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QNAP会長に聞く「多機能NASのトレンド」

技術でリードするQNAP、Celeron搭載モデル誕生の裏話も text by 清水理史

4コアCeleron搭載の「TS-x53 Pro」シリーズ

 CeleronやAMD APUの採用、ハイパーバイザー型仮想化技術の搭載、DTCP-IP対応NASのリリースと、矢継ぎ早の攻勢でNAS市場での存在感を高めつつあるQNAP。

 その創業者となる会長のTeddy Kuo氏が来日した。創業のきっかけから、今後の展開まで、QNAPの目指すところを同氏に聞いた。

2000年からNASを開発、高価だった法人向けNASを1/10の価格に

秋葉原では2008年の「TS-x09Pro」シリーズから流通開始
QNAP会長 Teddy Kuo氏

――日本でも最近知名度が上がってきたQNAPですが、まだよく知らない読者もいるかと思います。そもそも、QNAPというのは、どんな会社ですか?

[Teddy氏]弊社は2000年ころからNASの開発を手がけてきたメーカーです。もともとは、産業用コンピューターなどを扱うIEI Integrationグループの一部門としてスタートしました。

 当時は、外付けハードディスクを使っている人が多かったのですが、WindowsやMacなどいろいろなプラットフォームで使えるような製品が求められるようになりました。IEI Integration時代に、さまざまなPC用ソフトウェアの開発や運用を手がけてきましたが、その技術を発展させることで、NASを開発することになりました。

――ソフトウェアの開発から発展したとなると、QANPという会社は、どちらかというとソフトウェアに強みを持つNASメーカーということになるのでしょうか?

[Teddy氏]IEI Integration自体は、産業用コンピューターやODM/OEMなども手がけてきたメーカーですので、ソフトウェアとハードウェアの両方に強みを持ったメーカーと言えます。

――2000年代前半というと、当時は、まだNASは珍しい製品ですよね?

[Teddy氏]当時、NASと言えば、IBMなど法人向け製品が主流で、$15,000~$20,000もするような非常に高価なものばかりでした。これをより安く、より導入しやすくしようとすることを目的に低価格のNASをリリースしました。

――低価格のNASというのはインパクトが大きかったのではありませんか?

[Teddy氏]私たちが開発したNASの価格は、だいたい$1,000前後でしたから、当時主流の法人向け製品の1/10程と、とても安い価格で提供することができました。

 また、当時の法人用製品は、専用のサーバールームに設置することが当たり前でしたが、フロアに設置できるようにしたことで、多数導入されるようになり、その用途も拡大しました。

――具体的にはどのような使い方がされるようになったのでしょうか?

[Teddy氏]当時の使われ方としては、FTPのニーズがとてもありました。メールの添付ファイルの容量が数十MBと制限されていた時代ですから、カタログや設計データなど容量の大きなファイルを今のようにメールでやり取りできなかったのです。

 こういった大きなデータを保管するだけでなく、外部とやり取りするためにNASを導入するというケースが増えました。10年前は、CD-ROMでカタログのデータをやり取りしたことがありました。今では考えられませんね(笑)。

――今でもQNAPのNASは多機能な製品として、ユーザーに広く知られていますが、当時から新しい機能を提供することに積極的だったんですね。

[Teddy氏]そうですね。私たちは、多くのユーザーにFTPがよく使われていることをリサーチしていたので、それを機能として取り込みながら製品を開発しました。

「データの保存先」だけでないNASを家庭でもマウス/キーボードを接続したり、VMでWindowsを動作させたり……

「QvPC」テクノロジー対応モデルの一つ「TS-451」

――法人向けだけでなく、家庭向けの製品に注力し始めたのは、いつくらいからですか?

[Teddy氏]2010年くらいからになります。スマートフォンが普及し、DropBoxなどのクラウドサービスも普及し始め、いろいろな人が写真をクラウドにアップロードすることが一般的になってきました。

 現在、QNAPのNASでは、こういったクラウド上のデータを同期したり、NASに保存したビデオをスマートフォンで再生することなどができるようになっています。こういった機能が使えるようになってから、家庭でもNASが急速に普及するようになってきました。

――現在NASは、いろいろなメーカーから製品が発売されています。その中で、QNAPの製品ならではの特徴はどこにありますか?

