ボクたちが愛した、想い出のレトロパソコン・マイコンたち

NEC初のラップトップパソコン「PC-98LT」

後に発売されるラップトップパソコン、PC-9801Lシリーズよりも小さめのボディで、モニタは、いくつかの角度ごとに設定されている“カチッ”とハマる部分で止めることができます。隣に置かれているのがACアダプタです。

 想い出に残る、懐かしのマイコン・パソコンを写真とともに振り返る本コーナー。今回取り上げたのは、NEC初となるラップトップパソコン「PC-98LT」です。発売は1986年。

 1986年10月と言えばPC-9801VM21やPC-9801VX2といった、PC-98シリーズの後々までデファクトスタンダードとなるマシンがデビューしたタイミングです。それと同じ時期に登場したのが、NEC初のラップトップパソコンとなったPC-98LTでした。型番から分かるようにPC-98XAなどと同じく、完全なPC-98シリーズ互換ではありません。

モニタの左下部分にはスイッチが取り付けられていて、左側に移動しておけば閉じると電源がオフに、右側であればそのままという設定を選ぶことができます。モニタのコントラストは、本体手前左にあるつまみで調整を行います。

 広告などを見ると、スペックとしてはCPUに“高性能C-MOSタイプ16ビットCPUμPD70216(V50 8MHz)を採用”し、1MBタイプの3.5インチFDDを1基備えています。このFDDは、UV2のものよりも消費電力が抑えられた(2.5W→2.1W)ものでした。

 モニタとしては、640×400ドットを表示できる反射型大型液晶ディスプレイを搭載し、メインメモリは標準で384KB、最大640KBまで増設できるほか、JIS第1、第2水準の漢字ROMも内蔵していました。さらに、学習機能を備えた文節変換辞書ROM(36,000語)にくわえ、日本語MS-DOSVer3.1とそのもとで動くN88-日本語BASIC(LT)もROMに収録されています。ディスプレイの都合などもあって、この日本語BASICからはカラーに関する機能などが削除されていました。グラフィック表示に関しては、640×400ドットモノクロ1画面のみで、搭載VRAMは32KBです。

当時の広告としては、同時期に発表されたPC-9801VM21やPC-9801VXなどと一緒に掲載されるバージョンが目立っていましたが、PC-98LTだけの珍しいパターンもありましたので、それを取り上げてみました。

 サイズは約30cm×25cmで、重量は3.8kg。価格は、本体のみのmodel 1が238,000円、熱転写プリンタ付きのmodel 2では288,000円でした。持ち運べるパソコンということで、本体とプリンタが収納できる専用キャリングケースも用意。キャッチコピーも“小さくても、大きい。”や“ANYWHERE”とし、当時としては珍しかった“会社と自宅の間で持ち運びができる”ということを押していました。キーボード左上の部分にはバッテリを搭載していますが、当時の記事などを見ると約8時間の充電で約4時間稼働できた(FDD使用率10%時)そうなので、通勤の行き帰りなどに使ってもバッテリが残る計算にはなります。

電源スイッチは、右に倒れているとオフの状態ですが、左へ軽く倒すと平行になります。さらにこの状態から左へ押し込むと、電源が入る仕組みです。見づらくて申し訳ないですが、実際に電源を投入すると内蔵されたMS-DOSVer3.1が起動します。画面には、“NEC PC-98LT Personal Computer”という文字が見えます。

 キーのタッチ感は、後に発売されるPC-9801Rシリーズなどに付属していた“PC-9800SERIES”と書かれたキーボードと似ていて、若干フワフワした感触になっています。独立したテンキーは備えていなかったほか、ファンクションキーのサイズも通常のキーと同じ大きさだったりリターンキーが小さい、といった特徴もありました。カーソルキーが正方形を対角線で切ったような形になっているのを見て、PC-8201ライクだなと思った人もいるかもしれません。なお、キーボードを小型化するため、ROLL UPキーとROLL DOWNキー、COPYキーが削除され、代わりにNUMキーが追加されていました。

右側面を見ると、左側に拡張RAMスロット、その隣にモデムボード専用の拡張スロットが配置され、さらに右側(正面から見ると右手奥)にFDDが搭載されています。
左側面は、左端(正面から見ると左手奥)にリセットスイッチ、その右側に専用拡張バスがあります。リセットスイッチは、爪楊枝のような細い道具を使用しないと押せません。

 中身が完全な98互換ではなかったものの、そのサイズなどに惹かれたビジネスマンなどが多かったのか、「238,000円という低価格のためもあり、早くも大量の注文が押し寄せ、入手が非常に困難な状況(1986年11月下旬現在)です。」と、月刊I/Oの1987年1月号に書かれていたほど、当時としては大人気だったようです。

背面インタフェースは非常にシンプルで、2つあるコネクタのうち左側がRS-232Cポート、右側がプリンタポートとなっています。また、左右両端にスタンドがあり、下側に倒すことで傾斜ができました。

 この後、PC-98LTシリーズはメインメモリを標準で640KB搭載し、いくつかのマイナーチェンジを行ったmodel 11/21/22がリリースされました。しかし、PC-98シリーズ互換ではないという影響は大きく、後に登場したPC-9801Lシリーズにその座を譲るとフェードアウトしてしまいます。とはいえ、PC-9801Lシリーズと比べれば小さく軽かったことを考えれば、もう少しモバイル面での評価がなされても良かったのでは? と思うこともありますが……。

 なお、本機は1988年に、商品デザイン部門でのグッドデザイン賞を受賞しています。