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VRのためのPCパーツ選びを検証してみた!ビデオカードは?CPUはどう選ぶ?

~HTC Viveは要求スペック未満で動くのか? ビデオカード3種&CPU5種類で検証する~ text by加藤勝明

発送時期のタッチの差でRiftより先に日本に上陸したHTC製のVRHMD「Vive」。部屋全体をVR空間として活用できる「ルームスケールVR」対応や専用コントローラ付きとRiftよりも“体感VR”寄りの製品。ただしカードの請求は11万円越え。筆者にとっては入手よりも家族の説得の方が難しい。
同梱物一式。このほかに三脚などが必要になる
ViveおよびRiftのシステム要件。CPUもGPUもここ2年位のミドルレンジ以上の性能のものが必要、という点は共通している。これを全部クリアできる勇者のみが、VRHMDの世界に入れるというのだろうか……?

 今年注目のデバイスといえばVRヘッドマウントディスプレイ(VRHMD)。だが、HTC「Vive」やOculus「Rift」等のPC向けの製品はハードウェアに対する要求が高いことも話題になっている。自作PCとしては割りと鉄板なところを突いているとはいえ、このスペックに満たないという人も相当数いるはずだ。

 これだけ高いスペックを要求する理由は、“VR酔い”(ユーザの視線移動を受けて新たな画面を描画する作業に遅滞があると気分が悪くなるなど)が発生しやすくなるため。このVR酔いを抑制するためViveやRiftの内蔵ディスプレイのリフレッシュレートは90Hzと通常の液晶より高い。つまり90fps張り付きになるような環境にするためのスペックといってよいだろう。

 しかし普通のPCゲームも軽いものから重いものまであるように、実際のVRゲームが全て重いものとは限らない。要求スペック未満で動くケースもあるはずだ。

 筆者もなんとかHTC Viveを入手できたものの、VRHMDのスペックと使用感の関係は使ってみるまで分からない、という状況だった。そこで今回はCPU5種類、ビデオカード3種類を用意し、VR対応ゲーム(アプリ)での快適さを検証してみることにした。

 なお、VRアプリに関しては「海中」を実感できる環境ソフト「theBlu」と、大きな可能性を感じる空間お絵かきソフト「Tiltbrush」をメインに検証。これに加えて、本当に操縦桿を握りたくなるフリーのフライトシム「DCS World」を利用してみた。

検証環境はコレ!CPUはSkylake~SandyBrdigeまで、ビデオカードはGTX 960/970/980 Tiの3種類

VR検証にはホイホイと持ち運べるPCがよかろう……ということで“岡持ち”型のLIAN-LI製PCケース「PC-TU300」に検証環境一式をセットアップ。全長300mmクラスのビデオカードも入るので、VR装備一式を持ち運んで布教するPCには最適

 さていきなりだが、今回Viveにおけるパフォーマンス検証用に用意したPCは以下の通りだ。

 前掲のシステム要件を満たさないCPUもテストするため、現役からは「Pentium G4400」、第4世代Core i5の売れ筋である「Core i5-4440」、および第2世代Core i7の鉄板だった「Core i7-2600」も用意した。

 一方ビデオカード(GPU)はMSI製のGTX 960/970/980Tiの3枚を用意。これを各プラットフォーム共通で使用している。今回のテスト想定は“CPUやマザー等を張り替えずに、ビデオカードの買い替えでVRが楽しめるか?”を検証する意味合いもあるのだ。

【現役構成】

▼CPU
・Core i7-6700K(4C8T、4GHz、最大4.2GHz)
・Core i5-6600K(4C4T、3.5GHz、最大3.9GHz)
・Pentium G4400(2C2T、3.3GHz)
▼マザーボード
・MSI Z170A GAMING PRO CARBON(Z170)
▼メモリ
・DDR4-2133 8GB×2
▼ビデオカード(共通)
・MSI GTX980Ti GAMING 6G(GeForce GTX 980Ti)
・MSI GTX970 GAMING 4G(GeForce GTX 970)
・MSI GTX960 GAMING 4G(GeForce GTX 960)
▼ストレージ
・SSD 240GB
▼電源ユニット
・750W
▼OS
・Windows 10 Home 64bit版

