskRescueは、HDDだけでなくSSDも対象となるが、SSDはHDDよりもデータ復旧が難しいことも解説された。SSDは製品によってコントローラが異なり、NANDフラッシュメモリにデータを書き込むアルゴリズムなども異なるからだ。

 特に最近は、薄型化や軽量化のためにmSATAやM.2といった汎用インターフェイスを介さず、マザーボード上に直接SSDが実装されているノートPCなども出てきており、さらに復旧が難しくなったという。

従来の2D NANDフラッシュメモリの構造
こちらは新世代の3D NANDフラッシュの構造。円筒形の構造になっており、縦に複数の層を積層できる
NANDフラッシュメモリ採用製品の例。USBメモリやSSD、スマートフォン、各種メモリカードにNANDフラッシュメモリが使われている
従来のノートPCでは、mSATAなどのインターフェイスを介してSSDが接続されていた
しかし、最新のノートPCでは、SSDが汎用インターフェイスを介さず、直接マザーボードに実装される例も出てきた
SSDのデータ復旧手順。SSDを分解して、専用の装置を利用してNANDフラッシュメモリを取り外し、ダンプデータを抽出。コントローラのアルゴリズムを解析して、データを再構築する必要があるため、解析に数ヶ月かかることも多く、現実的とはいえない

ネット上の情報を鵜呑みにしない

HDDのトラブルでよく耳にする内容。必要なデータが1つだけだとしても、それを復元できるとは限らない

 浦口氏は、HDDトラブルを避けるためのポイントをいくつか解説したが、そのなかでデータ復元率をWebサイトなどで謳っているデータ復旧サービスはあまり信用できないと述べた。

 なぜなら、データ復元率というのは、ユーザーが必要なデータを本当に復元できたかどうかで語られるべきものであり、実際に復元したデータをユーザーが確認しないと分からないものだからだ。くまなんピーシーネットのサイトでもデータ復元率は掲載されていない。

 同様に「○○社のHDDは不具合が多い」といったネットでの評判も、あまり当てにはならないと指摘した。販売台数の多いHDDサプライヤーの製品は、例え不具合率が他社と同じであっても、トラブルが多いように見えるからだという。

データのバックアップやセキュリティの面から信頼の置ける外付けHDD = NASの活用を

 浦口氏は、運用上のHDDトラブルを避けるためには、データの同期やバックアップ機能を備えた外付けHDDを使うこと、データ保存量を普段から把握しておくこと、デスクトップ画面上は一時的な保存場所としての利用にとどめることが大切だとした。

 また、物理的なトラブルへの対策として、目的や利用環境に対して特性がマッチしたHDDを選ぶことも重要だという。

 加えて、情報漏えい、セキュリティへの対策として、暗号化やパスワードなどアクセス権限の管理機能を備えたHDDを選ぶこともポイントとのことだ。

論理的なトラブルへの対策。ミラーリングなど、データ同期、バックアップ機能を備えた外付けHDDを使うこと、データ保存量を普段から把握しておくこと、デスクトップ画面上は一時的な保存場所として利用することが大切だ
物理的なトラブルへの対策。目的や利用環境に対し、安定性や発熱、衝撃への体制に優れ、回転数、容量などがマッチしたHDDを選ぶことが重要
データ運用面でのトータル的な対策。純正度の高いHDDを選ぶことが重要であり、WindowsとMacが混在する場合は、OSに依存しないNASを選ぶのがよい

 最後に浦口氏は、運用面でのトータル的な対策としては、純正度の高いHDDを選ぶことが重要であり、WindowsとMacが混在する場合は、OSに依存しないNASを選ぶのがよいと語り、本セッションの締めとした。

(石井英男)

(石井 英男)