[Teddy氏]QNAPのNASとしての特徴は、単なるデータの保存先に留まらないことです。たとえば、「App Center」という機能によって、データベースやCMSなど、さまざまなアプリを動作させることができます。つまり、保存したデータをNASの上で、さまざまな形で活用することができる点にあります。こういったさまざまなアプリによる機能の統合がQNAPならではの強みと言えます。


PCとしてNASを使うこともできる「QvPC」テクノロジー。
QvPC環境にタブレット風のUIを提供する「HybridDesk Station」。

――特にオススメの機能はありますか?

[Teddy氏]たとえば「QvPC」は、NASにキーボードやマウス、HDMI経由でディスプレイを接続して、NASをPCとしても活用できる機能です。いわゆる「2in1」です。

 また、「Virtulization Station」では、ハイパーバイザー型の仮想化技術を使って、NAS上でWindowsやLinuxを動作させることができます。これらは、QNAPだけのオンリーワンの機能となります。

――QvPCは、具体的にどのような使い方を想定していますか?

[Teddy氏]NASとテスクトップを2in1で使えるのでコスト的に有利な場合があります。たとえば、監視カメラを使ったソリューションでは、データの保管先であるNASとその管理用の端末を一台に集約できます。

 また、家庭では、あまり高速なネットワークを用意できないことがあります。NASとPCが無線LANで接続されている場合など、十分な帯域が確保できないと4Kのビデオなどを再生できませんが、データの保存先であるNASを再生用の端末としても使えれば、ネットワークの制約なく大容量のコンテンツを再生することができます。


NAS上でWindowsやLinuxを動作させられる仮想化技術「Virtulization Station」。
仮想デスクトップ機能の「QVM Desk」やリモート操作などもサポート。

――Virtulization Stationはどうですか?

[Teddy氏]弊社での実際の例になりますが、アメリカの拠点で使っている会計用のソフトウェアがWindowsでしか動作しないものがあります。これを、現在はVirtulization Stationを使って、NAS上でWindowsを動かし、そこで動作させています。台湾からもブラウザでNASにアクセスして、このソフトウェアを使えるようにしています。こういった運用をすることが多いと想定されます。

――現在、中小企業などでは、Windows Serverを導入して、会計ソフトなどを動作させている場合が少なくありませんが、こういったサーバーを置きかえてしまおうという戦略でしょうか?

[Teddy氏]その通りです。QNAPのNASであれば、仮想化のソリューションが内部に統合されていますので、VMwareのような仮想化のソリューションを導入する手間やコストをかけずに、サーバーを統合したり、置き替えることができます。

 また、企業によっては、Windows Server 2003やXPでしか動作しないソフトウェア資産をどうするかが大きな課題になっています。こういった資産をVirtulization Station上で動作させるという選択も可能となっています。

技術者多めの社員構成実に半数以上

QNAPの成長に大きく貢献した「TS-x51」シリーズ
秋葉原では4モデルが流通

――現在、QNAPの認知度はかなり高くなったと言えます。その原動力となったきっかけは、どのあたりにあるとお考えですか?

[Teddy氏]昨年発売されたモデルとなりますが、はじめてデュアルコアのCeleronを搭載したモデル(TS-x51シリーズ)が、QNAPの成長に大きく貢献しました。

 今までのAtom搭載モデルでもHDMI出力は可能でしたが、これに加えて、Virtulization Stationによる仮想化、ビデオデータのハードウェアトランスコーディング機能を搭載しています。ローコストなCPUで、これらをサポートした最初の製品となります。

――確かに、Synologyなど他のメーカーでは、まだAtomしか採用しないケースも珍しくありませんね。でも、他社もCeleronを搭載した製品を投入すれば、同じ機能が使えるようになってしまいませんか?