最新売れ筋のパーツ構成を強く意識した構成。CPUはVRHMD用としては明らかにスペック要件以下となるPentium G4400も追加した。なお、用意したビデオカードは全てビデオメモリ4GB以上とした。これは「デュアルディスプレイを描画するようなもの」(MSI)という描画環境でもあるため、ビデオメモリは余裕があった方がよいだろう、という判断からだ。

【旧世代構成その1】

▼CPU
・Core i5-4400(4C4T、3.1GHz、最大3.3GHz) / マザーボードはH87
▼メモリ
・DDR3-1600 4GB×2
▼ビデオカード
・(共通)
▼ストレージ
・SSD 240GB
▼電源ユニット
・850W
▼OS
・Windows 10 Home 64bit版

2013~2014年位だと、Core i5-4440にH87マザーという組み合わせで組んだ人も多いだろう。VRHMDにはCPUが力不足だが、これでもイケるか検証する。ビデオカードは現役構成と共通にしている。

【旧世代構成その2】

▼CPU
・Core i7-2600(4C8T、3.4GHz、最大3.8GHz) / マザーボードはZ67
▼メモリ
・DDR3-1600 4GB×2
▼ビデオカード
・(共通)
▼ストレージ
・SSD 240GB
▼電源ユニット
・850W
▼OS
・Windows 10 Home 64bit版

2011年ごろの主力であるCore i7-2600をまだ現役で使っているユーザも相当いるだろう、ということでこのシステムを用意した。

 なお、用意したビデオカードは以下の3種類。MSIのご協力のもと、同社独自の高性能クーラー「TwinFrozr V」を搭載したOC対応モデルでテストしている。

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MSI『GTX 980Ti GAMING 6G
同社自慢の独自クーラー「Twin Frozr V」。100mm径の大口径ファンを2基搭載し、2基独立した回転制御により高度な冷却と静音性を両立するという。動作状況に応じてファンを停止する「Zero Frozr」に対応している。

搭載GPU:GeForce GTX 980Ti
コアクロック:1140MHz(OCモード時1178MHz)
ブーストクロック:1228MHz(OCモード時12790MHz)
搭載メモリ:GDDR5 6GB(7010MHz駆動)
補助電源:8ピン×2

 まず、GTX 900シリーズのフラッグシップであるGTX 980Tiも準備した。VRHMD推奨環境以上のスペックがどの程度メリットをもたらすか調べるためだ。「Rise of the Tomb Raider」クラスの重量級ゲームを最高画質で遊ぶためのGPUといえる。

 今回用意した『GTX980Ti GAMING 6G』は、高価なGTX 980Tiカードの中でもたびたび最安値をつけて話題になった製品だ。基板設計はMSI独自のMilitary Classコンポーネントを使用した耐久性重視のもの、さらに高効率のクーラー装備と、他社製品と比べ抜群のコストパフォーマンスを誇る。GTX 980TiをSLI構成で組む場合は外排気のできるリファレンスデザインを好むユーザもいるが、単独で使うなら断然このカードが優れている。

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MSI『GTX 970 GAMING 4G

搭載GPU:GeForce GTX 970
コアクロック:1114MHz(OCモード時1140MHz)
ブーストクロック:1253MHz(OCモード時1279MHz)
搭載メモリ:GDDR5 4GB(7010MHz駆動)
補助電源:8ピン+6ピン

 VRHMDの推奨GPUとして挙げられているGTX 970搭載カードを1枚選ぶとしたら、Twin Frozr Vクーラーを搭載した『GTX970 GAMING 4G』がオススメだ。GTX 960だとメモリバスが128bitと狭いが、GTX 970からは256bitに広がるためだ。実際に使えるVRAMは実質3.5GBという制約はあるものの、フルHD環境なら大抵のゲームはこの範囲をオーバーせずに済む。

 現在のMSI製ビデオカードは同梱の「MSI Gaming App」を使うことで「OCモード」「ゲーミングモード」「サイレントモード」の3つのクロック設定を切り替えることができる。MSI製のマザーと組み合わせると、CPUも一緒にOCされるため、今回はあえてGaming Appを使わずプレーンな状態(Gamingモード)で運用している。

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MSI『GTX 960 GAMING 4G

搭載GPU:GeForce GTX 960
コアクロック:1216MHz(OCモード時1241MHz)
ブーストクロック:1279MHz(OCモード時1304MHz)
搭載メモリ:GDDR5 4GB(7010MHz駆動)
補助電源:8ピン×1

 フルHDゲーミング用ビデオカードとしては鉄板の存在ともいえるGTX 960。今回はMSI製の超人気モデルを選択した。本来GTX 960はVRAM搭載量が2GBだが、昨今の重量級ゲームではVRAM使用量が増えてきたことと、GTX 960のすぐ下にGTX 950という新ミドルレンジが誕生したことを受けて、VRAM 4GB版のGTX 960が主流となった。

 そのVRAM 4GB版GTX 960の売れ筋モデルのひとつがこの『GTX 960 GAMING 4G』。搭載されている「Twin Frozr V」クーラーはしっかり冷やしつつ動作音は静か、という本世代のGPUクーラーの原型ともいえるもの。

 普通にPCゲームを遊ぶなら文句なしの一枚ではあるが、GTX 960ではVRHMDの推奨環境を満たしていない。このようなビデオカードでVRゲームがどの程度動くかを検証するのもこの記事の目的だ。

SteamのVRベンチは“アテにならない”?

 テスト中は画面にViveのレンズを通して見るであろうステレオ画像が表示され、この処理時のシステムの挙動(FPSやフレームドロップ等)を見て“VR Ready”か判定を下すというもの。Viveがなくても実行できるので気になる人はやってみるべし。

 さて、既にSteamでは2016年2月に「SteamVR Performance Test」というVRパフォーマンスベンチマークを無償で配布している。Steam(Valve Software)とHTCはVive開発において協業しており、実質的にViveを使うパフォーマンスが出るか否かチェックするためのアプリといえよう。

 しかし現状のSteam VR Performance Testは前掲のViveシステム要件に完全に満たしていなくても“VRレディ”または“VR可能”の判定を出すようになっている。以下に実例を示そう。

【Skylake環境(Core i5-6600K)】
[Core i5-6600K+GTX960 GAMING 4G]
CPUは満たすがGPUのパワー不足が指摘された。“VRは可能だがGPUがネック”という判定だ。実際、「描画をどれだけ省略しなかったか」を示す「忠実度」のグラフがかなり低くなっている。
[Core i5-6600K+GTX970 GAMING 4G]
Viveのシステム要件を完璧に満たすため“VRレディ”のお墨付きが出た。ただし、「忠実度」のグラフは、時折「高い」レベルにまで落ち込むことがある
[Core i5-6600K+GTX980 Ti GAMING 6G]
今回テストした中の最上位環境。忠実度も「非常に高い」で張り付いており、非常に良い環境と言える
【Haswell環境(Core i5-4440)】
[Core i5-4440+GTX960 GAMING 4G]
Core i5-4440とGTX 960では「VR可能」判定。「忠実度」はそれなりに低い
[Core i5-4440+GTX970 GAMING 4G]
Core i5-4440とGTX 970でもセーフという表示が出た。「忠実度」の状況もCore i5-6600Kとは大差ないようだ
[Core i5-4440+GTX980 Ti GAMING 6G]
GTX 980Tiなら忠実度も高レベルで安定する
【SandyBridge環境(Core i7-2600)】
[Core i7-2600+GTX960 GAMING 4G]
この組み合わせは“VR可能”判定。ただし「忠実度」はCore i5-4400より低く、厳しい状況になっているのが見て取れる
[Core i7-2600+GTX970 GAMING 4G]
この組み合わせも“VRレディ”判定。忠実度のグラフは、Core i5-4400と大差ないように見える。
[Core i7-2600+GTX980 Ti GAMING 6G]
この組み合わせは“VRレディ”判定で、忠実度のグラフも高レベルで安定している。このテストでは、GPUの比重が大きいのは間違いないだろう
【Pentium環境(Pentium G4400/Skylake)】
[Pentium G4400+GTX960 GAMING 4G]
明確にCPUパワーが足りないはずだが、「VR可能」と判定されてしまう。後述するように、実際のアプリでは問題が出ているので要注意。
[Pentium G4400+GTX970 GAMING 4G]
この組み合わせでもCPUパワーが圧倒的に足りないはず。しかし、テスト結果ではそれが指摘されず“VRレディ”判定が
[Pentium G4400+GTX980 Ti GAMING 6G]
これでも“VRレディ”判定にはなる、が……