[Teddy氏]これらのモデルはIntelとの協業によって実現しました。当時、Intelは、Celeronの特性を活かすことができるNASベンダーを探していました。

 ハードウェアの性能を活かすにはソフトウェアの開発能力が求められます。QNAPは開発能力が高く、かつそのスピードも速いことが認められ、協業相手として選ばれ、約8ヶ月ほど共同で開発を進めました。

――数あるベンダーの中、Intelから選ばれたというのはすごいですね。

[Teddy氏]QNAPの社員は、現在、グローバルで約900人前後となりますが、そのうちの500名は技術者です。このため、さまざまな機能を早く開発することができます。

――QNAPの製品は多機能ですが、いろいろな機能を組み合わせても、競合が起こったり、不具合が発生したという話はあまり聞きません。そのあたりも開発者の割合が多いことが要因ですか?

[Teddy氏]500人の技術者は、ハードウェアやOS、App Centerで提供する各アプリと、それぞれのチームごとに開発を進めていますが、社内できちんとAPIを設け、きちんと連携しながら開発を進めていることが大きいと思います。


今後国内販売予定のAMD APU搭載の「TVS-x63」シリーズ
「TVS-x63」シリーズはオプションで10Gbpsイーサネットサポート。

――国内での販売はまだですが、Intelだけでなく、AMDのAPUを搭載した初のNAS「TVS-x63」シリーズも発表しましたね。

[Teddy氏]AMDのAPU搭載製品の特徴は、「10G(10Gbpsのイーサネット)」に対応している点です。今回採用したAMD Embedded G-Series SOCは、PCIe Gen 2のx4スロットを搭載しています。これにより、10Gでの通信に対応することが可能になっています(注:TVS-863/663/463がオプションにより対応する)。

--この製品は、どういった層向けの製品なのですか?

[Teddy氏]10Gだけでなく、SSDをキャッシュとして利用することが可能で、400~500MB/sという超高速のデータ転送を可能にしています。このため、大容量のデータを高速にやり取りする必要があるビデオ編集などの用途に適しています。既存のモデルよりも、少し上の層をターゲットにした製品になるかと思います。

「クラウドが普及すればNASの重要度も上がる」

DropBoxやGoogle Driveなどと連携可能。
クラウド上データのバックアップ用にも利用可能。

――個人的な疑問として、今後、クラウドが普及してくると、データの保存先などもクラウドがメインになり、NASのようなローカルのデバイスがなくなっていく可能性もあると考えているですが、QNAPとしてはどう考えていますか?

[Teddy氏]クラウドが普及すると、NASとの棲み分けが進むと考えています。たとえば、公開してもいいパブリックなデータはクラウドに、自分だけのプライベートなデータはNASにといったような使い分けです。そうなると、むしろNASの重要度が上がってくると言えます。

――NASの重要度が上がるというのはどういうことでしょう?

[Teddy氏]クラウド上のストレージは手軽ですが、まだ転送が遅く、容量にも制限が設けられていることがあります。人々がクラウドをどんどん使うようになると、便利さだけでなく、そこに不便さを感じるようになります。

 その不便さを感じるほど、NASの利便性が高まり、実際に「NASが欲しい」と考えるようになる人が増えてくると考えています。また、「クラウド上のデータの所有権が誰にあるのか?」ということが、より真剣に議論されるようになると、プライベートなデータはNASに、と考える人も増えてくるでしょう。

――クラウドと共に発展していくというイメージでしょうか?

[Teddy氏]現在のQANPの製品もそうですが、クラウド上のサービスとの統合は着実に進んでいます。今後は、クラウド上のデータをNASにバックアップしたり、ローカルのデータと同じように扱いたいというニーズが、さらに増えてくるでしょう。また、スマートフォンのデータのバックアップ先としてNASを使うというケースも増えてくると考えています。

今後の新機能追加や新機種の登場も

DTCP-IP対応の「HS-210-D」

――今後の展開については、どのようにお考えですか? 何か新機能とか、新製品の投入予定はありますか?