 以上のように、現状のSteamVR Performance Testでは、特にGPU性能がシビアにチェックされる。

 その結果の概要は「GTX 960ではやや不足、GTX 970以上だとOK」で、これは前掲の推奨スペックに合致する。

 一方、CPUの計算能力の評価はかなり緩いと言わざるを得ない。

 どう考えても2コア2スレッドのPentium G4400ではCore i5-4590以下の性能以下だが、G4400を使っても特にスペック不足は指摘されない。もっともこのテストは視線移動やユーザによるインタラクション性が全く考慮されていないため、そういった処理でのCPU評価がばっさり抜け落ちている。動かすならどんなCPUでも可能だが、そこに快適さ(VRではそこに“VR酔いしにくい”という意味も含まれる)を求めるなら、要求スペックどおりのCPUを使った方がよい、ということだろうか。これは後ほど再検討してみたい。

 なお、結果の中で特に注意してみたいのが、「忠実度」という指標に基づいたグラフだ。これは「描画内容を簡略化して、フレームレートを90fpsに間に合わせる」という処理をどれだけ「しなかったか」のグラフであり、早い話、「Vive使用時の想定フレームレート90fpsを維持しやすいか否か」の目安となる。これが低いと90fpsの維持ができなくなりがちだし、たとえ90fpsを維持していても描画品質は落ちている、ということになる。

 以上が、(現時点での)SteamVR Performance Testの結果概要だ。

 もっとCPUやGPUをを集めて一斉にテストしてみたかったが、時間の都合上今回は断念せざるを得なかった。ただ、今後SteamVR Performance TestのアップデートでCPUパワーが正しく検証されるようになる可能性も残されている。あくまで記事執筆の段階では、という断り書きを付けておきたい。

環境ソフト「theBlu」:GTX 960でも「動かないことはない」、ただし…

360度全方向に海中がひろがる「theBlu」。ゲーム的な要素は全くないが、この美しさは必見

 そろそろ本題の実際のVRゲーム(アプリ)におけるパフォーマンスをチェックしよう。

 現在Steamでも様々なVRゲームがリリースされているが、今回は海中を観察する、という環境ソフト的なアプリ「theBlu」とVR空間を使った3Dペイントソフト「TiltBrush」の2つで検証した。

 テスト方法は「Fraps」を使用した。今回試した限りは、VRHMDに送られる映像のフレームレートと、メインの液晶上に表示されるビューのフレームレートはほぼ一致すると考えてよさそうなので、この方法を使用した。ただVive本体に表示される画面をそのままデスクトップ上に表示する「ミラーリング」モードだと、ミラー表示側のフレームレートが著しく低下する(45fps前後)ため、ミラーリングを行わずにテストしている。

 まずは「theBlu」で試してみる。これはゲームというより、自分の周囲に海中の風景を投影するだけという環境アプリに近いが、推奨CPUがCore i7-5930K、同じくGPUがGTX 980というハードルの高さでも話題となった。

 以下のグラフは「Reef Migration」を4分間鑑賞した時の最小/平均/最大フレームレートである。使用するGPUごとにグラフを分割した。

GTX960 GAMING 4G利用時の「theBlu」のフレームレート
GTX970 GAMING 4G利用時の「theBlu」のフレームレート
GTX980Ti GAMING 6G利用時の「theBlu」のフレームレート
GTX 960にPentium G4400環境だと時々フレームレートの維持が困難になりこんな警告(Vive側でHMD内に表示する設定を行う必要あり)が出る。一瞬で消えるが、不意に視界の前に出るので非常にうっとおしい

 今回試したどの環境でも、theBluは起動するし、最も非力な組み合わせでも「明白に何かがおかしくなる」といったことはない。

 ただし上のグラフが示す通り、GTX 960環境ではフレームレートがほぼ45fpsに張り付き、視線を動かした時の画面内オブジェクトの動きが、若干ブルブル震えるような感じになる。一方、GTX 970や980Tiではほぼフレームレートが90fpsを維持できるため、視線移動時の表示も滑らかだった。

 ちなみにこの「45fps」という数字だが、ヘビーなゲーマーである筆者は45fps程度のGTX 960環境でもあまり問題を感じなかった。しかし、このあたりは「VR酔いの個人差が大きいところ」(MSI)であり、「(前述のように)忠実度を下げても90fpsを維持できなかった」という意味では、誰にでもオススメできる環境ではない、ということには注意が必要だ。

 つまり、VRHMDの推奨GPUがGTX 970以上という点にはかなりの説得力があるといってよいだろう。

 また、CPUについては、Pentium G4400~Core i7-2600の“推奨環境以下”を使うと、GPUがいくら強力でもフレームレートの落ち込みが激しくなる点に注目。落ち込むのはほんの一瞬だが、それでも「フレームレートに影響が出るほど」=「VR酔いへの影響」なわけで、(筆者は気にならなかったが)やはり「万人向け」とはいかないだろう。

 つまり「Core i5-4590以上」というCPUスペックも、VR体験を損なわないためにも欠かせない要素といえる。

 いずれにせよ、「theBlu」においてはGPUパワーが最初のボトルネックになるが、それが満たされるとCPUパワーがポイントになってくる、という結果になった。

空間お絵かきソフト「TiltBrush」:GPU>CPUな重要度は同傾向、ただしCPUを軽視しすぎると……

VR空間に“3次元的に”お絵かきができるアプリ「TiltBrush」。もっと引いた画面はないのか……と思われるかもしれないが、ルームスケールVRでないと全貌を確認することは難しいのだ……

 次はVR空間を利用した3Dペイントアプリ「TiltBrush」を試してみた。

 残念ながら筆者には絵心が欠落しているため、作例として入っているドラゴンの絵を表示させ、それを鑑賞した時のフレームレートを計測する、という手法をとった。以下に使用したGPUごとのフレームレートを示す。

GTX960 GAMING 4G利用時の「TiltBrush」のフレームレート
GTX970 GAMING 4G利用時の「TiltBrush」のフレームレート
GTX980Ti GAMING 6G利用時の「TiltBrush」のフレームレート

 筆者の見た感じ、TiltBrushの方がtheBluよりだいぶ描画負荷が低めのようだが、その軽めなアプリでもGTX 960だと最低fpsの落ち込みが激しい。

 それでも平均90fps近くまで出ているため、筆者のような「VR耐性の高い人」向けであれば大きな問題はないが、「90fps」の基準を満たすには「GTX 970以上」が必須となる。

 そして、GPU側のボトルネックが解消されると、CPUパワーの違いが最低fpsとなって現れてくる(Pentium G4400やCore i5-4440などに注目)。

 もちろん描き込み量がもっと多かったり、ルームスケールVRで作品全体を見渡すような状況ではCPUの比重が高まる可能性が出てきそうだが、全体的にはtheBluと同様、まずGPUパワー、次にCPUパワーが重要、という結果になった。

CPUパワーを使う理由

SteamVRを起動すると「VR Server」「VR Compositor」の2つのプロセスがCPUを占有する。図はCore i5-6600K使用時のタスクマネージャ。2つのプロセスを合算すると、CPUを36%も占有することになる。VRゲームを起動すれば、さらにゲーム本体もCPUを使うことになるのだ

 以上のように、「theBlu」と「TiltBrush」の2本を試した限りでは、VRシステムのボトルネックは「最初にGPU性能」「GPUに余裕のできた時点でCPUになる」と考えるのがよさそうだ。そこで実際「theBlu」を動かした時のシステムリソースはどの程度占有されるのかを軽くチェックしてみた。

 まずViveユーザが知っておかねばならない点として、ViveでVRアプリを使う際に必要となるミドルウェア「SteamVR」が起動されると、Vive上には常時VRの“待受け”画面が表示される。この時Vive内ディスプレイに投影する映像を生成するプロセス「VR Compositor」が起動するが、これが一定量のCPUパワーを要求するのだ。CPUがCore i5-4590以上とやや高めに設定されているのは、VR Compositorに処理落ちさせないためといえるだろう。