[Teddy氏]Computex Taipeiで発表する予定ですが、エンタープライズ向けの機能として新たにSnapShot機能の搭載を考えています。

 NASのスナップショットデータを内部に保存し、トラブル時に戻せるようにしたり、ネットワーク上の他のNASに適用してレプリカを作成できるようにする機能です。障害対策などに適した機能と言えます。

 また、すでに発売していますが、DTCP-IP対応の「HS-210-D」のような日本向けの製品も今後強化していく予定です。ONKYOさんと協業したオーディオ用NAS「TS-210-ONKYO-2T」もすでにありますし、日本でニーズの高いハイエンド製品についても市場調査を進めていきます。

――クラウド関連では何かお考えですか?

[Teddy氏]まだ未定ですが、将来的にはQNAPのTurboNASの機能の一部をクラウド上でサービスとして提供することも考えています。たとえば、デジタルサイネージの機能などは、サービスとしてクラウド上で提供すれば、ハードウェアを購入するまでもない小規模な事業者などでもサービスの導入が容易になると考えています。

――ハードディスク側がSMRなどの新技術の投入で大容量化が進みつつありますが、その対応はどうでしょうか?

[Teddy氏]現状、QNAPのNASが正式に対応するハードディスクは6TBまでとなっています。

 SMR対応の8TBのハードディスクなどは、現在テスト中で、ファームウェアの修正が若干必要になる可能性があります。ただ、基本的には、新製品には迅速に対応していくつもりです。

――ちなみに、メーカーとして、NASに搭載するハードディスクは、やはりNAS用と謳われているものを使うことがおすすめですか?

[Teddy氏]そうですね。一般的なデスクトップ用ハードディスクは、1日8時間使うことしか想定されていませんが、NASは24時間運用です。この時点ですでに3倍もの時間を使うことになります。具体的な製品名を私からは言えませんが、NAS用を使っていただくのが一番安心だと思います。


Xeon搭載のハイエンドモデル「TVS-EC1080」。

――最後にオススメの機種を教えてください。

[Teddy氏]個人的に気に入っているのは、やはりすべての機能を搭載したハイエンドの製品です。TVS-EC1080なんて良いですね。10G対応だし、mSATAでSSDキャッシュも搭載できるし、QvPCもVirtulization Stationも対応ですから(笑)。

 もともとハードウェアの技術畑出身なので、ハイスペックの製品に魅力を感じます。


近日登場予定の「TS-453mini」。
HDDは上部から入れ替え可能。

――一般向けではどうですか?

[Teddy氏]もうすぐ発売になりますが、新製品の「TS-453mini」がオススメです。

 ハードディスクを上部から入れるという今までになかった縦型のNASです。クアッドコアのCeleronを搭載し、QvPC、Virtualization Station、ハードウェアトランスコードに対応しています。リモコンも付属しているので、4K動画の再生にも最適です。日本では、ビデオカメラやテレビなど4K関連の製品も身近なので、4K対応のNASが特におすすめです。

――TS-453miniですが、ファンが見当たりませんが、もしかしてファンレスですか?

[Teddy氏]ファンレスではなく、内部に搭載されていて、底面から熱を排出する設計になっています。

 QvPCのように、デスクに設置してデスクトップ代わりに使うことを想定した場合、パーティションがないオフィスでは背面にファンがあると、向かいの人にファンの風が当たってしまいます。これを避けるために、底面から排出するようにしたのです。miniという名前の通り、4ベイですが、サイズもコンパクトになっています。

「データの安全性」を理念としクラウドとNASの融合を目指す

――日本でも人気が出そうな製品ですね。期待が高まります。最後に、今後の抱負をお聞かせください。

[Teddy氏]企業でも、個人でも同じですが、データの安全性に関する責任を我々QNAPが負うことを大きな理念と考えています。

 そのために、ISO27001やISO27002などの国際基準をクリアしたり、多くの技術者を採用し、技術でリードしていくことを大切にしています。また、今後は、さらにクラウドとNASを融合させていく、ハイブリッドの環境を目指していくつもりです。

――本日はありがとうございました。

清水 理史