Viveシステム全体を制御する「SteamVR(左)」を起動すると、Viveのディスプレイには“待受け”のような画面(右)が表示される。VR対応ゲームが起動すると、このままゲーム画面にスッと移行する。
Core i5-6600K環境(GPUはGTX 970)でtheBluを起動した時のタスクマネージャの様子。VR Serverの占有率はやや下がったものの、theBlu単体で25%も占有。コア単位の負荷をチェック(右)すると、どのコアも60%前後負荷がかかっていた
今度はPentium G4400(左)とCore i7-6700K(右)におけるCPU負荷の状況。2コア2スレッドのPentium G4400だと、両コアを90%前後使うことになる。論理コア数の多いCore i7-6700Kだと、各コアの負荷は相対的に低くなる
同じくCore i7-2600のCPU負荷。各論理コアにかかる負荷はPentium G4400やCore i5-6600Kより低い。ただCore i7-6700Kに比べると処理性能が低いぶん、各論理コアの負荷はやや高めになっている
Core i5-6600K&GTX 980Ti環境でGPUの使用状況を「GPU-Z」でチェックしてみた。この例では、ゲーム中のVRAMの使用量は2GBに満たないが、VRHMDでの描画は「ある意味2画面描画と同じ」(MSI)。ビデオカードのVRAM容量は余裕をもって4GB以上にしておきたい。またGTX 980Tiだと90fpsのキャップにひっかかるためGPU占有率は35%と低くなっている

現状のVRは「ビデオカード強化」で意外に動く今後を見据えるなら上位モデル?

 Viveに興味があるが、どうにも踏み切れない……という理由はいくつか考えられる。価格やプレイするスペースの問題もさることながら、遊ぶPCのスペックの高さも懸念材料と考える人も多かろう。

 今回試してわかったことは、筆者のような「VR酔いに強いタイプ」なら、GTX 960にSandy Bridge世代のCPUでも「十分いける」と感じる点。

 もちろん、これは「万人向け」とはまったく言えないし、先ほど触れたVive(SteamVR)対応ゲームを不快感なく楽しめることを考えると、やはり公式スペック以上のパワーをもったマシンがよいと感じる。

 例えば今回、推奨スペックにやや満たないCore i5-4440も試したが、やはり最低フレームレートの落ち込みがCore i5-6600Kより酷かった(6600Kでも90fps以下に落ちない、というわけではない事実もあるが)。GPUの性能をスポイルしないという意味でも、CPUパワーも重要だ。

 だが、VRの体感性能を決定的に左右するのはGPUだろう。GTX 960と970の間には深くて決して埋められない溝がある。ここのスペックを読み違えると、VR体験は散々(フレームレートが大幅に落ちて酔う)なことになるだろう。

SteamVRに対応したフリーのフライトシム「DCS World」。思わずVR空間内の操縦桿を握りしめてしまいそうになるほどリアル。Vive側の解像度の都合で、計器の文字がほとんど読めない(苦笑
「DCS World」のフレームレート。画質LowでもGTX 980Tiの方にアドバンテージがある

 また、将来的にはGPUのパワー不足が懸念されるようなゲームも出てきそうだ。

 例として紹介したいのが、SteamVRに対応したフライトシム「DCS World」だ。スクリーンショットを見てもらえばわかるとおり、これはViveの視界がそのままA-10やSu-25のコックピットになり、視線と視界がシンクロする、まさにVR向けのゲームではあるが、よく見るとHUDの数字等が潰れてほとんど読めない。

 これはVive用に解像度を落としているせいでもあるが、この時点でも「Fraps」のフレームレートは、(画質「Low」にも関わらず)GTX 970より980Tiの方にアドバンテージがある。今後DCS側でどういった最適化がなされるか不明だが、よりリアルなVRシミュレータ環境を作りたいと考えるなら、高負荷に耐えうるGTX 980TiクラスのGPUが欲しくなるだろう。

 もちろん、今回試したタイトルが「全てのVRゲーム」の実情を反映したものでないため、今後対応タイトルが増えれば違った結論になる可能性も十分ある。

 ただVRHMDの黎明期という一番エキサイティングな時期に、ちょっとCPUパワーが不足しているからといって手を出さずにいるのはもったいない。この記事をきっかけに、一人でも多くのVRHMDユーザが増えることを祈るばかりだ。

[協力:MSI]

加藤 勝明